折角の日曜日、気持ちよく寝ていた瞬間聞こえてきたのは銃声。

 いや、物騒な音で目を覚ますことには慣れたと思っていたけど、やっぱり銃声で起こされるのは気分のいいものじゃない。
 しかも、聞こえてきたのはツナの部屋じゃなくって、俺の部屋?

 だって、ツナの部屋で音がしたのなら、俺が起きられるはずもない。


 いや、うん、どうせ俺は寝汚ないですよ。




 ゆっくりと目を開いて、何時もの天井が見える事を確認する。
 リボーンが俺を起こすのに銃で起こす事は時々あるけど、流石に日曜日に起こされた事は……一杯ありました。

「……何時だろう?」

 ボンヤリとする頭を働かせて、寝起きで掠れた声を出し、気持ちのいい布団の中から漸くモソモソとその体を起こそうと動いたんだけど、う、動けない。
 なんかの重みが、俺の上にあるんだけど……
 その事に今更ながらに気付いた俺も俺だけど、何、俺の上に何が乗ってるの??

 そろりと自分の上を確認した瞬間、声を上げそうになった。
 だ、だって、目を開いて背中から血を流してる人が俺の上に覆いかぶさっているから

「な、何で……だれ?この人?!」
!」

 まだドキドキしている胸を押さえながら、状況を理解しようとした瞬間、バンッと派手な音共にツナが部屋の中に入ってくる。
 混乱している頭では、その状況にさえ付いていけない。

「……ツナ…」
の部屋から銃声が聞こえたけど、またリボーンが!!それが、原因?」

 何とか必死でツナの名前を呼べば、凄い勢いでベッドの傍に近付いてきて、俺に覆い被さっている人を見て不機嫌そうに質問してくる。
 いや、ちょっと待って、何で人が死んでるかもしれないこの状況でそんなに落ち着いていられるんですか?!

「リボーンにしては、珍しく役に立ってるじゃない。の部屋に無断で入るような奴は死んで当然だね」

 困惑している中で、続けて言われたその言葉に、己の耳を疑ってしまう。

 いや、死んで当然って何ですか!!

「ちげーぞ、オレがやったんじゃねーからな。こいつを殺したのは、そいつだぞ」

 信じられない言葉を聞いて、どう対応していいか分からず硬直していた俺の耳に、信じられない声が聞こえて来た。


 えっ、それって、俺がこの人を殺し……


「何言ってるの、そんな事天と地がひっくり返ってもありえない事だね」
「ウソじゃねぇぞ。それを証拠に、お前の手の中にあるモノを見てみろ」

 リボーンが言ったその言葉に、俺は自分がしてしまったであろう事に、怖くなって震えそうになる体を抱き締めようとした瞬間、ツナがそれを全面的に否定する。
 それに、ホッとした時続けて言われたリボーンの言葉に自分の手を見れば、確かに握られているのは一丁の銃。
 でも、俺はそんなモノを持った記憶もないんだけど

「オレが護身用にこっそりと枕の下に隠しておいた奴だぞ」

 更に続けられるリボーンの説明に、持っていた銃をパッと離した。


 そ、それじゃ、俺がこの人を撃ったって事で、俺は人を殺したって事なの?

「……リボーン」
「うるせーぞ」

 寝てる間に自分がしてしまった事を考えて、恐怖で体が震えるのを止められない。
 だって、こんなにも簡単に人の命が奪えるものを俺は平気で持って、しかもそれを人に向けてしまったのだから

、気にしなくっても、こんな死体の一つや二つ完全に揉み消すから」
「そう言う問題じゃないから!だって、俺、人殺しちゃったんだよ!平気な顔なんて出来ない」

 それが不法侵入した人でも、殺した方が何倍も罪は大きい。
 正当防衛なんて言っても、結局は人を殺してしまった事に変わりなんてないのだから

「ツーナさん!見てください!」

 だから、素直に人を殺したのなら、自首するべきだよね。

 母さんやツナには、殺人犯の家族って事で迷惑掛けちゃうかもしれないけど……

 真剣に考えている中、突然明るい声が聞こえたかと思うと、前触れもなく開いたままの扉からハルちゃんが姿を見せる。

「文化祭の演劇で、ハル屋形船やることになっちゃんです!」

 嬉しそうに屋形船の格好をしたハルちゃんが部屋の中に入ってくるけど、それに返事を返す事が出来ない。
 それどころか、こんな所見られたくなかったんだけど

「あ、ツナさん達も劇の練習ですか?すごーい!リアルな死にっぷりですー!」
「……違うよ、ハルちゃん……俺がね、殺しちゃったんだ」

 俺の上にかぶさる様に倒れている人を見て、ハルちゃんが感心したように口にするけど、今はそんな明るい声を聞いても、全然元気になれない。
 だって、俺が人を殺した事は、間違いないから……

は、殺してないから!」
「でも、状況は全部揃ってるんだから、俺がやったんだって……」
「はひっ!?」

 眠っていたって事で、かなり刑は軽くなるって聞いた事があるんだけど、人を殺した事はずっと纏わり付く。
 そうなれば、世間からは白い目で見られるなんて、分かっている事だ。

 俺の言葉に驚いて、ハルちゃんが後ろに下がろうとして、足が縺れたのだろう、そのままバランスを崩して壁に激突し折角綺麗に出来ていた屋形船が粉々に壊れてしまう。

「ハ、ハルちゃん!」

 そんなハルちゃんに驚いて名前を呼べば、そのままヘタヘタと座り込んでしまった。
 そりゃそうだろう、目の前に人殺しが居るんだから、怖がられてしまうのは仕方ない。

「なんでおめーがココにいんだよ!」
「今日、部活ねーからお前と同じヒマ人なんだ」

 下を向いて、ぐっと自分の手を強く握り締める。
 ああ、何時までもこうしてても仕方ないから、動かなくっちゃ……

 何処かボンヤリトした視界で考えて動こうとした瞬間、玄関から聞こえて来た声に、ビクリと大きく肩が震えてしまう。
 この声は、獄寺くんと山本……

「また、煩いのが来たみたいだね……」

 ツナの疲れたようなため息が聞こえる。

「コラ!誰がヒマ人だ!?一緒にすんじゃね――!」
「さっき公園のベンチでタバコふかしながらハトに向かって『ヒマだー』って言ってたろ?」
「な!見てやがったな〜!!!」

 ツナの部屋へと向かう足音が聞こえる。
 それを何処か遠くで聞きながら、二人の言い合いなんて全く耳に入って来ない。

「よぉツナに!こっちに居たのか?」
「おじゃまします、10代目!」

 だけど、その二人は部屋にツナが居ない事を確認してから、俺の部屋へと入ってきた。
 声を掛けてきた二人の声に、またビクリと肩が震えたのが分かる。
 本気でもうどうしていいのか、分からない。

「って、何やってんだ?」

 何も答えない俺達に、山本が不思議そうに質問してくる。
 それもそうだろう、俺はまだベットに半身を起こしたままの状態で、その膝の上には血を流している男の死体があるのだ。
 ツナとリボーンが俺のベットの直ぐ傍に立っていて、ハルちゃんはドアの直ぐ傍でペタンと座り込んでいる状態なのだから

「……俺、俺がね、人を殺しちゃったんだ……」

 本当はこんなこと言いたくないんだけど、言わなければ何も伝わらないと言う様に、ギュッと布団を握り締めながら二人の事は見ないようにこの状況の説明を簡潔に説明する。

「は?」
「へ!?」

 俺の言葉に、山本と獄寺くんが信じられないというような間抜けな声で聞き返すように声を出す。

「だから、オレは気にする必要はないって言ってるんだけど……」
「いやいや、まだがやったって決まったわけじゃないだろう?」
「そ、そーすよ!こいつに殺しなんて出来る訳ないじゃないですか!」

 えっと、獄寺くんのそれは、一応オレの事を慰めてくれてるんだろうか?
 でも、間違いなくリボーンが俺の枕の下に隠していたって言う銃で撃ってしまったのは曲げようのない事実。

「だって、動かないし、こんなにいっぱい血が……」

 俺が動いても全く反応しないし、間違いなく死んでると思う……死体なんて見た事無いけど、でもきっとこんなに沢山血が出てるって事は、死んでるって事だと

「おい、起きねーと根性焼きいれっぞ」
「って、獄寺くん!何やってるの!!」

 獄寺くんの言葉に俺が困ったような表情を浮かべて口を開けば、何を思ったのか獄寺くんが銜えていたタバコを手に持ってそれをベットの上に倒れている人の顔に近付けようとしている。
 それに慌てて止めようとした瞬間、ピクリと死んでいると思っていた人が動く。

「う、動いた!!」
「きゅ、救急車です!救急車呼びましょう!!」

 それに驚いて声を上げれば、続いてハルちゃんも反応して立ち上がると慌てたように部屋から飛び出そうとする。

「その必要はないぞ。医者を呼んどいた」
「医者って、あの変態医者じゃないだろうね」

 そんなハルちゃんに、リボーンが冷静に口を開く。
 その直ぐ後に、その人物に思い当たったのだろうツナが不機嫌そうな表情でリボーンへと問い掛ける。

「ああ、そうだぞ。Drシャマルだ」

 だけど帰ってきた返事は当然と言うような言葉で、その後に続けて朝から明らかに酔っ払っていると分かる白衣の男を引き摺って来た。
 って、一体何処から連れて来たんだろう、リボーン。

「あいつは…!」
「知り合いか?」

 そんな男を見て、獄寺くんが驚いたような声を上げるのに、山本が不思議そうに問いかける。


 って、この人男は診ないんだじゃなかったっけ?
 それに、産婦人科の先生だと、外科は無理なんじゃ……


「うちの城の専属医の一人だった奴で、会うたびに違う女連れてて、『誰?』って聞いたら『妹だ』っつーから、ずっと兄弟が62人いると思ってた」

 漸く冷静な考えが出来るようになってきた俺の耳に、真剣に話す獄寺くんの声が聞こえてくる。


 えっと、それって……

「なんだソレ!?」

 反応に困っている俺と違って、山本は楽しそうに笑っている。
 確かに、獄寺くんって凄く素直だったんだね、昔から……

「よぉ、隼人じゃん」
「話しかけんじゃねー!女たらしがうつる!スケコマシ!!」

 何て言うか獄寺くんの可愛い昔話を聞いて、複雑な気分になってしまった瞬間、シャマルさんが獄寺くんに気付いて話しかけてくる。
 それに返す言葉は何て言うか、子供みたいなんだけど

「なんでーつれねーの」
「あなたドクターなんですよね?早く患者を診てくださいです!!」
「そーだった、そーだった。死にかけの奴がいるんだってな」

 獄寺くんにそっけなく返されて、面白くなさそうに呟くシャマルさんに、ハルちゃんが慌てたように声を掛けた。
 それに、今思い出したと言う様に漸く行動に……って、その手が迷わずハルちゃんの胸に!!

「ん――どれどれ」

 なんて言いながら、ピッタリと胸を押さえる。

「キャアァアア!!!」

 突然の行動に、一瞬間があってから、ハルちゃんが悲鳴を上げてシャマルさんを殴る。
 いや、うん、殴られても仕方ないと思うけど、シャマルさん吹き飛ばされてるんですけど……ハルちゃん、どれだけの力で殴ったんですか?

「何するんですか!」

 吹っ飛ばされて壁に激突するシャマルさんを見て、冷や汗をかいてしまう。
 俺、何度かハルちゃんに殴られそうになったけど、ツナが庇ってくれて本当に助かってたんだな。

「この元気なら大丈夫だ。おまけにカワイイときてる」

 殴られても全く懲りてないシャマルさんが起き上がって、満足そうな顔で言う言葉は、えっとどう言う意味があるんだろう?

「私じゃありません!患者は、この人です!!」
「んっ?何度言ったらわかんだ?オレは男は診ねーって……おお、この前のカワイイ子じゃねぇの、お前なら見てやっても……」
「それ以上、に近付かないでくれますか?」

 ハルちゃんの言葉にシャマルさんの視線が俺の方へと向けられて、言われた言葉は前にも言われた言葉。
 でもそれは、ハルちゃんは知らないと思うんだけど……そう思った瞬間、今だにベッドから出てない俺に気付いて近付いてこようと一歩踏み出したシャマルさんに、ソレを遮るようにツナが前へ出る。

「ちっ、やっぱり居やがったか……」
「当然です」

 ツナの顔を見た瞬間、複雑な表情を見せるシャマルさんに、ニッコリと怖いほどの綺麗な笑みを浮かべるツナ。
 でも、その目が全然笑ってません、お兄様……。

「あいかわらずサイテーだなあいつ」
「おもしれぇーよ」

 呆れたような獄寺くんと楽しそうに笑っている山本。
 何か、本気で現実逃避したくなってきたんだけど……

「てか、本当にそいつ生きてんのか?瞳孔開いて、息止まって、心臓止まってりゃ死んだぜ」

 忠告するように言われたその言葉に、バッとみんなの視線がベッドに倒れている人へと向けられる。

「ドーコー開いてます」

 恐る恐るハルちゃんが近付いてきて、顔を覗き込む。
 そして呟かれる言葉。

「息も止まってる………」

 続いて山本が、ティッシュを一枚顔の前に持って来て確認。
 勿論、ティッシュはピクリとも動かない。

「心臓…止まってる」

 最後に獄寺くんが、心音を確認するように体に耳を押し当てる。
 そして、ボソリと言われた言葉に、サーッとみんなの顔色が悪くなった。

「オレがふざけてる間に仏さんになっちまったのかもなー。仏さんにゃ用がねーや」

 『じゃっ』と手を上げて部屋から出て行くシャマルさんに、誰も反応を示す事が出来ない。
 って、本気であの人はこの場を掻き回しに来ただけですか?!

「……やっぱり、俺がこの人殺しちゃったって事なんだよね?もう、素直に自首するから……ごめんね、迷惑掛けちゃって」

 こんなに簡単に人を殺しちゃうなんて、俺もやっぱり人間としてどこか壊れてたのかもしれない。

「なっ、さんに限って、殺しなんて、デンジャラスな事をする筈はありません!!」

 覚悟を決めて言った俺の言葉に、ハルちゃんがフォローするように声を掛けてきてくれる。
 そう言ってくれるのは嬉しいけど、今この状況で考えると、俺以外にこの人を殺してしまった人は居ないって事だ。

「まぁ、待て。こんな時のためにもう一人呼んどいたぞ」
「え?」

 力が抜けてベッドから立ち上がる事も出来ない状況の俺に、続けてリボーンが口を開く。
 言われた内容が分からなくって、俺は思わず首を傾げてリボーンを見た。
 その瞬間、外からバイクのエンジン音が聞こえて来て、家の前で止まる。
 そして、ザッと言う音と共に、ベッド傍の窓がガラッと勢い良く開く。

「やあ」

 そこから姿を見せたのは、恭弥さん。

「ヒバリー!!!」

 一瞬状況が分からずにポカンとしてしまった俺と違って、ツナは嫌そうな顔をして、獄寺くんと山本は複雑な表情を見せる。
 ハルちゃんは、流石に恭弥さんの事を知らないらしく、不思議そうな表情だよね。

「今日は君達と遊ぶためにきたわけじゃないんだ」

 そんな3人に何処か楽しそうな表情を見せて、窓を乗り越え部屋の中に入って来た。


 って、恭弥さん、靴履いたままです!!


「赤ん坊に貸しを作りにきたんだ。ま、取り引だね」
「待ってたぞ、ヒバリ」

 ズカズカと靴のまま部屋に入って来て、俺が座ったままで居るベッドの傍に来るとフッと笑みを浮かべる。

「ふーん、やるじゃないか、心臓を一発だ」

 それから、足で俺のベッドに倒れている人を動かして感心したように呟く。

「うん、この死体は僕が処理してもいいよ」

 そして、言われた言葉が理解できないんですけど……

 えっ?死体を処理?誰が??

「あ、あの、恭弥さん?」
「死体を見つからないように消して殺し自体を無かったことにしてくれるんだぞ」

 訳が分からなくって、思わず問い掛けるように恭弥さんへと視線を向ければ、リボーンが変わりに説明してくれる。
 いや、殺し自体を無かった事にしてくれるって?!

「そんなの、ヒバリさんに頼むまでも無いよ。オレが片付けるから」
「いやいや、ソレは、人としてどうかと思うんですけど!!!」
「沢田綱吉、気にする事はないよ。これは赤ん坊への貸しなんだからね。じゃあ、あとで風紀委員の人間よこすよ」

 不機嫌に言われたツナの言葉に、思わず突っ込んでしまう。

 でも、恭弥さんは、何処か機嫌良くツナの申し出を断って、また窓から外へと出て行こうと窓枠に手を掛けた。
 ここは一階だから問題ないけど、何で窓から出入りするんだろう?

「またね」

 満足そうにそれだけ言ってから、恭弥さんが窓の外へと姿を消す。

「……やっぱり、あいつだけはやり返さねーと気が済まねぇ!!」

 そんな恭弥さんに続いて獄寺くんが窓へと移動すると、数個のダイナマイトを手にした。
 えっ、何でそんなに攻撃的なの?!

「果てろ!!」

 焦って止めるまもなく、獄寺くんが恭弥さんへとダイナマイトを投げる。
 思わず心配になって、身を乗り出して窓の外を見れば、恭弥さんは塀の上に居て投げられたダイナマイトにフッと笑うと何処から出したのか一瞬でその手に愛用のトンファを出す。

「そう死に急ぐなよ」

 そして、そのトンファで投げられた全てのダイナマイトを打ち返す。

「ゲ」
「……面倒な事を……」

 打ち返されたダイナマイトは、勿論俺の部屋の中に……

 ポツリと聞こえたツナの声は気の所為だろうか?兎に角、衝撃が来るだろうと咄嗟に顔を隠すように手を翳す。

、大丈夫?」

 だけど何時までたってもその衝撃が来なくって、心配そうに質問されたその声に恐る恐る目を開けば、どうやらツナが打ち返されたダイナマイトの処理をしてくれたみたいで、部屋の中は先程までと変わりなかった。
 それにホッとして、ツナの質問に返事を返そうと頷きかけた瞬間、

「で、いい加減、起きてくれる」
「ほぇ?」

 うんざりした様に呟かれた、ツナの言葉。
 それが、誰に向けて言われたの分からずに、思わず間抜けな声が出てしまう。

の上に何時まで居るつもり、本気で殺されたいんなら喜んで止めを刺してあげるよ」
「……しかたねぇな、もういいぞ、モレッティ」
「えっ?何、どう言う事??」

 殺気を出しているツナの言葉と、残念そうなリボーンの言葉。
 俺にはさっぱり訳が分からなくって、問い掛けるように口を開く。

は、人を殺してないって事だよ」
「えっ?」
「あ〜っ、やっぱり10代目は騙せなかったみたいですね」

 俺の質問に、ツナがあっさりと言葉を返してくれる。
 だけど、それが理解出来なくって、問い掛けるように声を出した瞬間、ベッドに倒れていた人がムクリと起き上がった。

「ゾンビです!!」

 それにハルちゃんが泣きながら、慌てて逃げだした。
 お、俺も本気で逃げ出したいんですけど……ホラーは苦手なんです!!

「こいつは「殺され屋」のモレッティだぞ」
「へっ?」

 出来るだけ起き上がった人から逃げようとベッドの隅へと体を動かした俺の耳に、リボーンの説明するような言葉が聞こえてくる。

「モレッティは、自分の意思で心臓を止めて仮死状態になる“アッディーオ”を使う、ボンゴレの特殊工作員だ」

 さらに、続けて説明される内容。


 えっと、それって

「死んでなかったって事なの?」
「ああ、死んだフリだぞ。流石にツナは騙せなかったみてぇだが、他の奴等は見事に騙されたみてぇだな」
「で、でも、確かに銃声が……」
「あれは、オレが撃った空砲だ。そのあとお前に持たせたんだぞ」

 淡々と説明される種明かしに、どっと力が抜けてくる。
 俺、本気で人を殺したと思ったから、殺してないって事が分かって、すっごくホッとした。

「よ、良かった……」
「驚かして、すみませんでした。せっかく日本に遊びに来たので10代目に挨拶がてら"アッディーオ"を見てもらおうと思いまして」

 こんな事をした理由を話すモレッティさんの声を何処か遠くで聞きながら、ただただ安心して、体から力が抜けていく。
 その瞬間、ポロリと、瞳から雫が流れたのに気付いた。

 あ、ああ、安心したら、涙が……

?!」

 ポロポロと零れる涙に、慌ててパジャマの袖でそれを拭う。

「あ、安心したら、急に……」

 うわー、止まらない。

「……リボーン」
「何だ?」
を泣かせた事、どう責任取るつもり?」
「……今回は遣り過ぎちまったみてぇだな、悪かった」

 ツナの不機嫌な声に、リボーンが素直に謝罪の言葉を口にする。

 あれ?そう言えば、ツナは気付いていたって事だよね?何時から気付いてたんだろう??

「まったくリボーンさんは〜っ」
「このオッサン面白ぇ〜〜っ」

 疑問に思った俺のその傍で、獄寺くんと山本が笑ってる声が聞こえてくる。
 それから、ハルちゃんが壊れた屋形船を前に呆然としていた。


 ああ、俺の所為だから、せめて修理は手伝わなきゃだよね……でも、今は、兎に角疲れて、涙腺壊れちゃったんだけど……

 中々止まらない涙が止まったのは、それから10分くらい経ってからだった。

 疲れすぎて食欲が無くなっていた俺に、ツナが無理矢理サンドイッチをノルマに渡されて、必死でソレを食べてから、皆で仲…良く?ハルちゃんの屋形船の修復作業。
 えっと、仲良くとは言えないかな……ハルちゃんと獄寺くん、仲悪い。
 しかも、獄寺くん全然相手にされてないけど、山本に喧嘩吹っかけるのは止めて下さい。



 次の日、恭弥さんに委員会で殺しのもみ消しの件を質問してみたら、流石にそんな事はしてないって言われて、本気でほっとした。
 うん、でもね、恭弥さんもあの人が生きてるって事に気付いてたって事もその時に分かりましたよ。


 ツナと一緒で、生きてるか死んでるかなんて、見れば直ぐに分かるそうです。

 いや、普通は分かんないから!!