久し振りに山本の家にお邪魔したら、おじさんがにこやかに出迎えてくれた。
時間帯のお陰で、お客さんの居ない事をいい事に、カウンターにお邪魔してお茶をご馳走になっている。
おじさんは、当然秋祭りについても詳しく知っていて、本当は歓迎のモノではなく、秋には豊作を感謝して祭りを開くのが当たり前と言う神主さんの意見から今年から秋祭りが開かれる事になったらしい。
自己主張の激しい神主さんだとか思って、悪い事をしてしまった。
そんな話を聞いていたら、ツナの連絡を受けたのだろう獄寺くんが来て予想通りの言葉を言われた時には、思わず苦笑を零してしまったのは、仕方ないだろう。
そんな訳で、皆との約束の時間までのんびりと山本の家でお茶をご馳走になれたのは、俺にとっては有難い時間だったと思う。
約束時間少し前に、集合場所に移動すれば、既に何人かはもう集まっていて、楽しそうに話をしていた。
「あっ!沢田くん、こっちだよ!」
俺達の姿を確認した一人の女子が、声を掛けてくる。
みんなちゃんと服を着替えていて学校で見る姿と違っているから、一瞬誰だか分からなかった。
「沢田くん達は、着替えてこなかったんだね」
制服姿の俺達を見て、そう言う女の子に頷いて返す。
「帰って着替えてくると、約束時間に間に合いそうになかったから……」
「そっか、時間的に微妙な時間だったもんね。ちょっと沢田くんの私服姿見たかったんだけど」
「ご、ごめんね」
「ううん、謝るような事じゃないよ。勝手なこと言ってこっちこそごめんね」
言った俺に、女の子が少しだけ残念そうに返した事で、思わず謝罪すれば、逆に謝られてしまった。
確かに、彼女が勝手に期待していただけで、俺は悪い事をしたわけじゃないので、謝罪されても困るだろう。
「の私服は、特別だから、そう簡単には見せられないよ」
ちょっとだけ気まずくなってどうしようかと思っている中、突然後ろから抱き締められて聞こえてきたその声に驚いてしまう。
「って、ツナ!急に何言ってるの?!」
突然間に入ってきたツナのその言葉に、反射的に言葉を返す。
だけど、突然言われたその内容に、目の前のクラスメートは一瞬きょとんとした表情をする。
「うわぁ、生でそんな台詞が聞けるなんて思ってもいなかった。やっぱり、沢田くんは愛されてるんだね」
そして、何を言われるかハラハラしていた俺の心情と違って、彼女は嬉しそうに笑顔を返してきた。
あれ?そこって、喜ぶところ?しかも、俺が愛されているって……確かに、ツナからは愛を貰ってるんだけど…あっ!勿論、家族愛だからね!!
「ああ、君が京子ちゃんに情報提供してくれている子?」
「私だけじゃないよ。今日参加している子は皆そうだよ」
「なるほどね、だから、なんだ」
「やっぱり、そっちの沢田くんにはバレちゃうんだね」
愛されている何て言われて、顔が赤くなるのは止められない。
なんて返していいのか困惑している中で、ツナとクラスメートの女の子が意味の分からない会話を広げていた。
情報の提供とか、何の事だろう。
しかも、バレるとか、さっぱり意味が分からないんだけど
二人の会話に首を傾げていれば、最後の一人が来たということで、意識をそちらへと向けてしまい、問い掛ける事も出来なかった。
でも、流石に全員が集まって思うんだけど、20人近く大人数で動いたりしたら、他の人の迷惑になるんじゃないんだろうか?
「この人数で、どうするんだろうね」
そんな事を考えていた俺と同じように、ツナがどこか楽しそうな表情でポツリと呟く。
皆、考える事は一緒なのかな?
「よしゃ!全員集まったな。んで、折角集まったんだけど、別に一緒に回る必要はない。ここからは好きに行動していいからな」
皆が集まってから、クラス委員でもある男子がこの場を代表して口を開く。
だけど、言われた内容は、ちょっと不思議だった。
それなら、何で態々集合したんだろう??
「まぁ、集まったのに理由はないんだけどな。イベントって事で、賑やかにしたかったんだよ。一応、頼まれちまったからさ」
そんな疑問に首をかしげた瞬間、言われた内容に納得出来るような出来ないような……。
まぁ、確かにお客さんがあんまり来ないのは、折角お祭りを開いても意味がない。
今回開かれたのは、初めてのお祭り。
だから、まだ知られてない訳で
俺も話を知るまで知らなかった。
だからこそ、学生の力を借りようって事なのだろう。
確かに、これなら間違いなく人は集まる。
「お金にならなきゃ、大損だから店を出す人達も必死なんだろうね」
言われた言葉で納得していた俺の隣で、ツナがポツリと呟く。
きっと、俺と同じ事を考えてたんだろう。
だって、並盛のお祭りって、風紀委員にショバ代を払わないといけないんだから、売り上げがないと大変だよね。
解散の言葉で、皆がそれぞれ行動を始める。
「どうする、ツナ」
「そうだね、それじゃゆっくりと店を見て回ろうか。山本達もそれでいい?」
「問題ないのな」
「オレも問題ありません!」
自分達はどうするべきかを、ツナに問い掛けたら俺が考えていたモノと同じ返答が返ってくる。
ツナの言葉に、山本と獄寺くんも頷いてくれたので、問題ないだろう。
人が多い所は苦手だけど、折角のお祭りなので楽しみたい。
「取り合えず、たこ焼は外せないのな」
皆に続いて、俺達もゆっくりと屋台が並ぶ方へと歩き出した。
「沢田くん達は4人で回るんだ」
「ああ、うん。何時ものメンバーなんだけどね」
そんな俺に、先ほど話しをしていた女子が声を掛けてくる。
それに、俺は頷いて返した。
結局は、何時ものメンバーで行動するのは、変わらない。
「そっか、一緒に回ろうかと思ってたんだけど、流石に一緒は無理そうだね」
「えっ?俺は別に構わないけど?」
「ダメダメ、一緒に回る子が、その三人が一緒だと落ち着かなくなるから」
返事を返した俺に、彼女は少しだけ残念そうに言うから、思わず聞き返すように言えば、苦笑を零しながらちょっと離れた場所にいる女の子達の方へと視線を向けながら言う。
えっと、その三人って……どう考えても俺以外の三人だよね……確かに、モテる三人が一緒だと、女の子としては落ち着かないのは仕方ない。
でも、声を掛けてくれた子は、ツナ達の事は大丈夫みたいだけど
「ふふ、私は、気にしないんだけどね。本命別に居るから」
俺の考えを読んだのか、彼女が笑みを浮かべて口を開く。
でも、言われて納得する事が出来た。
確かに、他に好きな人が居るのなら、ツナ達が一緒でも気にしないだろう。
「好きな人と一緒に回れるといいね」
「ん〜っ、それは無理。私じゃ、敵わないから」
だから、俺なりに彼女の事を応援してみたんだけど、あっさりと否定されてしまった。
その事から考えると、彼女の本命の相手には、もう別の誰かが居るという事だろう。
「でも、その人が幸せに笑ってくれる事が嬉しいから、このままで十分なんだ」
なんて返していいのか分からなかった俺に、彼女はにこやかに笑って返してくれた。
その笑顔は、本当に幸せそうに見えた。
それは、彼女が本気で相手の幸せを願っているからかもしれない。
「そうだね。そう言う風に思えるのって、凄いね」
だから、俺もそんな彼女に自然と笑みを浮かべる事が出来る。
人の幸せを祈れる人って、本当に凄いと思うから
「……その笑顔だけで、十分だよ」
「えっ?」
「それじゃ、友達も待ってるからもう行くね。あんまり沢田くんも無理しちゃダメだよ」
小さく呟いた彼女の言葉が良く聞こえなくて、聞き返すように声を出した俺に、彼女はただ手を振って待っている友達の方へと行ってしまった。
「……彼女が物分りいい子で助かったな」
そんな彼女を見送っている俺の直ぐ傍で、今度は綱吉がボソリと何かを言ったのが聞こえてきたけど、何を言ったかまでは聞き取れなかった。
女の子の姿が人ごみの中に消えてしまうのを確認してから、俺は直ぐ傍に居るツナを見る。
「ツナ、さっき何て言ったの?」
「なんでもないよ。それじゃ、オレ達も屋台を見に行こうか」
分からないから、聞き返した俺に、ツナが首を振って返してくる。
それから、俺の肩を抱くようにして、笑みを見せた。
この笑顔を見せる時は、何を聞いても答えてくれないと分かっているので、俺は小さくため息をついて、ツナの言葉に頷く。
「そうだね。母さん達にもお土産買って行かなきゃ」
だからこそ、気にせずに意識を別な方へと向ける。
考え出したら、止まらなくなりそうだから
「そうだね、買って帰らなきゃランボの奴が煩いだろうね」
俺の言った言葉にツナが頷いてくれたことで、ホッとしながらも言われた内容に思わず笑ってしまった。
確かに、ランボくんにお土産買わないと煩そうだ。
リンゴ飴か、綿飴を買って帰ってあげよう。
ドングリ飴でもいいかなぁ。
でも、ランボくんの好きなブドウ味ってあったっけ?
イチゴとかコーラーがあったのは覚えてるんだけど……まぁ、お店があれば考えよう。
「?」
思わずお土産について考えていた俺に、ツナが不思議そうに名前を呼ぶ。
その声に顔を上げれば少し離れた場所で、3人が俺を振り返っている姿がある。
そこで、漸く皆がお祭りが開かれている方へと移動している事に気付いた。
「何やってやがる!置いていくぞ!!」
慌てて皆を追いかけようとした瞬間、獄寺くんが文句を言ってくる。
「ご、ごめん」
そんな獄寺くんに、全面的に自分が悪いんで素直に謝罪の言葉を返す。
それから、数歩離れた皆に慌てて近付いた。
「考え事?」
「うん、お土産何にしようかなぁって」
「それは、お店見ながら考えればいいよ」
「そうなのな、残ったのオレ達だけだから、早く行こうぜ」
追いついた俺にツナが質問してくるので、素直に何を考えていたのかを伝えれば、笑って返された。
うん、確かにお店見ながら考えた方がいい。
俺も、結局最後はそこに辿り着いたんだけどね。
山本が言う言葉に頷いて、賑わう祭りへと参加する為にその足を動かす。
お祭りは、それなりに賑やかでお店も沢山開かれていた。
当然風紀委員も見回りしていて、恭弥さんも祭りに来ていたから、ツナと一悶着あったのは、まぁ、しかたないかなぁっと……
「邪魔だから、君にあげる」
突然投げて寄越されたそれを慌てて受け取れば、真っ黒な毛並みの豚のぬいぐるみ。
ぎゅっと両手で抱き締めるにはちょうどいい大きさで、本物の豚さんをそのまま小さくしたような作りをしている。
「あ、あの」
「何?」
「いえ、有難うございます。大事にしますね」
でも、貰っていいのか悩んで声を掛けたら、不機嫌な声で聞き返された。
それに、前にも同じような事をして失敗したのを思い出して、慌ててお礼の言葉で返す。
俺のその言葉で、恭弥さんが満足そうに頷いて俺達から離れて行く。
「で、何ではそんなの貰ってるの?」
平和に事なきを終えてホッとしていた俺に、ツナが不機嫌な声で質問してくる。
そんなものって言うのは、恭弥さんに貰ったぬいぐるみの事だろう。
両手で抱えるようにギュッと抱き締めているのを、不機嫌な表情で睨み付けている。
「貰うのは、申し訳ないんだけど、多分俺が貰わないとこの子捨てられちゃいそうだから……」
前に、物を貰った時に、俺が貰えないと言ったら、あっさり捨てられそうになった事があるから、今回もきっと俺が断ったら、この子は捨てられると思ったんだよね。
でも、この子恭弥さんは一体何処で手に入れてきたんだろう?
ばったりと会った時には、もうその手に持ってたんだよね?
ちょっとだけ、恭弥さんがこの子を持っているのを見たけど、すっごい違和感だった。
いや、荷物みたいに片手で持ってたんだけど、俺もまさかぬいぐるみだとは思わなかったんだよね。
「捨てられないんなら、オレが燃やそうか?」
「いやいや、どうしてそうなるのか、分からないんだけど?!」
ポンポンとぬいぐるみの頭を撫でながら考えていた俺に、ツナが恐ろしい事を口に出す。
それに、俺は慌ててぬいぐるみをツナから庇う様に胸に抱いた。
「と、兎に角、ランボくん達にお土産買って帰ろう!ほら、あの店のドングリ飴がいいと思うんだけど!!」
何とか、誤魔化すように言えば、ツナも諦めたように頷いてくれたのでホッとする。
そんな訳で、お祭りで手に入れたのは、お土産のドングリ飴と、恭弥さんから貰ったぬいぐるみが一匹。
抱き心地がいいので、今日から寝る時に抱き締めて眠ようかなぁ。
なんて、これが後々ツナの嫉妬を買う事になるなんて、今の俺には知る由もなかった。