「秋祭り?」

 夏休みも終わって、2学期も始まった。
 学校が始まった事に慣れ始めた頃、クラスメイトに言われたその言葉に思わず聞き返してしまう。

 声を掛けてくれたのは、クラスメイト数人。

「そう、秋祭り、一緒に行かないか?」

 聞き返した俺に、その中の代表なのだろうか、もう一度同じ言葉で質問してくる。
 誘ってくれるのは嬉しいんだけど、余り話をしないクラスメイトに誘われても、どうしたら良いのか分からない。

「えっと、でも……」
「お兄さんも一緒でいいから!」

 それに困惑して言葉に困っていた俺に、一緒にいた女の子が言ったその言葉に思わず納得してしまう。


 本当は、綱吉を誘いたいんだけど、直接は無理だから俺をダシにしようってところなんだろうなぁ。


 ちょっと、悲しいかも


「それは、流石に本人に聞いてみないと……俺が勝手に返事するわけには行かないから」

 皆が誘ってくれた事が嬉しかったんだけど、何ていうかツナを誘うための口実にされてしまったのだと思うと、やっぱり悲しい。

「あっ!違うの、本当は沢田くんだけでもいいんだけど、ほら、お兄さんが絶対に許してくれるとは思えなかったから」

 思ったことが顔に出てしまったのか、慌てて女の子がそれを全面否定する。

 俺、そんなに顔に出ていたんだろうか?
 慌てている女の子に合わせて、周りの皆も勢い良く頷いている。

「えっと、取り合えず、ツナに確認とってみるね」

 その勢いに押されて、俺は思わず携帯を取り出してそう返す事しか出来なかった。
 俺のその言葉に、皆の顔がパッと明るくなる。

 ここで、『ごめん』って言ったりした、俺、悪者になってた気がするんだけど……

 携帯の履歴から簡単にツナの番号を選んで、通話ボタンを押す。
 数回のコール音の後、聞こえて来たのは当然ツナの声。

『珍しいね、が電話掛けてくるなんて、何かあったの?』

 鮮やかな声で出るツナだったけど、最後の方は心配気に質問されてしまったのは日頃の行いの所為だろうか?

 俺が電話すると、何かが起こったと思われているのは、どうしてだろう?
 いや、でも、そんなに電話した事ない筈なんだけど……だからこそ、なんだろうか?

「えっと、ね。今日、秋祭りがあるらしいんだけど、行ってもいい?」

 そんなツナを相手に、恐る恐る質問する。
 だってね、何て言うか周りの人達の期待していると言うような視線がとっても怖いんだけど

『……一人で?』
「ううん、クラスの人達と一緒」

 俺の質問に、ツナが質問で返してくる。
 それに対して、俺は慌てて返事を返した。

『……クラスの人と?』

 でもそれに確認するように言われて、もう一度頷いて返す。
 って、何でそんなに沈黙が入るんだろう?

「ダ、ダメ、かなぁ?」

 その沈黙が怖くて、恐る恐る再度質問。
 だって、明らかに否定されそうな雰囲気なんだもん、周りの期待したような視線が痛くて、思わず気弱な声で質問してしまったのは仕方ないと思うんだ。

『………もしかして、その誘った人達、傍に居るの?』
「うん、居るけど、どうして分かったの?」

 俺の質問に対して、またしてもツナから返ってきたその質問に、俺は少し驚いた。

 皆静かにしていて、物音さえないのにどうしてツナには皆が居る事が分かったのか不思議に思う。
 だから、素直に頷いて、どうして分かったのか質問してしまった。

『そりゃ、分かるよ。……いいよ、でもオレも一緒に行くからね!』
「あ、うん。有難う」

 俺の質問に、呆れたように頷いて返してくれるけど、どうして分かったのか理由は分からない。
 だけど、行く事に許可が下りたので、良かったと言えるのだろうか?

 最後に当然のように言われたその言葉に頷いて、行く事を許してくれた事にお礼を返す。

『まだ教室なんだよね?迎えに行くから』
「分かった、待ってる」

 それから続けられた内容に、素直に頷いて返し、俺は携帯の通話を切った。
 その瞬間、周りから期待の篭った視線を向けられる。

「えっと、許可が下りたから、俺とツナも一緒に行ってもいい?」
「勿論!」

 その視線に、恐る恐る質問すれば、全員が綺麗にハモって頷いてくれた。
 それにホッとして、でも皆が笑ってくれたから、俺も笑みを返す。
 その瞬間、皆が驚いた顔をして赤くなったように見えるのは、俺の気の所為だろうか?



 不思議に思っている中、聞こえてきた声で現実へと引き戻される。

「ツナ……と、山本と獄寺くん?」

 ツナがもう来たんだなぁと思って視線を扉へと向ければ、そこに居たのはツナだけじゃなく山本と獄寺くんも一緒で、少し驚いた。
 それが表情に出てしまったのか、ツナの後ろに立っている山本が楽しそうな笑みを浮かべる。

「秋祭りなんだってな、オレらも一緒していいか?」
「けっ、オレは十代目が行くとおっしゃるからご一緒するだけだ。秋祭りなんて興味ねぇんだよ」
「ごめん、そう言う事だから」

 山本から始まって、獄寺くんが悪態をつき、最後はツナが苦笑交じりに謝罪してきた。
 別にツナが悪い訳じゃないから、謝る必要はないんだけどね。

「えっと、そう言う事みたいだから、皆一緒でも良い?」
「勿論!!」

 今回は俺も誘われている方だから、誘ってくれた人達の了承が必要なので、周りの人に質問すれば全員揃って頷いてくれた。

 でも、さっきより勢いが凄いと思うのは気の所為じゃないよね?
 皆が嬉しそうなので、その気持ちに偽りはないと思うんだけど、何でそんなに嬉しそうなんだろう?

「それで、秋祭りって何処であるの?」

 皆が嬉しそうな理由が分からなくて、首を傾げている俺に、近付いて来たツナが質問してくる。

 あれ?そう言えば、何処でお祭りするのか聞いてなかった。
 去年はそんな秋祭りなんて聞いた事ないから、今年から開かれるんだろう。
 だから、俺は開催場所を知らない。

「俺も場所知らない。えっと、何処であるの?」
「並盛商店街近くにある神社に新しい神主さんが来た歓迎セレモニーなんですって!」

 俺の質問に、嬉々として説明してくれた内容では、並盛商店街の近くの神社って、並盛神社より小さいけど確かに神社がある。
 そこの神主様がお年寄りで、新しい神主さんが来ると言う話しは母さんから聞かされていたので知っているけど、歓迎セレモニーを開くなんて、聞いてなかったんだけど
 良く恭弥さんが許可を出したと思うのは、俺だけだろうか?

「歓迎セレモニーを開くなんて、目立ちたがり屋な神主だね」

 説明を聞いたツナが呆れたように言うけど、確かにその通りだ。
 自分の歓迎セレモニーを開くなんて、本当に目立ちたがり屋だよね。

「でも、そのお陰で祭りが開かれんだから、いいんじゃねぇの?」
「そんな簡単なことじゃねぇんだよ、野球馬鹿!」

 ツナの言う事になんとなく心の中で同意していたら、山本がにこやかに口を開く。
 それに対して、獄寺くんが突っ込みを入れる。

 うん、確かにその通り、簡単な事じゃないと思う。
 だって、自分が来た歓迎会を開くって事は、自己主張の激しい人なのだ、ツナが嫌いなタイプの人なんだよね。
 ちなみに、俺もどちらかと言えば、そう言う人はちょっと苦手だ。

「神主関係なしで、お祭り楽しめばいいじゃねぇか!」
「まぁ、確かに、祭り事態には罪はないからね」

 獄寺君に突っ込まれても、山本は全く気にした様子はなく、さらに笑顔で言われた内容に、今度はツナも頷いて返した。
 確かに、神主関係なく、楽しむのなら気にならない。

「今日の5時からスタートだから、一度帰って現地集合がいいと思うの」
「沢田くん達も、それでいい?」

 ツナが納得した事で場が明るくなって、既に次の話に進んでいた。
 突然声を掛けられて、慌てて頷いて返す。

「俺は大丈夫だよ」
「それじゃ、また後で!」

 俺が頷いた事で、話は決まりこの場は解散となる。
 女の子達は、おしゃれしなきゃとはしゃぎながら教室を出て行った。
 男子生徒も、俺に手を振ってくれて、教室から出て行く。

「それじゃ、オレ達も時間無いから早く帰ろうか?」
「そうなのな、準備もあるから、早く帰ろうぜ」

 言われてチラリと壁に掛けられている時計に視線を向ければ、確かに時間はもう4時を過ぎている。

「俺、このままでもいいよ。直接、商店街に行った方が効率的には良いと思うから」

 自分の足のことを考えたら、ここから家に帰って、商店街に行くとなると、時間的には間に合わない可能性がある。
 だから、学校の鞄は荷物になるけどこのまま商店街に向かった方が絶対いいと思うんだよね。

「う〜ん、確かにの言う通り、時間的にはギリギリだね。分かった、獄寺、オレとの荷物ウチに届けといて」
「はい!喜んで!!」
「えっ、あれ?」

 俺の言葉に納得したツナが、鞄を獄寺くんに預けてとんでもない事を言う。
 だけど言われた獄寺くんは、嬉しそうに俺とツナの鞄を持って教室を飛び出していった。
 目の前で行われたそれに、俺はただ呆然とするしかない。

「母さんにも、連絡入れとくから」

 そして携帯を取り出して、さっさと家に電話しているツナを前に、ただ感心する事しか出来なかった。

 本当に、行動が素早いよね、綱吉って、それとも、俺の行動が遅いのかなぁ?
 母さんと話をし終えたのだろう綱吉が、携帯をポケットに仕舞う。

「んじゃ、オレのウチに来るか?」

 それをぼんやりと見ていた俺の耳に、山本から声が掛けられた。
 確か、山本の家はお寿司屋さんで、商店街の中にあるから、その申し出は正直言って有難い。

「親父も、達なら喜んで歓迎してくれると思うのな」

 ご迷惑を掛けた記憶は、まだ新しい。
 それでも、俺達に良くしてくれた親父さんの事を思い出す。
 あの豪快な親父さんには、また会いたいから、山本の申し出を断る理由はない。

「それじゃ、お邪魔してもいい?」
「勿論なのな!ツナもそれで良いよな?」
「うん、座れる所がある方が、の足への負担が少ないからね」

 だから、聞き返すように言った俺の言葉に、元気良く山本が頷いてくれる。
 それから、確認するように綱吉に声を掛けた。
 綱吉も、それで問題ないと頷いてくれたので、俺達はそのまま山本の家へと向かう。

 勿論、俺達の家に鞄を届けてくれている獄寺くんには、ツナからメールを送ってもらった。
 多分、何で山本の家なんですか!って、怒りそうだけど、まぁ、そこはツナが何とかしてくれるだろう。

 そんな事を考えながら、3人並んで山本の家へと向かった。

 でも、何で俺が真ん中なんだろう?山本とツナが話すのに、俺って邪魔にならないのかなぁ?