その日は本当に何時も通りだったと言えるんだけど、昼過ぎた頃から急に気分が悪くなってしまって、先生に無理を言って保健室へと行かせて貰った。

 朝までは何でもなかったのに、何か悪いモノでも食べたっけ?
 でも、母さんが作ってくれたお弁当食べただけなんだけど……

 もしかして、傷んでたとか?!

 嫌でも、今までそんな事なかったんだけど
 多分、偶々だと思うから、ちょっと休めば大丈夫だよね?

 そう思って、保健室に何とか辿り着いて、その扉を開いた。





「……失礼、します……すみません、気分が悪くって……少し休ませて……」
「何だ、男か?悪いが、男は診ねーんだ」

 部屋に入った瞬間言われた言葉に、俺のそれは遮られてしまった。

 って、男は診ないって、誰?この人??

「あ、あの……」
「ああ、まだなんかあるのか?」

 中に居たのは、白衣姿の見たことのない男の人。
 その人が、不機嫌な表情で俺の事を見てくる。

「いえ、あの、診ていただかなくってもいいので、休ませてください」

 それに対して、何とか返事を返せば、盛大なため息をつかれてしまった。
 いや、この場合ため息をつくのは俺の方だと思うんですけど

「ああ、このベッドは女の子専用だ」

 それでも何とかベッドで休む事の了承を得ようと口を開けば、またしても理不尽な言葉が返ってきた。

 いや、女の子専用って、んじゃ、男はどうしたらいいんですか?!
 現に俺は、かなり体調悪いんですけど……

「んっ?制服だけで決め付けていたが、お前偉く可愛い顔してるな?本当に男か?」

 グッタリとその場に座り込みたくなった瞬間言われた言葉に、ピクリと反応する。


 ……だ、誰が可愛いんだよ!!


 でも、今は文句も言う元気もなくって、キッと相手を睨み付けることしか出来ない。

「随分いい顔をする。何なら、おじさんがいい事を教えてやろうか?」

 でも睨んでも、相手には全く通用しなくって、それどころか、近付いてきた瞬間グイッと無理矢理顔を引き上げられた。

 う〜っ、気持ち悪いのに、そんな事されたら……

「と、ほんとうに顔色が悪いな」

 いや、だからさっきからそう言ってるんですけど……
 て、言うか離して欲しい、本気で吐きそう……

「す、すみません、手を離して……吐きそう……」

 必死で言葉を伝えて、手を離してもらった瞬間に口元を手で押さえてその場に座り込む。
 嘔吐しそうな状態を何とか必死に遣り過ごした。

「あ〜っ、大丈夫か?」

 そんな俺に、白衣の人が心配そうに声を掛けてくる。

「何とか……」

 治まってきた吐き気に、ホッと息を吐いてそれに返事を返す。
 本当に、何でこんなに気持ち悪くなったんだろう?悪いモノを食べた記憶はないんだけど……

!大丈夫!!」

 ゆっくりと立ち上がった瞬間後ろのドアが勢い良く開いて、信じられない声が聞こえて来た。

 えっ?あれ??ツナって、今授業中だよね?
 それに、何で俺が保健室に居る事を知っているんだろう??

「ツ、ツナ?」

 驚いて振り返った俺の目に映ったのは、間違いなく双子の片割れであるツナの姿。

「大丈夫?変態に何もされなかった?」

 ツカツカと中に入って来て俺の様子を確認するツナに、俺は何も返す事が出来なかった。


 だって、何でツナが今ここに居るんだ?!

「変態つーのは、オレの事か?」
「他に誰がいるんですか?」

 しかも、滅茶苦茶好戦的だし?!

 そうじゃなくとも体調悪くって思考回路が低下している中では、まったく理由も分かるはずがない。

「可愛くねぇガキだな」
「生憎と、あなたに可愛いとも思われたくないですからね」

 白衣の人を睨み付けながらの言葉に、漸く俺の思考が動き出す。

「……な、なんで、ツナがここに、いるの?」

 授業中で、俺が保健室に来た事なんて知るはずもないのに、何で今ここに居るのか本気で理由が分からない。
 それとも、双子だから俺の体調の悪さがツナにも伝わってしまったのだろうか……もしそうだとしたら、悪い事をしたかも

「そんなの簡単だよ。のクラスの子が態々教えてくれたんだよ」

 俺の疑問に、サラリと返される言葉。

 って、ちょっと待って!俺のクラスの子が教えてくれたって、授業中だよね?どうやって、誰が教えたの一体?!

「メルアドを教えるのは不本意だったけど、こう言う時にはちゃんと役に立ってくれるみたいだね」

 更に俺の疑問を解消するように続けられたその言葉で、納得する。

 って、ツナからメルアドを聞き出した人が居るってだけでも凄いんだけど……
 そうじゃなくって!だからって、何でツナがここに……

?!」

 疑問に思った事を口にしようとした瞬間、またしても吐き気が……

 突然口元を押さえて、保健室にある洗面所に走った俺にツナが驚いたように俺の名前を呼ぶ。
 でも、俺にはそれに返事をする事も出来なくって、ゲホゲホと咳をしながら胃の中のモノを吐き出してしまった。

「大丈夫?」

 吐き出したお陰で、少しだけムカムカが収まってホッと息を吐く。
 そんな俺に、ツナが心配そうに近付いてきて優しく背中を擦ってくれた。

「なんとか……吐いたから、少しはマシに……って、何でそこで白衣の人を睨むの?!」

 漸くツナの質問に返事を返して、水を出して口の中を濯いだ俺は、殺気立って白衣の人を睨んでいるツナに気付いて突っ込みをする。

「何でって、あいつの所為でがそんなに調子悪いんでしょ?」
「いや、違うから!何か悪いモノを食べたのかもしれないって、お願いだから、俺の話し聞いて!!」

 疑問符が付いている筈なのに、決め付けるように言われたそれに慌てて言葉を返すけど、全く聞いてくれないんですけど
 しかも、既に戦闘態勢ってどういう事なんですか?!

「汚い手でに触れた事を後悔させて上げますよ」

 いや、汚いとかそんなの思いませんから、そりゃ確かに可愛いって言われたのはすっごい腹が立つんだけど……
 しかも、ここは女の子専用だとか訳の分からない事を言われて困ったのは認めるけど!
 多分白衣を着てるから、保険医だと思う人に喧嘩を売るのはやめてください!!

「ツナ?!」

 どうやってツナの事を止めようかと必死で考えている中、フラリとツナの体が揺れるのに驚いてその名前を呼ぶ。

「……何をしたの?」

 だけどツナは、俺の声が聞こえていないのか白衣の人を睨み付けて質問した。
 何をしたって言っても、目の前の相手は一歩も動いてはいない。

「ど、どうしたのツナ?」

 ツナを見れば、明らかに先程までとは違ってその顔色が悪くなっている。

「大丈夫?」
「まぁ、何とか……で、何したんだ、おっさん!」
「掌を見てみな」

 それに驚いて今度は逆に俺が心配になって声を掛ければ、ツナは苦々し気に返事を返してから、目の前の相手を更に睨み付けた。
 ツナの質問に、白衣の人が言葉を口にする。
 言われたそれに、ツナが自分の掌を見れば、そこには、黒いドクロが浮かび上がっていた。

「なに、これ」
「それは、ドクロ病と言う不治の病だ」
「えっ?」

 自分の手に浮かび上がったドクロに、ツナが眉を顰める。
 それに白衣の人が何でもない事のようにサラリと言った内容に、俺は驚いて顔を上げてその人を見た。


 不治の病?ツナが??


「まぁ、適当に選んだヤツがそれってのが気の毒だけど、運がなかったと諦めてくれや」

 どう言う事、何でツナが不治の病にかかってるの?
 だって、先までは元気だったのに……

「ふーん、そう言うって事は、あんたもマフィア関係って事?」
「えっ?」
「ああ?オレは、ただの医者だぜ」
「Dr.シャマル。トライデント・シャマルっていう殺し屋でもある」

 自分が不治の病にかかったって言われているのに、ツナは冷静に白衣の人に質問を口にする。
 その内容に驚いて俺が相手を見れば、否定するような言葉に続いて新たな声が聞こえて来た。

「リボーン!ツナが!!」
「ああ、聞いてたぞ。ドクロ病とはまた厄介なモノにかかっちまったな、ツナ」

 その声に縋るように名前を呼べば、あっさりと言われる言葉。

 厄介って、やっぱり本当に不治の病って事なの?

「死に至るまでに、人に言えない秘密や恥が文字になって全身にうかんでくる奇病だぞ。別名、“死に恥をさらす病”だ」
 
 って、淡々と説明される事に思わずチラリとツナを見てしまう。
 だって、そんな奇病聞いた事ないけど、ツナの秘密ってちょっとだけ気になっちゃうんだけど……


「はい!」
は、絶対に見ちゃダメだからね」

 そっと隣にいるツナに視線を向けた瞬間、名前を呼ばれて思わず姿勢を正して返事を返してしまった。
 そしたら返されたのは、ニッコリと笑顔のツナの言葉。
 逆らう事の出来ないツナの笑みに、俺はただコクコクと頷いて慌ててツナから視線を逸らした。

「ちなみにドクロ病は発病してから1時間で死に至る病気だぞ」

 うっうっ、笑顔なのに逆らえない迫力があって、怖かったです。
 一体、ツナの秘密ってどんな事が書いてあるんだろう……気になるけど、ツナが怖くって見られない。

 そんな事を考えていたら、サラリととんでもない言葉が聞こえて来た。
 って、1時間で死に至るって、どんな病気なの?!

「リボーン!それって、どうにか出来るんだよね?」
「オレには無理だぞ。でも、こいつなら……」

 信じられなくって慌ててリボーンに質問すれば、首を振って返されてしまった。
 でも、その後に続けて言われたその言葉に白衣の人を見る。

 そうだ!この人がツナにドクロ病って言う奇病を植え付けたのなら、その対処だって出来るはずだ。

「あ、あの、ツナの失礼は俺が代わりにいくらでも謝ります!だから、ツナの病気を治して下さい」

 『お願いします!!』と深々と頭を下げる。

 それぐらいしか今の俺には思い浮かばないから……

 だって、ツナが不治の病にかかって1時間の寿命しかないって言う状態になるのに、俺はその夢を見なかったのだから、対処方法なんて分かるはずもない。

 だから俺に出来るのは、ただ必死でお願いする事だけ

「折角の可愛い子からのお願いだけどな、男は診ねーんだ」

 なのに言われた言葉は、またしても『可愛い』って言葉とあっさりとした否定の言葉だった。

 でも今は、自分が可愛いって言われたのは無視だ!だって、ツナの命の方が大事だから……こんな事で、ツナの事を失うなんて絶対に嫌だ!!

「……オレも、そんな変態のおっさんに診てもらうのは遠慮したいんだけど……でも、今ここでオレが死ぬと、禄でもない事になりそうですね。だから、あんたも道連れに死んで上げますよ」

 オロオロとどうすればいいかを考えている俺の隣から、低い低い声が聞こえて来て驚いて視線を向ければ、綺麗な綺麗な笑みを浮かべているツナさんが居ました。
 でもその笑みは、心底人を凍らせてしまうような笑み。

「はぁ、何言って……」
「オレも、若干ではありますが、医療の心得はありますからね。死ぬ間際にあなた一人を道連れにする事ぐらい簡単に出来ますよ」

 ぞっとしている俺には気付かないツナが言ったその言葉に、白衣の人が何かを言おうとした言葉を遮って言われたそれは、ますます恐ろしい言葉だった。
 心底楽しいと言う様な笑みは、本当に怖いです、ツナさん……。

「まぁ、こいつならそれぐらい簡単だろうな」

 って、リボーンも同意してないで、ツナさんを止めてください!
 そんでもって、病気を治すように白衣の人を説得……

「あ〜っ、おまえがそこまで言うって事は、これが次期ボンゴレボス候補か?」
「ああ、そうだぞ」

 あっさりとしているリボーンに文句を言おうとした瞬間、目の前で二人が親し気に話をし始める。
 もしかして、この二人って知り合いだったの?!

「リ、リボーン、この人の事……」
「知ってるぞ、オレも世話になっているからな」

 恐る恐る質問した俺に、りぼーんがサラリと言葉を返してくる。
 あれ?この人、男は診ないって言ってたけど、リボーンは診てもらった事があるって事?

「で、でも、男は診ないって……」
「母親からオレをとりあげたのがシャマルだ」

 そ、それって、誕生って事?!
 って、事は、この人産婦人科の先生になるんじゃ……

 不治の病を治せるんだろうか?

「どうでもいいよ、そんな事。オレが、あんたの事を道連れにするのは確定事項なんだから」

 いやいや、どうでも良くないから!!と思って、とんでもない事を言うツナに視線を向ければその姿は隣にはなく、気付けば白衣の人の後ろへと移動していた。

 何時の間に移動したんだ?!
 マジで気付かなかったんですけど!

 白衣の人の首に手を翳すツナの額には、前にも見た事がある炎が見えた。

 えっと、額に炎が灯ってるって、どう言う事?
 一体、どうやれば額に炎が……

「ほぉ、死ぬ気弾無しで死ぬ気モードになれるたぁ、驚いたぜ」
「最後に言う事はそれだけか?」

 そんなツナの姿に、白衣の人が感心したように口を開くけど、ツナはただただ冷静な声で質問を口にする。
 何時もよりも低い声で、本気で落ち着いている声が先を促すように問い掛けるだけで、ゾクリと背筋を冷たい汗が流れてしまう。

「……悪かった!治してやるから、落ち着け!」
「別に、オレは治してもらわなくてもいい。お前と言う害虫が駆除できるんだからな」
「いやいや!そこは治してもらって下さい、ツナさん!!」

 その声に慌てたように白衣の人が口を開くが、ツナはあっさりとそれを拒否した。
 そんなツナに、俺が慌てて突っ込みを入れる。

 どうしてそこで自分の命よりも他を優先させるの、ツナは!!
 チラッと見えたツナの手には、ドクロから噴出し文字で何かが書かれているけど、小さい字で書かれていてなんて書いているのかまでは見えないかった。


 残念とか思ったのは、ツナには絶対に秘密だから!



 まぁ、そんなこんなで、白衣の人も自分が死ぬのは嫌だったらしくツナに仕掛けたらしいドクロ病をエンジェル病と言うモノで治してくれた。

 凄いと思ったのは、この白衣の人が666の不治の病にかかってるっていう事。
 世界には、まだまだ知られてない不治の病が一杯あるっていう事だろうか……

 なんにしても、ツナが死ななくって良かった。


 って、俺の方が調子悪かったはずなのに、ツナのお陰ですっかり元気になりました。