ディーノさんが家に泊まり、長々と話をしてしまって遅くまで起きていたのが原因で、見事に寝坊してしまいました。
いや、何時もの事って突っ込みをされそうなんだけど、今日はちゃんとそう言う理由だから!
「いってきます!」
「は〜い、いってらっしゃい」
慌てて準備をして家を出る時に声を掛けたら、母さんが返事を返してくれる。
ツナと並んで家を出た瞬間、驚いた。
えっと、昨日とは違うけど、ディーノさんの部下の人達が道に一杯居るんですけど
「ボンジョルノ、ボンゴレ10代目」
「あっ、おはようございます。えっと、ディーノさんでしたら……」
どう対応していいのか分からずに困惑している中、昨日ツナの部屋に居た人が声を掛けてきたのに、返事を返してペコリと頭を下げる。
それから、多分目的であろう人物の事を口に出そうとした瞬間、後ろのドアが開く音がした。
「なんだおまえら、むかえなんて頼んでねーぞ」
そして、聞こえて来たのはディーノさんの声。
「誰もむかえになんてきてねーよ、ボス」
呆れたように言われたディーノさんの言葉に、部下の一人がその言葉を否定する。
「散歩してブラついてたら、ここについただけだぜ」
そして続けて言われた内容に、皆が同意の言葉を返してきた。
「駅前のホテルからかよ…」
言われた内容に、ディーノさんが呆れたように返すけど、どう考えてもディーノさんの様子を見に来たのだと分かって微笑ましい。
皆、ディーノさんの事が好きなんだと、そう分かる。
「へぇ、一応部下には、慕われているみたいだね」
そんなやり取りをみていたれば、隣からツナが感心したように呟く声が聞こえてきた。
うん、本当に皆に慕われているのが良く分かる。
いい、ボスなんだろうなぁ……
「おはよーございます、10代目!!」
微笑ましい光景を見ている中、後ろから行き成り大声で挨拶する声が聞こえて来て、かなり驚かされた。
振り返れば、そこに居たのは獄寺くん。
その表情は、ツナに会えたからだろう、とても嬉しそうだ。
「早起きしたのでブラブラしてたらここについちゃいました」
って、ディーノさんの部下の人達と同じ事言ってる?!
えっ、マフィアの間での言い訳って決まってるの??
「……マフィアの頭の構造って、皆同じなのかなぁ……」
そう思ったのはツナも同じようで、ボソリと呟かれたその言葉が聞こえてしまった俺は、思わず苦笑を零す事しか出来なかった。
「それより何なんスか、この連中は?」
俺達が呆れている事には全く気付いた様子のない獄寺くんは、ニコニコとした表情を一転して、ディーノさんの部下の人達を睨み付ける。
それは、一変して警戒態勢で……
あれ?何でそんなに喧嘩腰なんだろう?
「よぉ、悪童スモーキン・ボム。会うのは初めてだな」
「!そのタトゥ-…跳ね馬のディーノ…!!」
そんな獄寺くんに対して、ディーノさんが声を掛けてくる。
声を掛けられた獄寺くんは、ディーノさんの事を知っているようで、少し驚いたようにその名前を呼んだ。
お互いの事を知っているんだ……二人とも有名人なのかなぁ?
明らかに警戒している獄寺くんと、全く気にした様子のないディーノさん。
えっと、この場合どうしたらいいんだろう……ツナは、興味ないのか、大きな欠伸してるし
「ツナに、それに獄寺じゃねーか」
今にも掴みかからない勢いの獄寺くんにどうしたらいいのか分からなくて、オロオロしている中、新たな声が聞こえてくる。
「何やってんだ、おめーら、遅刻するぜ!!」
「山本!!」
相手を確認する前に、行き成り後ろから肩を抱き締められて、かなり驚いた。
俺と同じように、綱吉の肩にも山本の腕が回されている。
ツナは、うんざりとした表情をしているけど、驚いている様子はない。
きっと、山本が近付いて来ていた事に気付いていたのだろう。
「ども」
「よ」
俺とツナの肩に手を回したまま学校への道を歩き出した山本は、それでも一度顔だけを振り返るとディーノさんにしっかりと挨拶する。
うーん、山本って、本当にそう言う処はちゃんとしてるよね。
「さっさと行こーぜ」
「10代目に馴れ馴れしくするんな!」
俺とツナの肩に腕を回したままの山本に対して、獄寺くんが文句を言う。
その足は同じように学校へと歩き出しているので、きっとディーノさんに喧嘩売ろうとした事はもう忘れているのかもしれない。
「へぇ、あのディーノさんがねぇ…」
「ええ、あいつが先代の傾けたファミリーの財政を立て直したのは有名な話っス。マフィア キャバローネファミリーつったら、今じゃ同盟の中でも第3勢力ですしね」
で、俺の足に合わせて、のんびりと学校に行く中、獄寺くんがディーノさんの事を教えてくれた。
話を聞いて、ツナも珍しく感心したように頷いている。
本当に、凄い人なんだなぁ、ディーノさんって
「そんなに凄そうには、見えなかったんだけど……」
あれ?感心したように頷いて、ない……意外だと言わんばかりのツナの言葉が聞こえてきて、なんと返していいのか分からなくなってしまった。
何だろう、ディーノさんに対して、トゲがあるように感じるのは、気の所為?
「どっちにしろオレは好かねースけどね」
しかも、獄寺くんまでもが、不機嫌そうに言い捨てる。
「えっ、なんで?」
説明された内容から考えると、好きじゃないと言う理由が分からない。
尊敬できるぐらい、凄い人だと思うんだけど
「オレにとって、年上の野郎は、全部敵スから」
驚いて質問した俺に対して、獄寺くんが面倒くさそうに返事を返してくれた。
でも、その返された内容になんと返していいのか分からなくて、言葉に困る。
流石に、それは何て言うか、範囲が広すぎるように思うんだけど……
「なあ、さっきマフィアって言ってたけど…」
「えっ?」
「変な会社名だな」
獄寺くんが話していた内容を聞いて、黙って話を聞いていた山本が声を掛けてきた事に一瞬ドキリとした俺に、山本がニカリと笑ってまた天然な言葉を返してきた。
いや、そんな会社名普通はつけないから!
山本に対してどう突っ込むべきか考えている中、突然車のエンジン音が聞こえてきた。
その音に気付いて振り返えれば、真っ赤なスポーツカーが走って来るのが見える。
この道を車が走るのは珍しいので、思わず視線でその車を追ってしまう。
「!」
こっちに来るのかなぁと思って見ていたら、その車が凄い勢いで近付いて来て扉が開き、車の中へと引き摺り込まれた。
一瞬、何が起きたのか頭が働かない。
腕を掴まれたと思った時には、俺は車の中に居たのだから
確か、俺はツナと山本の間に挟まれていたのに、なんでピンポイントで車の中へ引っ張り込まれているんだろう??
焦ったような、ツナの声が聞こえたと思った瞬間、ドンと言う音が車の上から聞こえてきた。
「ボ、ボンゴレが、車の上に?!」
何が起こったのか頭がついていけない中、焦ったような声が聞こえてくる。
ボンゴレが、車の上……
「走っている車の上に飛び乗るなんて、何て無茶な事を」
更に聞こえてきた声が、現状を把握させてくれた。
俺は、走ってきた車の中に引き入れられて、それを助けようとしたツナが車の上に乗っている……先のドンと言う音は、ツナが車の上に乗った音だったんだ!!
「は、離せ!ツナ!!」
それが分かったから、掴まれていた手を振り払って車の窓から顔を出しツナの名前を呼ぶ。
「おい、そんなに身を乗り出したら、危ないぞ!」
俺の腕を捕まえていた人が驚いて注意してくるけど、そんな言葉聞いていられない。
ツナが、俺の所為で危険な目にあうなんて、そんなの絶対に嫌だ。
「今、停める。頼むから大人しくしてくれ!!」
窓から身を乗り出して、ツナの無事を確認しようとした俺に、慌てたように運転していた人がそう言うと走っていた車をゆっくりと停車する。
車が停まった事で、俺は慌てて外へと飛び出した。
「ツナ!」
「!大丈夫だった?」
「それは、俺のセリフだよ!怪我してない?!」
車から飛び出した俺に、その上から飛び降りたツナが心配そうに問い掛けてきた内容に逆に俺が聞き返す。
だって、走っている車の上に飛び乗ったなんて、そんな危険な事をしたのだから心配するなと言う方が無理な話だ。
「オレは大丈夫だよ。それにしても、どういうつもりですか、ディーノさん」
「えっ?」
俺の質問に、ツナが笑って返事を返してから、その表情を一転させてある方向を睨み付けながら問い掛けたれたその言葉に、意味が分からずに聞き返す。
「悪かったな、お前等のファミリーを試させてもらったんだ」
ツナの視線の先を見れば、陰から出て来たのはディーノさんとリボーン。
そして言われたその言葉が、俺には良く理解できないんだけど
何で、試すなんて事……
「ダメを攫えば、綱吉の行動は簡単に予測できたからな、それを利用させてもらったんだぞ」
「試す必要がどこにあるの!!」
淡々とした口調で言われたリボーンの言葉に、俺は耐え切れなくて声を荒げた。
「試すのなら、もっと正当な事で試して!なんで、こんな危険な試し方なんてするんだ!!」
下手をしたら、大怪我をしていたかもしれないのだ。
だから、そんな試し方をしたリボーンやディーノさんに対して、俺は本気で怒っていた。
「、オレの為に怒ってくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと落ち着いて」
キッとリボーンとディーノさんを睨んだ俺に対して、綱吉がため息をついて俺の肩を叩く。
肩を叩かれた瞬間、俺はギュッと握り締めていた手の力を緩めた。
それでも、リボーンやディーノさんに対しての怒りが収まった訳じゃない。
「で、試す内容として、山本達に何を言ったんだ?」
そんな俺の肩に手を置いたまま、綱吉がリボーンとディーノさんに静かな声で質問する。
その質問された内容に、俺は二人の事を思い出した。
そうだ、ディーノさんは、ファミリーを試させてもらったと言ったのだ。
それはリボーンに勧誘されている山本や、元からボンゴレに入って綱吉の右腕だと言っている獄寺くんの事を指している。
「車は、桃巨会のもので、お前等を攫った事になっているぞ」
「……桃巨会ねぇ……」
「それは心配ない。でっち上げのヤクザだからな」
それに気付いて、心配気にリボーンを見れば、あっさりと内容を教えてくれた。
それに対して、綱吉がポツリと呟くその言葉に、慌ててディーノさんが弁解する。
「お前、ディーノさんにまで嘘付いたの?」
「どう言う意味だ?」
ディーノさんのその言葉を聞いて、綱吉が呆れたようにため息をついてリボーンを睨み付けた。
綱吉のその言葉に、ディーノさんは意味が分からないと言うように聞き返してくる。
俺も、綱吉の言葉の意味が分からずに、思わず視線をツナへと向けた。
「桃巨会は、この町に実在するヤクザですよ」
俺とディーノさんの視線を受けて、綱吉が簡潔に説明の言葉を口に出す。
でも、言われた言葉は、そんなに簡単には済まされない内容。
「ちょっと待って!二人は、どうしたの?」
「あいつ等は、お前等を助ける為に桃巨会に殴り込みに行ったぞ」
その言葉に、漸く事の重大さを理解した俺が、今ここに居ない二人の事を質問すれば、リボーンがサラリととんでもない返答をしてくれた。
ちょっと待って、二人は連れ去られたと思っている俺達を、桃巨会に探しに行ったって?!
そ、そんな事実ないのに、危なすぎる!!
「直ぐに、止めに行かなきゃ!!」
「お前が行っても無駄だぞ」
とんでもない内容に、俺は慌てて二人を止めに行こうと踵を返した瞬間、その腕をツナによって掴まれた。
そして、無常にも聞こえてきた声はリボーンの容赦ない言葉。
「そうだよ、が行ってどうするの?」
リボーンに続いて、俺の腕を掴んでいるツナがまるで小さな子供に問い掛けるように質問して来る。
「わ、分からないけど、でも山本達を放って置ける訳ない!」
「が行っても意味ないよ。オレが行くから、は先に学校に行ってて」
「で、でも」
「ディーノさん、不本意ですが、を学校に送って頂けますよね?」
質問してきたツナに答えた俺に、また容赦ない言葉が返って来る。
更に、ツナから言われた言葉は、学校へ行けと言うもの。
その言葉に何か反論しようとした俺を遮って、ツナがディーノさんに自分の事を送って行くように願い出た。
「あっ、ああ。でも、お前だけで大丈夫なのか?」
「心配はいらねぇぞ、お前はツナが言うようにダメを学校に送って行け」
ツナに言われたそれに、ディーノさんが心配そうに聞き返すが、それに対してもキッパリとした口調でリボーンが返す。
その間、俺が口を挟む隙は全然なくて、自分の事なのにもう既に俺は学校へと行く事が決定してしまった。
確かに、リボーンやツナが言うように、俺が行ったとしても役に立たない。
そんな事は分かっている、だけど、俺も二人の事が心配だから、役に立たないと分かっていても、一緒に行かせてもらえない事が悲しい。
「それじゃ、ディーノさん、をお願いします」
俺が何も言わないから、ツナはそれで終わりだと言うようにディーノさんに俺を預けるような言葉を残して、既にリボーンを肩に乗せて走り去ってしまった。
「リボーンも一緒なんだから、心配する事はねぇだろう。んじゃ、オレ達は学校に向かおうぜ。ロマーリオ」
「Si.ボス」
悔しいけど、言われている事に反論する事なんて出来るわけもなく、黙ってツナ達を見送っていた俺の耳にディーノさんの声が聞こえて来る。
だけど、それにも何も答える事ができずに、俺はただ走り去ってしまったツナの姿を追うように視線を逸らす事が出来なかった。
「、車で送って行く……って、おい!ど、ど、どうしたんだ?」
そんな俺にディーノさんが促すように声を掛けて来たけれど、その声が驚いたものへと変わる。
焦ったように質問された内容は、意味の分からないもの。
慌てていると分かるディーノさんの質問だったけれど、意味が分からなくて答える事は出来ない。
そして、何よりも、俺の視線はツナの消えた方から逸らす事が出来なかった。
「ボス、何ボーズの事泣かせてるんだ?」
「オ、オレじゃねーぞ!!」
更に部下の人から呆れたように言われたその言葉で、戸惑ったような返事が返される。
でも、聞こえてきた声に疑問が浮ぶ。
泣かせるって、誰を泣かせたんだろう?
「と、兎に角、は車に乗ってくれ、こんなの所をツナに見られちまったら、確実にオレの命がない」
疑問に思った事で漸く俺の視線はツナの消えた先ではなく、ディーノさんへと向ける事が出来た。
俺が見たディーノさんは、本気で焦っているのが良く分かる。
一体、何をそんなに慌てているのか、俺には分からなくて思わず首を傾げてディーノさんを見詰めてしまう。
「ボーズ、もしかして怪我しちまったのか?」
それは、ディーノさんの部下の人も同じで、心配そうに質問してきた。
怪我?俺は、怪我はしてないけど……
でも、その言葉に返事を返す事は出来なくて、フルフルと首を振って返すのが精一杯だった。
そんな俺に、明らかにディーノさんがホッとしたのが分かる。
「ボス、とりあえずボーズをボンゴレボーズの言葉通り学校に送ってやらねぇと」
「そ、そうだな……も、それでいいか?」
「……いえ、俺一人で行けますから」
なんだか、これ以上誰かに迷惑を掛けたくなくて、ディーノさんが質問してくれたその言葉に必死で返事を返す。
今は、この情けない気持ちを整理したかったから、出来れば一人になりたい。
自分が役に立たない事なんて分かっているけど、それをはっきりと言われた事に傷付くなんて、今更だと分かっていても、気持ちを落ち着かせることが出来ないから
「つーってもな、ツナに言われちまったからなぁ……ここで、お前を一人で行かせたと分かったら、確実にあいつの怒りを買っちまうだろう」
ディーノさんに申し出たその言葉に、ため息をつきながら返されたのは、もっともな言葉。
ツナは、俺をディーノさんに送って行く様に頼んだ。
それなのに、俺一人で学校へ行ったと知ったら、それはそれで、ディーノさんに迷惑が掛かる事になる。
「……そう、ですね。お願い、します……」
だから、俺に出来るのは、これ以上ディーノさんに迷惑を掛けないようにする事。
大人しく、学校まで送って貰う事だ。
「ああ、ロマーリオ」
頭を下げた俺に、ディーノさんが車のドアを開いて何気にエスコートされてしまう。
それに任せるように、車に乗る。
だけど、車に乗る前に、俺はもう一度だけツナが向かった方へと視線を向けた。
勿論、視線を向けた先にツナを見つける事は出来ないけれど、今の俺に出来るのは、怪我をせずに皆が無事に学校へと来る事を祈るだけ
俺が乗った後、ディーノさんが助手席に乗り込めば、学校へ向けてゆっくりと車が走り出すのを、ただぼんやりと見詰める事しか出来ない。
もしも、本当にもしも、俺に障害なんかなくて普通の体で、ツナみたいに強かったら、こんな気持ちにはならなかったのだろうか?
そんな事、考えても分かるはずがない。
だって、それはもしもの話なのだから……
「あ〜っ、そのな、多分リボーンもツナも、心配いらないと思うぞ。ツナに関しては、リボーンのお墨付きだしな」
何も話さず、ぼんやりと流れる景色を見詰めている俺に、ディーノさんが慰めるように声を掛けてくる。
それは、言われなくても自分自身が一番良く分かっている事だ。
今、俺の心を支配しているのは、役に立たない自分の事。
「……そう、ですね。ツナはリボーンに認められているから……」
何をやっても、一流のツナ。
それに引き換えて、俺はそんなツナの足を引っ張る事しか出来ないお荷物。
昔からずっと言われていたのに、何を今更、俺はそんな当たり前の事で傷付いているんだろう。
出来損ないだと、ツナにとって迷惑でしかない存在だと、何度も言われたじゃないか……今更、何で……
分かってる。
ツナに、はっきりと言われたからだ。
俺が行っても、意味がない、って………
リボーンに言われても、全然気にしなかった。
でも、それをツナに言われた事がこんなにも心に残っている。
別段、今初めてツナから言われた言葉じゃない。
何度か言われた事があるけれど、今日のように俺を置いて一人で行ったのは初めてだったから、だから、こんなにも胸が痛いのだ。
ツナに悪気があった訳じゃない事だって、ちゃんと分かっている。
だけど、遠去かるツナを見送る事が、こんなにも苦しいのだと思い知らされたのだ。
「お、おい」
ディーノさんの言葉に返したのは、精一杯の返答だった。
そんな俺に対して、またディーノさんが慌てたような表情をする。
ああ、視界が滲むのは、情けない自分を悔やんで流れる涙。
涙を流した俺に、ディーノさんが慌てているのが良く分かる。
もしかして、車に乗る前に慌てていたのも、俺が泣いていたからかもしれない。
情けなくて、悔しくて流れる涙を止められない自分が更に情けなくなる。
せめて俺に出来たのは、ディーノさんにこれ以上見られないようにするために、俯くぐらい。
そんな時に、車が停まった。
多分、学校に着いたのだろう。
でも、こんな顔で学校に行く事なんて出来ない。
「どうする、ボス」
「あ〜っ、どうするったってなぁ……」
「ねぇ、その子に何したの?」
困惑しているディーノさんと部下の人の声が聞こえてくるけど、涙は止まらない。
俺自身どうしようかと思った瞬間、ガンと言う音と共に聞こえてきた声は、最近聞き慣れてきた不機嫌な声。
でも、ガンって、一体何の音?
そう思って恐る恐る顔を上げたら、不機嫌な恭弥さんがトンファーで車の車体を凹ませている姿が?!
「き、恭弥さん!!」
「ねぇ、聞いてるんだけど、この子に何したの?」
無理やりドアを開いて、俺を車から引き摺り出すとその腕に抱えるようにしてから、再度同じ質問をディーノさんに投げ掛ける。
「あ、あの、俺は、送ってもらっただけです!この人は、リボーンの知り合いで!!」
不機嫌に問い掛けてる恭弥さんに、慌てて俺が状況の説明をした。
「あの沢田綱吉が、こんなヤツに君を預けるとは思えないんだけど?」
だけど、俺のその言葉に恭弥さんは納得せずに、ディーノさんを睨み付ける。
「まぁ、事情があって不本意だったみてぇだけど、間違いなくツナにこいつを送って行く様に頼まれたんだぜ」
「ふーん、どんな事情があるのかは知らないけど、こんなヤツに預けるのなら、僕が貰っても問題ないよね」
「えっ、あの、恭弥さん??」
ギュッと俺を片手で抱き締めるような状態で言われたその内容に、慌ててしまう。
なに、何で貰うとか、そんな内容になっているのかが、分からないんですけど!?
「お前の事は、リボーンから話を聞いてる。知られちまったらツナに怒られちまうだろうけど、ここは預けるのが妥当だろうな」
「ディ、ディーノさん?!」
「んじゃ、の事は頼むぜ」
俺の事を恭弥さんに託す発言をしたディーノさんに、恐る恐る名前を呼べば、『じゃっ』と手を上げてそのまま車が走り去ってしまった。
ポツリとその場に残されたのは、俺と恭弥さんで、今だに抱き締められた状態なのは、一体どうしたらいいんだろう……。
「ねぇ、君、遅刻なんだけど……」
「す、すみません!す、直ぐに教室に向かいます!!」
困惑する俺の耳に聞こえてきた不機嫌な声に対して、慌てて謝罪の言葉を口に出し教室に向かおうとしたけれど、抱き締められたままの状態では全く動く事ができなかった。
それと同時に、耳元でため息をつかれて、ピクリと体が震えてしまう。
「あ、あの、恭弥さん?」
「君、その顔で教室に行くつもり?」
何でため息をつかれたのかが分からなくて、恐る恐る振り返るように質問すれば、逆に質問で返される。
でも、質問された意味が分からなくて、俺は思わず首を傾げてしまった。
「泣いていたのが、直ぐに分かるよ」
そんな俺に、恭弥さんは、すっと手で目元を拭いながら理由を教えてくれる。
そう言えば、自分が情けなくて泣いてたんだった。
確かに、そんな顔で教室に行ける訳ない。
「遅刻した罰だ。応接室に来てもらうからね」
恭弥さんに拭われて思い出した事実に、慌てて自分の手で目元を拭った俺に、言われたその言葉は正直言って有難いものだった。
それは、恭弥さんの優しさ。
「有難う、ございます」
だから、俺が出来たのは、そんな恭弥さんの優しさに対してお礼を言う事だけ。
俺、恭弥さんには情けない姿を何度見せているんだろう……。
それから、何があったのかを恭弥さんに全部を説明することになって、綱吉の事は心配ないとここでもお墨付きを貰った。
で、泣いていた理由を話したら、やっぱり馬鹿にされてしまう。
うん、自分でも分かってる。
情けないけど、どうする事も出来ないって、ちゃんと理解しているから……
「ねぇ、そんなに情けないと思うのなら、僕が君の事を鍛えてあげようか?」
「恭弥さん?」
自分ではどうする事も出来ない事だと分かっている。
だからこそ、悔しいのだとその気持ちを口にした俺に、恭弥さんから問い掛けられた言葉の意味が分からなくて、首を傾げてしまう。
俺を鍛えるって、どう言う……
「!!!」
その真意を確かめようと恭弥さんの言葉の続きを待っている中、聞こえて来たのはもう既に何度目になるだろう扉の派手な開閉音と、ツナの俺の名前を呼ぶ声。
ああ、この扉が壊れるのも、何度目になるんだろう……。
「ツ、ツナ……」
結局昼休みである今の時間まで、俺は応接室で恭弥さんの書類整理を手伝っていた。
それを知ったツナがここに来る事は分かっていたのだろう、恭弥さんは俺と違って驚いた様子を見せていない。
「毎回毎回、よくもを掻っ攫ってくれますよね」
「遅刻したこの子が悪いんでしょ。それに、君があんな男にこの子を預けるからいけないんだよ」
ズカズカと部屋に入って来て、俺と恭弥さんの間に入ってくると、恭弥さんを睨み付ける綱吉。
そんな綱吉にも全く臆した様子など見せず、サラリと返される恭弥さんの言葉。
確かに、遅刻した俺が悪いので、何も文句は言えません。
書類整理で許してもらえるのなら、いくらで頑張ってお手伝いいたします。
例えそれで、授業についていけなくなるかもしれない不安があったとしても……
家に帰ったら、しっかり勉強していかないと期末が怖いです。
「あの人に預けたのは、オレとしても不本意です。そのお陰で、がこんな所に居るんですから!」
トゲトゲしたものをツナの言葉から感じるのは、気の所為じゃない。
多分、ここに来たのはディーノさんから俺が恭弥さんと一緒に居る事を聞いたからなのだろう。
「……罰はもういいよ。沢田」
「は、はい!」
ツナの機嫌が悪いのを、どうやって落ち着かせるかを考えていた俺は、突然名前を呼ばれて慌てて返事を返す。
「さっきの事だけど、戦うだけが力じゃないでしょ、だから、教えてあげるよ、君の戦い方を」
「俺の、戦い方……」
ニヤリと笑いながら言われたその言葉は、確かにその通りだ。
戦う事が、力じゃない。
俺には、俺の戦い方がある。
それが分かれば、こんなにも悔しい思いをしなくていいのだろうか?
「何勝手な事言ってるんです、そんなの、オレが許すとでも思っているんですか?」
「それは、君が返事をする事じゃないでしょ、沢田綱吉。すぐに返事をしろとは言わないよ、考えてみるんだね」
そう言った、恭弥さんの顔はとても楽しそうだった。
その後、俺は半ば強引にツナによって応接室を出る事になる。
頭の中で回っているのは、恭弥さんが言った言葉。
戦う方法を教えてくれると言った。
それは、俺にとってとても魅力的な誘い。
今のままでは、間違いなくただの足手まといでしかないから
「、ヒバリさんの言葉なんて聞いちゃダメだからね!」
ツナが、念を推すように言ったその言葉に、ただ曖昧な返事を返しながら考えるのは、先程の言葉。
俺は、自分が役に立つ方法が知りたい。
それが、俺の出した答え。