何時ものようにツナは用事があるからって、先に帰ったんだけど

 あれ?なんで、こんな危険な状態になってるんだろう??





 良く吠える犬が居る家の前を通ったら、門が開いていて中からその犬が飛び出してきた。
 勿論俺には逃げ出す事なんて出来なくて、突然の事に尻餅をついてしまう。

 近所では凶暴で有名なその犬は、倒れてしまった俺に一歩づつ近付いて来る訳で、絶体絶命状態。

 いや、犬は嫌いじゃないけど、ここの犬は別。
 ここの犬は何て言うか本当に凶暴で、飼い主以外の言葉は聞かない犬だから、通りすがりの俺の言葉なんて聞いてくれるはずも無い。


 あ〜っ、これで怪我なんてした日には、綱吉は犬を殺しかねないかも……


 何て暢気に思っているんだけど、かなり動揺してるんだよね、これでも

 低い声で唸り声を上げている目の前の犬を前に、ギュッと目を瞑ってこれから来るであろう痛みに備える。
 何処を噛まれるんだろう、喉に噛み付かれると流石に命の危険を感じるかもしれないので、ギュッと力を込めて首を隠す。
 精一杯の防御に備えた瞬間、突然犬の鳴き声が聞こえて来た。

 ギャンと言う悲鳴。

 あれ?俺が悲鳴を上げるのなら分かるんだけど、なんで犬の方が悲鳴上げてるんだろう?

 意味が分からなくってそっと目を開いてみると、俺の目の前に小さな子供の姿。

「あれ?」

 状況が理解出来ずに、首を傾げてしまう。
 もしかして、この子が俺を助けてくれたんだろうか?

「あ、あの……」

 恐る恐る俺がその子に声を掛けたら、すごい勢いで振り返りキッとした表情になったんだけど、もしかして睨まれたんだろうか?

「助けてくれて、有難う」

 意味が分からなかったんだけど、取り合えず状況から考えれば助けてもらった事に違いは無いから素直にお礼を言えば、またしても不機嫌な顔で睨まれた。

「あ、あの……」

 もしかして怒ってるのかも知れないと思って、もう一度声を掛けようとしたらぺこっと頭を下げて近くに置いてあった荷物を持って、そのまま走り去って行く。

「ちょ、ちょっと待って……」

 って、声を掛けたんだけど、相手には聞こえてなかったようで、そのままその姿は見えなくなってしまった。
 そんな状態に、思わず呆然としてしまうのは仕方ないだろう。

、そんなところで何して……まさか、そのバカ犬に?」

 暫く動けなかった俺の耳に、よく知った声が聞こえて来て我に返る。

 そ、そう言えば、俺まだ道路に座り込んだままだった。
 そして近くには、まだ気を失ったままのあの犬。

 あの子、こんな大きな犬を相手にどうやって気絶させたんだろう?

「いや、うん、俺は大丈夫だから!危なかったけど、助けてもらったからね」

 今のこの状況を見て、ツナの声が一気に低くなった事に気付いて慌てて弁解する。
 だって、何も言わないと、ツナは本気でこの犬に止めを刺しそうな勢いなんだよね。

「助けてもらった?誰に?」
「いや、お礼言ったら慌てて走り去って行っちゃったんだけど……」

 慌てて説明した俺に、ツナが不思議そうに質問してくる。
 その手はしっかりと、座り込んでいる俺を立たせてくれた。

「ふーん、変わったヤツも居るんだね」

 俺の説明にはあまり興味なさそうだけど返事をくれたツナは、座り込んだ時に付いた土まで払い落としてくれる。
 いや、何ていうか、俺は小さな子供じゃないんだけど……

 それから、気絶してしまっている犬をその家の庭に放り込んで、家へと帰る道を今度は綱吉と一緒に歩き出す。

 ちなみに、本気で犬を放り投げたんだけど、綱吉。


「ただいま」
「ん?」

 玄関の扉を開いて中に入った瞬間、黒い物体が見えた。
 その黒いのがリボーンだと分かったのは直ぐだったんだけど、俺の声に振り返ったその顔を見た瞬間、驚いて息を呑んでしまう。

 だって、リボーンの顔や体にトンボが大量に……

「な、なんか前にも同じような光景が……」
「あったね。大丈夫、?」

 思わず後ずさてしまった俺をツナが支えてくれたので、倒れずにすんだけど多分ツナが支えてくれなかったらまた尻餅ついてたかもしれない、俺……

「だ、大丈夫……で、リボーン、一体……」
「こいつらは情報収集してくれる秋の子分達だぞ」

 心配して質問してきたツナに返事を返して、俺は恐る恐るリボーンへと問い掛ける。
 それにあっさりと返事が返ってきたけど、あれ?やっぱり前にも同じような事があったような気が……

「やっぱり、リボーンって虫語話せるってことなの?」
「情報によると、この町にイーピンがきてるらしいな」
「……イーピン?またビアンキの時みたいに厄介な相手じゃないだろうね」

 俺の質問は完全無視で、リボーンが情報を口にする。

 うん、やっぱりリボーンは虫語が話せるって事で納得しとこう。
 俺が一人で納得してたら、リボーンの言葉に綱吉が不機嫌そうに反応を返す。

「人間爆弾と言われる香港の殺し屋だぞ」
「……やっぱり、厄介な……迷惑だよね、一体何しに来るんだか」

 淡々と説明するリボーンに、綱吉が盛大なため息をつく。
 確かに、殺し屋なんて厄介な相手なのは確かだけど、なんでこの町にばっかり……

「殺し屋だぞ。殺しに決まってんだろ」

 綱吉同様に考えていたら、呆れたようにリボーンがあっさりと口を開いてくれた。
 た、確かに殺し屋なんだからそうかもしれないんだけど、そんなにあっさりと言って欲しくなかったんだけど

「それが厄介だって言ってるんだけど」

 そんなリボーンに、再度ツナがため息をつきながら返した言葉に、苦笑を零す事しか出来ない。

 本当、物騒な毎日になったと思わずには居られなかった。








 放課後、掃除当番だったので裏庭の掃除をしていれば、突然空に花火……いや、明らかに爆弾の破裂音が響き渡った。

 誰もが突然のその音に視線を向けるが、何だろう、なんだかあんまりいい予感がしない。
 今すぐ屋上に走りたい衝動になったけど、俺が走るなんて出来るはずもないので、きっと俺が今から屋上に上がっても何もないだろう。

 でも、気になるものは気になる。

 だって、爆発音の正体って言ったら、どう考えてもそっちしか考えられないから

 そ、それに掃除もまだ終ってないのに抜け出すなんて出来ない。

「沢田くん、もう掃除も殆ど終ってるから、行っても大丈夫だよ」

 どうしようか考えている中、同じ掃除当番になっているクラスメートの女の子の一人が声を掛けてきた。

「そうだね、沢田くんには色々と助けてもらっているから、これぐらいでお返しになるとは思わないけど、後は残ったメンバーで終らせておくわ」

 続いて、もう一人の女の子も声を掛けてくれる。

 二人とも、俺に行ってもいいって言ってくれてるんだけど……
 し、しかも、俺は助けた事なんて全然ないんですが、いや、助けるどころかクラスのお荷物と言っても間違いないような……

「えっと、でも……」
「沢田、行っていいぞ。どうせまたお前の兄貴関係なんだろう」

 困って口を開こうとした瞬間、今度は男子の方まで声を掛けてきた。
 俺のクラスと言うか、この学校で掃除をサボるという人は居ないので、確かに俺が抜けても問題ないとは思うんだけど

 しかも、やっぱりあの爆発音はツナが関係してるとそう思われてるみたいなんですが
 いや、別段ツナが騒動を起こしている訳じゃないんだけど、すっかり俺達有名人なんですけど

「えっと、そ、それじゃ、お言葉に甘えて……本当に、有難う」

 皆が皆、俺に行けって言ってくれるから、流石に断る訳にいかなくなって、お言葉に甘えて確認しに行く事にする。
 でも、みんなの気持ちが嬉しかったので、ニッコリと笑顔でお礼を伝えた。

 俺には、それぐらいしか出来ないから

 その後みんなの顔が赤かったのは、風邪でも引いてたのかな?
 最近寒くなってきたから、皆気をつけないとダメだよね。

 そんな事を考えながら、自分の中では精一杯のスピードで校舎の中へと入る。

 だから、俺は知らなかった、残った皆がこんな会話をしていた事に

「きゃーっ!!あの笑顔が目の前で見れるなんて!!」
「やっぱり可愛い!!」
「写真に残せなかったのが、心残りだ」


 って、どういう意味だろう??


 それから、校舎に入ろうとした俺とは反対に、綱吉が獄寺くんと一緒に出てくる所だった。

「綱吉!」

 出てくる二人に気付いて、慌てて声を掛ける。

「あれ、も掃除当番じゃなかったっけ?」
「うん、中庭の掃除当番……ツナも廊下の掃除当番だって言ってなかったっけ?」
「そうなんだけどね、ちょっと問題が……」

 声を掛けた俺に、ツナが質問してくるそれに質問で返せば、チラリと獄寺くんの方へと視線を向けた。
 それに不思議に思って、俺も獄寺くんに視線を向ける。

 獄寺くんの手には、見たことのある何かが……

「あっ!昨日俺を助けてくれた子だ」
「えっ?そうなの?京子ちゃんも、この子に財布を拾ってもらったって言ってたけど……」

 うわ〜っ、そんなに人助けしてるなんて、すっごくいい子なんだなぁ。

「でも、なんでその子がロープでぐるぐる巻きに?」

 すっごくいい子だと感心したんだけど、今の状況が分からなくって、思わず質問。
 そんないい子をなんでロープでぐるぐる巻きに?

「あ〜っ、取り合えず、ここじゃ不味いから、はもう帰れるの?」
「うん、皆が掃除はいいから爆発音の確認に……そうだ、思い出した!俺、爆発音がなんだったのかを確認しに行かなくっちゃ!!」
「ああ、それも後で話すよ。取り合えず、の荷物を取りに行ってくるから、はここで待ってて」
「えっ、でも……」

 って返事を返す前に、ツナはさっさと校舎の中へと入って行く。
 多分、俺の荷物を取りに行ったんだろう。

 で、出来れば、獄寺くんと二人になるのは避けたかったんだけど……ツナを行かせた事で、不機嫌そうに俺に事睨んで来るし……
 きっと心の中で、『10代目に荷物を取りに行かすなんて』とか思ってるんだろうなぁ…でも、俺は止めようとしましたので、本当に不本意なんです。

「お待たせ」

 どうしたものかと考えていたら、早くもツナが戻って来た。
 一体、どれだけのスピードで行って戻って来てるんですか?!時間、2・3分しか経ってないと思うんだけど……

「早かったね、ツナ」
「ああ、のクラスの子が誰かに頼まれたとかでの荷物持ってこっちに来てたからね」
「えっ?誰だろう??」

 余りにも早かったから思わずそれを素直に口に出せば、ツナが理由を教えてくれる。
 でも、態々俺の荷物届けてくれたなんて、一体誰だろう。
 もしかしたら、掃除当番が一緒だった人の誰かが頼んでくれたのかな?

 つくづく俺って、クラスの人達に迷惑しか掛けてないように思うんだけど

のクラスの子なのは間違いないとは思うけど、流石に名前は知らない。オレからちゃんとお礼は言っといたから、が気にする必要はないよ」

 ツナに言われて考えるようにしていた俺に、気にするなと返されてしまう。


 いや、そう言う訳には……


「10代目がそうおっしゃっているんだから、気にする必要はねぇだろう。そいつも、迷惑なら荷物を届けたりしねぇだろうからな」

 心の中で、否定していたら、今まで黙っていた獄寺くんが不機嫌そうな声で口を挟んできた。
 でも、言われた内容は、俺に気を使ってくれているものだと分かってちょっと驚かされる。

「獄寺の言う通りだね。それよりも、ここからちょっと早く帰りたいし、はオレが運ぶから」

 それに同意するように、ツナも頷いて更にとんでもない事をあっさりと言ってくれました。


 えっと、運ぶって、運ぶんだよね?


「えっ、ツナ?」
「獄寺、荷物任せたから」
「はい、お任せください!」

 状況が理解できずに、確認するように名前を呼べば持っていた荷物を獄寺くんに渡して、それから俺に向き何時ものように抱え上げられてしまった。
 荷物を運びかのように軽々と俺を抱え上げて、獄寺くんと並んで歩き出す。
 それは走ってはいないけど、確かに俺には付いていけないスピードで……

「それで、一体何があったの?」

 家に戻って、直ぐに質問。
 ロープでぐるぐる巻きにされている子供が、なんだか気の毒だ。

 俺の事を助けてくれたのだから、悪い子ではないと思うんだけど

「こいつが、10代目のお命を狙ってきやがったんだよ!」

 俺の質問に答えてくれたのは、獄寺くんで一瞬言われた事が理解できなかった。
 なんか、ツナの命を狙ってきたって聞えたんだけど、も、もしかして、この子?!

「その通りだぞ、こいつがイーピンだ」

 昨日リボーンが言っていた香港の殺し屋。
 こんなにも小さい子なのに、やっぱり殺し屋なんだ。

「おまえ、この写真の奴を殺せって言われてきたんだろ?」

 ちょっとショックを受けていた俺の前で、リボーンが何処から出してきたのか写真を一枚手に持って子供へと質問。
 質問された子供は、コクリと頷いた。

 ああ、やっぱり殺しをしに日本に来てるんだね。

「これは綱吉じゃないぞ」

 しかも、その相手が綱吉だと思うとかなりのショックなんだけど……と、思っていた俺の耳に、リボーンがあっさりと口を開いた。
 言われたその言葉に、言われたその子も驚いているようだ。

 意味が分からなくって、リボーンが持っているその写真を見せてもらったら、確かに全然知らない逢った事もない人に言うのは失礼だけどその、どう見てもかっこよくない人が写ってるんだけど
 それはツナとは、似ても似つかない。

「まだまだ未熟だな」

 どうやらこの子はすごいド近眼で、顔の区別が付いてないらしい事が判明した。

 そんな子供にリボーンが、追い討ちを掛ける。

 いや、殺しの相手ツナじゃなかったのは良かったんだけど、そんなに言うのもどうかと思うんだけど
 それに、あの爆発の原因って何だったんだろう?

 結局、ツナから話が聞けなかったので、爆発の原因は分からなかった。



 それから、未熟な己を鍛錬する為に日本に残って修行する事になったその子供が、獄寺くんにからかわれた事から、あの爆発の理由が分かってしまう。
 そう言えば、人間爆弾って、リボーンが言ってたもんな。


 何かあるたびに恥ずかしがって爆発を起こすその子の修行は、当分終らないかもしれない。