本当に偶然って、何が起こるのか予想も付かないのだと、改めて思い知った。
 だって、こんな事が起こるなんて、普通に考えれば思い付かない。

 それって、やっぱり俺の運が悪いんだろうか?







 母さんに頼まれて買い物に来た商店街、急ぎの買い物じゃないって言われたから久し振りに出て来た商店街を一人でボンヤリと歩いていたのが不味かったのだろうか?
 何時ものように声を掛けられて、何時ものように断ったんだけど、断った相手がかなりその中々諦めてくれない人で、途方に暮れていたのは本当。

「おい、坊や、嫌がってる相手にしつこくするってぇのは感心しないな」

 本当に困り果てていた俺に、助けてくれたのは板前の格好をした大人の男の人。

「店から見てたが、そう言うのは関心しねぇな」
「何だと関係ねぇ奴は黙ってろ!」

 ため息を付きながら言われたそれに、俺の腕を掴んだままだったその人が相手を怒鳴りつける。
 確かに関係ないかもしれないけど、信じられない事に空いている手でその相手を突き飛ばしたのだ。

「あっ!」

 突き飛ばされた相手が尻餅を付くのを見て、慌てて駆け寄ろうとするけど腕を掴まれたままの状態だとそれも叶わない。

「離して下さい!何で関係ない人にこんな酷い事が出来るんですか?!」
「へぇ、優しいねぇ、こんな親父の事も心配するんだ」

 キッと相手を睨み付けたら、ニヤニヤした顔で見られてしまう。
 しかも、顔が段々近付いてきているように思うのは、気の所為じゃないよね?

「やっ!」
「ねぇ、いい加減その汚い手で触るのやめてくれない?」

 何度も自分が男である事を言っても『気にしない』の一点張りで、男でもいいから遊びに行こうと迫られた。
 用事があるからって断っても、聞き入れてもらえずに本当に途方に暮れていたんだ。
 だけど、困っていた俺を見兼ねて折角助けてくれようとした人は、突き飛ばされてしまった。

 関係ないのに、本当に全然関係なかったのに俺の所為で迷惑を掛けてしまったのだ。
 どうしたらいいのか全然分からなくって、近付いてくる顔に本気で嫌がって顔を背けた瞬間不機嫌な声が聞こえて来た。

「ああ、また関係ねぇ奴が……」
「関係ならあるから、オレのモノに勝手に触らないでくれる?」

 その声に俺の腕を掴んでいる相手が、また文句を言おうと口を開きかけた瞬間、掴んでいる腕から俺は簡単に声を掛けてきた相手へと引き寄せられる。
 勿論掴んでいた手は、その相手によって強引に外されてだ。

「ツナ?」
「大丈夫だった、?」

 余りにも簡単に相手から引き離されてホッとして相手を確認すれば、当然のように双子の兄である綱吉の姿。
 心配そうに見詰められて、コクンと頷くことで返事を返す。

「しつこい男は嫌われるって、学習するべきだと思うけど」

 俺が頷いた事で笑顔を見せてから、ツナの視線が先程まで俺の腕を掴んでいた相手へと向けられる。
 それは何て言うか、間違いなく相手に向かって殺気を送っているのが良く分かるんだけど……
 しかも、相手を射殺さんばかりに睨みつけるのはどうかと思うんです、お兄様。

 そりゃ、確かに俺もかなりこの人には腹が立つ。
 だって、関係ない人に迷惑掛けたのは、全部この人の所為だから

「お、お前は、さ、沢田綱吉!」

 俺を腕に抱き寄せた状態でツナが相手を睨んだ瞬間、その顔を見た男が真っ青な顔になって、綱吉の名前を呼ぶ。

 あれ?ツナの知り合い?

「ふーん、オレの事知ってるんだ。だったら話は早いね。二度とに近付かないでよ。お前の周りにもちゃんと言といてよね」

 名前を呼ばれて、ツナが感心したように呟くと、相手は何度もコクコクと大きく頷いて慌ててその場から走り去っていく。
 その時に、フラフラな状態で色々なモノにぶつかりながらだったのは何でだろう?

「あっ!おじさん、大丈夫ですか?」

 慌てて逃げ出した事を疑問に思ったけど、それよりも今はあの人に突き飛ばされたおじさんの方が心配で、まだ座ったままの状態で俺達を見ている相手へと声を掛ける。

「あ、ああ、おれは大丈夫だけど……役に立たなくって申し訳なかったな」
「いえ、助けてもらえて嬉しかったですから」

 俺の言葉に申し訳なさそうに謝ってくれたおじさんに、笑顔で手を差し出す。
 だけど、おじさんが俺の手を掴む前に、ツナがおじさんの手を掴んでさっさと立たせてしまう。

「ああ、すまんな兄ちゃん……」

 ツナに手を借りて立ち上がったおじさんだったけど、あれ?何か様子が……
 明らかに、立ち上がった時、痛みを耐えるような表情を見せたのは、気の所為じゃないよね?

「あの、何処か怪我を?」

 ツナに謝るおじさんの姿に、違和感を感じて声を掛ける。
 どう見ても、何処か痛めてしまったようだから

「いや、大丈夫だって!あいててて」
「大丈夫ですか?!」
「どうやら、腰を痛めちゃったみたいだね」

 俺の質問に、ドンと胸を張ったおじさんがその後痛みを訴える。
 それに慌てた俺と違って、状況を確認したようにツナがポツリと口を開いた声が聞こえてくきた。

「多分、そこのお寿司屋さんですよね?お送りしますよ」

 『えっ?』って、聞き返そうとした瞬間、もう既にツナは行動を起こしておじさんに肩を貸すように歩き出している状態。
 それに気付いて慌てて、俺もその後に続く。

「あ、あの、本当に大丈夫ですか?お医者さん呼んだ方が……」

 オロオロとする俺と違って、ツナはおじさんを座敷の方へと運んで寝かせて居る。
 うつ伏せに寝かせて、しっかりとおじさんの様子を確認しているようだ。

 流石、ツナです。

「まぁ、ジッとしてれば直るだろうから、心配はいらねぇぞ、嬢ちゃん」

 オロオロする俺に、おじさんが笑って言ってくれた言葉は、なんて言うか複雑なモノだったんだけど

 おじさん、俺の事女の子だと思ってるんだ。

「ただいま……?どーしたオヤジ?」

 複雑な表情をしてしまった俺の耳に、店のドアが開いて何処かで聞いた事のある声が聞こえて来た。

「ああ、帰ったのか?ちょっとな……」

 疑問に思って振り返った瞬間、そこに立っていたのは

「山本?!」

 店の入り口に立っていたのは、部活から戻ってきたのだろうスポーツバックを持って立っている山本武の姿。

「ツナにじゃねぇかよ、どーしたんだ?」
「ん?タケシ…知り合いか?」

 驚いたように声を上げた俺に、山本が俺とツナを見て不思議そうに首を傾げる。
 そんな山本に、おじさんが驚いたように声を上げた。

「ふーん、ここって、山本ん家の寿司屋だったの」

 ツナはツナで何処か感心したように口を開くけど、あれ?ツナって山本の家とかにお邪魔した事なかったのかな?

「で、何があったんだ?」

 疑問に思った事はそのままに、また山本が質問してくる。
 それに、俺は簡単に今まであった事を山本に説明した。

「って、オヤジ大丈夫なのか?今日って、100人前の出前を準備するって言ってたよな?」
「まぁ、大丈夫だろうよ」

 俺が説明を終った瞬間に、心配そうに言われた山本の言葉に、おじさんは明るく返すけど、全然大丈夫じゃないよ!

「あ、あの、俺少しでもお手伝いさせてもらっていいですか?」
?!」

 そんな内情を知っちゃったら、無視する事はできなくて、オズオズと申し出てみる。
 そんな俺の言葉に、ツナが驚いたように名前を呼ぶけど、放っておくことなんて出来ない。

「俺を助ける為に、ご迷惑掛けてしまったんですから、お手伝いさせてください!」

 必死に頭を下げて見る。
 だって、迷惑掛けて、そのまま無視して家に帰ることなんて出来ないから

「……そうなるんじゃないかと思ってたよ」

 だけどツナはこうなる事が分かっていたのか、盛大なため息をついて呟かれた言葉に申し訳なくってツナを見た。

「そう言ってくれるのは有難いんだけどなぁ」

 だけど、俺の言葉に山本の親父さんが困ったように口を開く。

「折角だから、の申し出聞いちまおうぜ」
「タケシ、でもなぁ」

 山本は俺の事を知っているから、親父さんに笑顔で手伝う事を了解するように言ってくれた。
 それでも、見ず知らずの俺にはやっぱり申し訳ないのか親父さんは中々頷いてくれない。

「だったら、勝手に動きます!まずは洗い物からでいいですか?」

 親父さんの返事を聞かずに、洗い物が大量にたまっている洗い場へと移動する。

 うん、遣り甲斐ありそうなだ。

 腕まくりして、早速勝手に洗い物を始める。

「ああなったら、は止められませんから」

 洗い物を始めた俺には、ポツリとツナが苦笑しながら零した言葉は綺麗には聞こえなかったけど、きっと呆れられちゃってるんだろうなぁと思う。
 だって、多分ツナは俺の事を心配して迎えに来てくれたんだろうから

 本当、過保護だよね、ツナは

「んじゃ、オレも手伝おうかな」
「って、兄ちゃんまでかい?!」
を助けようとしてくれたのは事実ですからね、これぐらいはさせて頂きますよ」

 腕まくりしながら調理場の方へと入ってくるツナに、親父さんが驚いたように声を掛ける。
 それにツナが笑いながら返事を返した。

「いい奴等だろう?」
「タケシのマブダチなぁ、あっちの嬢ちゃんはあの兄ちゃんのコレかい?」
「何言ってんだよ、は男だぜ」
「男だぁ!!おりゃてっきり女の子だとばっかり……すまないなぁ」

 ツナに手伝ってもらいながら、どんどん洗い物を片付けていく。
 その時に聞こえて来た山本と親父さんの声に、思わず苦笑してしまっても仕方ないだろう。

 親父さん、まだ俺の事女だと思ってたんだ、かなり複雑なんだけど

「気にしないで下さい、間違えられるのは慣れてるんで……」

 謝ってくれた親父さんに、苦笑をしながら気にしないように言う。
 本当に、間違われる事は慣れてるから、気にしない。

「まぁ、ツナの大事な奴って言うのは間違ってねぇけどな」
「そりゃ残念だったな、タケシの嫁さんに欲しいと思っちまったのになー」

 だけど、その後に聞こえて来た山本の言葉に、思わず首を傾げてしまう。
 確かに、俺はツナにとって唯一の兄弟だから大事だとは思って貰っているけど、それは、本当に兄弟だからって事をちゃんと分かってる。
 兄弟でも、大事に思ってもらえるのは、とっても嬉しいけど、それはちょっとだけ寂しいよね。

 けどね、山本の嫁さんは無理です、俺は男だから!

「山本!」

 複雑な気分で親子の会話を聞いていれば、不機嫌そうにツナが山本を呼ぶ。

「わりぃ、オヤジも悪気がある訳じゃねぇから、気にすんなって!んじゃ、オレもツナ達を手伝うのな」

 それに、山本が謝罪して、俺達を手伝う為いに此方に入って来た。
 なんで山本が謝罪したのかは、分からないんだけど……

「親父さん、お医者様に見てもらわなくても大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、ああ見えて結構丈夫なのな、ウチのオヤジ」

 親父さんをそのまま放置してこっちに来た山本に、思わず疑問に思った事を質問すればニッカリと笑顔で返されてしまう言葉。

 いや、丈夫だからって、このまま放置するのもどうかと思うんだけど
 流石に100人分の出前の準備は、俺達には無理だ。

「大丈夫だよ、大した事ないから本当に暫く休んでれば回復できるはずだよ」

 心配している俺に、ツナが言ってくれた言葉に安心できた。

 ツナがそう言うのなら、大丈夫だろう。
 本当に俺の所為で迷惑掛けちゃったんだから、申し訳ない。


 その後、本当に少し休んで復活した親父さんが100人前の出前を準備して無事に全てが終ったので、かなりホッとしたのは当然だろう。
 さらに、お礼だと言ってお寿司までご馳走になってしまった。
 すっごく美味しかったので、今度はお客として来たいと思います。

「本当、今日はどうしようかと思ったけど、大した事なくって良かった」
「そうだね。がナンパ男に捕まってるの見た時は、本気で殺意が浮かんだんだけど」

 山本の家から帰る中、親父さんの怪我が大した事なかったことに安堵して呟いた俺の言葉に、ツナが呟いたそれに思わず苦笑を零してしまう。
 いや、それ洒落にならないから、ツナあの時本気で殺気向けてたし……

「それにしても、助けてくれたのが山本の親父さんだったなんて、世の中って狭いよね」
「オレとしては、山本が寿司屋の息子だった方がビックリだけどね」

 感心したように呟いた言葉に、続けて言われたツナの言葉に思わず笑ってしまう。
 確かに、似合うような似合わないような、何とも複雑なんだけど

「そうだね、山本、後継ぐのかなぁ?」
「多分、継げないんじゃない」
「どうして?」
「あの赤ん坊が認めると思わないから」

 ……た、確かに、山本既にファミリー入りしてるから、お寿司屋さん継げそうにないかも……

 ちょっと複雑な気分で終った今日だった。


 うん、親父さん、山本のファミリー入りを止められなくって、本当にごめんなさい。