長かったような短かった夏休みも終わって、しっかりとツナに体調管理もしてもらったお陰で元気になれたのはいいんだけど
 やっぱり、俺は迷惑しか掛けられないようです。

 本当に、ごめんなさい。





「始業式から寝坊してごめんね、ツナ」

 折角ツナが起こしてくれたのに俺は久し振りに起きられなくって、見事に寝坊してしまった。

「気にしなくっても大丈夫だよ。それに、そんなに眠れるようになったんなら、もう心配ないって事だしね」

 申し訳なく謝罪した俺に、ツナがニッコリと笑顔で返事を返してくれるんだけど、そんな問題じゃないと思うんですが

 だって、明らかに寝坊したのは俺が悪い。
 しかも、起こしてくれたツナまで巻き込んでいる。

 俺の足では、どう頑張っても間に合う時間ではないのだ。

「ツナだけでも先に行っていいよ」
「何で?」

 俺の歩調に合わせてゆっくりと隣を歩くツナに先に行くように言えば、逆に聞き返されてしまう。

 何でって……

「……俺の足じゃどう考えても間に合わないけど、ツナが走ればまだ十分に間に合うと思うから……」
を残して?オレがそんな事すると思う?」

 質問で返されたそれに素直に理由を話せば、またしても質問で返されてしまう。


 ……どう考えても、ツナが俺を残して先に行くなんて、考えられない。

「でも……」
「でもは聞かないからね。もしも走って行けって言うのなら、オレはを抱えて走るよ」
「なら、抱えて走りやがれ!何トロトロ歩いてやがるんだ」

 考え付いた答えに反論を返そうとすれば、その言葉は見事に遮られてしまう。
 そして、信じられない事を言うツナに続いて聞こえて来た声に、驚いて視線を向けた。

「リボーン!」
「さっさとしやがれ!」

 直ぐ近くの塀の上に立っているリボーンが、促すように言葉を伝えるのと同時に浮遊感。

「ツナ?」

 突然の浮遊感に不思議に思ったんだけど、その理由は直ぐに分かった。

「命令みたいだから、急ぐしかないみたいだね」
「って、ちょっと待って!」
は、しっかりと捕まっててよ」

 軽々と俺を抱え上げたツナが、仕方ないと言うような表情でそのまま走り出す。
 ツナに言われて、俺は慌ててツナの服にしがみ付いてギュッと目を瞑る。

 そうでもしないと酔うから……

 だって、ツナの走るスピードって、俺を抱えてるにも拘らず普通の人よりも早いのだ。
 ツナの体温と走っている振動を感じながら、俺はただツナの服にしがみ付いたまま。

「おい、あれって沢田綱吉だぜ。弟抱えてるのに、何であんなに早く走れるんだ?」

 う〜っ、登校中の人の声が聞こえるよ。
 やっぱり、目立つよね、そうだよね!

「まちな!」

 恥ずかしいと思っている中聞こえて来た声。
 えっと、もしかしてツナの事を呼び止めたのかな?
 でも、その声は完全無視で、ツナはそのまま走る事をやめない。

「着いたよ、
「あっ、うん……遅刻しなかったね」

 そして、それから暫くして漸く止まったのは、もう既に学校に着いてからだった。
 時間を確認すれば、本礼までまだ時間がある……綱吉さん、あなたの足はどうなってるんですか??

「まぁ、走れば間に合うのは分かってたからね」

 下ろして貰ってから、遅刻しなかった事に少し驚きながらも呟けば、あっさりと言葉が返されてしまう。

 お兄様、あそこから走って遅刻しないって分かってたって……どんな足をしてるんですか?!
 しかも、俺の事を抱え上げて走った後なのに、なんで息さえ乱れてないの!綱吉さん!!

「やっとで、追い付いたぞ」

 どう突っ込んでいいのか分からず目の前に立っているツナを前に、言葉に困っていれば誰かの声が聞こえてくる。


 追い付いた?誰に??

 不思議に思って視線を向ければ、左の眉の傍に縦5cm程の古傷があり鼻の上には絆創膏を貼り、極めつけに両手ともに包帯を巻いているすっごい短髪で髪がツンツンしてる人が立っていた。
 不良って感じじゃないけど、何かスポーツをしてるんだって事は、鍛えられた体からも十分分かる。

「聞きしに勝るパワー・スタミナ!そして熱さ!!やはりお前は百年に一人の逸材だ!!」
「は?」

 ツカツカと俺達の方へと近付いてくるなり、多分先輩だろうその相手が、突然嬉しそうに口を開いた。
 でも、言われている事が分からなくって、思わず聞き返してしまう。
 ツナを見ると、うっとうしいとハッキリ顔に書いてあるんですが……

「我が部に入れ、沢田ツナ!!」

 そして、ガッシリとツナの肩を掴んで部の勧誘ですか?
 いや、その前に沢田ツナって……名前途中までしか呼んでないし、それ渾名だから!!

「すみませんが、先輩。何でオレの名前を?」

 だけどツナは、確かに名前を間違っている訳ではないと言うように、不機嫌そうに質問する。
 確かに、学校でも親しい人達は皆綱吉の事をツナって呼んでるから、間違いじゃないかもしれないけど……

「おまえのハッスルぶりは妹からきいているからな」
「妹?」

 ツナの質問に、あっさりと返されたそれに意味が分からず思わずツナと同時に首を傾げてしまう。

「お兄ちゃーん」

 その瞬間、聞こえてくる兄を呼ぶ声。

「どうしたキョーコ!?」

 その呼ばれた声に、目の前の先輩が返事を返す。

 えっと、キョーコって、何だろう聞いた事がある名前……

「もーカバン道におっことしてたよ!」

 不思議に思いながら振り返れば、ツナと同じクラスの笹川京子ちゃんがカバンを抱えてこちらに向かって走って来ている姿がある。

「あ…ツナくんにくん、おはよう!」
「スマン」

 抱えていたそのカバンを目の前の先輩に渡してから、俺達の存在に気付いた京子ちゃんがニッコリ笑って挨拶の言葉をくれる。
 京子ちゃんからカバンを受け取った先輩は、素直に京子ちゃんに謝罪してるし……


 えっと、それってつまり………

「?何で、ツナくん達といたの?」

 状況が理解出来ずに、思わず京子ちゃんと先輩を交互に見てしまう。
 いや、多分素直に考えれば、分かるんだけど

「あ!まさかお兄ちゃんツナくん達にメーワクかけてないでしょーね!!」
「ない!」

 そして、再度京子ちゃんが、先輩の事をお兄ちゃんと呼ぶ。

 うん、やっぱりどう考えても、この先輩は、京子ちゃんのお兄さんって事だ。
 全然似てないけど、京子ちゃんと目の前の人は兄妹なんだよね?

「ツナくん、くん、お兄ちゃんのボクシング談義なんか聞き流していいからね」
「ボクシング??」

 内心ではかなり驚いてるんだけど、どう返していいのか分からなくって黙っていれば、京子ちゃんが笑いながら話しかけてきた。
 それに聞き返すように首を傾げれば、先輩が思い出したように口を開く。

「そう言えば自己紹介がまだだったな。オレは、ボクシング部主将笹川了平だ!!座右の銘は、"極限"!!」

 って、京子ちゃんのお兄さんが熱く自己紹介してくれた。

「……うっとうしタイプだね」

 返事に困っていた俺の隣で、ツナがボソリと呟く声が聞こえてくる。
 ツ、ツナさん、それは思ってても口に出しちゃ不味いというか……

「お前を部に歓迎するぞ、沢田ツナ!」

 どうやらお兄さんには聞こえていないようで、そのままツナの肩を掴んで勧誘してます。
 えっと、それはツナにボクシング部に入れって事なんだよね??

「だめよ、お兄ちゃん。ツナくんをムリヤリ誘っちゃ――」
「ムリヤリではない!だろ………?沢田」

 だけど、京子ちゃんに注意を受けて、キッパリと返してから気弱な様子でツナに質問してるのは、どうしてだろう。

「聞かれても、困るんですけど……オレはボクシングに興味ありませんから」
「ボクシングはいいぞ!一度見学に来るといい!では、今日の放課後ジムで待つ!」

 お兄さんに質問されて、盛大なため息とついてからツナが断るように口にしたその言葉は完全無視で、自分の言いたい事だけ言ってお兄さんが『じゃっ』と手を上げて去って行く。
 何て言うか、本当に熱い人だったよ。

「ごめんね、ツナくん。ガサツな人なんだけど、意外とやさしい所もあるんだよ」

 何だか、グッタリとしてしまった俺の耳に、京子ちゃんの声が聞こえて来て顔を上げる。

「でも、やっぱりツナくん凄いね。私嬉しくなっちゃった。あんなにうれしそーなお兄ちゃん、久しぶりに見たもん」

 ニコニコと本当に嬉しそうに言われたその言葉に、京子ちゃんがお兄さんの事をが大好きなのが良く分かった。
 やっぱり、兄妹っていいよね。家みたいに皆が皆仲がいい訳じゃないのは分かってるんだけど、仲のいい兄弟を見るとホッとする。

「折角喜んでもらえてるんだけど、オレはボクシング部に入るつもりはないんだけど」
「うん、分かってる。でも、今日だけでもお兄ちゃんに付き合ってくれると嬉しいな」

 嬉しそうな京子ちゃんを前に、ツナがもう一度盛大なため息をつくと、ハッキリと自分の意思を言葉にする。
 ツナの言葉に、京子ちゃんは申し訳なさそうにお願い事を口に出す。
 そんな京子ちゃんの姿に、俺は思わずじっとツナを見てしまった。
 俺の視線を感じたのか、もう一度ツナがため息をつく。

「……今日だけは、つき合わさせてもらうよ」

 そしてツナの口から出た言葉は、渋々と言った感じがありありと分かるけど、確かに了承の言葉だった。
 その言葉を聞いて、俺はホッと胸を撫で下ろす。

「有難う、ツナくん」

 ツナの言葉に、京子ちゃんが嬉しそうな笑顔でお礼の言葉を口にする。

くんも、有難うね」

 そして、俺の方を向いて更にお礼。

「俺は、何もしてないよ?」

 だけど何でお礼を言われたのか分からなくって、首を傾げれば楽しそうな京子ちゃんの笑顔が向けられた。

「ううん、くんが居てくれるお陰だから!」

 そして続けて言われた言葉は、本当に意味が分かりません。
 俺が居るからって、何があるんだろう??

「そろそろ教室に入らないと不味いよ。、教室まで送ろうか?」
「ううん、大丈夫。そんな事したら、ツナが遅刻しちゃうよ!!」

 その理由を考えようとした瞬間、小さくため息をついたツナに声を掛けられて、慌てて返事を返せば、もう考える事は放棄されてしまった。


 きっと、ツナは分かっていてやったんだと思う。
 って事は、深く考えるような事じゃないのかな?