試合は、ツナのクラスが圧勝だった。

 いや、別段ツナが目立った動きをした訳じゃないんだけど、きっとこの日の為に他のメンバーは一生懸命練習してきたんだと思う。


 怪我でボロボロの状態でも必死に頑張っていたその姿は、本当に青春って言葉が似合う程だ。

 まぁ、その中で一人冷静なツナはちょっとだけ浮いてる存在ではあったんだけどね。
 卒なく何でもこなせるツナは、やっぱり俺の大切な兄で、大好きな人なんだと改めて再認識させられてしまった。







「お疲れ、ツナ!それから、楽勝だったね」

 結局、最初から最後までツナのクラスで応援した俺は、試合が終わった瞬間自分の方へと歩いて来るツナに労いの言葉を贈る。

「うん、が応援してくれたからね、負ける訳にはいかないよ」

 何故か京子ちゃんから預けられたタオルを渡しながら言った俺の言葉に、ツナがニッコリと笑顔を見せてくれた。
 しかも、嬉しそうにタオルを受け取ってくれたお陰で、周りの女子の視線が痛いんですけど……

 京子ちゃんだけは満足そうな笑顔を見せてるのは、何で??

「いや、俺が応援したからって、勝てないから!それに、俺自分のクラスそっちのけでツナを応援しちゃってたんだけど、本当に良かったのかなぁ」
「気にしなくってもいいよ。球技大会に命掛けてるような人は居ないだろうからね」

 って、心配していった俺のそれに、ニッコリと笑顔で返された言葉に苦笑を零してしまう。
 な、なんて言うか、必死に練習してたツナ以外のメンバーに喧嘩売ってるような気がするんだけど、き、気の所為だよね?

「そこそこの動きだったな、及第点はだしてやるぞ」
「……なにこれ、何でこれが居るの?」

 俺の渡したタオルで汗を拭いているツナに、リボーンが満足そうに口を出してくる。

 それに、ツナが一瞬で不機嫌な表情をした。
 あ〜っ、何でこの二人って、こんなに仲が悪いんだろう……。

「あのね、ツナ、リボーンも応援してくれたんだよ」
「こんな奴の応援はいらないよ。それに、応援よりも、人が失敗する方が良かったんじゃなの、こいつの場合!」

 た、確かに、そうかもしれない。失敗したら、喜んで突っ込みそうだよね、リボーンって……


 いや、えっと、なんて言うかコメントに困るような事を言わないで下さい、お兄様。

「失礼な奴だな。まぁ、オレは寛大だから気にしねーぞ」
「……寛大、ねぇ……で、また何を企んでるんだ?」
「ツ、ツナ!他の人の目もあるから……」
「何も企んでねーぞ。おまえがバレーに出るって聞いたから見に来てやったんだからな」

 あうあう、すっごく険悪な空気が流れているんですけど……。

「本当、このボーズおもしれーよな、!」

 全然面白くないから!!
 何で、この険悪がムードをあっけらかんと笑いながら暢気な事が言えるんだ、山本!!

「面白くないから!全然!!」

 半分泣きそうになりながら、思いっきり否定する。
 何でこんなに険悪なんだろう、この二人。

 そりゃ、確かに理不尽って言ったら理不尽だけど、態々イタリアから俺達の家庭教師として来ているんだから、邪険にする事は無いと思うんだけど……。

 内容自体は、問題ありまくりだけど……

「昨日も来てたよね?くんとツナくんの弟さん?」

「えっと、分け合って預かってる子供です」

 険悪な雰囲気の二人に係らないように、一歩下がった場所で見守っていた俺に、京子ちゃんが不思議そうに質問してくる。

 それに、一瞬だけ考えて、一番無難な答えを返した。

「あっ!何か、俺達のクラス集合掛かってるみたいだから、教室戻るね。京子ちゃん、悪いんだけど、ツナに言っといてくれるかな?」
「うん、いいよ。気を付けてね」

 俺達のクラスは、ツナのクラスに負けてしまったので、今日はこれで終わりだろう。

 そう思っていた瞬間、教室に戻れと言う声が聞こえてきたので、京子ちゃんにその事を言えば、何故か心配さえてしまった。

 う〜ん、俺ってそんなにドジそうに見えるんだろうか??

 思わず苦笑を零して、その場は頷いて自分の精一杯のスピードで体育館を後にした。







 予想通り今日はもう解散となって、俺は一人で校舎裏へと来た。

 まだ体育館の方では、試合が続いているんだろう。
 このままツナを応援しに行ってもよかったんだけど、そんな気分にはなれなかった。
 俺の今の頭の中は、明日の事で一杯だったから

「……明日の昼休みだったよね……」

 時間から考えれば、間違いなくそのぐらい。
 見た事のない生徒、そして、ツナの命を危険に晒す相手……。

「だから、あんな夢を見る……」

 予知夢を見るのは、俺にとって大切な人の危機だけ。
 だからこそ、俺は大切な人を守る事が出来る。
 何の力もないけど、前もって分かれば何とかする事が出来るから……

 相手の武器は、ダイナマイト。

 なら……

「それが、おまえの力か?」
「リボーン」

 突然声を掛けてきた相手に、俺は少しだけ困ったように苦笑を零してしまう。


 本当に、神出鬼没だよね、リボーンって……

「どれを指しての力なのかは分からないけど、多分、俺の心を読んだんなら、そうだよ……」

 ずっと試合を見ながらも考えていたのは、明日の事。

 どうすればツナが傷付かないで居られかを、ずっと考えていた。

「あんなに真剣に考えられちまうと、嫌でも分かっちまうぞ」

 そっと呟いたそれに、リボーンがため息をつきながら口を開く。
 それに俺はただ苦笑を零した。

 だって、それは俺にとって、何よりも大切で優先しなければいけない事だから……

「獄寺隼人」
「えっ?」

 口を開こうとした瞬間に、言われたのは人の名前。
 一瞬何を言われたのか分からずにリボーンを見詰めてしまう。

「オレがイタリアから呼んだファミリーの一員だ」
「何、言ってるの?」

 説明される内容が信じられなくて、質問するように問い掛ける。

「獄寺隼人は、体のいたる所にダイナマイトを隠し持った人間爆撃機だって話だぞ。又の名をスモーキン・ボム隼人」

 淡々と説明されるように言われる内容は、多分俺が夢で見た相手。

「どうして、ファミリーの一員がツナを!」
「テストだ。こんなに早く来るとは思ってなかったんだが……ボスに相応しい器かどうかを見極めねーといけないからな」

 真っ直ぐに俺を見詰めながら言われたのは、家庭教師としてのリボーンの言葉。

 確かに、器を測る事は大事な事だと思うけど、だからって仲間同士が傷付け合うなんて……


「まだ、仲間じゃねーだろう。勘違いすんじゃねーぞ、ツナもおまえも、まだボス候補なだけで、ボスな訳じゃねーかんな」

 俺の考えを読んで言われたそれに、ぐっと言葉に詰まる。
 確かに、俺達は候補であって、ボスに選ばれた訳じゃないのだ。

「でも、ならなんでツナだけに!」
「おまえに戦闘は期待してねーかんな」

 キッパリと言われる言葉は、すべて当たり前過ぎる内容で言い返す事が出来ない。
 俺には、戦闘なんて出来ない。
 この右足が、役に立ってくれないから……

「わぉ、明日、面白い事が起きるみたいだね。普通なら、予知夢なんて話は信じないんだけど、君の言葉を信じて邪魔しないで上げるよ」
「委員長さん!」

 言葉に困っていた俺の耳に、新たな声が聞えて来て思わず大きな声を出してしまう。

 い、何時の間に来たんだろう、この人。
 リボーンといい委員長さんと言い神出鬼没過ぎる。

「そいつは、助かるぞ。お礼に、こいつを明日一日貸し出してやる」
「って!ちょっと待って!!そこで、何で勝手に……」
「いいよ、その報酬で受けて上げるよ、赤ん坊」

 突然すぎるそれに、対応できないで居た俺とは違って、多分気付いていたのだろうリボーンが勝手な事を言ってくれた。

 それに、楽しそうに委員長さんが了承する。
 お、俺の人権無視ですか?!

「調度書類が溜まってるんだよ。明日は一日応接室においで、出席扱いにしてあげる」

 書類が溜まってるのは知ってるんだけど、だからって何で俺が!!

「頼むぞ、そいつに邪魔される訳にはいかねーかんな」
「ちょ、リボーン!!」
「まぁ、報酬は確かに貰った事になるから、聞いてあげるよ」

 ツナを護る為に考えていたそれは、すべてリボーンの手によって手出しできなくなってしまった。

「ツナには言うんじゃねーぞ、ダメ


 言うなって、言うに決まってるじゃないか!!!!
 だって、ツナが危険だって分かってるのに、無視できる訳がない。

「仕方ねーな」
「えっ?」

 呆れたようにため息をついた瞬間、リボーンがジャンプするのが見えた。
 そして動きを確認しようとした俺の意識は、そのまま闇の中へと沈んでしまう。


「ヒバリ、明日までこいつを預かって置けよ。ママンにはオレから話して置く」
「ふーん、いいのかい?ボクは、この子を狙ってるんだけど」
「おまえは、気を失ってる相手をどうこう出来る奴じゃねーだろう」

 俺の意識が無くなってから、そんな会話がされた事なんて、知らない。


 ただ、俺の意識は深い深い闇の中へと沈んでいくだけだった。