えっと、一体何があったんだろう。
 ウチに戻ってみたら、家の中がお通夜状態になっていたんだけど……



 今日は、月に一度の定期健診の日だった。
 病院から家に戻ったから、何でか家の中が暗かったのだ。

 その理由は珍しく、母さんが落ち込んでいる所為だというのは分かるんだけど

「ただいま、何があったの?」

 しかも、みんなが食べているのはカップ麺。
 母さんが料理を作っていないなんて、初めての事じゃないだろうか。

「ああ、お帰りなさい、ちゃん。病院に行って疲れてきているのに、料理も作ってなくてごめんなさいね」
「いや、それは全然問題ないんだけど、一体何があったの?」

 俺が質問したそれに、母さんが謝って来るけど、別に謝罪してもらいたいわけじゃないからもう一度、初めに質問した内容を口にする。

「それがね、母さんおサイフすられたみたいなのよ」

 再度俺が質問した内容に、母さんがため息をつきながら答えてくれた。

「すられたって、お財布を?!」
「ええ、だから、買い物できなくて、今日はカップ麺になっちゃったの、ごめんなさいね」

 だけど、その言葉に驚いて俺が質問すれば、母さんがもう一度謝罪してきた。
 俺的には、そんな事気にならないんだけど、落ち込んでしまっている母さんの方が心配だ。

 母さんは料理を作るのが本当に好きだから、その好きな事が出来なくて落ち込んでいるのが分かるから

「俺は、そんなの気にしないけど……明日も買い物に行くんだよね?大丈夫??」
「お財布の中にカード類は入れてなかったから、お金は下ろして来られるから大丈夫よ」
「心配いらねーぞ、オレ達がママンの護衛につくからな」

 心配して質問した内容に母さんが答えてくれて、続けて言われたその言葉で、逆に心配になってしまった。


 リボーン達が動く方が、逆に不安なんだけど……


「お目付け役に、オレも行くから大丈夫だよ」

 リボーンの言葉に不安を感じてしまった事が顔に出ていたのか、ツナが小さくため息を付きながら声を掛けてくる。

「えっ?ツナも行くの?!なら、俺も一緒に行った方がいいかな?」
「心配しなくても大丈夫だから、は家で留守番してて、病院であんまり無理しちゃダメだって言われたんだろう?」

 ツナのその言葉に質問した俺に対して、問い掛けるように質問されたその内容に言葉に詰まる。

 うっ、何でツナには言われた事が分かったんだろう。
 ちょっと最近無茶したのを指摘されて、暫くは大人しくしていなさいと言われたんだよね。

 俺には、無茶した記憶無かったんだけど……
 左足に負担がかかり過ぎているから、休ませてあげなさいと言う事らしい。

「言葉に詰まったって事は図星みたいだね。それじゃ、はお留守番決定だから」

 返答に困った俺に、ツナがしっかりと決定事項を言い渡してくれた。

 別に、一人でお留守番でもいいんだけど、みんな一緒に買い物行くのに、ちょっとだけさびしいなぁと思ったのは秘密。
 いいもん、その寂しさをケーキ作りに向けてやるんだから!

「ちなみに、ケーキ作りもダメだから!立ったままの作業が負担になるんだから、ケーキを作りはタブーだよ」

 心の中で決心した瞬間、ツナが続けて俺の心を読んだかのようにダメ出ししてくる。

 あれ?何で、俺の考えていた事が分かったんだろう??

「そうねぇ、ケーキを作るのは、立ち作業になっちゃうから、お医者様に無茶はダメって言われたのなら、やめておいた方がいいわね。ちゃん、お土産にケーキを買ってくるからお留守番よろしくね」

 ツナの言葉に続いて、母さんまでもがダメ出ししてくれる。

 う〜っ、ケーキ買って来てくれても、ちょっと気分が晴れないんだけど
 いいもん、明日は不貞寝してやるんだからな!


 その後の俺がちょっとだけ不機嫌になったのは仕方ないだろう。
 だって、何もかもダメって言われたんだもん、不機嫌になるのは仕方ないよね。

 ツナには、意地悪言ってお土産に紅茶の葉を買って貰う約束をした。
 母さんがケーキ買って来てくれるのなら、新しい紅茶の葉で紅茶飲みたかったから
 俺が良く行く店から、新しいお茶の葉が出てたって草壁さんが教えてくれたんだよね。

 だから、意地悪言ってお土産を頼んだのに、ツナは嬉しそうに了承してくれた。
 しかも、その店で売っているハーブオイルも買ってきてくれるとの事……
 マッサージ用にいいよねって嬉しそうに言ってくれたんだけど
 意地悪して言ったはずなのに、そんな返事が返ってきて、俺の不機嫌な気持ちが吹っ飛んでしまった。
 だって、俺が意地悪したのに、嬉しそうに聞き入れてくれたツナにこれ以上何も出来ないから

 ……って、俺、ツナに意地悪したんだよね?
 何で、あんなに嬉しそうだったんだろう??本気で、意味が分からないんだけど

 もしかして、俺の意地悪を意地悪として認識してなかったのかもしれない。
 ツナに限って、そんな事考えられないよね。

 もしかして、俺の好きな紅茶のお店がどんなお店なのか知らないのか……でも、何度か一緒に行ったことあるし

 ちなみにその店は、ちょっと少女趣味なお店で、俺は一人で買い物に行くのはかなり勇気が居るような店なんだけど……

 ツナは、そう言うの気にしないのかなぁ?

 買い物から戻ってきたツナは、ちゃんと俺へのお土産に紅茶の葉を買ってきてくれた。
 勿論、ハーブオイルとセットで……

 お風呂上りに、マッサージしてもらったので、気持ちよかったです。
 うん、ハーブの香りも俺好みでした。




 次の日の祝日に、俺は呼び鈴の音で目を覚ました。


 あれ?今何時だろう??


 ぼんやりした頭で時計に視線を向ければ、もうお昼過ぎ。
 今日も、ゆっくりと寝ていたみたいだ。

 そんな事を考えている中、またしても聞こえてきた音で意識を引き戻される。

 誰かお客様かな?母さんは、出掛けている??

 って、考えている場合じゃなかった。
 服を着替えている時間は、流石に無いのでそのままの格好で慌てて部屋から飛び出す。
 まぁ、長Tシャツとスウェットなので、問題ないだろう。

 昨日ツナにマッサージしてもらったお陰で、足もかなり軽く感じる。

「はい、お待たせしてすみません」

 急かす様にもう一度鳴ったその音に慌ててドアを開ければ、そこに立っていたのはスーツ姿のメガネを掛けた人の良さそうな笑みを浮かべているセールスマン?

「私、お坊ちゃんやお嬢ちゃんの成績を飛躍的に伸ばす教材を販売しているものです。お父様かお母様はいらっしゃいますでしょうか?」

 ドアを開けた瞬間、その人がぺこりと頭を下げて口を開く。


 えっと、教材の訪問販売……どう考えても、家には必要ないよね……


「いえ…母は只今外出しておりますので……」
「家に上がって待たせてもらってもいいかな?」
「家にですか?」

 母さんが居ない事を理由に断ろうと口に出せば、待たせて欲しいと言う事。
 でも、俺は今起きたばかりで、母さんが何時戻ってくるのかも分からない。
 それに、知らない人を勝手に家に上げたりしたら、綱吉とリボーンに怒られる。

「ダメかな。君のためにはるばる来たんだけど…」

 って、そんな風に言われたら、俺には断れないよ。
 しかも、爽やかな笑顔まで見せられたら、もう何も言えない。

 押し切られるような形で、教材販売のセールスの人を家の中に上げてしまった。

「あら?、起きたのね。こちらは?」
「ビアンキさん、おはようございます。えっと、教材販売みたいなんですけど……」
「勝手に上げて大丈夫なの?ボンゴレに怒られてしまうわよ」
「えっと、出来れば、綱吉には秘密でお願いします」

 セールスの人を中に入れれば、キッチンに顔を覗かせてきたビアンキさんが声を掛けてくる。
 それに返事を返せば、俺が考えた事をしっかりと言われてしまって、思わず苦笑を零して返した。

 そう言えば、綱吉も出掛けてるんだよね?だって、呼び鈴なった時に誰も反応しなかったもんなぁ……
 イーピンちゃんとランボくんは居るみたいだけど
 恐る恐るお客さんを伺っている二人の姿に気付いて、思わず苦笑を零してしまう。

 そんな事を考えていたら、コトリとビアンキさんがテーブルの上に湯飲みを置いた。

「どうぞ、お気づかいなく」

 湯飲みを置いた事に関して、セールスの人がぺこりと頭を下げる。
 そして、そのままその湯飲みへと手を伸ばした。

「あっ、待って!」

 それに気付いて慌てて止めようとしたけれど、静止の声は間に合わなかったようだ。
 その人はそれを口に含んだ瞬間、噴出してしまう。


 ああ、やっぱりポイズンクッキングだったんだ……


「ビアンキさん、ダメですよ、ポイズンクッキングなんて?!」
「あら、私はおいただけよ。飲めなんて一言も言ってないわ」

 咎めるようにビアンキさんに言えば、まったく気にした様子を見せてないビアンキさんがあっさりと返してくる。

 確かにその通りなんだけど、置いたら普通飲むと思うんだけど
 でも、なんで、初めての人にこんな事を……

「だ、大丈夫ですか?!」
「お手洗いを貸していただきたい………」

 せき込んでいる人に慌てて声を掛ければ、震える声が返ってくる。
 それに俺は、慌ててトイレの場所へと案内した。

、あの男注意しなさい。これは殺し屋の勘よ」

 キッチンを出る時に、ビアンキさんがそんな事を耳打ちしてきたのが気になる。
 人の良さそうな人なのに、何を注意するんだろう?

 トイレに案内すれば、真っ青な顔色でお礼の言葉を残してその人がトイレの中へと入って行く。
 それを見送って、小さくため息をついた。

 ビアンキさんは、この人に注意しろって言ったけど、どういう意味なんだろう。

「カリフラワーのおーばーけー!」

 ぼんやりとビアンキさんの言った言葉を考えている中、ドタバタと賑やかな声が聞こえてきたと思ったら、ランボくんがイーピンちゃんを追い駆けてトイレの中へと入って行ってしまった。


 って、お客さんが入っているのに?!


 慌てた俺の耳に、響いて来たのは悲しいかな聞き慣れててしまった爆発音が2回。

「いやだ〜また川平のおじさんに麺が伸びてるって文句言われちゃうわ〜」

 モクモクと上がる煙の中から出てきたのは

「イーピンちゃん?」

 腕時計を見ながら時間を気にしている、ラーメンの出前中の大人イーピンちゃん。

 そして

「やれやれ、ファミリーのパーティーを盛り上げてたのに」

 マラカス片手に鼻眼鏡って言うのかな、それを付けた大人ランボくんがイーピンちゃんに続いてトイレの中から出てくる。

 呆然とその後姿を見送ってしまった後、トイレの中からセールスの人が倒れてきた。

「だ…大丈夫ですか?」
「な…」

 慌てて声を掛ければ、真っ青な顔で驚愕の表情を浮かべている。
 そりゃそうだろう、行き成り子供が大人になってしまったのだから、当然の反応だ。

「あら、どちら…?お客様?」

 どうやって誤魔化そうかと焦っている中、不思議そうな声が聞こえて来た。

「母さん!」

 それにちょっとだけ安心して声を上げれば、倒れていた人が慌てて起き上がって身なりを整える。


 あれ?大丈夫なのかな??

 ちょっとその行動に驚いたんだけど、顔を見ればその顔色は悪い。

 そんなに無理しない方がいいのに……
 セールスの鏡だなぁと感心したのは、内緒。

「は、はじめまして、私はお嬢ちゃんやお坊ちゃんの学習教材を販売しているものです」

 セールスの人は、見事に身なりを整えて母さんに向かって引きつった笑みを浮かべて、販売の説明を始める。

「教材?でしたら、間にあってますのよ――ちゃんには、家庭教師も真っ青の綱吉が居りますから」
「みなさんそのようにたかが家庭教師ごときで満足してしまうものです。しかし、家庭教師の力などたかが知れております」

 セールスの人の言葉に、ニコニコと母さんが綱吉を引き合いに出す。
 それに、セールスの人は何処かバカにしたように口を開く。

 いや、綱吉は家庭教師じゃないんです、それに、その辺の家庭教師なんかと比べるのは間違っているんだけど……

「いえ、綱吉は家庭教師ではなく……」
、何知らない人を勝手に家に上げているの?勿論、オレに怒られるって分かっていたよね?」

 そんなセールスの人に母さんが否定しようと口を開きかけたその言葉を遮って、新たな声が聞こえてくる。
 その声に、俺は思わずビクリと大袈裟なほどに体を震わせてしまった。

 母さんと一緒に、綱吉も帰って来たって事は、もしかして一緒に買い物に出掛けていたのかな……

 ま、まずい。

「えっと、綱吉、これは……」
「綱吉?では、こちらのお坊ちゃんが?お嬢ちゃんの家庭教師ですかな?」

 慌てて、言い訳をしようと口を開きかけたその言葉をセールスの人が遮る。
 えっ?あれ、今ナチュラルにお嬢ちゃんって言う言葉が聞こえてきたんだけど、もしかしてこのセールスの人、俺の事を女の子だと思っていたんだろうか?

「こんなお坊ちゃんに家庭教師が務まるとは……」
「おめぇ、家庭教師を馬鹿にするような事を口にしやがったな」

 自分が女じゃないと言う事を否定するよりも前に、セールスの人が綱吉を馬鹿にしたように口を開いた瞬間、チャキリと言う音と共に、嫌な声が……
 不機嫌なその声は、勿論リボーンで、そう言えばリボーンは一応家庭教師と言う名目でここに来ていた事を思い出す。

 それに自分の職業に誇りを持っているのに、それをバカにするような事を言ったりしたら……

「ハハハハ、かわいらしい赤ちゃんですなあ!家につれて帰りたいくらいだ!!」

 その声と音にセールスの人が視線をリボーンへと向けて、から笑いのような声を上げて、リボーンを褒めるけど、何ていうか白々しい空気が……
 ここに来て、漸くビアンキさんの忠告を思い出す。


 確かに、この人は何処か怪しいかもしれない。


「さて、それでは話を戻しますが、家庭教師なんて、クズ…」

 警戒し始めた俺の耳に、聞こえてきたのは家庭教師をバカに仕掛けたセールスの人の言葉を遮った銃声の音。

「あ〜、家庭教師をバカにしない方がいいんじゃない?命が欲しかったらね」

 セールスの人の髪が、リボーンの撃った銃弾で剃られている。
 それに続いてツナが、興味なさそうに口を開いた。

「そうだぞ、気をつけて続きを言えよ。へた言うとぶっ殺すからな」

 恐る恐る自分の頭に手をやるセールスの人に、リボーンが銃を構えたまま先を促す。

 いや、銃を突きつけながら言うと、洒落にならないんだけど……

「ギャアアアア!!!」

 自分の頭を触って、リボーンが持っている銃がおもちゃじゃない事に気付いたその人が悲鳴を上げるのは当然だろう。

「殺されるうぅ!!」

 そして、物騒な言葉を叫びながら家から飛び出して行ってしまった。

 ああ、またご近所さんに家が物騒だと誤解されてしまう……いや、誤解じゃなくて、知られてしまうんだろうか、この場合……

 複雑な気持ちで飛び出して行ってしまった人を見送ってしまうのは、仕方ないだろう。

「大変!あの人カバン忘れてるわ。あの、あわてようじゃあね」

 少しだけ家に入れてしまって申し訳ない事をしてしまったと反省していた俺の耳に、母さんの慌てた声が聞こえてきて視線を向ける。
 先のセールスの人が持っていたカバンを母さんが持ち上げた瞬間、ポロリと落ちたのは見慣れた財布。

「あら、このサイフどこかで」
「それって、母さんの財布だよね?」

 母さんがその財布を持ち上げて、訝しげな表情を見せるのに、俺も思わず問い掛けてしまう。

 あれ?母さんの財布は、すられたって、そのすられた財布を持っていたって事は……

「あの人が母さんのサイフをすったって事?!」
「綱吉」
「はぁ、面倒くさい……」

 確かになんか怪しい人だと思い始めていたけど、まさか母さんの財布をすった犯人だったなんて……
 驚きの声を上げた俺に、リボーンが冷静な声で綱吉を呼ぶ、名前を呼ばれたツナは面倒くさいと言うようにため息をつきながら家から出て行ってしまった。


 その後、綱吉から犯罪3兄弟を捕まえて警察に引き渡してきたと言う事を聞かされる。

 そして、当然のようにそんな人を家に上げた事を、ツナとリボーンにたっぷりと怒られてしまたのは、言うまでも無い。