遅刻しなくって、ホッとした始業式。
久し振りの学校だからか、何処か懐かしく感じられる教室の中では、休み中の事を話すクラスメートの姿が微笑ましかった。
もっとも、俺にはそんなに親しい人も居ないから、声を掛けて来た人に挨拶を返すぐらいだけど
ああ、そう言えば、今日ツナはボクシング部に見学に行くだよなぁ……。
俺も見に行った方がいいんだろうか??
「くん!」
始業式も終り、賑やかになった放課後の中で名前を呼ばれて振り返る。
「京子ちゃん?どうしたの??」
振り返った先には、ニコニコと笑顔を見せている笹川京子ちゃんの姿と、その後ろに居るのは山本と獄寺くん。
一体この3人がそろって俺に何の用だろうと疑問に思っても仕方ないと思う。
だって、メンバーがメンバーだから……
「も応援に行くんだろう?」
「応援?」
慌てて3人に近付いた俺に、山本がさわやかな笑顔で質問してきた。
だけど、言われた言葉の意味が分からなくって、思わず首を傾げてしまう。
確かにツナがボクシング部に見学に行く事にはなっているけど、応援するような事ってあるのか??
「何だ、聞いてないのな。ツナのヤツと笹川先輩が入部を賭けて勝負するらしいぞ」
意味が分からずに首を傾げた俺に、山本が説明してくれる。
あれ?何時の間にそんな話になったんだろう。
朝は、見学だけの話だったような……先輩は、入部させる気満々だったみたいだけど
「ごめんね、お兄ちゃんの我侭に付き合ってもらっちゃって」
複雑な表情をしてしまった俺に、京子ちゃんが申し訳なさそうに謝罪してくる。
「気にしないで!それに、俺は別に……」
迷惑でも何でもないんだけど……迷惑してるのは、ツナの方だから
とは流石に口に出さずに、苦笑を零す。
「10代目のお手を煩わせるなら、オレが……」
言葉に困っている中、今まで不機嫌そのままで黙りこんでいた獄寺くんがボソリと言った言葉に、慌ててしまう。
「それはダメだからね!!」
今にもダイナマイトを取り出しそうな獄寺くんに慌てて言葉を伝えれば、チッと舌打されちゃいました。
だって、相手は京子ちゃんのお兄さんなんだよ。
そんな物騒な事は、絶対にダメに決まってる。
「ほら、早く行こうぜ」
獄寺くんを止める事が出来てホッとしている中、全く気にした様子もなく山本が促して来た。
確かに、何にも予定ないからツナの応援に行くのはいいんだけど、どう考えても勝つのはツナのような気が……
いや、直感とか関係なく、だって、ツナはあの最強と言われている委員長さんよりも強いのに
気が付いたら、俺のカバンは何故か山本が持ってくれていて、3人が俺の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
なんて言うか、さり気に俺のカバンを持ってくれた山本の行動が謎なんですけど
「お邪魔しまーす!」
ボクシング部と書かれたそこの扉を京子ちゃんが元気良く開けば、中は緊迫した雰囲気が流れていた。
って、どうしてここにリボーンが居るんだろう??
「おう!キョーコ来たな。それじゃ、始めるとしよう」
「ええ、構いませんよ。ではオレが勝てば入部はきっぱりと諦めてください」
「心配するな。絶対に入部させるからな!!」
何がどうなってるの?
そして、どうしても誰もリボーンの事を突っ込まないんだろう。
俺としては、そっちの方が不思議なんだけど……
「ゆくぞ沢田ツナ!!加減などせんからな!!」
リングに上がった二人が向き合った瞬間、先輩がツナに勢いのままの言葉を口にする。
「構いませんよ。オレは手加減させていただきますから……」
「手加減などするものではない!!!」
だけど反対にツナは冷静な口調で、言葉を返したものだからゴングがなった瞬間先輩が猛ダッシュでツナに右ストレートを……勿論ツナは簡単にそれをかわす。
「何?!」
かわされるとは思っていなかったのだろう、先輩は驚いたような表情をしていた。
「やはり、オレが見込んだ通りの男だな。絶対に入部してもらうぞ!」
「だから、オレは入部しないと言っているはずですが……」
「いいや、入ってもらうぞ!」
って、コレってどう言っていいのか、猛烈に攻撃を仕掛ける先輩をツナがヒラリヒラリとかわす。
部員の人達が、“極限”ラッシュをかわしてるとか言って、かなり驚いてるんですが……
リボーンはリボーンで、嬉しそうにニヤリと笑ってるし……
リングに居る二人は、『入れ』『いやだ』の攻防を続けてる状態。
でも、今のところツナは先輩に攻撃を仕掛けるつもりはないのか、全ての攻撃をかわしているだけだ。
「……この調子じゃ、何時までも勝負が決まらねぇな…」
「ちょ、ちょっとリボーン!」
「笹川了平には、死ぬ気でツナを入部させてやるぞ」
賑やかな中聞こえてきたリボーンの声に驚いて視線を向ければ、しっかりと握られているリボーン愛用の銃。
そして、続けて聞こえて来たその言葉に驚いた。
ツナに撃つんじゃなくて、先輩に……
慌てた瞬間には、もう既に先輩の額に銃弾が
「リボーン!」
「オレはパオパオ老師だぞ」
「そう言う問題じゃない!何てことして……」
突然倒れた先輩に、周りがザワザワと賑やかになる。
その瞬間、倒れた体からモコモコと現れたのは、額に炎を宿した先輩の姿。
「笹川センパイ、今何で倒れたんだ?」
「スリップだろう?」
起き上がった先輩の姿を確認した部員たちが、不思議そうに呟く声が聞こえてくる。
「どーした沢田、避けるばかりでは、オレには勝てんぞ!!」
死ぬ気弾を撃たれた先輩が、どういう行動に出るのか分からなくって、ハラハラしながら見守る中言われたそれに一瞬意味を理解できなかった。
額には死ぬ気の炎を宿しているのに、先輩の行動は今までと全く変わらない。
その事に、ツナも驚いているのが分かる。
「笹川了平、たいした奴だな」
そして、感心したように呟かれるリボーンの言葉に確信した。
普段から死ぬ気な人に死ぬ気弾を撃っても変わらないという事……即ち、笹川先輩は、何時でも座右の銘の通り"極限"に生きているという事だ。
「……まぁ、うっとうしいのに変わりはないって事だよね……それじゃ、オレも少しだけ本気を出させていただきます。そうじゃなければ、勝てそうにありませんから」
「少しではなく、死ぬ気でこんか!!」
言いながら、またしても極限ラッシュ状態。
「ボクシング部に入れ!お前の本気を引き出してやるぞ!!」
「遠慮するって、言ってるじゃないですか!」
ああ、またしても先ほどと同じ状態が……『入れ』『いやだ』の攻防が続いてるんだけど
「そろそろ、終わらせてもらいますよ」
だけど、聞こえて来た綱吉の言葉にピクリと反応する。
そして、気付いた時には咄嗟に体が動いていた。
ツナの右ストレートが綺麗に先輩に入り、先輩の体がリングの外に投げ出される。
そしてその体が向かう先は……
「!!」
ツナが俺の名前を呼ぶのと、先輩の体を自分の体を盾にして窓ガラスに激突するのを止めたのは殆ど同時。
でも、勢い良く投げ出された体を受け止めるなんて事を俺が出来るはずもないので、先輩のクッションになっただけで押しつぶされただけなんだけど
まぁ、窓ガラスに激突しなかっただけまだマシだろう。
「!何でそんな所にいるの!!」
先輩を止める為に、若干壁に体を強打してしまった俺は自分の上に乗っているその体の圧迫感がなくなった瞬間大きく咳き込んでしまった。
どうやら、先輩の体を退けてくれたのはツナらしく、咳き込んだ俺の背中を慌てて擦ってくれたけど、その前に何か聞こえてきたように思うのは気の所為?
「あ、ありがとう、ツナ……」
擦ってもらったお陰でかなり落ち着いてきたので、素直にお礼を言えば複雑な表情のツナと目が合った。
「お兄ちゃん!くん、大丈夫??」
そんな中、慌てたような京子ちゃんの声が聞こえて来て、返事を返そうと視線を向ければ、体を起こしながらも嬉しそうな表情をしている先輩の顔が視線に入る。
あれ?殴られたのに、すっごく嬉しそうなんだけど、この人!!
「ますます気に入ったぞ、沢田!お前のボクシングセンスはプラチナムだ!!必ず迎えに行くからな!」
「もーお兄ちゃん、うれしそうな顔してー!」
そして、本当に嬉しそうに言われた言葉に、京子ちゃんがニコニコと嬉しそうな笑顔を見せていた。
……俺、ちょっとこの兄妹が良く分からないんだけど……
「オレも気に入ったぞ、笹川了平。おまえ、ファミリーに入らねーか?」
複雑な気持ちを隠せない俺の耳に、リボーンが逆スカウトで、先輩をファミリーに誘ってるんだけど……
抜け目がないと言うかなんと言うか……
ツナは勝手にしろというように全く我関せず状態だし
「ねぇ、。何であんなところに居たの?」
どうやってリボーンを止めるべきかを考えている中、少しだけ怒ったような表情でツナが質問してくる。
「何が?」
質問された意味が分からなくって、思わず首を傾げてツナを見れば、やっぱり不機嫌な表情。
「何で、先輩を助けるような事したの?」
「助けるって……俺はそんなつもりは……ただ気が付いたらあそこに居ただけで……」
本当に、意識してあそこに移動した訳じゃない。
だって、先輩を殴ってあんなに吹っ飛んじゃうなんて普通なら考えも付かないと思うし……吹き飛んだとしても、何処に吹き飛ぶかなんて分かる訳ないから助けようもないと思うんだけど
「ねぇ、。もしかして、更に勘が鋭くなってきたんじゃない?」
だけど、真剣な顔で質問された綱吉のその言葉にビクッと大きく肩が震えたのが自分でも良く分かる。
勘が鋭くなったというよりも、意識せずに体が反応するようになったと、自分でも気付いていた事。
「くん大丈夫?お兄ちゃんに押し潰されたりしなかった?」
返答に困ったいた俺の耳に、京子ちゃんの声が聞こえて来てハッと我に返る。
「えっ、あっ、うん、大丈夫……」
心配そうに質問されたそれに慌てて返事を返して顔を上げれば、真剣に見詰めてくる綱吉の視線とぶつかってしまって、気まずくって逸らしてしまった。
「それにしても、さっきまで隣に居たと思ったのに、何時の間に移動してたんだ?」
更に聞こえて来た山本の疑問に、またしても肩が震えてしまう。
だって、自分でも意識した行動じゃないから、説明を求められても困る。
「熱気が酷いから窓を開けようとしたみたいだよ。そのお陰で酷いトバッチリだったけど」
どうしようかと考えている中、俺の変わりに別の誰かの声が説明してくれた。
その声に驚いて顔を上げれば、綱吉が苦笑を零して俺の方に何処か困ったような顔を見せて笑う。
「そりゃ、本当に災難だったな。大丈夫か、?」
「あっ、うん。大丈夫……多分怪我はしてないと……」
「ああ!足を挫いちゃってるみたいだね。大丈夫じゃないみたいだから、今日はもう帰らせていただきます」
山本が心配そうに質問してくるのに返事を返そうとした瞬間、信じられないぐらいにテキパキとした行動で俺の事を抱え上げて信じられないスピードで入り口に移動するとその場所でペコリと頭を下げた。
そう、部室の中が呆然としている事などまったく気にもせずに……
「ツ、ツナ!俺多分怪我してないから、自分で歩ける!!」
行きも抱えられて学校に来たというのに、帰りも同じように帰るのは流石に遠慮したい。
「気付いてないと思ったけど、足を挫いてるのは本当だから、大人しくしててよ。それに、まだ質問に答えてもらってないからね」
必死で言った俺の言葉に、ツナの不機嫌な声が返される。
えっと、質問って何の事だろう?……もしかして、勘が鋭くなったって話?でも、別に今までと変わってないと思うんだけど……
「超直感に目覚めてるんだぞ」
「えっ?」
考えていた俺の思考とは全く違う声が聞こえて来て驚いて声が出る。
超直感??
何の事だろう。
確かに自分の直感は普通の人よりも優れてると言う自覚は持っていたけど、超直感って一体何?
「リボーン?」
訳が分からなくって、聞こえて来たその声に質問するように名前を呼ぶ。
「初代ボンゴレは、超直感能力を持っていたと言われている。その能力がお前達にも備わっていると言う事だ」
「超直感能力?」
「見通す力とも言われている。歴代のボンゴレの中で、その能力が一番強かったのは初代だからな」
疑問に思ったそれを、リボーンが説明してくれる。
超直感。
それが、俺の持っている直感の正体?
「だから何?そんなモノ、オレ達には必要ないだろ!」
「ツナ?」
納得したように、ストンと自分の中に入ってきたその能力の名前。
だけど、それを否定するように言われたツナの言葉に、俺は驚いてツナの顔を見上げた。
「そんな物の為にが傷付くのなら、そんな能力要らないからな!」
何処か傷付いたように見えるツナは、それだけをリボーンに言うとまた歩き出す。
勿論、俺を抱き上げたまま。
どうしてツナがそんな傷付いた顔をしたのかは、俺には分からない。
だけど、考えついた事は一つだけ。
もっともっと直感が強くなれば、ツナが傷付かなくてもいいんだろうか?
「……、何かを感じたら、まずオレに話して……お願いだから、一人で動こうとしないで!」
自分の能力の事を考えていた中、縋るようなツナの声が聞こえて来てハッとする。
今にも泣き出してしまうんじゃないかって言うほど、辛そうにツナの表情と、そして俺を抱き上げている手がギュッと服を強く掴んでいるのが分かって驚いてしまった。
「ツナ、ヨシ?」
「お願いだから、これ以上傷付かないで……」
驚いて名前を呼んだ俺に、ツナが抱き上げている状態の俺の胸に顔を埋める。
懇願するような綱吉の言葉に、俺は何も言葉を返す事が出来なかった。
その言葉は、何時も聞いている言葉だけど、こんなにも辛そうに言われたのは初めてで……
それだけで綱吉が自分の事を強く思っていてくれる事が分かって、胸が苦しい。
「絶対なんて、約束は出来ない。でも、何かを感じたら、ちゃんと話すよ。だって、俺一人じゃ何も解決出来ない事も、皆に相談すれば何でもない事だってあるから……だから、心配しないで」
「」
安心させる為に、ツナの頭を優しく撫でる。
本当は、こんな事言っても慰めにならないって分かってる。
だって、直感はその直前でないと分からないから、きっと話をする暇なんてない事の方が多い。
だけど、俺の言葉でツナが安心してくれるなら、約束できる範囲で約束するよ。
「だから、俺の為に傷付かないで……」
そっとツナの首に手を回してギュッと抱き締める。
ねぇ、俺にはそんな事しか出来ないけど、でもコレだけは約束するよ。
例えどんな事があっても、ツナだけは護って見せるから……だから、俺の為に傷付いて欲しくないんだ。
「……は、本当に何も分かってない」
「ツナ?」
ツナに抱き付くような形だった為に、ポツリと呟かれたその言葉はハッキリと俺の耳に届いた。
でも、言われた言葉の意味が分からなくって、その名前を呼ぶ。
「……何でもない。早く帰って、手当てが先だね。、肘擦りむいてるよ」
質問するように、ツナの顔を見れば諦めたように小さく息を吐き出して言われた言葉に気付く。
た、確かに肘から血が……
「わ〜っ、ツナの制服に血が付いてる!!」
「気にしないでいいよ、制服の一枚や二枚、の方が大事だからね」
それを確認した瞬間、ツナのカッターシャツに血が付いてるのに気付いて喚いてしまった。
それに、ツナがキッパリと返してきたそれもどうかと思うんだけど……いや、だって血って本当に落ち難いんだよ!
そんな事を考えていたから気付かなかった。
そう、まんまと話を逸らされていた事に……
ど、どうせ単純ですよ!!