ノルマを達成して、何とか委員長さんから開放してもらったのは、既に空が夕焼けに染まった時間帯。

 あう、ツナが怒ってるよ、絶対……。
 それに、今思い出したんだけど、昨日って定期検診の日だったんだけど……俺サボりました。

 今日は、無理だから、明日病院行かなきゃ先生に怒られるんだろうなぁ……
 でも、不可抗力だから、許してください。





「ただいま」
「お帰り、

 疲れきって戻った家で待っていたのは、不機嫌なのを隠していない綱吉さんでした。
 このまま、回れ右しちゃダメですか?

「……た、ただいま、ツナ」

 逃げ出したい気持ちを必死に抑えて、精一杯の笑顔でツナに挨拶の言葉を返す。

「うん。で、何処に行ってたの?」

 精一杯の俺の笑顔をさらりと無視して、冷たいともとれる笑顔で返された質問。

「えっと…………病院に…」
「検査入院って言ってたけど、どんな無茶したの?!」

 そう言う風に伝えられてると聞いていたので、素直にそう口にすれば質問で返されました。
 えっと、俺は無茶してません。

「それが………検査終わった後眠くなって、気が付いたらこんな時間に……検査の結果はね、問題なかったんだけど……」

 う〜ん、無茶な内容かなぁ……。
 でも、それ以外に言い訳が思い付かないし、後はツナが信じてくれる事を祈ります。

「……検査入院なんて言ってたから、また無茶したのかと思った………本当に、大丈夫なんだよね?」
「うん、俺は大丈夫だよ。そう言えば、リボーンから聞いたんだけど、ツナのクラスに転校生入ったって………何もなかった?」

 真剣に質問してくるツナに、コクリと頷いて俺も逆にツナに質問する。

 今日来た転校生は、リボーンの話だとボンゴレファミリーの一員。
 委員長さんの話では、ツナと転校生が遣り合ったって…………

「…余計な事を……」

 俺の質問に、ツナがボソリと何かを口にする。
 だけどその声が余りにも小さ過ぎて、俺には何を言ったのか聞えなかった。

「ツナ?」
「オレは、何もなかったよ」

 聞き返すように名前を呼べば、ニッコリ笑顔で返される。
 う〜ん、やっぱり本当の事は教えてくれないんだ……。
 俺も、人の事言えないんだけど………

「そっか……」

 ポツリと呟けば、その後気まずい沈黙が続く。

「あらあら、お帰りなさい。そんな所で二人共何してるの?早く上がりなさい」

 だけど、その空気を見事に粉々に砕いてくれたのが、母さん。
 こう言う時、母さんの明るさは救いになります。

「ただいま、急に外泊しちゃってごめんね」
「それは、仕方ないわよ。でも、問題なかったんなら、良かったわ」

 挨拶して、素直に謝罪すれば、ニコニコと笑顔で安心しましたと言われてしまうと罪悪感が……う、嘘付いてごめんなさい。
 ズキズキと痛む胸をそっと押さえながら、何とか笑顔を返す。

 平気で嘘付ける人を見習いたい。



 複雑な気持ちの中、ツナに名前を呼ばれてビクッとしてしまうのは、嘘を付いてる罪悪感からだろか

「な、なに?」

 思わず持っていた荷物を抱え込んでツナを見れば、盛大なため息をつかれてしまいました。

「ツナ?」
「何でもないよ……早く制服着替えておいで、母さんが夕飯作って待ってたんだよ」
「うん……ごめんね、ツナ」

 ため息をついたツナに、不安になって名前を呼べばにっこりと笑顔で返される。
 そんなツナに、俺は思わず謝罪してしまった。
 だって、嘘付いてるのは、耐えられません。
 何で、本当の事言っちゃいけないんだろう……悪い事していた訳じゃないのに

「何でが謝ってるの?」

 謝罪した俺に、ツナは意味が分からないというように質問してくる。
 ごめんなさい、俺の罪の意識が無意識に……

「えっと、その、心配掛けちゃったから……」
「心配は好きでしてるんだから、が気にする事ないよ」

 言い訳のように言ったそれに、返してくれたツナのその心が優しくて思わず感動してしまう。
 本当に、ツナって優しいよね。

「有難う、ツナ」

 感動しながら、礼の言葉を述べて俺は漸くその場を離れる事が出来た。
 その後ろで、ツナが盛大なため息を付いた事にも気付かずに……







 次の日の今日は、普通に過ごせると思っていた。
 放課後、ちょっと早めに帰れば、昨日行けなかった病院にもちゃんと行けるとそう思っていたのに……

 朝に、転校生の獄寺くんがツナを迎えに来た事からすべてが始まっていたように思う。
 ツナが獄寺くんの事を紹介してくれたんだけど、俺に対しては余りいい印象ではなかったらしく正直冷たくあしらわれてしまった。

 ツナには、10代目ってすっごく慕っているんだけど……一体、昨日何があったんだろうか??
 夢の中では、険悪だったのに


 そして、3人で学校に登校。
 獄寺くんは、ツナの鞄を持って、ツナは俺の鞄を持ってくれたんだけど、気が付いたら二人分の鞄を獄寺くんが持っていたなぁ。
 きっとそれも、獄寺くんには気に入らなかったんだろう。
 うん、俺は獄寺くんに嫌われているみたいです。
 ツナは、そんなこと気にした様子もなく、俺に優しく話しかけてくるものだから、獄寺くんはまますます不機嫌だった。


 そんなことを考えて、移動教室に向かった俺だったんだけど

「例え、テストの成績が良くとも、授業に遅刻してくるような奴は、社会のルールを守れないクズだな」

 4時限目理科の授業は、実験の為に移動になったんだけど、俺は移動時間に間に合わなくて何時もの様に遅刻してしまった。
 実験の前にこの前の小テストを返していたらしく、教室に入った瞬間嫌味を言われてしまう。

 確かに、遅刻してしまった俺が悪いんだけど、ちゃんとした理由はある。
 社会に出るとその理由は役に立たないかもしれないけれど、俺は俺なりにがんばっているのに、そんな風に言わなくても……

「遅刻した事は謝罪します。でも……」
「何だ?言い訳か?言い訳などせず謝罪出来んのか?」

 そう思って口を開いた俺に、その先生はさらに嫌味で返してきた。

 根津銅八郎。
 エリートコースを歩んで来たのかどうかは知らないけど、相手を思いやる気持ちは全然持ち合わせていないみたいだ。
 俺が遅刻してきた理由だって、知っているはずなのに……

「ちょっと先生!沢田くんには、ちゃんとした理由があるんだから!!」

 ぐっと言葉を呑んだ俺に、クラスメートが救いの手を差し伸べてくれる。
 みんな俺が遅刻する理由を知っているからこそ、迷惑を掛けている俺でも庇ってくれるのだ。

 口々に言われる非難の言葉に、先生が複雑な表情をして、盛大なため息をつく。

「あくまでも仮定の話だが、エリートコースを歩んで来た私が推測するに、周りに庇ってもらうような奴はこれからもお荷物でしかないだろうな」
「なっ!」

 仮定の話とか言って、俺の事を限定で話しているし……
 そういった瞬間、周りからブーイングが起こってしまう。
 俺は、もう何も言う気にもなれず、自分のテストの用紙を貰ってから席に着いた。


 何で、あそこまで言われないといけないんだろう。
 確かに、遅刻した事は悪いと分かっている。
 でも、理由を知っている筈なのに、そこまで言われる謂れはないと思うのだ。

 って、こんな事を考えているって事は、俺はかなりあの先生に対して怒りを覚えているのかもしれない。
 もともと好きな先生じゃなかったけど、今日で大嫌いに昇格決定した。

「沢田、根津の言葉なんて気にすんなよ」

 授業が終わった瞬間、盛大なため息をついた俺に、クラスの皆が声を掛けてくれる。
 本当に、迷惑掛けているのに皆優しいよね。

「うん、有難う」

 声を掛けてくれた皆に、俺は精一杯の笑顔でお礼の言葉を返す。
 本当、理科の授業がお昼休み前にあったのがせめてもの救い。
 ちょっと、ここから動きたくないかも……


 やっぱり、俺はあんな風に言われた事を気にしているみたいだ。
 だって、どんなに言い訳しても、周りに迷惑を掛けている事をちゃんと分かっているから
 『お荷物』そう言われても、仕方ない。

「何か、久し振りに落ち込んだかも……」

 誰も居なくなった教室で、俺はもう一度盛大なため息をつきそのまま机に突っ伏した。

!」

 その瞬間、勢い良く教室の扉が開かれて良く知った声に名前を呼ばれる。

「ツ、ツナ?」

 突然の人物の登場に、驚いて顔を上げ相手の名前を呼ぶ。

「根津の馬鹿に嫌味言われたって?」
「えっと、何で知ってるの?」

 そして、質問されるように言われたその言葉に、俺も思わず聞き返してしまう。

「そんなののクラスメートが数人来て教えてくれたに決まってるよ!」

 俺の質問に、ツナがキッパリとした口調で教えてくれる。
 えっと、決まってるんだ……な、何で皆、ツナに報告してるの?!

「確かに、言われたけど、ほら本当の事だから……俺は、気にしてないよ」
「本当の事?理由知ってるのに、嫌味言うのの何処が本当の事なの!!」

 心の中は燻っているけど、気にしちゃ負けと言うように出来るだけ笑顔で返した俺に、ツナが不機嫌な表情で返してきた。
 いや、確かに理由知ってるから、ツナの言い分は間違いじゃない。
 俺も、実際そう思ったし……

「ムカつくんだけど……」
「ツ、ツナ?」

 ボソリと呟かれたその言葉に、恐る恐る名前を呼ぶ。

「元からあいつは気に入らなかったんだよね。大丈夫、は心配しないでいいよ……何がエリートコースだか……学歴詐欺だって事はとっくの昔に知ってるんだからね」

 サラリと言われたそれに、一瞬我が耳を疑ってしまう。

「が、学歴詐欺って……何で、ツナがそんなこと知ってる訳!?」
「そんなの、この学校に入る前に調べたに決まってるよ」

 信じられない事を聞いたというように大声を上げれば、当然のように返されるツナの言葉。
 調べたって、調べて何とかなる事なの?

「もともとあいつの事は大嫌いだったから、さっさと処分して貰った方がいいよね」

 しょ、処分?!いや、あの、処分って……しかも、貰うって、誰に?

「あ、あの、ツナ……」
「大丈夫、は何にも心配しないでいいからね」

 って、言われても……心配なんですが!一体何をするつもりですか、お兄様!!




 そして、その日を境に、根津先生は解任されたという話を聞いた。

 本当に、何をしたんだろう、ツナは……