ツナに、教えなくては……
少しでも危険があるからこそ、夢を見せられたのに、こんな所で寝ていちゃダメ。
早く、起きなくっちゃ
起きて、ツナに教えてあげなきゃいけない……
「ツナ!!」
ガバリと起き上がった瞬間、思わず辺りをキョロキョロと見回してしまう。
「………ここ、何処?」
何で、こんな場所に居るのか、寝てしまう前の記憶があやふやで思い出せない。
「漸く起きたの?」
呆然としている中、突然の声に視線を向ける。
そこに居たのは……
「委員長さん?どうして??」
「どうして?面白い事を聞いてくるね。覚えてないのかい?」
どうしてここに委員長さんが居るのかが分からなくて、質問するように問い掛けた俺のその言葉に、委員長さんが不思議そうに問い返してきた。
覚えてない?何の事?
「昨日、あの赤ん坊に気絶させられたからね、覚えてなくても仕方な………」
「思い出した!!ツナ!!」
疑問に思っている俺に、委員長さんが小さくため息をついて、昨日の事を教えてくれる。
それで、すべてを思い出した。
こんな所で、暢気に寝てる場合じゃない!
慌ててベッドから飛び降りようとした俺に、委員長さんが小さくため息を付く。
「残念だけど、今の時間はとっくの昔に昼休みは終了してるんだけど……」
「なっ」
「沢田綱吉は、君の夢の通り転校生と乱闘したみたいだよ」
教えてくれた委員長さんの言葉に俺は愕然としてしまう。
何で俺、こんな大事な時に寝ていたんだろうか、自分が情けなさ過ぎる。
「残念な事に、沢田綱吉に怪我はない。その転校生にやられたのは、札付の三年が数人だけ」
落ち込んでいた俺に、委員長さんが続けて説明してくれた。
「怪我、してない?」
「何、ボクの言葉を疑うのかい?」
説明された内容に、俺は再度確認するように委員長さんを見上げた。
そんな俺の質問に、委員長さんが不機嫌そうに問い返してくる。
俺はその言葉に、大きく首を振って返した。
怪我をしてないと言うその言葉を聞いて、ホッと息を吐き出す。
あんな夢を見たから、大変な事になるかもと思っていたのに……良かった、ツナは無事だったんだ。
なら、俺はなんであの夢を見たんだろう。
誰かが回避しない限り、夢は確実に現実になっているのに………
「ねぇ、なんでそんなに驚いてるの?」
夢を見たのに、危険がなかったというなら、何で俺は夢を見たのか……
もしかして、小さな事でも夢で見られるようになったんだろうか?
そうだと有難いんだけど、少しでも危険があるのなら、それを全て回避したい。
だって、ツナや大切な人たちが傷付くところなんて見たくないから………
「ねぇ、聞いてる?」
「はい!」
チャキと音がした瞬間、目の前に迫っていたのは、委員長さんのトンファー。
あれ?何時の間に出したんだろう??
質問されたそれに、思わず返事をしてしまったけど、えっと、何を聞いていたんだろう?
正直言えば考えに没頭していて、聞いてなかったんですが……
「えっと、あの、何ですか?」
「聞いてなかったんだね……君は、何でそんなに驚いているの」
質問した俺に、委員長さんが呆れたようにため息をつくと、多分質問していた内容なんだろう事をもう一度口にする。
「俺、そんなに驚いてましたか?」
でも、その質問に、俺は逆に聞き返してしまう。
だって、そんなに驚いたつもりはなかったんだけど……
「十分驚いてるみたいだけど、何、沢田綱吉が無事だったのが、そんなに意外だったのかい?」
俺の問い掛けに、委員長さんが不思議そうに質問してくる。
多分、俺がツナの無事を喜んでいないのが、意外なのだろう。
でも、喜んでない訳じゃないんだけどな、俺……
「えっと、ツナが無事だったのは、本当に嬉しいんですけど……その、俺が予知夢を見るのは、大切な人の命が危険になった時だけで……だから、何も対策していないのに回避できた理由が知りたくて……」
「ふーん、万能じゃないみたいだね……流石に、それだけじゃ回避出来た理由は分からないよ」
「そうだな。詳しく夢を話してみろ」
「って、リボーン!何時の間に……」
俺の説明に納得したように委員長さんが頷いて、続けて別な声が先を促すように聞えて来た。
突然の第三者の声に驚いてそちらを見れば、リボーンが居る。
「何言ってるの、初めから居たんだけど」
驚いている俺に、委員長さんが呆れたように突っ込んでくれた。
う〜っ、俺は気付いてなかったんですけど……
「で、さっさと話しやがれ!」
落ち込んでいた俺に、リボーンがイライラしたように銃口を向けて脅してくる。
「いや、えっと、話せって言われても……俺が見る予知夢は、まず日捲りカレンダーで日日が出て来て、その次に時間。後、その場面が見せられるんだけど……今回は、知らない銀髪の子がツナにダイナマイトで攻撃してた。勿論、ツナは全部避けてたんだけど、その子が最後に失敗して持っていた爆弾全部落としちゃうんだ。でも、そこで目が覚めたから、後は分からないんけどだ……」
「……確かに、危険と言えば危険だな………だが、情報としては、曖昧過ぎだぞ」
必死で夢を思い出しながら説明した俺に、リボーンが少しだけ考えるように口を開く。
確かに、情報としては不安定で、役に立たない。
でも、今までこの夢を見てきて外れた事は一度もないのだ。
初めて見たのは、ツナが車に轢かれてしまう夢。
それを初めに、母さんや俺が勝手に友達だと思っていた人が危険に晒されるような夢を何度か見てきた。
だからこそ、自信を持って言える。
この夢で、間違った事なんて一度もなかったから
「何時もは、ちゃんと最後まで見られるんだけど、今回は途中で目が覚めて……だから、どう回避したらいいのか分からなかったんだけど……」
自分が動かずに、回避できた事は一度もないからこそ、今回も何とかして回避方法を探していたのだ。
なのに、今回に限って何も起こらなかった。
それは、本当にいい事なんだけど、どうして回避できたのか、それが知りたい。
「ふーん、それが理由なんじゃないの」
「へ?」
考え込んでいた俺に、納得したように委員長さんが口を開く。
一瞬、何を言われたのか分からなくて、間抜けな声で聞き返してしまった。
「だから、夢が途中までだったからじゃないのかい」
「確かに、そう考えるのが妥当だろうな。もっとも、今回はダメツナに死ぬ気弾を撃ったからな。あいつは、一度死んだとも言える」
説明してくれる委員長さんの言葉に続いて、リボーンがさらりととんでもない事を口にする。
「って、何、その死ぬ気弾って!!ツナが一度死んだって!!!」
言われた言葉の内容が、余りにもとんでもない内容だったから、思わず大声を出してしまっても仕方ないと思う。
「うるせーぞ、ダメ。……死ぬ気弾で撃たれた者は、一度死んでから死ぬ気になって生き返る。死ぬ気になる内容は、死んだ時後悔したことだ」
俺をしっかりと怒鳴りつけてから、リボーンが死ぬ気弾の説明をしてくれる。
「それって、後悔してなかったら、どうなるの?」
「……オレは殺し屋だぞ」
恐る恐る問い掛けた俺に、リボーンが視線を逸らしながら、職業を口にしてくれた。
そんな事を言うからには、後悔した事がなかったら、死んじゃうって事なんだよね……。
「俺が夢に見たのは、それだったんだ……確かに、一かバチカの賭けになっちゃうよ」
良かった、ツナに後悔があってくれて……
そうじゃなかったら、今頃……か、考えるだけでも怖いんだけど……
「処で、話は変わるんですけど、ここ何処ですか?」
「君、今更何言ってるの?ここは、学校の校医室だよ。気絶した君を一度ボクの家に連れて帰ったんだけど、全然目を覚まさなかったからね、ボクも仕事があるし仕方なく、ここに運んだんだよ」
うっ、委員長さんには、多大なご迷惑をお掛けしてるんですね、俺。
「お手数掛けて、すみません」
「簡単に目を覚ますように気絶させる訳ねーだろう。オレに抜かりはねーぞ」
って、威張って言う事じゃないです!
せめて、委員長さんに迷惑が掛からないようにしてください。
「それじゃ、目が覚めたんなら、書類整理の手伝いしてもらうよ。そう言う約束だったんだからね」
複雑な気持ちで、リボーンを見詰めていた俺に、委員長さんがしっかりと昨日の理不尽な約束事を口にする。
いや、俺は、そんな約束した覚えなはいんですけど……
俺じゃなくて、リボーンが勝手に約束したんですから……
「しっかり働けよ、ダメ。ちゃおっス」
人の事を勝手に取引の材料にしてくれたリボーンは、見送るように手を振る。
俺はと言えば、委員長さんに抱え上げられて、そのまま校医室を後にする事になった。
あの、最近、抱え上げられ過ぎのような気がするんですけど……。
もしかして、荷物かなんかと勘違いされてるんだろうか?
それは、それで悲しいんです……。
遅いかもしれないけど、俺ちゃんと歩けるのに…………。