今日は、体育祭。
空は、綺麗な秋晴れです。
朝から、母さんにハルちゃん、ビアンキさんまでもが張り切ってお弁当の準備をしてくれていた。
そんなんだから、俺も出来るだけ明るく家を出てきたんだけど……
この状況には、付いて行けません。
周りから、白熱した応援が聞こえる。
俺はと言えば、その迫力に押されている状態で、こっそりと離れた場所から応援する事しか出来ていない。
そんな俺の格好と言えば、普通の体操服を着ているんだけどね。
何でも、特別な衣装が準備できなかったとかで、先輩達が真っ青な顔で謝りに来たんだけど
俺としては、別に謝らなくてもいいと思ったんだけど、本気でその時の先輩達は恐怖に怯えてたんだよね。
一体何があったんだろう?
そんな訳で俺は普通の体操服で応援中。
いや、応援はしていないから、見学中と言った方がいいのだろうか?
だって、応援するにも、この中に入って行く勇気は俺にはない。
ツナはツナで、余裕で出た競技全てをトップでゴールしている。
流石としかいえないんだけど、ツナが走る時だけは、何ていうかクラス関係なしで応援の声が聞こえるんだけど……
いや、うん、ツナが人気あるのは知ってるんだけど、そんな堂々と応援していいのかな?
勿論、男子生徒はそんな女子を睨んでるんだけど、口に出して文句言う事は出来ないみたいだ。
やっぱり、女子集団が怖いと思うのは仕方ない事だろう、うん。
「やあ」
遠巻きで見守る中、聞こえて来た声に視線をそちらへと向ける。
「委員長さん?」
「うん、今日は邪魔者も居ないみたいだからね、君と話がしたかったんだよ」
そこに居たのは、風紀委員長の雲雀恭弥さん。
こんな日でもその姿は何時もの学ランを肩に掛けている状態で、どう見ても体育祭に参加している格好には見えなかった。
「委員長さんは、体育祭には参加されてないんですか?」
「僕がこんな群れに参加するとでも思っているの?」
だから疑問に思った事を素直に質問したら、質問で返されてしまう。
た、確かにそう言われてしまえばそれまでかもしれないけど、だからって、一応学校行事のはずなのでは……
でもそれを口に出す事は出来ずに、思わず苦笑を零す事しか出来ない。
「あっ!そう言えば、俺に話しって?」
それから、ここに来た時に委員長さんが言っていた事をも出だして問い掛ける。
俺と話がしたかったから、委員長さんここに来てるんだよね?
えっと、委員長さん曰く、群れてる状態の校庭に!
「ああ、ちゃんと聞いてたんだ。この前は邪魔されたから、君に言いたい事があったからね。態々来て上げたんだよ」
「……えっと、態々すみません…?」
ニッコリと綺麗な笑顔で言われたそれに、思わず謝罪の言葉を返してしまう。
あれ?それって、俺が悪い訳じゃないよね?
「うん」
俺の謝罪の言葉に、満足そうに委員長さんが頷く。
「大変だ!C組の総大将がA組のヤツに倒されたぞ!!」
「えっ?」
だけど、突然聞こえて来たその声に意識が委員長さんからそちらへと向けられた。
C組の総大将って、俺達の組の総大将だよね?なんで、それがA組の人に倒されてるの???
「ふーん、確か、A組の総大将って、沢田綱吉だったよね?」
訳が分からずに首を傾げてた俺の横で、委員長さんが何処か楽しそうな顔で質問してくる。
「えっと、俺もそう聞いてるんですけど……なんで、A組の人がC組の総大将を……」
「今度は、B組の総大将がトイレで何者かに襲われたらしいぞ!」
疑問を口にしようとした瞬間、またしても聞こえて来た声に、疑問が浮かぶ。
何で、総大将が次々と襲われてるんだ?!
ま、まさか、今度はツナが襲われたり……
「目撃者によりと、A組のやつにやられたらしい」
今度はツナが狙われるんじゃないかと、心配になった瞬間聞こえて来た声に、それが杞憂だと分かった。
でも、何でA組の人が他の組の総大将を襲うなんて事……
「ふーん、沢田綱吉にしては、穴だらけな作戦だね」
「作戦?」
「違うのかい?他の総大将を倒せば、簡単に勝てるからね」
何でそんなことになってるのか分からない俺と違って、委員長さんが意外だと言うように口を開く。
だけど、言われたそれに俺は意味が分からなくって問い掛ければ、当然のように返される言葉。
って、何でそこでそんな物騒な内容になってるんですか?!
たかが体育祭の筈なんだけど……
「並盛の体育祭は、作戦が必要な程、危険なモノなんですか?」
「そんな訳ないよ。僕の学校なんだからね」
……すみません、本気でそれ否定してもいいでしょうか?!
質問するように呟いた俺の言葉に当然のように返されたそれに、返答に困るどころか、心の中で否定してしまっても仕方ないと思う。
だって、初めて会った時の事は、今でも忘れられませんから!
「それにしても、揉め事を起こすなんて、沢田綱吉も僕に咬み殺されたいみたいだ」
それは有り得ません。
あの綱吉さんが、そんな面倒な事をするとはどう考えても有り得ないです。
って事は、どう考えてもこんな騒動を起こした張本人は
「……リボーン」
「ふーん、赤ん坊が関係してるのか、だったらますます楽しそうだね」
どう考えてもこんな騒ぎを起こすのなんて、リボーン以外には考えられない。
ツナにとっては迷惑の何者でもないだろうけど
ポツリと全てのこの騒ぎの原因を作っているだろう人物の名前を口にすれば、楽しそうに委員長さんが笑う。
それが、本当に嬉しそうで俺は思わず複雑な表情をしてしまった。
ツナさん、何か嫌な予感がするんですけど、俺には止められませんから!
俺に出来るのは、心の中で精一杯応援するだけです!
『みなさん、静かにしてください』
A組に対してのブーイングで賑やかになった中、突然流れ出した放送に場が一瞬で静かになった。
『棒倒しの問題についてお昼休憩をはさみ審議します。各チームの3年代表は本部まできてください』
聞こえて来た放送に、委員長さんの顔が綺麗な笑みを見せる。
ああ、本当にどうしてこうも問題ばっかりが起こるんだろう。
ジロジロと不躾な視線が向けられている中でのお昼ご飯って、正直言って落ち着かないんですけど……
俺一人だけがC組のゼッケンを付けている事にも、落ち着かない状況ではあるんだけどね。
「なんなんですか、あなたたち!さっきからジロジロ見て!」
そんな不躾な視線を向けられる中、それが許せないと言うようにハルちゃんが文句を言う。
それに対して、少し離れて俺達の事を見ている学生達が無粋な言葉を掛けてくる。
「ハル、さがってなさい」
「ビアンキさん」
そんな学生達を前にして、ビアンキさんが立ち上がりハルちゃんを下がらせた。
「あなたたちチョコレートはいかが?」
そして何を考えているのか、チョコレートが大量に載ったトレーを皆に差し出す。
って、ちょっと待って!!
「おお!」
「食う、食う!」
「待って!それを食べちゃ…」
ビアンキさんの行動に、急いで皆を止めようとしたけど遅かった。
チョコレートを勧められた男子生徒数人が喜んでそれを食べて、口々に感想を言ってるけどその後バタバタと倒れてしまう。
「ビアンキさん!何て事を!!」
「死なない程度よ」
とんでもない事をするビアンキさんを咎めるように声を上げても、あっけなく返されてしまう。
死なない程度でも問題は問題だから!!
『A組の大将が今度は毒もったぞ』
「リボーン!!」
ツナはツナで全く気にした様子も見せずお昼食べてるし……本気で頭を抱えたくなるような状況なんですが……
そんな中、リボーンがスピーカ片手に態々校庭に居る人達に聞こえるように放送を流す。
「、気にしてても仕方ないよ。なるようにしかならないんだからね。ほら、気にせずにお昼食べた方がいいよ」
咎めるようにリボーンの名前を呼んだ俺に、綱吉が声を掛けてくる。
いや、普通この状況で気にせずにお昼をのんびり食べる事が出来るなんて絶対に無理ですから!!
「あらあら、ツっくんは有名人なのね」
って、母さんは全く気にした様子も見せないで、この状況を楽しんでくださっております。
俺、本当にこの人達と血が繋がってるのか本気で疑いたくなってきたんですけど!
『おまたせいたしました。棒倒しの審議の結果が出ました』
一斉に向けられた殺気の篭った睨みも全く気にしない人達を前に、平気で居られる人達に疑問を抱いている瞬間聞こえて来た放送にみんなの意識が集中するのが分かる。
『各代表の話し合いにより今年の棒倒しは、A組対B・C合同トー無とします!』
「なっ!2対1!?」
「よっしゃ!B・C連合!!いいぞ!!!」
A組の人達は競技の結果に絶望の声を上げ、B・Cからは歓声が上がった。
そりゃそうだろう、Aにとってはとんでもない内容なんだから
「あのA組総大将をぶち落とせ!!」
『男子は全員棒倒しの準備をしてください』
最終宣告のように告げられる放送の声に、B・C組がヤル気満々だと言うように声を上げる。
「ツ、ツナ!」
「まぁ、決まったモノは仕方ないから、ヤルしかないかな」
ヤル気満々のみんなの姿に焦ってツナを見れば、ため息をついてゆっくりと立ち上がった。
「笹川さん!!2対1なんてマジスか?」
それと同時に京子ちゃんのお兄さんが校舎からゆっくりとした足取りでこちらに向かって来る姿が目に入る。
そんなお兄さんにA組の人達が声を掛けるけど、お兄さんは反応しない。
よっぽど酷い事言われたのかなぁ?
「どんな話し合いだったんですか?!」
「多数決で押し切られたんですよね?」
口々に皆がお兄さんに声を掛けるけど、やっぱりお兄さんは下を向いたまま反応を返さない。
「そんな、卑怯な事……」
酷い話し合いだったのだろう事が予想されて心配気に質問された事に、誰かがポツリと呟いた声が聞こえて来た。
確かに、お兄さん一人じゃ押し切られてしまっても仕方ないだろう。
「いいや」
心配そうに見守る中、でもお兄さんが漸く顔を上げて口を開く。
だけど、それは余りにも予想に反する内容の答えだった。
「オレが提案して押し通してやったわ!!」
クワッと目を見開いて言われた言葉に、皆の心境が手に取るように分かっちゃったんだけど……
何でこの人は、そんな無茶な事してるんだろう。
「一回で全部の敵を倒した方が手っ取り早いからな」
無茶過ぎる提案をしたお兄さんに誰もが呆然としている中、新たな声が聞こえて来て振り返れば何時の間にかゾウの被り物をしたリボーンの姿が
「さすが師匠!!オレも同じ意見です!向かってくる奴は全て倒す!」
そんなリボーンの言葉に、お兄さんは嬉しそうに答えてるし
いや、それは他の皆にとっては迷惑以外の何もでもないと思うんだけど……
「は、絶対に参加しちゃダメだからね」
どうしたらいいのか分からなくて、オロオロしている俺にツナがニッコリ笑顔で声を掛けてくる。
いや、俺に参加は絶対に無理だから!!
俺の事よりも、ツナが大変なんじゃ……
「大丈夫、心配しなくても、オレは怪我をするつもりはないからね。を悲しませるような事は絶対にしないよ」
心配で思わずツナを見上げた俺に更に続けられた言葉は笑顔なのにとんでもない内容だった。
いや、ツナなら確かに怪我をしないかもしれないけど、このままだと死人が出ても不思議はないんですが!!
「向こうの総大将が沢田綱吉なら、B・Cの総大将はこの人しか居ないだろう!!」
絶望を背負ったようなA組の皆がグラウンドへと向かうその後姿を見送りながら、そう言えばC・Bの総大将はどうなるんだろうと疑問に思った瞬間聞こえて来た声に視線を向ける。
向けた視線の先に居たのは、
「委員長さん?!」
群れる事が嫌いな委員長さんが、棒倒しの棒の上に制服姿のまま居るのが目に入った。
「まぁ、仕方ないから出てあげるよ。倒さないでね」
「はいいいい!!」
言葉の割には何処か楽しそうな表情をしている委員長さんが、最後に言ったその言葉に皆がビシリと返事を返す。
笑顔で脅してるんですけど!!
『それでは棒倒しを開始します。位置についてください!』
そんな状態で、A組対B・Cの棒倒しが始まろうとしている。
その人数の違いは、明らかで、どう考えてもA組に勝ち目はないだろう。
「ツナさんファイトー!」
「がんばって――っ!」
『用意!!開始!!!』
ハルちゃんと京子ちゃんの応援の声に続いて、開始の声が流れる。
それと同時に土埃を上げながら両者が棒の上に居る大将の元へと走りだす。
勿論、棒を支える人は残るから全員が全員と言う訳じゃないけど、B・Cは、半分の人達が残っている状態でもAよりも確実に大人数が残っている。
「と、兎に角、怪我だけはしないでくれるといいんだけど……」
本気で、死者が出ても可笑しくない状況に、ハラハラしながら見守る事しか出来ない自分が情けない。
棒の上に居るツナをを引き落とそうと躍起になっている人達が登ってくるけど、流石と言うかツナには一歩も手を出せない状態みたいだ。
皆、ツナに手を出す前にその本人によって叩き落されていた。
何か獄寺くんや山本達が何か言ってるみたいだけど、何を言っているかまでは此方まで聞こえてこない。
お、落とされた人、踏まれてない?
本気で死人が出るんじゃ!?
凄い迫力に押されて、かなりドキドキ状態で見守る中、不意にツナの視線が向けられて一瞬だけ視線が合う。
その瞬間、フワリとツナが笑ったような気がしたのは気の所為だろうか?
それから直ぐに、何を思ったのかツナが棒の上から飛び降りた。
「ツナ!」
バランスを崩したようには見えなかったし、誰かに引っ張られたようにも見えなかったんだけど、突然の事に驚いてその名前を呼ぶ。
「大将が地面に落ちたから負けだね」
そして、綺麗に地面へと着地した瞬間、ニッコリと笑顔で負けを宣言してしまったのだ。
本当に突拍子のないツナの行動に、シーンと乱闘状態が静かになる。
「ふざけないでくれる。そんなの許さないよ。大体、大将がこんな所に居るだけなんて、退屈すぎる。君は、僕が咬み殺してあげるよ」
あっけなく勝負が付いてしまった事で、状況についていけない人達を残し、不機嫌な声が聞こえたかと思うと、幾人かの悲鳴が聞こえた後、ツナの目の前に委員長さんが降り立つ。
「……オレが地面に着いた時点で負けのはずですけど?」
「そんなの僕が決めたルールにはないよ」
既に委員長さんの手には何時もの武器が!
そして、そこから始まるのは、何時ものバトル。
結局二人のバトルに巻き込まれた人達が数十人倒れた状態で、体育祭は幕を下ろした。
そう言えば、委員長さん、俺に声掛けてきたけど、何か用事があったんじゃないのかな?
何も言わなかったから、気の所為だったんだろうか?