恭弥さんから、言われた言葉が頭から離れない。
俺の戦い方。
もしも、それがあるのなら、俺は、俺自身の為にそれを知りたいと思う。
日曜日、ツナはリボーンに強制的にピクニックに行くと言われていた。
勿論俺も誘われたが、内容がピクニックとなると、俺の足では流石に迷惑にしかならないので、丁寧にお断り。
若干リボーンは納得できないような顔をしていたが、俺の足の事を知っているからしぶしぶ諦めてくれた。
まぁ、綱吉に怒られたと言うのも理由の一つだと思うんだけど
だって、俺を参加させるなら、どんな手を使っても逃げると宣言していたから、それが効いたのだろう。
なので、日曜なのに頑張って早起きした俺が、二人を見送ったのは数十分前の事。
「ちゃんは、行かなかったの?」
「うん、流石にピクニックとなると、俺の足には負担が掛かるから……でも、俺も今から出掛けるね」
ピクニックに出掛けると言うリボーンの言葉で、母さんがお弁当を作ってくれていたので、それを持って俺も出掛けようと思う。
ツナが居ないのは、正直言って都合がいい。
「あら、そうなの?」
「うん、母さんが折角作ってくれたお弁当を家で食べるのは勿体無いから」
俺が言った言葉で、母さんが不思議そうに問い掛けてくるのに無難な言葉を伝えた。
そうすれば、母さんが何の疑いもなく送り出してくれることが分かっていたから
予想通り、お弁当も包んでくれて持たせてくれる。
流石に制服を着て家を出ると怪しまれるので、シャツとズボンの出来るだけラフな格好で家を出た。
恭弥さんは、休みの日でも大抵学校に居ると聞いているから、迷わず学校へと向かう。
恭弥さんが忙しい事は、知っている。
だからこそ少しだけ躊躇われたけど、でも俺自身このままじゃいけないと思っているからこそ行動に移した。
休みの日の学校は、当然の事ならが校門は閉じられている。
それを目の前にして、途方にくれてしまった。
どうしよう、そこまで考えてなかったんだけど……
「乗り越えて行くべきなのかなぁ……」
でも、失敗すれば間違いなく病院送りになるだろう。
これは、俺にとってはまさしく難問。
「そうだ!もしかしたら、裏門は開いているかも!」
どうするかを考えて、その事を思い付き裏門へと向かう。
だが、俺の期待に反して裏門もしっかりと閉められていた。
うん、ウチの学校は流石にその辺はしっかりと徹底されていると言うべきなのだろうか。
流石、恭弥さんが居る並盛と言うのが正しいのか分からない。
「諦めて帰るか、それもと……あっ!」
本気で病院送り覚悟で門を乗り越えるべきか、諦めて帰る事を選択するべきかを真剣に考えていた時、見慣れた学ランと独特な髪型を見付けた。
「草壁さん!」
その人物を見付けて、喜んでその名前を呼ぶ。
そうすれば、俺に気付いてくれた草壁さんがこちらの方に来てくれた。
「沢田、どうしたんだ?」
「あの、今日、恭弥さんはいらっしゃいますか?」
だけど草壁さんには、俺がここに居るのが意外だったのだろう、不思議そうに質問されたので、恐る恐る聞き返してしまう。
俺が質問した瞬間、草壁さんが少しだけ困ったような顔をした。
それは一瞬の事だったけど、鈍いと言われている俺でも十分気付けるぐらいのもの。
「何かあったんですか?!」
「……委員長は、風邪をこじらせて入院してしまっているんだ」
それに気付いて質問すれば、言い難そうにしながらも、何があったのかを教えてくれた。
何でも、ここ数日の忙しさの為に、体調を崩した恭弥さんは高い熱を出して倒れてしまったと言うのだ。
なので、安静の為に今日は入院していると言う。
「あ、あの、病院はどちらになりますか?俺、お見舞いに行ってきます!」
「そうだな、委員長はお前の事を気に入っておられる。行ってやれば、喜ぶだろう」
それを聞いて無視できる内容じゃなかったので、恐る恐る質問すれば草壁さんが頷いて何処の病院に入院しているのかを教えてくれた。
入院先の病院は、俺も良くお世話になっている並盛中央病院。
並盛では、一番大きな病院だし、何よりも救急病院なので当然と言えば当然だろう。
病室に関しては、草壁さんも知らないと言うので、病院に言ってから聞けばいい。
だけど、お見舞いに行くのに手ぶらで行く訳には行かないので、何か品物を買って行った方がいいかなぁ?
花にするべきか……でも、恭弥さんが、どんな花が好きなのか知らない。
食べ物……そこまで詳しくは知らないけど、花よりはマシ……でも、風邪引いてる人に食べ物……微妙だ。
「ああ、でも果物とか持っていけば大丈夫かな?」
今の季節なら、みかんとかいいかもしれない。
そう考えて、病院に行く前に商店街に足を向ける。
果物屋さんに行けば、綺麗なみかんがあったのでそれを購入。
後、無難なところでりんごを2個ほど買った。
紙袋に入れられたそれを両手で抱えるように持って、病院へと向かう。
お弁当の入った袋は、リュックになっているので、背負っている。
ナースステーションで知り合いの看護師さんに恭弥さんの病室を訪ねれば、驚かれた。
本気で行く事を止められたけど、知り合いだから大丈夫だと言えば、しぶしぶ病室を教えてくれる。
って、何でそんなに怖がられてるんだろう?
心配そうに見送ってくれた看護師さんと別れてから、恭弥さんの病室へと足を向ける。
良くお世話になっている病院なので、迷うことなく病室へと辿り着く事が出来た。
病室に着いてから、深呼吸してドアをノックする。
返事が返ってこないようなら、そのまま帰ろうと思っていたけど、それは余計な心配だったみたいだ。
「入りなよ」
短く返されたその言葉に、許可を貰った俺は病室の扉を開いて中へと入る。
「お加減、いかがですか?」
「ああ、君か……草壁に聞いたの?」
恐る恐る扉を開いて中に入って、容態を聞けば恭弥さんが少しだけ不機嫌そうな表情で質問してきた。
それにどう返していいのか分からなくて、返答に困っていれば、恭弥さんがため息をつく。
「返事は聞かなくても分かるけどね。で、この前僕が言った事を考えたのかい?」
その質問に対して返事を返さなかった俺に、再度ため息を付いて恭弥さんが質問してくる。
それは、俺が恭弥さんに逢いに来た目的。
「はい、でも、今日はやめておきます。恭弥さん体調崩されているのに、俺の事で煩わせたくありませんから」
だけど俺はそれに、頷いてから少しだけ困ったように付け足した。
だって、入院している人に教えを請うなんて事、出来る訳ない。
「大した事ないんだけど」
持って来た紙袋をベッドの直ぐ傍にある台に置きながら言った俺の言葉に、恭弥さんが不機嫌な声で返してくる。
その言葉に、俺は思わず小さくため息をついてしまった。
「大した事ありますよ!病院では絶対に安静ですからね」
そして、不機嫌な表情でベッドに座っている恭弥さんに言葉を返す。
草壁さんが言っていたように、熱を出して倒れてしまったのなら、無茶な事はして欲しくない。
今の恭弥さんの顔色が、思っていたよりも良いと言っても、入院している相手なのだから、病人なのは間違いないのだ。
「君、偉そうだよ。僕に意見する気」
「意見じゃないです!俺は、恭弥さんの事、心配してるんですよ」
生意気に言った俺の言葉に、またムッとした表情で恭弥さんが睨んでくるのに、真っ直ぐにその視線を受け止めて口を開く。
そう、草壁さんも本当に心配していた。
俺だって、それは同じだ。
「……心配、してたの?」
真剣に返した俺に、恭弥さんは驚いたようにその瞳を見開いて質問してきた。
「当たり前です!倒れたって聞いて、心配しない訳ないじゃないですか!!」
驚いて質問してきた恭弥さんに、俺はきっぱりと言葉を返す。
本当に、心配したのだ。
知り合いの人が倒れたなんて聞いて、心配しない人は居ないと思う。
それは当然の事だと言うのに、この人はなんでそんな意外そうに質問するのかが分からない。
「そうなの?」
きっぱりと返した俺に、それでも恭弥さんは再度問い掛けてくる。
「そうなんです!」
だから俺は、もう一度その言葉に頷いて返した。
そうすれば、恭弥さんがどこか嬉しそうな表情をする。
あれ?機嫌が良くなってるような……
「あっ、これお見舞いです。みかんとりんごなら食べられると思って」
機嫌が良くなった恭弥さんに不思議に思いながらも、台の上に置いた紙袋の中身を見せた。
「そう」
だけど、恭弥さんはそれに興味なさそうに返事を返して、ベッドに横になる。
もしかして、体調が悪くなったのかと、俺はちょっと焦ってしまった。
「も、もしかして、体調悪化しちゃいました?先生呼びますか?」
「大丈夫だよ。ねぇ、少し寝るから、君そこに居てくれる?」
心配して確認した俺に、恭弥さんはそれを否定してから質問してくる。
だけど、言われた言葉が一瞬理解できなかった。
あれ?寝るから、ここに居るって、えっと、それって俺にここに居て欲しいって事だよね?
でむ、寝る事は安静にするって事は、大丈夫だから、悪くない。
「俺が居て、寝られますか?」
「寝られないなら、申し出ないよ」
「でしたら、ゆっくり寝てください。今日、何も予定ないのでずっとここに居ますから」
心配して尋ねたそれに、恭弥さんが少しだけ呆れたように返してくる。
それに安心して、笑顔で頷けば、恭弥さんはそれにまた驚いたような顔をしたけど、『そう』と短く返事を返してから、目を閉じた。
直ぐに、静かな寝息が聞こえてくる。
もしかしたら、本当は疲れていたのかもしれない。
それを証拠に、思っていたよりも顔色がいいと言っても、何時もより疲れた表情はしていたから
そっと眠っている恭弥さんの額に触れれば、少し熱い。
まだ、熱は下がりきっていないのだろう。
「早く、良くなってくださいね」
そう呟いて、眠る恭弥さんの顔を見ていると、俺まで眠くなってきてしまった。
「ねぇ、いい加減起きなよ」
そして、呆れた声で恭弥さんに起こされたのは、もう夕方だった。
入院している人が起きて本を読んでいるのに、見舞い客の自分が寝てるなんてかなり可笑しい。
「起きたの」
ガバリと勢い良く起きた俺に、恭弥さんが質問してくる。
それにコクコクと頷いて、まだはっきりとしない頭で必死に今の状況を考えた。
「す、すみません。俺の方が暴睡しちゃって!」
そして状況を理解して慌てて謝罪する。
「別に、気にしてないよ。それよりも、時間大丈夫なの?君の事だから、沢田綱吉に黙ってきてるんでしょう?」
そんな俺に気にしていないと言うように恭弥さんが返してくれて、そして最後に確認するように言われた内容に、俺はサーッと血の気が引いてしまった。
だって、時間はもう夕方。
いくら何でも、綱吉は帰ってきているだろう。
しかも、病院と言う事で持っている携帯の電源は落としてあるから、連絡は付かない。
それは即ち、綱吉の心配を買う事になるのだ。
「俺、帰ります!」
「うん、気を付けて帰りなよ」
慌てて荷物を持った俺は、それだけを言って立ち上がれば、あっさりと恭弥さんが送り出してくれる。
「恭弥さんも、早く良くなってくださいね」
「心配しなくても、明日には退院するよ。今日、ゆっくりと休めたからね」
病室を出る時に、心配して言った俺の言葉に、恭弥さんが素っ気なく返してくれた。
でも言われたその言葉に、安心する。
「良かったです!それじゃ、また学校で!」
言われた言葉が嬉しかったから、笑顔でそう言えば、扉を閉める前に少しだけ驚いている恭弥さんが見えたような気がする。
一体何に驚いていたんだろう?
良く分からなかったけど、兎に角今は、早く家に帰る事を優先する。
病院から出て直ぐに携帯の電源を入れて家に連絡は入れておいたから、多分少しはマシだと思いたい。
電話に出たのは母さんだったから、今まで何をしていたのかはさり気なく話しておいた。
勿論、事実を混ぜて話してあるので、大丈夫だと思いたい。
外に出て、余りにも気持ちよかったから今の今まで寝てしまっていたのだと
なので、お弁当も食べられなかったので、家に帰ったら食べるから夕飯はいらないと言う事も言ってある。
だけど、帰った俺を出迎えてくれたのは、勿論怒っている綱吉だった。
何処に行っていたのかをしつこく聞かれたけど、母さんに説明した内容と同じ事を返す。
自然公園に行って、余りにも気持ちよかったからそのまま寝てしまったのだと
そうすれば、無防備すぎると更に怒られてしまった。
いや、無防備過ぎるって、そんな理由で怒られる意味が分からないんですが……
風邪ひいたらどうするとか、誰かに襲われたらどうするとか言われてしまう。
実際は、病院で寝てたのだから、風邪をひく事はない。
でも、誰かに襲われるって……俺は、女の子じゃないのに、意味が分からないんですが
「兎に角!もうそんな事しちゃダメだからね!」
最後にそう言われた事に、素直に頷いて返す。
そうしないと、説教が終わらないことを知っているから
素直に頷いた俺に、綱吉も満足したのか今日の説教は終了。
でも、嘘を付いている事に罪悪感が浮ぶ。
多分、リボーンには俺が誰と一緒に居たのかはばれていると思う。
だって、すれ違った瞬間に言われたから
曰く、綱吉には黙っててやる、との事です。
うん、完全にばれてるね……xx