もう直ぐ夏休み。
季節はすっかり夏一色!
だけど、暑さに弱い俺は、まだ夏本番前から既に夏バテ気味だったりする。
うん、最近ゆっくりする暇が無いからかもしれない……。
「暑い」
煩く蝉が鳴くのを聞きながら、ポツリと呟いた俺の言葉にツナが苦笑を零す。
まぁ、夏なんだから仕方ないとしても、こんなに暑くなくってもいいと思うんだけど……
こんな時、全く汗一つかかずに涼しげな顔をしているリボーンが羨ましく思える。
チラリと塀の上を見事なバランスで歩いているリボーンを見て、小さくため息をついてしまうのは止められない。
だけど、その視線が信じられないものを見て、思わず見開いてしまった。
お、女の子が塀の上を歩いてる??
ツナもその子に気付いているのか、不振気な視線を送っているのが分かった。
そして、リボーンの前に来るとその足を止めて、危なっかしい状態でぺこりと頭を下げる。
「こんにちは――っ」
「ちゃおっス!」
って、リボーンは何の違和感もなく返事返してるんだけど、明らかに可笑しいと思うんだけど……
も、もしかして、この暑さで可笑しくなりかかってる??
「私…三浦ハルと申します」
疑問に思うような女の子の行動に、様子を見守っているとその子が少しだけ顔を赤くして自己紹介。
「知ってるぞ、ここんちの奴だろ?」
自己紹介した女の子に、リボーンが直ぐ隣の家を指差して聞き返す。
って、何で知ってるの?!
「お友達になってくれませんか?」
だけど、リボーンに質問された女の子は嬉しそうな顔で、お友達になってくださいと言う。
いや、ちょっと待って、何でリボーンに??
「いいぞ」
意味が分からない展開なのに、リボーンはあっさりと了承の返事を返す。
それに、女の子が『はひ――っ』と訳の分からない声を上げてバランスを崩して塀の上から倒れた。
「危ない!」
それに驚いて、助けようとした俺をツナの手が止める。
「大丈夫みたいだよ」
確かに次の瞬間には、しっかりと女の子は両の足で地面に着地していた。
すごい運動神経。
「やったあ――!!」
俺が感心している中、女の子は両手を挙げて喜んでいる。
えっと、結局この子はリボーンと友達になりたかったから、あんな不思議な行動してたんだろうか?
って、何も塀の上に乗らなくってもいいような気がするんだけど……
「あ…あの…さっそくなんですが、…こう…ギュ…っってさせてもらもらえませんか?」
リボーンから友達になってもいいという許可を貰って、かなり嬉しそうな女の子が申し出た内容はリボーンにとっては絶対に許可がもらえないような内容だった。
いや、なんだか自分の体をギュって抱き締めてるんだけど、傍から見たらかなり引きます。
「気安くさわるな」
予想通り、リボーンから出たのは冷たい言葉で、その言葉を聞いて女の子が落ち込んでるんだけど……
それに、まだ触ったわけじゃないんだから、ちょっと日本語可笑しいです。
「オレは、殺し屋だからな」
そして、何処から出したのか拳銃を持っての何時もの台詞。
「リボーンさん、それはどうかと思うんですけど……」
「何時もの事だから、気にしちゃ負けだよ、」
見ず知らずの一般人にそんな事言うのもどうかと思うんですが、いや、普通に聞くと子供にそんな事言われたら流石に普通の人は引く……
と思った瞬間、ツナに引き寄せられた。
あれ?と思った瞬間、風が俺の髪を揺らす。
「何するの?」
「最っ低です!!何てこと教えてるんですか!?殺しなんて……」
俺を引き寄せたツナが、目の前の女の子を睨んでいる。
どうやら俺は、その女の子に殴られそうになったのをツナが引き寄せる事で回避してくれたらしい。
俺を叩けなかった事で、女の子は空振りをしたにも関わらず、キッと俺達を睨んできっぱりとした文句を口にした。
「えっと」
「最低なのは、あいつ本人だと思うんだけど……」
「赤ちゃんは、まっ白なハートを持った天使なんですよ!!」
女の子の文句にどうすればいいのか分からなくって困惑している中ツナは呆れたようにため息をつき、俺達の言葉を全く聞いてない女の子は訳の分からない事を口走っている。
いや、確かに赤ちゃんは天使って言うのは分からなくも無いんですが、それは相手によるって言うか……
一歩離れた距離を生めて、女の子が俺達の方へ近付いてくる。
そして、伸ばされた手をパシリとツナが叩いた。
「あなた達はそんないたいけな純情を腐ったハートでデストロイですか!?」
ツナに手を叩かれても全く気にした様子もなく、女の子が勢いのままに文句を言ってくる。
えっと、意味が分からないんだけど……
「そいつの事は、オレ達には関係ないよ」
凄い剣幕の女の子にツナは、盛大なため息をつきながらも興味がないというように否定する。
いや、えっと、確かに俺達がリボーンに殺しを教えた訳じゃないけど、そんな事興奮している相手に言っても……
「何が関係ないよ!!」
頭に血が上っているのか、予想通り女の子が怒鳴り声を上げた。
その様子を、当事者であるリボーンは全く関係ないというような表情で傍観してるし……
「うそつきです!あなた達リボーンちゃんのお兄ちゃんでしょ?よく一緒にいるのみてるんだから!」
「オレは、そんな奴の兄になった覚えは無いんだけど、オレの弟はだけだからね」
いや、うん、俺達がリボーンの兄弟じゃないのはその通りなんだけど、何でそんなに喧嘩腰なんですかお兄様……穏便に話し合いを……
「じゃあ、なおさら最悪じゃないですか!他人の赤ちゃんをデビル化なんて――!!」
えっと、なんて言うか、全く話が通じてないというか、この子の中で俺達最悪な人間に分類されてるみたいなんだけど
「いいですか?あなた達は、もー、リボーンちゃんに会っちゃダメですよ!悪影響です」
ズイッと顔を近付けてきての言葉に、俺は思わず顔を後ろに引いてしまう。
そうすれば、後ろで支えているツナに当たった。
「それは願ってもない内容なんだけど、オレとしては」
って、ツナはなにさらっと返しちゃってるんですか?!!
大体、一緒に住んでるのに顔をあわせないとか無理だから!!
「あのね」
「そーはいかねーぞ」
見かねて口を開こうとした言葉は、傍観していたリボーンによって遮られた。
「ほぇ?」
突然のリボーンの言葉に、女の子が不思議そうな表情でリボーンを見る。
「こいつ等をマフィアの10代目ボスに育てるのがオレの仕事だ。それまで、離れられないんだ」
真剣な表情で言われた瞬間、またしても風を感じてツナに肩を引かれた。
って、今度は右ストレートに拳で殴ってきてるように見えるのは、俺の気の所為ですか?
もしも、ツナが俺の事をさり気に動かさなければモロに殴られていたんですけど……
「なにがマフィアですか!不良の遊びにもほどがあります!リボーンちゃんの自由まで奪って」
「オレからも言わせてもらってもいいかな?君がなにをしようと自由だけど、を傷付けようとするなら容赦はしないよ」
後ろからツナの殺気が!!!
って、この二人の会話繋がってないし!!!
「ちょっ、あのね」
って、ツナの殺気にも気付かずに、凄い形相で睨まれたし!
しかも、何かこの子からも殺気が……
俺とツナを睨んで、リボーンには笑顔で挨拶して女の子が離れていく。
えっと、結局何だったんだろう……
「、あんなのには関わっちゃダメだからね!」
って、何でかツナに念を押されちゃったんだけど、俺としてもちょっとあの子とはあんまり係わりになりたくないような……うん、多分無理だと思うけど……
「今日も暑いね」
「そうだね」
昨日の事があって若干複雑な心境で学校へと向かっていた俺とツナは、のんびりと話をしながら学校への道を歩いていた。
本気で暑くって、頭がぼっ〜とするかも……
しかも、ガシャンガシャンって言う変な音が聞こえてくるのは、暑さの所為で耳鳴りが聞こえてる??
「えっと、何か変な音が……耳鳴り?それとも幻聴?」
「耳鳴りでも幻聴でもないみたいだよ」
かなり変な音が聞こえてくるから思わず口に出した言葉に、ツナが後ろを振り返りながら否定してくれた。
いや、でも否定されても……そう思いながら、ツナに習って後ろを振り返った瞬間、言葉を失ってしまう。
昨日のあの女の子が、鎧姿で、手にはゴルフドライバーとヘルメットを持って俺達の方へと近付いてくる。そう、あのガシャンガシャンと言う音をさせながら
「き、君!だ、大丈夫なの?!」
その顔は寝不足の為なのかクマが出来ていて、ちょっとだけ顔色が悪い。
思わず心配して声を掛ければ、ギロリと睨まれた。
「昨日、頭がぐるぐるしちゃって眠れなかったハルですよ」
「ふーん、寝不足だと、そんな格好するの君?」
んで、俺の質問は無視で女の子が状況を説明するように呟けば、感心したようにツナが返す。
いやいや、流石にそれはないと思うんですけど
「ちがいますーっ、それじゃ私おバカですよ」
って、即効でツナの言葉を否定する。
そりゃそうだろう、寝不足でそんな格好するなんて、本当にバカ以外の何者でもない。
「リボーンちゃんが、本物の殺し屋なら、本物のマフィアのボスになるあなた達はとーってもストロングだと思うわけです」
って、ちょっと待って!
確かにツナは強いかもしれないけど、俺は、俺は……
「あなた達が強かったらリボーンちゃんの言ったことも信じますし、リボーンちゃんの生き方に文句は言いません」
淡々と話しながら、ハルちゃんは手に持っていたヘルメットを被る。
「お手あわせ願います!」
そして、ゴルフドライバーを振り上げて俺達に向かって来た。
って、どう考えても俺にはそれを避ける事が出来ないんだけど……
そう思って、ギュッと目を瞑った瞬間、ガンッと言う音が直ぐ傍で聞こえて、恐る恐る目を開く。
「言ったはずだよ、を傷付けようとするなら、女でも容赦しないって」
「って、ツナ!」
「は下がっててくれる?こいつは3回もを傷付けようとしたんだから、許せない」
振り上げられたドライバーは、ツナの鞄で防がれたみたいだ。
あのガンッと言う音は、一体何の音?!ツナの鞄て、一体なにが入っているんだろう???
防がれた事で、ハルちゃんはちょっと驚いているみたいだけど慌てて俺達から距離をとった。
だけど問題なのは、不機嫌そうに言われたツナの言葉だ。
だって、相手は普通の女の子なんだから!
「ちょっと待って、俺達はマフィアのボスになるつもりはないんだよ!」
「じゃあ、やっぱりリボーンちゃんをもてあそんでるんですね!!」
このままじゃ不味いと思って慌てて口を開けば、何かますます彼女を怒らせてしまった。
いや、俺達リボーンをもてあそんでなんてないから!!逆はしょっちゅうされてるけど……
「10代目下がっててください!!」
本気で困っている中、突然女の子と俺達の間に獄寺くんが割って入ってきた。
って、何時の間に!!
「果てろ」
そして、何時もの台詞を言って投げられたのはダイナマイト。
「ちょっ、獄寺くん!!」
止める間もなかったそれは、目の前に居るハルちゃんの方へと落ちていく。
「あれ?ドカーンってやつですねー」
それに、何処か暢気な声が聞こえて来たけど、きっと彼女は事の重大さに気付いてない。
「危ないから逃げて!!」
もう遅いと分かっていても、声を掛けずには居られない。
声を張り上げた瞬間ドガンと言う派手な音と共に、女の子の悲鳴が聞こえて来た。
て、多分悲鳴だと思う。『はひ―――っ!!!』て言うちょっと間抜けな声だったけど……その後直ぐに、ザボーンと言う水に何かが飛び込んだ音が……
「落ちた!!」
「これでもう大丈夫です」
それに慌てて橋から下を見れば、ハルちゃんが何とか浮かび上がってきた。
って、満足そうな獄寺くんは、どうかと思う。
必死で泳ごうとしてるみたいだけど、全然前に進まずに今にも沈みそうな状態。
ああ、鎧が重くって上手く泳げないんじゃ!!
「たすけ…ゴボッ……たすけてぇーっ!!」
そう考え付いた瞬間、助けを求める声。
「は、早く助けないと!!」
本当に大変な事になっている状態で、俺は慌てて身を乗り出そうとした瞬間
「助けてやる」
聞こえてきた声に視線を向ければ、橋の手摺に立っているリボーンの姿。
って、何時来たんだろう??
「だめです!この川はリボーンちゃんが泳げるよーな…」
確かにハルちゃんが言うように、この川はリボーンが助けに行くのはどう考えても無理。
俺だってそんなに泳げる方じゃないけど、このまま彼女を見捨てる事なんて出来るはずもない。
誰かが、飛び込むしかない。
そう思って再度飛び下りようと身を乗りだした瞬間、それよりも先に隣で飛び込む人が居て視線を向ければツナが綺麗な飛込みを見せていた。
「ツナ!!」
綺麗に川へと飛び込んだツナに、驚いてその名前を呼ぶ。
「予想通りだぞ」
そんなツナに、ニヤリとリボーンが笑みを見せた。
よ、予想通りって、ツナが飛び込むって分かってて『助ける』って……
バッと下を見れば、ツナがハルちゃんを助けて、岸へと泳いでいる姿が見えた。
「早く、下に下りなきゃ!」
それに気付いて慌てて下に降りれる場所へと足を向ける。
「おいダメ、走るんじゃねぇぞ」
って、後ろからリボーンの声が聞こえてくるけど今は無視。
走れる訳じゃないけど、必死に精一杯のスピードで川岸へと急ぐ。
「おい、待てよ!」
そんな俺に、後ろから獄寺くんの声が聞こえて来た。
勿論、その声でも止まるつもりはない。
でも、止まらない俺にも全く気にした様子もなく、盛大なため息が聞こえてきたと思った瞬間、後ろから抱え上げられた。
「ご、獄寺くん!!」
突然の事に驚いてその名前を呼べば、ちって舌打されちゃたんですけど
「お前が無茶すると、10代目が心配するんだよ!」
「……あ、ありがとう」
だけど、言われた言葉は多分俺の事を気遣ってくれる言葉。
それに素直にお礼を言えば、『お前の為じゃねぇ』って言われた。
獄寺くんに運んでもらったお陰で、早く川岸にたどり着けたけど、俺を抱えている獄寺くんを見て何故だかツナの機嫌が悪かったのは気の所為だろうか??
「ツナ、ハルちゃん大丈夫?!」
「ああ、大丈夫だよ。って、なんで獄寺がを抱き上げてきての?」
獄寺くんに下ろしてもらって、ツナに質問すれば不機嫌な声で獄寺くんに質問。
あれ?やっぱり不機嫌なのは気の所為じゃないみたい……。
「いや、あの、ここに、その」
ツナに質問されて、獄寺くんがしどろもどろで、必死に説明しようとしてるんだけど、言葉になってないんですけど
「俺の足を心配して連れて来てくれたんだよ」
「うん、分かってるよ、」
そんな獄寺くんに変わって、俺が説明すればニッコリと笑って頷いてくれる。
えっと、分かってるのに、何でそんなに不機嫌なんだろう。
「ありがとーございました…」
取り合えず持っていたタオルを膝を抱えて座っているハルちゃんの頭に乗せれば小さな声でお礼の言葉が聞こえて来た。
「ったく、反省してんのか?10代目にもしものことがあたら、おめーこの世に存在しねーんだからな」
って、何するつもりだったの!獄寺くん!!
でも、確かにツナにもしもの事があったら、俺は……
考えた事にぞくりと背筋に冷たい汗が流れる。
「ザバーンって、私のために飛び込んでくれた10代目、すっごく素敵でした」
怖い考えを振り払う為に小さく首を振った俺の耳に、うっとりとしたハルちゃんの声が聞こえて来た。
「さっきからドキドキしてムネが…っ」
って、反省しているようには見えないし、ギュッと胸を押さえる姿は恋する乙女と言ってもいいと思うんだけど
「ハルは、あなたに惚れたもようです」
言いながら、真っ直ぐにツナへと向けられる視線。
そりゃそうだろう、危険も顧みず自分の為に飛び込んでくれた人に惚れるのは当然……
でも、どうしてだろう、こんな所見たくなかった。
「君、確かリボーンのことが好きなんだろう?」
「今は、あなたにギュっとしてもらいたい気分です」
って、自分の事を抱き締めるように言われたそれは、昨日リボーンの前でしていたのと同じだった。
いや、同じじゃない。
だって、リボーンに対しては母性本能って言うんだろうけど、ツナに対して持っているのは、確かな恋愛感情……。
「悪いけど、オレには誰よりも好きな人が居るから……」
目の前の二人を見ていられなくって、下を向いた瞬間、ツナが冷たいとも取れる口調でキッパリとハルちゃんに意思を伝える。
「それに、オレが君を助けたのは、に無茶なことさせたくなかったからだしね」
そして、続けて言われたそれに、驚いて顔を上げれば複雑な表情で俺を見ているツナの視線とぶつかった。
「それでも、ハルは諦めませんから!!」
だけど、ハルちゃんは強かった。
うん、そうだよね、好きなら、そんなに簡単に諦められるはずなんてない。
複雑な気持ちで、その日は学校をサボってしまった。
うん、ツナはびしょ濡れだから、学校行けないって事もあったんだけど
何よりも、飛び込もうとした俺に対して、ツナの長い説教が待っていたのは言うまでもないことだと思います。