新しい子供が仲間に加わって、また一層周りが賑やかになった。

 昔はあんなに静かだったのにと、思わずツナが零してしまうくらいには

 でも、俺としては、賑やかなのは嫌いじゃない。
 だって、賑やかって事は、一人じゃないって事だから







「おはよう、母さん」

 日曜日。
 俺にしては珍しく早起きな時間に目が覚めてキッチンに顔を出せば、椅子に座っている子供の姿が目に入ってきた。

「あら、おはよう、ちゃん。今日は早いのね」

 キッチンで朝食の準備をしていた母さんが、俺の声に振り返って笑顔で挨拶の言葉をくれる。
 その直ぐ傍の椅子に座っている子供が、俺の方にペコリと頭を下げた。

「イーピンちゃんが、どうしてここに?」

 その姿に、思わず疑問が素直に口から出てしまう。

「母さんが呼んだの。今朝この子が通り雨を知らせてくれたおかげで、洗濯物ぬれずにすんだのよ」

 俺の質問に対して、母さんがニコニコと笑顔で答えてくれる。
 ああ、今朝は雨が降ってたんだ、俺はそんな事にも気付かなかったんだけど……

「それに、聞けばリボーン君のお友達みたいじゃない」

 更に続けて言われた言葉に、イーピンちゃんがコクリと頷く。
 確かに、それ等は全部嘘じゃないし、イーピンちゃんはすごくいい子だから母さんが気に入るのも分かる。

「そっか、のんびりしていってね」
「じゃないよ!また、そんな訳分からない子供を勝手に引き入れてこないでよ!」

 母さんの気持ちが分かるから、ニッコリと笑って口を開けば不機嫌な声が続けて聞えてきた。
 それに驚いて声の方へと視線を向ければ、入り口に不機嫌そのままのツナが立っている。

「あれ、おはようツナ。今日は俺より遅かったんだね」

 それに気付いて、挨拶の言葉を口に出す。
 ツナが俺よりも遅いなんて珍しいなぁと思っていて、先ほど聞えてきた言葉は完全に無視してしまったのはワザとじゃない。

「おはよう、。今日は珍しいね」

 そんな俺に対して、ちょっとだけ呆れたようにツナが挨拶を返してくれるけど、しっかりと珍しいと言われてしまった。

 自分でも否定しないけど、何かみんなに似たような事を言われると、日頃の自分を見直した方がいいんじゃないかと思ってしまうんですが……

「……た、たまには、ね……」
「まぁ、そんな事はどうでもいいんだけど、母さん見ず知らずの人間を勝手に招き入れるのはやめてって、何度も言ったと思うんだけど」

 思わず返事に困った俺が返せたのはそれぐらいで、でもそんな俺には触れなずに、ツナは再度不機嫌な声で母さんに文句を言う。
 それは、一番初めに言った言葉と同じような内容。

 なんでツナは、そんなに不機嫌なんだろうか、俺には全然理由が分からないんだけど
 イーピンちゃんの事は、知らない子じゃないはずなのに

「おはよう、ツっくん。でもね、母さん本当に助かったから……」

 ツナに叱られて、母さんがしっかりと挨拶を返してから、言い訳をする。
 確かに、母さんは洗濯物が濡れずにすんだのは本当の事だし、俺もイーピンちゃんには助けてもらった事があるから、無碍に出来ない。

「俺も、イーピンちゃんには助けてもらったから、仲良くしたいんだけど……」

 助けてもらった事をなしにしても、こんないい子なんだから、仲良くしたいと思うのはイケナイの事?

 じーっとツナを見詰めていれば、諦めたのかツナが盛大にため息をつく。

「分かったから、そんな目で見るのはやめてくれる。でも、問題を起こしたら直ぐに追い出すからね」
「うん」

 譲歩してくれたツナに笑顔で返事を返せば、またしてもため息をつかれてしまう。

「それじゃ話しも終ったみたいだから、ツっくんとちゃん、ご飯食べるわよね?」
「うん、折角早く起きたし、今日は学校も休みだから、のんびり食べられる」

 何とかその場の話が付いてから、母さんが質問して来た内容に笑顔で頷く。

 久し振りに、ツナと一緒に朝ご飯が食べれれる。
 まぁ、休みの日は何時もはお昼ご飯からしか食べてないんだけど

「はい、ちゃんのごはん、こっちはツっくんのごはんね」
「有難う」

 もうすでに準備してあったのか、母さんが俺とツナの前にそれぞれのご飯を置いてくれる。
 それにお礼を言って、『頂きます』と挨拶してからご飯を食べ始めたれば、賑やかな笑い声が聞えてきた。

「……朝っぱらから、賑やかな奴が……」

 その声を聞いて、ツナがうんざりした様に呟いた声に、思わず苦笑をこぼしてしまうのは止めらない。
 ランボくんが悪い子だと思わないけど、何て言うか問題児って言う言葉はしっくり来るかもしれないよね。

 本人には悪気が全くないから、余計性質が悪いというか……

「ランボさん登場!!!」
『化け物!!!』

 そんな事を考えていたら、ランボくんがキッチンに元気良く入って来た。
 それに対して、イーピンちゃんが何かを言ったんだけど、生憎と俺にはその言葉が理解できない。
 なのでイーピンちゃんに視線を向けて様子を伺えば、何故か飛び上がってテーブルの上に……って、ちょっと待って!

!!」

 視線を向けた先には俺の方へと飛んでくるイーピンちゃんの姿があって、呆然としている間にグイッとツナに引き寄せられて庇われるように抱え込まれる。
 その瞬間、ガシャンと言う音と共に、お椀がひっくり返った。

 ツナに庇ってもらったお陰で直撃は免れたけど、ひっくり返ったお椀から注がれていたお味噌汁が飛び散って、少しだけ濡れてしまう。

『ブロッコリーの化け物だ!!』

、大丈夫だった?」
「うん、俺はツナが庇ってくれたから大丈夫だけど……ツナは大丈夫?」

 イーピンちゃんの声が聞こえてくるけど、やっぱり何を言っているのか分からない。
 一体何が起こったのか分からない俺に、ツナが心配して声を掛けてきたから素直に返事を返してから、逆に俺の事を庇ってくれたツナを心配して聞き返す。

「オレも大丈夫だよ。ちょっと手にかかっただけだから」

 俺の質問に、ツナが腕を見せてくれる。
 確かに服が少し濡れていて、かかった所がちょっと赤くなっているけど、火傷をしているようには見えなくて、ホッと息を吐いた。

「良かった。でも、イーピンちゃんは、なんであんなに警戒してるの?俺には、何を言ってるのか分からないんだけど」
「ブロッコリーの化け物だ」

 テーブルの上に立って、明らかにランボくんに対して警戒していると分かるイーピンちゃんを不思議に思っていると、何時の間に居たのかリボーンが通訳してくれる。

 でも、えっと、ブロッコリーの化け物って、それは、ランボくんの事?

「ああ、そう言えば、この子すごいド近眼だったっけ」

 リボーンが訳してくれたそれに、何て返していいのか反応に困った俺と違い、ツナが思い出したというようにポツリと呟く。

 確かに、それは否定しない。
 全然違う人の写真を見てツナを暗殺しに来たぐらいだし……だ、だからって、なんでブロッコリーの化け物なんて……

 チラリと、ランボくんを見れば、言われた言葉にショックを受けたのか下を向いて何時もの言葉を呟いている。

 モジャモジャの頭は、言われてみればブロッコリーに見えなくもないかもしれない。
 でも、ここでブロッコリーが出てくるって事は、もしかしてイーピンちゃんはブロッコリーが嫌いなのかもしれないよね。

「えっと、ランボくん、気にする事は……」
「お〜ば〜け〜だ〜ぞ〜っ」

 落ち込んでいるランボくんを慰めようと声を掛けた瞬間、その顔を上げて寧ろ嬉しそうに便乗しちゃってるんだけど
 顔を上げてお化けのフリをしたランボくんに、イーピンちゃんがビクッと体を震わせた。

「まて〜い」

 そして、ランボくんがイーピンちゃんに向かって、襲い掛かるように走り出せばイーピンちゃんが慌てて逃げ出す。
 そのお陰でテーブルの上に置いてあった俺とツナの朝ご飯はひっくり返されて大変な事になってしまった。

「ちょ!まって!!」

 そんな状況に驚いて、声を掛けたんだけど、聞いてくれるはずもなくドタドタと走り回る音が回りに響き渡る。

「…………本気で、追い出しても文句言われないよね?」
「えっ、いや、あの……」
「それじゃあ、ツっくんにちゃん、この子達の面倒ヨロシクね!」

 そんな子供達に、ツナがかなりの殺気を放ってボソリと呟いたそれに、何て返したらいいのか分からず必死に言葉を探していた俺の耳に信じられない言葉が聞えてきた。

「えっ!ちょっと待って、母さん今日出掛けるの?」
「ええ、母さん、今日は、お友達とピアノの発表会見に行くのよ」

 この状況で行き成り出て行かれると、本気で困るって言うかせめて、この惨状を片付けるのは手伝ってもらいたかったから質問した俺の言葉に、母さんが困ったような笑みを浮かべながら答えてくれる。

 で、出来れば、もっと早くに言っといて欲しかったんだけど……

「ちょ、ちょっと待って!オレも今日は山本と一緒に宿題する事になってるんだけど」
「えっ?そうなの??それじゃ、俺一人で頑張って二人の面倒見るけど……」

 元気な二人の面倒を見るのは、俺一人だとかなり大変かもしれないけど、出来ない事はないと思うし……

「有難うちゃん!本当に、助かるわ!おいしいケーキ買ってくるからね!」

 俺の返事に、母さんがパッと嬉しそうな表情を見せて喜んでくれる。
 それから言われたその言葉に、今度は俺が喜んだ。

「分かった。楽しみにしてるね。気を付けて行ってらっしゃい!」
「いってきます」

 何時もは母さんから聞いている言葉を言って送り出せば、母さんから笑顔で返事が帰ってきた。
 その姿を見送って、ため息をつく。

 えっと、まずはこのテーブルの上を片付けなきゃだよね……
 俺もツナも、結局朝ご飯食べられなかったや。

「ツナは、山本の所に何時に行くの?」

 ランボくんとイーピンちゃんはまだ鬼ごっこしてるようだから大丈夫だと思うので、その間にテーブルの上を片付けてしまおうと食器や散らばってしまった食べ物を片付けながら不機嫌な表情で座っているツナに質問。

「……一人には任せられないから、オレも一緒に面倒見るよ」
「でも、山本と約束してたんじゃ」

 だけど返ってきたのは、盛大なため息と共に言われたツナの言葉。
 それに驚いて口を開けば、ツナはポケットから携帯を取り出してさっさと山本に連絡をしてしまった。

「これで、問題ないよね?」

 それから山本と話をして、あっさりと家で宿題をする事が決定したのだろうツナが質問してくるそれに、頷く事しか出来ない。

「いや、うん、確かに問題ないけど、こんな賑やかな場所で勉強出来ないんじゃ……」
「心配ないよ。宿題が出されてるのは美術だから」

 それでも、心配した俺のそれにツナがあっさりと宿題の内容を説明してくれた。

 えっと、美術の宿題って普通は聞いた事ないんだけど……
 って言うか、あんまり宿題とか出ないよね、普通は

 ちょっとだけ不思議に思いながらも、何とかテーブルを片付けて、ツナに簡単に食べられるおにぎりと玉子焼きを作って二人で食べた。
 簡単な朝食を食べて人心地ついてる俺達の周りでは、今だにランボとイーピンちゃんが鬼ごっこをしている状態だ。

「よく、疲れないね……元気と言うか、ちょっと羨ましいと言うか」

 そんな二人を見て、ボソリと呟いたそれは多分俺の本心。

 俺にはそんなに走り回る事は絶対に出来ないし、体力にいたっては皆無だ。
 走り回る事に関しては、完全に諦めているから気にしないんだけど、体力の面だけでも俺に分けて欲しいと思うのはいけないことだろうか。

「……

 だけど、俺の呟きに複雑な表情を見せたツナに気付いて、失敗した事を知る。

「いや、あの、深い意味はなくて、そのこんなに長く走り回れる体力が俺も欲しいなぁと……あっ!山本が来たみたいだ!!」

 それに気付いて慌てて言い訳をした瞬間、呼び出し鈴が鳴って、それに便乗して話を誤魔化す。

 付け足すように言った俺のそれに、ツナが何か言いたそう表情を見せていたけど、ため息を一つ零してから玄関へと向かう。
 そんなツナを見送ってホッとして、俺は自分の愚かさに盛大のため息をついた。

 本当、ツナに余計な心配させるなんて、ダメダメ過ぎる。

、山本と一緒に獄寺も来たから、オレの部屋に行くけど、はどうする?」

 反省していた俺は、ツナに声を掛けられて慌てて顔を上げた。

「俺は邪魔になるだろうから、何か飲み物でも準備してようか?」
「その心配はないよ、二人が差し入れにってコンビニで飲み物とお菓子買ってきてくれてるから」

 キッチンに顔を覗かせるようにしているツナに、質問すればあっさりと必要ないと言われてしまう。
 そう言えば、宿題は美術とか言ってたよね?

「それじゃ、邪魔にならないなら、見ててもいいかな?」

 美術の宿題の内容が気になるから、思わず質問するように聞けばツナが頷いてくれる。
 それに、ちょっとだけホッとして、今だにその場所で鬼ごっこをしている二人を気にしながらもツナに連れられて2階へと上がった。

「よっ!、邪魔してるぜ」
「いらっしゃい、二人とも。今日は、前から約束してたみたいなのに、ごめんね」
「オレは全然気にしてないぜ、何処でやっても同じだかんな」

 ツナの部屋に入った瞬間、山本が爽やかに挨拶してくる。
 それに返事を返して、それからツナを引き止めた事を謝罪すれば、ニッカリとやっぱり爽やかな笑顔で返された。

 本当に、山本ってイイ人だよなぁ

「おい!10代目のお手を煩わせるんじゃねぇぞ!」

 感動している俺に、獄寺くんの声が聞こえてきて今度は苦笑を零す。

 確かに、俺がツナの手を煩わせている事は否定しないけど、何もそこで突っ込んでこなくてもいいと思うんだけど

「獄寺、に余計な事言うなら、追い出すよ」

 ちょっとだけ獄寺くんの言葉に落ち込んでしまった俺に、ツナが低い声でボソリと言った言葉なんだけど、流石に何を言ったのか聞えなくて首を傾げた。
 獄寺くんは、そんなツナに『すみません』と何度も頭を下げている姿が……
 土下座状態だから、何て言うか哀れになってくるんだけど

 一体、ツナは何を言ったんだろう?

「それで、美術の宿題って、一体何をするの?」
「ああ、オレ達のクラス全員が、美術の時間内に作品が出来上がんなかったから、宿題にされたんだよな」
「まぁ、何時もの乱闘の所為なんだけど……本当に、迷惑なんだけど、あの人」

 獄寺くんが気にはなったんだけど、聞いても教えてくれない事が分かっているので、どんな宿題なのか質問したら、どうして宿題になったのかを教えてくれた。

 ツナが不機嫌そうな声で言っている内容から考えると、理由が簡単に想像できて苦笑を零す事しか出来ない。


 恭弥さん、一体なにやってるんですか?!


「そんで、次の授業までに、何でも好きなモノを粘土で作るって言うのが宿題なのな」

 へぇ、ちょっと楽しそうかも。
 工作は好きだから、俺もちょっと加わりたいかも……

も一緒に作る?」

 ちょっとだけそんな事を考えた瞬間、ツナがまるで俺の考えを読んだように質問してくる。

「えっ、でも……」
「粘土は一杯あるんだから、大丈夫だよ」

 誘いは嬉しかったけど、関係ない俺が加わるのはどうかと思って戸惑っていると、ツナがニッコリと笑顔で心配ないと言うように返してくれた。
 その言葉を聞いて、喜んで作業に加わる。

 山本は、野球に関係したバットを作っているみたいだけどかなり歪な形になっている。
 多分、あんまり美術は得意じゃないみたいだ。

 獄寺くんは、えっと……

「ハハハ、獄寺、なんだそりゃ」

 獄寺くんが何を作ってるのか分からなくて、首を傾げた瞬間山本が笑いながら口を開く。

「う、うるせー!どー見ても富士山だろうが!!」

 ご、ごめん。
 俺にも何を作ってるのか、さっぱり分からなかったんだけど……

 霊魂って言うか、人魂みたいに見えるって言ったら、怒られるかなぁ?
 確かに、富士山なら簡単に作れそうだから、題材に選ぶ気持ちは分かるんだけど

 でもね、どう見ても富士山に見えませんから!!

「ツナは、何作って……骸骨?」
「ああ、うん。折角だから、小さな人体模型でも作ろうかと」

 って、なんでそんな難しいのを作ってらっしゃるんですか?!
 しかも、その頭蓋骨、小さいのにリアルすぎます、お兄様!!

 何か、この中で山本が一番子供らしく見えるのは、きっと気の所為じゃないよね。

 んで、俺の作っているのは……

「ガハハハ」

 バンっと扉が開いて、イーピンちゃんとランボくんがツナの部屋に飛び込んでくる。
 どうやら、まだ鬼ごっこは続行中みたいだ。

 でも、二人が入ってきたのに、3人とも全く興味がないというように作業を続けている。
 その周りを二人がドタドタと走り回っているんだけど
 時々、テーブルの上にも乗っかってくるから、作っている作品が壊されるんじゃないかとハラハラしているのは、俺だけ。


 なんでみんなそんなに平気な顔して、作業を続けられるんですか?!


「またんかー!!」

 そして、とうとう心配していた事が起こってしまった。
 見事に、ランボくんが獄寺くんの作品の上に飛び込んでしまったのだ。

 飛び散る粘土に、流石にみんなの動きが止まる。
 そして、被害を受けた獄寺くんがランボくんの髪の毛を掴んで捕まえるとその首を絞めた。

「おまえ、わざとオレの狙ったよなぁ!」

 って、本気でランボくんの首を絞めてるんだけど!

「ちょ!獄寺くん!おちついて、気持ちは分かるけど!!」

 ギュギュウとランボくんの首を絞める獄寺くんに慌ててそれを止めようとするけど、俺の言葉なんて聞いてくれるはずもない。

「こいつら実は、仲良いよな」

 って、山本は暢気な事を言ってるし!
 何処をどう見たら、この二人が仲良く見えるのか教えてもらいたいんだけど?!

「何してるんですか、獄寺さん!!」

 本気でこの状況をどうしようかと慌てている俺の耳に、突然女の子の声が聞こえてきた。

 あれ?どうして、女の子の声なんかが聞こえてくるんだろう?

「子供をいじめちゃだめだって、なんでわからないんですか!!」

 驚いて声の方へと視線を向けると、ハルちゃんが立っている。

 あれ?なんで、ハルちゃんがここに居るんだろう?

「うるせーのがきた…」
「助かったのな〜」

 俺が疑問に思っている中、ハルちゃんの登場で、獄寺くんがランボくんを離したようで、ランボくんが泣きながら山本に抱き付いている。

「また勝手に入って来たのか?」
「違います!ツナさんのお母さんに心配だから、時々みてやってって頼まれたんです」

 何とかその場が落ち着いた事にホッとした瞬間、ツナが不機嫌な声でハルちゃんに質問すれば、どうしてここに居るのか理由を教えてくれた。
 俺が一人で面倒見るって言ってたから、母さんが心配してハルちゃんに頼んでくれたのだろう。

「また、余計な事を……」

 それに対して、ツナがボソリと文句を言うのが聞えてくる。
 まぁ、確かに俺一人だったら大変だったと思う。
 でも。ツナも一緒に居てくれているから大丈夫だっただろうけど、正直今はハルちゃんが来てくれて俺としてはとっても助かりました。

「あっ、あなたがイーピンちゃんですね!」
『シューマイの化け物だ!!』
「はひ?」

 そんなハルちゃんが、イーピンちゃんを見て嬉しそうに声を掛けたら、また驚いたようにイーピンちゃんが声を上げる。

 気の所為かなぁ、何か先と同じ単語が聞えてきたんだけど……

「ハルの事、シューマイの化け物だって」

 何か嫌な予感がすると思った瞬間、ツナが可笑しいと言うように笑って、イーピンちゃんが何を言ったのか通訳してくれた。
 ツナって、イーピンちゃんの言葉分かるの?

「私、シューマイじゃありませぇーん…」

 ツナが訳したその言葉に、ハルちゃんがショックを受けて泣きながら訴えている。

 その間に、獄寺くんは壊された宿題を必死で直しているんだけど……ハルちゃん無視で
 山本とツナもハルちゃんには全く興味ないのか、既に作業を再開している。

「そ、その、イーピンちゃんは、すっごいド近眼らしくて、悪気がある訳じゃないから許してあげて」

 だから、俺が何とか慰めるようにハルちゃんに声を掛けた。

「え?ド近眼?じゃあ、これド近眼用です」

 俺が声を掛けた事で、何とか泣き止んでくれたハルちゃんが、鞄の中から一つのメガネを取り出す。
 そして言われたその言葉に、思わず首を傾げてしまった。

「ハルちゃん、メガネかけてたっけ?」
「父のです。さっきたのまれて、メガネ屋さんからとってきたんです」

 疑問に思った事を質問すれば、ハルちゃんが説明してくれる。

 ああ、お父さんのだったんだ、それなら納得。

 ハルちゃんからメガネを受け取ったイーピンちゃんが手にメガネを持つ。

『…………女の子が見える』

 それから、ハルちゃんを見てボソリ。

「女の子が見えるって」
「よ、よかったです…!!!」

 それをすかさずツナが通訳すれば、ハルちゃんが安心したように胸を撫で下ろした。

「つかまえるぞ〜!!!」
『!バカが見える』

 続いて、まだイーピンちゃんをからかいたいのか、ランボくんがお化けのフリをして驚かそうとした瞬間、ボソリとまたイーピンちゃんが呟く。

「バカが見える。まぁ、正解だね」

 それが気になってツナを見れば、あっさりと通訳して同意の言葉を呟いた。
 バカって言われた事で、ランボくんは落ち込んでるけど、何ていうかフォローし難い。

「何で今までメガネかけなかったんだ?」
「そうだね、かけてくれれば、迷惑しなくてすんだのに」

 山本が、至極もっともな質問をする。
 それに続いて、ツナが何気に酷い言葉を言ってる声が聞えてきたけど気の所為だよね。

『耳がないからね』
「ああ、確かにね……」
「えっ?何??」

 それに対してイーピンちゃんが何かを言ったんだけど、分からない。
 ツナが一人で納得してるんだけど

「耳がないからだって」
「あーっ、何ていうか、確かに無理だね」

「コラ新入り!!ランボさんを無視するな!!」

 ツナが通訳してくれた内容に、イーピンちゃんが頷く。
 それに、俺達も納得するしか出来なかった。

 だけど、一人無視されたランボくんはそれどころじゃなかったようで、イーピンちゃんに文句を言う。
 そんなランボくんに、イーピンちゃんが何処から出したのか肉まんを片手に構えて、次の瞬間にはランボくんが吹っ飛ばされた。

「いま…触れなかったぞ」
「あれが、餃子拳」

 な、何が起こったのか分からないけど、確かにイーピンちゃんはランボくんに触れずに吹っ飛ばしちゃったんだけど

 一体、何が起こったんだろう。

 山本が感心したように呟いて、獄寺くんは知っていたのか、感心したようにその技の名前を口にする。

「が・ま・ん。ランボさんは、モジャモジャ頭のランボさんは、お前みたいなヘンテコ頭に負けないもんね!!」

 何か知っている獄寺くんを振り返ろうとした瞬間、ムクリと起き上がったランボくんが何時もの言葉とイーピンちゃんをバカにしたような言葉を怒鳴り散らす。
 子供なんだから、負けたくない気持ちは分かるけど、その言葉を聞いて、イーピンちゃんがキッとランボくんを睨み付けた。

「このバカ牛!何言ってやがる!このガキが恥かしがるような事を言うんじゃねぇ!!」

 でも、それに対して一番に反応したのは獄寺くんで、慌てたようにランボくんを咎める。
 だけど、ランボくんは獄寺くんに怒られた事で、ますますヒートアップしてしまった。

「おまえなんかしっぽ頭――!!しっぽあたまああぁ!!」

 泣きながら、イーピンちゃんの事を尻尾頭呼び。
 それにイーピンちゃんが、ドバーッと汗をかいて、額に浮かび上がったのは

「げっ!人間爆弾のカウントダウンが始まっちまった」
「なんだ、またあのアブネー遊びか?」
「はひ?」

 イーピンちゃんが人間爆弾と呼ばれる由縁のカウントダウンが始まってしまった事に、獄寺くんが慌てた声を上げる。
 山本はのんきに、笑ってるし、ハルちゃんは状況が分かっていない。

「本当に、面倒……って、にくっつくないでくれる?!」

 ツナが盛大なため息をついた瞬間、イーピンちゃんが俺の足に抱き付いて来た。
 それにツナが反応して、俺の足から引き離す。

「10代目、窓から外に!!」
「分かってる!って、何でオレの方に10年バズーカー向けてるんだよ、ランボ!!!」

 俺の足に引っ付いていたイーピンちゃんをツナが窓から投げようとした瞬間、泣き喚いていたランボくんが10年バズーカーを取り出してツナに向けて撃った。
 当然それはツナに向けていたので、弾はツナに向かっていく訳で……

「ツナ!」

 驚いてその名前を呼んだ俺の目の前で、聞き慣れてしまった爆発音が聞える。

「ツナ!!」
「オレは大丈夫」

 それに再度名前を呼べば、何時ものツナの声が返された。
 どうやら、バズーカーに撃たれる事はなかったのだと分かってホッとした瞬間、知らない声が聞こえて来る。

「なんで?なんで出前の途中なのに、家の中にいるのかな?」

 それは、可愛い女の子の声で聞いた事のない声。
 煙が晴れた先に居たのは、お下げ姿の可愛い女の子が立っていた。
 出前の途中と言うだけあって、その姿はラーメン屋さんの制服を着て手には出前の品を持っている。

「オレが咄嗟に盾にしたから、イーピンに当たたんだな……」
「って、事は、この子って10年後のイーピンちゃん?」
「あいつ、女だったんですか?!」

 女の子が現れた瞬間、ツナが納得したように頷く。
 その言われた内容に俺が驚いて声を上げたれば、続いて獄寺くんも同じだったように驚きの声を上げた。

「いけない、ラーメンのびちゃうわ、川平のおじさんうるさいのよね――」
「この10年で、しっかり日本語はマスターしたみたいだね」

 そんな俺達の驚きは完全に無視した状態で、10年後のイーピンちゃんは腕時計を見て慌てている。
 言われた言葉に、綱吉が感心したように呟いたけど、そう言う問題じゃないように思うんだけど

「あ…沢田さんだ!こんにちは!」

 だけど、ツナのその言葉に反応したのか、その顔を見てにこやかに挨拶して来た。
 って、迷いもなく沢田呼びしてるんだけど……10年前の姿なのに、可笑しいとは思わないのかな?

「こんにちは、随分女の子らしくなったみたいだね」
「へ?何言ってるんですかやぶからぼうに!何も出ませんよ!」

 挨拶されたツナが、挨拶を返してなんだから近所のおじさんが久し振りに会った女の子に向けるような事を口にする。
 それに対して、10年後イーピンちゃんが顔をちょっと赤くして、普通の反応を返してきた。

「どうやら、爆発はしないみたいだね」
「爆発?何言ってるんです、沢田さん。もうやめたじゃないですか。今は大学に行く学費をためなくっちゃいけない時だからって、箇子時限超爆はやめる時に中国の師匠に封印してもらいました。キーワードとともに」

 普通の反応を返したイーピンちゃんに、ツナが安心したように呟けば、それを聞いてイーピンちゃんが箇子時限超爆を封印した事を教えてくれる。
 確かに、普通の子にはそんな能力必要ないから、封印してもらったのなら安心だ。

「ってことは、今はカタギなのか」
「はい、それじゃわたし出前行かなきゃいけないんで」

 獄寺くんが感心したように呟いたそれに、ニッコリと頷いてイーピンちゃんが窓から外へと飛び出していく。

 でもね、この時代に出前先があるかどうか不明なんだけど、大丈夫かな。

「な、何とか爆発は免れて良かったんだけど、10年後の何処で爆発したんだろう、イーピンちゃん」

 そして、一つ気になる事は、この世界のイーピンちゃんが10年後に言った先で爆発してしまっただろう事を考えると、かなり不安なんだけど

 ポツリと呟いた俺のその言葉に、誰も返事を返してくれる人は居なかった。


 そして、また居候が増えた事は言わなくても分かって貰えるだろうか。
 ますます、家の中が賑やかになった。


 その内、ツナが本気でキレそうで怖いんだけど