お正月は、何時ものように寝正月を楽しんでいた。
 休みの日は、ゆっくりと寝られるから、俺にとっては天国のような日々だ。

ちゃん、そろそろ起きなさい」

 今日も幸せを感じながら昼過ぎまで寝ていた俺は、母さんの声で漸く目を覚ました。

 時計を見れば、既に2時を回っている。
 そりゃ、確かに起こされても可笑しくはない時間だ。

 それにしても、家の中がすごく静かなような気がするんだけど、気の所為かなぁ?

「とりあえず、起きなきゃだね」

 ガバリと布団から起き上がって、服を着替える。
 寒くて、ちょっとのろのろした動きになってしまうのは、仕方ないだろう。

「さむい」

 部屋から廊下に出れば、一気に気温が下がったような気がする。
 リビングを通り過ぎて、キッチンへと向かう。

「おはよう、母さん」
「おそよう、ちゃん」

 キッチンで母さんが寛いでいたので、挨拶をしたらため息をつきながら返事が返ってきた。

「偉く静かだね、みんな出掛けているの?」

 母さんからの嫌味の返事に苦笑を零しながら、話を変えるために質問する。

「みんなとっくに出掛けちゃったわよ。ちゃんにも声を掛けていたみたいだけど」
「…ごめん、全然記憶にない」

 そっか、出掛けちゃっているのか……
 俺に声を掛けていたって、本気で全然知らないんだけど

「ご飯、どうする?」

 自分に声を掛けてだろうツナの事を考えて、複雑な気持ちになっていれば、母さんが質問してくる。

 ご飯かぁ。
 正直言えば、あんまりお腹はすいてないんだよね。

「御節まだ残っているのがあるよね?それ食べるからいいよ」
「そう、それじゃお雑煮は温めておくわね」
「うん、ありがとう。御節はリビング?」
「ええ、リボーンくん達が気に入ってくれたみたいだから、リビングのコタツの上に置いてあるわよ」

 母さんからそれだけを聞いて、リビングへと移動する。
 リビングへ行けば、みんなそのまま出掛けてしまったのか、散らかったままの状態だった。
 その現状を見て苦笑を零し、片付ける事にする。

 御節食べるって言ったんだけど、そんなに残ってないかも……
 まぁ。お腹すいてないから、いいんだけどね。

 床に置かれている、空になったお重箱を見て小さくため息をつく。
 ゴミをゴミ箱に捨てて散らかっているモノを簡単に片付けてから、お皿を重ねて手に持ちキッチンへと逆戻り。

「あら、持ってきてくれたの。有難う、ちゃん」

 お雑煮を温めている母さんが、俺の手にあるものを見て、お礼の言葉を返してくる。
 それに小さく頷いて、お皿と空のお重を流しへと置いた。

「俺、ご飯食べた後で片付けるから、置いといていいよ。母さんもちょっとは休まないと」
「ふふ、それじゃ、片付けはちゃんに任せて母さんもコタツでのんびりしようかしら」

 流しに洗物を置きながら母さんに言えば、嬉しそうに笑って温まったお雑煮を椀に入れながら返事が返ってきた。

「御節は、もう無くなっちゃうから、今日から夕飯作らなきゃだね」
「そうね。材料を考えたら、カレーが出来そうだから、カレーにしましょうか」

 お雑煮の入ったお椀を受け取りながら今日の夕飯の話をすれば、母さんもそれは考えていたらしく、献立があっさりと返って来る。

 カレーかぁ……それなら、俺でも作れるな。

「それじゃ、夕飯も俺が作ろうか?」
「あら?それじゃ、お願いしようかしら、ツっくんのお友達も来ていたみたいだから、夕飯いっぱい準備しておきましょう」
「みんな来てたんだ。本当に、全然気付かなかったや」

 みんなが来てたんなら、賑やかだったろうに、俺はそれにも気付かずにのんびり寝てだね。
 いや、だって、俺、寝るの好きだから許してください。

 それから母さんが温めてくれたお雑煮を持ってリビングに戻り、コタツに入って残りの御節を食べながら母さんと話をした。

 まぁ、何を話したかって言えば、今日の献立とか、明日からの献立。
 うん、母さんお料理大好きだから、どうしてもそうなっちゃうんだよね。

 なので、今日の献立はカレーとそれに合いそうなフルーツサラダ。
 酸味が、結構カレーと合うんだよね。

 んで、来ている年賀状見て、話をしていた。
 母さんの友達とかは、写真とか印刷されていて、見ていて微笑ましい。

 のんびりした時間を過ごしていたら、あっという間に時間が過ぎてしまう。

「それじゃ、そろそろ夕飯の準備しようか」
「そうね。ツっくん達は戻ってこないけど、戻ってきた時にはお腹空かせているだろうから、作って待ってましょうか」

 時間を確認してコタツから立ち上がった俺に続いて、母さんも立ち上がる。

 どうやら、俺が夕飯を作ると言っていた事は、もう忘れているみたいだ。
 まぁ、二人で作る方が圧倒的に早く出来るから、二人で作ってしまおう。

「それじゃ、先に洗物片付けるから、母さんはその間に材料の準備しておいてね」

 コタツの上に合った物を全部持って来て、それを流し台に置いて腕捲り。
 一気に洗った方が作業的には楽だから、自分が食べた物や先に置いてあった洗物を全部洗っていく。
 空になったお重箱も綺麗に洗ってから、今度は洗ったヤツを拭いて片付けていく。
 その間に、流し台が空いたので、母さんがカレーに使う材料を洗って皮をむき始めた。
 俺も、片付けが終わってから、その作業を手伝う。

「何人分ぐらい作ればいいのかなぁ?」
「そうねぇ、大きなお鍋で20人分くらいあれば、足りるかしら?」

 いや、ちょっと待って!そんなサラッと言っているんだけど、20人も居るの?
 えっと、ウチが3人+4人に、多分来ているって言うと山本達だろうから、4人?もしかしたら、京子ちゃんのお兄さんが来ているからも知れないから、5人。
 それから、もしかしたら、ディーノさん達が来ていたとしたら……20人でも足りないかもしれない。

「と、とりあえず、20人分で!」

 人数の確認をしたら、確かに20人居るかもしれないと思って焦った。
 ディーノさんの部下の人合わせたら、無限だよね。

「材料、足りるかなぁ……」
「足りない時には、何か考えるようにしましょう」

 今ある材料を考えても、足りるかどうかと聞かれたら、かなり微妙。
 それに、ポツリと呟けば、母さんも困ったような表情で返してきた。

 確かに、本当にみんなが食べるかどうかも分からないから、心配しても仕方ない。
 言われた事に頷いて、兎に角ある材料を全部切って、カレーの準備を始めた。
 材料を煮込んでいる間に、ご飯のセットをする。

 何とか、一段落してから、母さんと一緒にお茶をしていたら、ウチの電話が鳴り出した。

「俺、出るよ」
「母さんが出るわ。これ以上ちゃんに無理させると、ツっくんに怒られちゃうものね」

 電話に出ようと椅子から立ち上がりかけた俺を制して、母さんが笑いながらキッチンを出て行く。
 それに、俺も苦笑を零して、大人しく座り直してお茶を飲む。

 それにしても、ツナ達戻って来ないけど、何処に行ってるんだろう?

 チラリと時計を見れば、もう直ぐ日が暮れる時間。
 冬だから、日が暮れるの早いんだよね。
 もう既に暮れかけている空を窓越しに見て、お茶を飲む。

「もう直ぐツっくん達戻ってくるそうよ。お風呂準備しておきましょうか」
「そうだね。外寒そうだから、準備しておこうか。俺、行ってくるよ」
「お願いね」

 どうやら電話はツナからだったみたいで、今から帰ってくる事を連絡してきたみたいだ。
 それを母さんが教えてくれたので、今度は俺が椅子から立ち上がってお風呂場へと向かう。
 お風呂を洗ってお湯を入れていれば、玄関が賑やかになった。
 どうやら、ツナ達が戻ってきたらしい。

「お帰り!」

 お風呂場から出て玄関へと向かえば、大人数が入って来る。
 ディーノさんの部下の人達が居ないから、流石に20人は居ないけど、10人を超える人数は凄いと思う。

「ただいま、
「お邪魔します」

 声を掛けた俺に、ツナを始めみんなが声を掛けてくる。
 女の子達はみんな着物姿で、華やかだ。

「いらっしゃい、みんな。それから、明けましておめでとう、今年も宜しくね」
「はひ、宜しくお願いしますです、さん!」
「うん、宜しくね」
「極限、宜しくだぞ」
「宜しくなのな」
「けっ、仕方ねぇから、宜しくしてやるよ」
「宜しくな、

 ガヤガヤと賑やかに入ってきたみんなに新年の挨拶をすれば、それぞれが返事を返してくれる。
 それが嬉しくて、笑みを浮かべればみんなも同じように笑顔を返してくれた。

 それから、玄関ではなんだと言う事でリビングへと移動。
 コタツにはみんな入らないけど、部屋には暖房も入っているので大丈夫だろう。

 その後、出来上がったカレーをみんなで食べた。
 育ち盛りなので、20人分近いカレーもあっという間に無くなり、母さんが嬉しそうだ。
 俺も、あれが全部なくなるとは思ってなかったので、正直ちょっと驚いている。


 ただ一つ気になる事があるとすれば、ツナとディーノさんが凄く疲れているように見えるんだけど
 何があったのかは分からないけど、また大変な思いをしてきたのだろうと思うと、迂闊に聞く事も出来ないよね。

 まぁ、なんにしても、今日ものんびり過ごせたので、良かったのかもしれない。
 ツナ達には、こっそりと同情するけどね。