そう言えば、最近委員長さんの姿を見てないなぁ、何て思ったのが間違いだったかもしれない。
 そんな事考えなければ、きっと平和に過ごせたかもしれないのに……

 うん、ちょっとだけ自分を恨んでも仕方ないよね。

 勘が鋭いくなったんなら、こう言う事の回避方法も知りたいと思う。


 ええ、かなり切実な希望です。








「リボーン?」

 昼休みが始まって、一気に教室の中が賑やかになる。
 俺も何時ものようにお弁当を取り出して食べようかと思った瞬間、その姿に気付いて思わず首を傾げてしまう。

 だって、リボーンが俺の所に来るなんて珍しいから

「今から応接室のヒバリの所に行け」
「……なんで?」

 じっと見守る中、直ぐ傍まで来た瞬間言われたその言葉に更なる疑問。

「イイから、行きやがれ!弁当はヒバリの所で食えよ」
「って、ここで銃を出すのだけはやめて!分かった、とりあえず、委員長さんの所でお昼食べればいいんだよね?でも、それって、ツナが知ったら……」
「言う通りにしろ!」

 『怒られる』と続けようとした瞬間、命令口調で言われてしまってはそれ以上何も言う事は出来ない。
 素直に頷いて、広げようとしたお弁当を持って椅子から立ち上がる。

 でも、お昼に誰かと一緒に食べるのって、久し振りかも

 ツナと一緒に食べたいけど、移動するの流石に無理だから、殆ど一人でお弁当食べてるんだよね。
 ちょっと寂しいけど、誰かに迷惑掛けるぐらいなら、別にいいかもって思うんだけど
 ツナは、迎えに行くって言ってくれるけど、そこまで甘えるのは流石に、ね。


 そんな事を考えながら、お弁当を持って応接室に移動。
 でも俺にとって応接室に行くのは結構大変な作業になる。
 ここに来る時って、殆どが委員長さんと一緒で、見かねた委員長さんに運ばれてたからなぁ、俺……

 だから、三階にある応接室は俺にとってはかなり困難な道のりな訳で、何とか辿り着いた頃には結構な時間が経ってしまっていた。


 扉の前に立って、コンコンと軽くノックをする。

 返事がない。

 可笑しいなぁと思って、もう一回ノック。

 やっぱり、返事がない。

 どうしたものかと考えて、でも居ないなら仕方ないかと小さくため息を吐き出して来た道を帰ろうと振り返った瞬間、グイッと腕を後ろに引かれた。
 一瞬何が起こったのか分からなくって後ろを振り返れば、何時の間にか開いた扉から手が出ていて、俺の腕を掴んでいる状態。
 恐る恐る自分の腕を掴んでいる人物を確認しようと視線を上へと向ければ、居ないと思っていた相手がしっかりと俺の腕を掴んでいました。

「い、居らっしゃったんですか?」
「あんなに消極的なノックじゃ普通は気付かれないよ」

 返事がないから居ないと思ってたのに、と言おうとした言葉は呆れたように言われた委員長さんの言葉で口に出す事が出来なくなる。


 俺のノックってそんなに小さかったっけ??

「えっと、すみません。そんなに小さかったですか?」
「小さかったよ。君が来る事は赤ん坊から聞いてたからね、だから気配を感じなかったら気付かなかったところだよ」

 自分では気付いていなかったから素直に質問すれば、当然のように返されてしまう。

 そっか、小さかったんだ。
 今度から気を付けよう。

「書類に集中してる時なら、気付かなかっただろうね」

 『君の気配は、警戒心を抱かせないから』と言われて、複雑な表情になってしまった。
 それって、一応褒められてるんだろうか?

「ほら、早く入りなよ、沢田綱吉が来たらお弁当食べられなくなるよ」

 中に入れというように、扉が大きく開かれる。
 それと同時に言われた内容に、俺は思わず首を傾げてしまった。

「ツナ、来るんですか?」
「なに?赤ん坊から聞いてないの?」

 質問すれば、質問で返される。
 いや、そんな事、リボーンから説明されなかったし……って言うよりも、何も説明らしい説明なんて一つもなかったから!

「いえ、リボーンは、ただ応接室に行けとしか……」
「そう、なら説明は必要ないって事かな?君は、沢田綱吉を呼び出す為の餌だからね」
「はぁ?」

 素直に説明した俺に、委員長さんから訳の分からない事を言われて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
 だって、俺がツナを呼び出す為の餌って……いや、本気でツナがこの事を知ったら凄い勢いで飛び込んできそうだけど

「あの」
「ほら、早くお昼食べなよ。本気で食べられなくなるよ」

 だから、その真意を確認しようと口を開きかけた俺は、促されるように言われた言葉で、応接室のソファに大人しく座る事になる。
 それから持ってきたお弁当をテーブルの上に

「有難うございます」

 そうすれば、草壁さんがお茶の入った湯飲みをテーブルに置いてくれたので、お礼を言って頭を下げれば笑い返してくれた。

「草壁は、下がってなよ。沢田綱吉が来たら、大変だろうからね」
「はい」

 だけど、そんな草壁さんに委員長さんは楽しそうに笑いながら声を掛ける。
 草壁さんも分かっているというように頷いて部屋から出て行ってしまった。

 えっと、俺、本当にこのままここに居ていいんでしょうか??

「食べないの?」
「いや、食べたいのは食べたいんですけど、俺は本当にここに居ていいんですか?」
「言ったはずだよ、君は沢田綱吉を呼び出す餌だってね」

 いや、そう聞いて大人しく居ていいんですか、ねぇ!!

 しかも、ここに綱吉が来るのは確定みたいだし、その為にリボーンは俺にここに行けって言ったのは明らかだ。
 だからって、俺を餌にしなくっても……

 って事は、後でツナに説教されるの確定?!

 自分で考えた事で、サーッと血の気が引いて行くのが分かる。
 その瞬間、横からクスリと楽しそうな笑い声が聞こえて来た。

「あ、あの、何か可笑しな事ありましたか?」

 人が恐怖を感じているのに、何でこの人は楽しそうに笑っているんだろう?
 そう思って、何で笑ってるのかを質問してみる。

「君を見てると、飽きないよ」

 質問すれば、当然のように返される言葉に傷付くんですよ、俺でも!
 だって、委員長さんの言葉はどう見ても俺を見て笑ってると返してるんだから

「ああ、もうお弁当は食べられそうにないみたいだね」

 楽しそうに笑っている委員長さんは本当に綺麗だと思うんですけど、俺を見て笑うのはやめて欲しいです、本気で!
 でも、それを言葉にする前に、何かを感じた委員長さんが視線を扉の方へと向けてポツリと呟いた。

「えっ?」

 その言葉の意味が分からなくって聞き返すように口を開いた瞬間、バタン!と言う派手な音と共に扉が破壊されたんですが!!!

 だ、誰かの襲撃ですか?!!

 驚いて視線を向けた先には……

「ツナ?!」

 良く見知った相手が、立っていました。
 って、何でそこで扉壊す必要があるの?!

「雲雀さん、何でがここに居るんでしょうか?」

 こ、怖い、怖い!!!
 ツナの後ろに真っ黒な暗雲が!!!

 しかも、ここに居る時って、大体同じ台詞聞いてるように思うんですけど

「まぁ、まぁ、も無事みてぇだし、そんなに怒るなって!」

 暗雲を背負ったツナに怯えた瞬間、聞こえて来たその声にビクビクしながらもう一度視線を向ける。
 ツナの後ろには、山本と獄寺くんが!しかも、流石に引いている獄寺くんと違って、山本は平気でツナに話しかけてるし!
 どうしてあなたは、こんなツナ相手に平気で声が掛けられるんですか?!その極意を俺にもぜひ教えて貰いたいんですけど!!

「ふーん、群れで来たんだ、別に僕はそれでも構わないけど」

 いやいや、何が構わないのか分かりません!!

 ああ、心の中で突っ込みだけが酷くなっていくよ、俺!
 本気で平穏を願いたいのに、それは無理な話なんでしょうか?!

「それに、風紀委員長の前ではタバコ消してくれる?」

 言われた時には、委員長さんの姿は既に獄寺くんの前に移動している。

「んだとてめ――」
「消せ」

 行き成り目の前に来た委員長さんに驚いたのだろう獄寺くんだ身構えたように後ろに一歩下がった瞬間、短い命令口調と共に言われたそれと同時にビュッと風が鳴って銜えられていたタバコが吹き飛んだ。

「なんだ、こいつ!!」

 一瞬のその動きに、獄寺くんがうろたえた様子を見せる。

 そう言えば、獄寺くんって委員長さんの事知らなかったんだっけ?
 一度も会った事なかったような気が……

 じゃあ、驚いても仕方ないか。
 委員長さんの実力は、この並盛では有名なんだけどね。

「……そう言うこと。だからって、を使うなんて許せないんだけど」

 委員長さんと獄寺くんの遣り取りを黙って見詰めていたツナが、全てを理解したと言うように小さく呟いた声が聞こえて視線を向ける。
 えっと、何がそう言う事なんだろう?

「ツナ?」
「流石だね。やっぱり気付いたんだ」

 意味が分からなくって問い掛けようと名前を呼べば、それに続くように委員長さんが満足そうな笑みを浮かべる。

 何、何で二人で分かり合ってるんですか?!
 俺、ツナの双子の兄弟なのに、全然分からないんですけど!!

「10代目?」
「あのエセ赤ん坊の仕業って事でしょ。まぁ、元からあいつがここにが居るって事を知らせてきたんだから、あいつ以外には居ないだろうけど」

 獄寺くんも訳が分からないと言うように、口を開くのを全く気にした様子も見せないでツナがため息をつきながら説明するように言葉を続ける。

「一体何の話?」
「流石に気付かれちまったか……そうだぞ、全部オレが仕組んだ事だ。平和ボケしないための実践トレーニングだぞ」

 訳の分からないツナの説明にはなってない説明に疑問に思って口を開けば、今度は窓の方から新たな声が!
 驚いてそちらに視線を向ければ、何か窓の外にリボーンが立ってるんですけど!!

 ここ、3階じゃなかったっけ?
 良く見たら、リフトみたいなモノが見えたから、ちょっと安心。

「そうじゃなくって!実践トレーニングなんて……」

 十分毎日スリリングな日を思ってると思うのは、俺だけじゃない筈。
 だから今更平和ボケしない為の実践トレーニングなんて、何処にも必要ないと思うんですが……

「綱吉は問題ねぇけど、獄寺と山本を鍛えてもらおうと思ったんだぞ」
「何?沢田綱吉と殺らせてくれるんじゃなかったの?」

 委員長さん、字が間違ってます!
 絶対に『ヤル』って言葉が『殺る』になってるように思うのは俺の気の所為じゃないはずだ。

「そう言うこと、なら勝手に殺って貰っても全然問題ないよ」

 って、ツナまで何言っちゃってるの!!

「十分問題ありありだから!!」

 ツナの漢字も、絶対に間違ってるから!
 しかも、問題ないとか、何であっさり言っちゃてるんですか?!

「あ〜っ、手厳しいのな。まぁ、確かにオレ等じゃヒバリには到底敵わないってのは十分分かってんだけどな」
「何オレ等とか言ってやがるんだ!敵わないのはてめぇだけだろうが、野球バカ!!」

 ツナの言葉に、山本が苦笑しながら口を開くのに続いて、獄寺くんが突っ込む。
 いや、そこですか、突っ込むところって……

「何、なら僕が君を咬み殺せば問題ないって事だね」

 だけど、獄寺くんの突っ込みで委員長さんにスイッチが入ったのが分かる。
 チャキリと構えられるトンファと向けられう殺気に、獄寺くんの表情が青褪めた。

 そりゃそうだろう、この人はツナと同等で戦えるような力を持っている、それは即ち、獄寺くんには勝ち目などないという事。

「あ、あの!俺まだお昼食べてないから、皆で一緒に食べませんか?」

 何とかそれを回避しようと必死で俺が考え付いたそれは、そんな陳腐な言葉だった……xx

 いや、委員長さんの前で、皆で一緒にって、それこそ自殺行為だから、俺!!

「……本気で、君が居ると殺る気が殺がれる……いいよ、今回は見逃してあげるから、さっさと屋上にでも行ってお昼でも食べるんだね」

 ヤバイと思ったけど、言った言葉が戻ってくる訳もなくかなり焦っている俺の前で、委員長さんが持っていたトンファを一瞬で片付けて呆れたように盛大のため息をついた。
 それと同時に言われた言葉に、一瞬きょとんとするのを止められない。

 えっと、それって……

「聞こえなかったの?見逃してあげるから、早く行きなよ」

 そして再度言われたその言葉に、俺は漸くソファから立ち上がって深々と頭を下げた。

「有難うございます、委員長さん!」
「ねぇ、前から気になってたんだけど、その委員長さんって言うのやめない?」

 お礼を言った俺に、委員長さんが何処か不機嫌な声で質問してくる。
 だけど、言われたそれに俺は思わず首をかしげた。

「でも、委員長さんは風紀委員長さんですよね?」
「……確かに、僕は風紀委員長だけど、君、風紀委員じゃないでしょ。それとも、風紀委員に入りたいの?」

 不思議に思って質問したそれに、質問で返されて慌てて首を振って返す。
 って、俺に風紀委員なんて絶対に無理ですから!!

「だったら、名前で呼びなよ」

 ブンブンと激しく首を振って返した俺に、委員長さんが提案するように言葉を続ける。
 名前で呼ぶ?それって

「ひ…」
「呼ばなくっていいから!!」

 雲雀さんですか?それとも、恭弥さんどっちですか?って聞こうとしたその言葉は、突然俺と委員長さんの間に割り込んできたツナによって遮られてしまう。

「何、邪魔しないでくれる?」
「ええ、幾らでも邪魔して差し上げますから、安心してください、雲雀さん」

 えっ、あれ?何で、ツナはこんなに不機嫌なんだろう?
 それに、名前呼ぶぐらい全然問題ないと思うんだけど……邪魔するとか、一体何なんだろう……良く分からない。

「あーっ、何時もの喧嘩が始まっちまったか……、まだ飯食ってないんだよな?早く食わないと、もう時間ないぜ」
「えっ?あっ!!」

 現状に付いて行けなくって、呆然としていた俺に山本が声を掛けてくれた事で、我を取り戻して時間を見れば、確かにもう昼休みが終わってしまう時間を示していた。
 って、俺ここから自分の教室まで戻るのに10分以上は必要なのに?!!

「まぁ、心配しないでも、5限目は自主休業でいいんじゃねぇの」
「おい!お前また10代目に余計な心配を掛けやがって!」

 いやいや、滅茶苦茶問題あるから!

 落ち込んでいる俺に、ツナと委員長さんの睨み合いに入っていけなかったのだろう獄寺くんが声を掛けてくる。
 いや、余計な心配も何も、俺は本当に何もしてないから!

「全部、リボーンが悪いんだ!!!!」

 窓の外で楽しそうにツナ達の遣り取りを見ている、この全ての現況を作ってくれた人物の名前を大声で叫んでも仕方ないだろう。



 その後、応接室でご飯を食べて、しっかりと教室に送ってもらったのは6限目始まるちょっと前の事だった。

 どうせ俺は、流されやすいですよ!