冬休みに入って直ぐ、リボーンがまた綱吉を連れて、山に篭ると言い出した。
母さんは、『男らしくていいわね』と、手放しで喜んでいるが、冬の寒い時期に山篭りするなんて、正気の沙汰とは思えない。
俺が誘われなかったのは、冬と言う事で、何時も以上に足に負担が掛かっているので、綱吉が断固として参加を認めなかった為に、免除になったと聞く。
この山篭りには、獄寺くんと山本、更に、ディーノさんが参加する事になっているらしい。
「本当に、大丈夫なの?」
イヤイヤだと良く分かるツナに、こっそりと質問。
「大丈夫かどうか聞かれたら、大丈夫だけど、行きたくないのは本音だね」
そうすれば、素直に返されたその言葉に思わず苦笑を零してしまった。
何て言うか、普通に考えればそうだよね。
「おい、さっさと行くぞ!」
でも、やる気満々のリボーンを止める事は、流石のツナでも出来ないみたいだ。
「煩い、今準備してんだろう!!」
寝袋まで持って行くって、どれだけ本格的なんだろう。
リボーンに文句で返す綱吉を前に、本格的に準備されている荷物を前にこっそりとため息をつく。
俺、参加していたら、酷い目にあっていたかも……
「それじゃ、行ってくるけど、は、絶対に無理しちゃだめだからね!」
「わ、分かってる……ツナも、無理はしないでね」
「オレは、あしらう方法は、いくらでも知っているから大丈夫だよ」
準備が出来たツナが、その荷物を持って念を押すように言ってきた言葉に、同じように返せば、笑顔と共に返される返事。
それって、俺には難しい事だよね。
うん、綱吉は俺と違って大丈夫なのは、分かっているけど
「ディーノさん達に宜しくね」
だから、それ以上その話題には触れないように、これから会うだろうディーノさんの名前を出したら、ツナが嫌そうな顔をした。
「ツナ?」
「リボーンの無茶には慣れてきたけど、部下が居ない時のディーノさんを相手にするのは、大変なんだけど」
嫌そうな顔をしたツナに、不思議に思って名前を呼べば、その理由を教えてくれる。
た、確かに、部下が居ない時のディーノさんは、予測不可能な行動をしてくれるから、大変そうだ。
「あ〜っ、うん、気休めになるか分からないけど、明日の夕飯は、ツナの好きなもの作るから、頑張って」
「そうだね。が、オレの為に作ってくれるんなら、それを糧に頑張れるよ」
だから、慰めにはならないだろうけど、労いの為に言った俺の言葉に、ツナが小さくため息をつきながら返してくる。
「うん、何が食べたい?」
「それじゃ、ロールキャベツ」
それに対して、頷いてからリクエストの質問に返ってきたのは、俺も好きな料理。
「分かった。頑張って作るね」
「楽しみにしているよ」
「おい、いい加減に出掛けるぞ」
貰ったリクエストに頷いて返せば、漸く綱吉が笑顔を返してくれた。
それに少しだけホッとしたのも一瞬で、リボーンの不機嫌そうな声で、綱吉の機嫌も悪くなる。
「今行く!」
それに素っ気無く返事を返してから、盛大なため息をつく。
「いってらっしゃい、ツナ」
「行きたくないけど、行ってくるね」
そんなツナに苦笑を零しながら、手を振ればもう一度ため息をつきながら、ツナが本音をボソリと零す。
それから、準備しているリュックを背負って、リボーンが待っているだろう玄関へと重い足取りで歩いて行った。
ツナが出て行くのを見送ってから、小さくため息をつく。
「それじゃ、俺も出掛けないとなぁ……」
ツナが居ない時じゃないと、時間が出来ないから、リボーンの強制連行は正直言って助かっている。
もしかしたら、俺の事を考えて無理やり強行しているのかもしれないけど
そうだとしたら、ツナには本当に申し訳ない。
「先に、恭弥さんに連絡して置いた方がいいかな?」
手に携帯を持って、パカリと開く。
それから意を決してから、俺はアドレスから恭弥さんの携帯番号を呼び出す。
ドキドキしながら、通話ボタンを押した。
そう言えば、恭弥さんに電話するの初めてだ。
『何?』
数回のコール後、聞こえて来たのは恭弥さんの短い質問。
「突然お電話してすみません、俺、です」
『うん、相手が君なのは、分かってるよ。それで、どうしたの?』
それに苦笑を零しながら、俺が自分の名前を言えば呆れたように返されてしまった。
そう言えば、携帯って登録されてれば相手の名前が出るんだっけ?
そんな初歩的なことを忘れていた俺に、再度質問されて慌ててしまう。
「あ、あの、今日は綱吉が居なくて、その、俺の戦い方を教えてくれるって……」
『ああ、前回は僕が体調を崩していたから、保留になっていたからね』
「あの、俺に、教えてくれますか?」
前に綱吉が居ない時に、教えて貰おうとしたんだけど、その時恭弥さんは入院していて、とても教えて貰える状態じゃなかった。
だからこそ、今更になってしまったけれど、俺は自分の戦い方をどうしても知りたい。
『いいよ。今から学校においで、待っているから』
「はい、宜しくお願いします」
俺の質問に、クスリと笑う声が聞こえてきて、了解の言葉が返ってくる。
それに、電話の相手には見えないと分かっていても、俺は深々と頭を下げた。
『ああ、裏門に草壁を迎えに行かせるから。そっちから来なよ』
「分かりました。有難うございます」
それから、続けて言われた言葉に頷いて電話を切り、急いで制服へと着替える。
服を着替えてから、キッチンに居る母さんへと声を掛けた。
「母さん、俺ちょっと学校に用事があるから、出掛けるね」
「あら、そうなの?お昼は?」
「いらないと思う、ちょっと遅くなるかもだけど、心配しないで」
素直に何処に行くのかを言えば、母さんが不思議そうに首をかしげながら質問してくるので返事を返す。
その後、母さんが『気を付けてね』と言ってくるから、笑顔で頷いた。
そう言えば今日は朝から偉く静かだったけど、ランボくん達の姿がないからだよね?
でも、こんな朝早くから、何処に行ったんだろう??
疑問に思いながら、余り恭弥さんを待たせる訳にはいかないと思って、出来るだけ急いで学校へと向かった。
学校に着いて、直ぐに応接室へと向かう。
前回のように、正門は閉まっていたけど、今日は連絡をしていたので草壁さんには、迷惑を掛けてしまったけど、すんなりと学校に入れたので、助かった。
連絡って、やっぱり大事だよね。
そんな事を考えながら、前を歩く草壁さんの後を付いて行く。
どうやら、俺を応接室まで連れて来る様に言われているみたいだ。
なので、階段は草壁さんが運んでくれました。
いや、その本当に、ご迷惑をお掛けいたします。
「委員長、お連れいたしました」
「入りなよ」
何とも複雑な気持ちになっていた俺を他所に、草壁さんが応接室のドアを叩いて声を掛ければ、中から恭弥さんの声が返される。
「失礼します」
礼儀正しくお辞儀をして入る草壁さんの後に続いて、俺も応接室へと入った。
「失礼します」
様子を確認するように恐る恐る入ってしまうのは、何とも言えない過去の所為だ。
ここに来ると、必ずと言っていいほど綱吉が迎えに来ていたからなぁ……流石に、今日は来ないと分かっていても、どうしても緊張してしまうのだ。
「草壁は下がっていいよ。用があったら呼ぶから」
「へい、では……沢田、失礼する」
「あっ、はい、有難うございました」
入った瞬間、恭弥さんが書類から目をそらさずに草壁さんに声を掛ければ、それに答えて草壁さんは頭を下げて部屋から出て行く。
それに、俺は慌てて頭を下げた。
だけど、後に残された俺は、どうすればいいのか分からずに、その場で立ち尽くしてしまう。
「君、座ったら」
そんな俺に、恭弥さんが短く声を掛けてくれた。
「あっ、はい、失礼します」
その言葉に従って、俺は近くのソファに座る。
それから、書類に向かっている恭弥さんへと視線を向けた。
忙しいのか、恭弥さんは一度も書類から目を離さない。
俺、迷惑な時に来ちゃったのかも
「あと少しで終わるから、待ってなよ。それから、迷惑とは思ってないからね」
内心で申し訳ないなぁと思っていれば、まるで心を読んだかのように恭弥さんが声を掛けてきた。
しかも、しっかりと俺が思っている事に対しての内容だ。
恭弥さんも、読心術出来るのかなぁ?
「ちなみに、僕には読心術なんて出来ないからね。君の顔に書いてあるんだよ」
内心で感心していた俺は、呆れたように続けられた言葉で、思わず自分の顔を触ってしまう。
いや、だってみんな同じこと言うんだよ。
みんなって言っても、綱吉と恭弥さんなんだけだけどね。
俺って、そんなに顔に出やすいのかなぁ??
「何そんなに顔を触っているの?」
そんな事を考えながら、無意識に手で顔を触っていたらしく、作業が終了したのだろう恭弥さんが呆れたように声を掛けてきた。
「えっと、なんとなく……」
「そんなに触っても、顔に書いてある事は消えないからね」
その質問に、当たり障りのない返事を返したら、ため息をつきながら言われた言葉。
うん、俺の考えている事はしっかりとばれているみたいです。
この顔に出る癖を直さないと、嘘の一つもつけないよね。
頑張って、克服しよう!
「考えは纏まったみたいだね。それじゃ、始めるよ」
心の中で決心した瞬間、恭弥さんが声を掛けてくる。
その言葉に、俺はコクリと頷き返す。
そして、二日間恭弥さんに色々と教えて貰って、約束通り綱吉のリクエストであるロールキャベツを作った。
何故かボロボロな姿で帰ってきた綱吉達には驚いたけど、一緒に食べられたからそれでいいのかなぁ?
そう言えば、山火事があったってニュースで言ってたんだけど、もしかしてそれに、ツナ達が関係してるとか……
まさか。
流石に、そんな事ないよね?