家に帰って、結局全部を話す羽目になってしまった。
 委員長さんが、ツナの事を教えてくれるって、言う事を……

 ツナは俺の話を聞くと、苦い顔をしてしまった。
 一体、ツナに何があるって言うんだろう。

 『噂の沢田綱吉』って、どう言う事。

 そう聞きたかったんだけど、ツナの顔を見てしまうと何も聞けなかった。


 だって、聞いて欲しくないって言う顔をしていたから

 だから、聞けない。
 ツナが、話してくれるまでは……






「えっと、マフィアのボス。裏社会に君臨する闇の支配者。何人もの信頼できる部下を片手で動かし、ファミリーのためならみずからの命をはることもいとわない。彼のまわりには信望と尊敬の念がとりまき、スラムの少年はヒーローとあがめたてる?」

 って、何で朝早くに起こされて、俺はこんな本を読んでいるんだろう……。

 正直言えば、今日は例の夢を見たので起こしてもらえたのは助かったんだけど、何でそれが朗読する事に繋がってるんだろうか?

「なんで、疑問系なんだ?」

 『マフィアのすべて』と書かれた本を片手に読み上げた俺に、しっかりとリボーンの銃口が向けられている。

 正直言えば、銃で脅されるままに本を読んでいたのだ。
 リボーンさんに、叩き起こされて……。
 なので、思わず最後が疑問系になってしまったんだけど、それさえもリボーンは気に入らなかったのだろう、不機嫌そうに質問してきた。

「えっと、何となく……」
「まぁ、いい。それは毎朝読めよ。おまえ達はファミリーの10代目ボスになる男なんだからな」

 これを、毎朝ですか?

 正直言って無理です。
 だって、俺が朝起きるには誰かに起こしてもらわないと起きられませんから!

「安心しろ、毎朝起こしてやるぞ」
「お前が起こさなくても、オレが起こすよ!勝手な事するなよな、リボーン!!」
「……ツナ、おはよう」

 部屋に入ってきたツナに、一瞬困った表情をしてしまうが、何時もの挨拶の言葉を口にする。

 困ったような表情をしてしまったのは、例の夢を見たから……
 だから、一瞬どう言う表情をしていいのか分からなかった。
 だって、あんな夢を見て、平気な訳がない。

「おはよう、。って、何持ってるの?」
「えっと、『マフィアのすべて』?」

 挨拶をした俺に、ツナも挨拶を返してくれた。
 そして、俺が手に持っていたその本が気になったのだろう、質問してきたそれに、思わず疑問符で返してしまう。

 うん、だって、こんな本があるなんてビックリしたんだけど、俺。

「って、リボーン!に何を読ませてるんだよ!!」

 本を見せながら言った俺に、ツナがリボーンを怒る。
 いや、別に本を読むぐらいで怒らなくてもいいと思うんだけど……

「うるせーぞ。それは、ボスになる奴が読むには調度いい本だからな。おまえも読めよ、ツナ」

 怒鳴ったツナに、リボーンは軽くあしらってから、しっかりとツナにまで本を読む事を勧める。

 えっと、これは読まなくても良いような気がするんだけど……
 なんて言うか、何処のマフィアヒーロー小説って言う内容だし……
 マフィアって、こんな風に読むだけで理解できるもんじゃないと思うんだけど、俺は。

「そんなモノ読む気はないよ!にもそんなモノ読ませないでくれる?」
「いや、別に読むぐらいは全然平気なんだけど……内容はどうかと思うんだけど、ね」

 不機嫌そのモノにリボーンに文句を言うツナに、苦笑を零しながら言葉を返す。

 うん、読むのは別にいいんだけど、読書は嫌いじゃないからね。
 でも、内容がね、なんて言うか、何処の作り物って言う内容で、ちょっとだけついていけない。
 だって、マフィアは、所詮マフィア。
 ヒーローと崇められるような存在には、決してなれはしないのだ。

「オレは、読めと言ってるんだぞ。おまえらはボンゴレ10代目のボスになるんだからな」
「ボスになるつもりはないって何度も言ってるんだけど」
「心配はいらねーぞ、あとはこっちで勝手にやるから」

 えっと、もう何度同じ言葉を聞いたんだろう。

 出来れば、聞きたくない話だと思うのは、真剣な二人には申し訳ない事なんだろうか……

「ツナ、準備しないと、今日は球技大会のバレーに出るんだよね?」
「ああ、うん、そうだね」
「なら、ちゃんと朝御飯食べないと、体が持たないよ」

 そのまま言い合いが始まるだろうと分かっているから、さり気無く声を掛けて、意識をこちらへと向けさせる。
 勿論、言ってる事にウソ偽りはないから、ツナも素直に頷いてくれた。

「んじゃ、俺も早起きしたから、ゆっくり御飯食べようかな」

 言って、ベッドから起き上がる。

 見た夢を少しでも気にしないように、出来るだけ明るく。

 だって、あの夢が起こるのは、明日。
 回避方法を考えるのは、今日中じゃないといけない。
 絶対に、ツナを傷付けたくないから、だかわ最善の回避方法を考える。

 今日は球技大会で授業がないから、ゆっくりと考える時間があるのがせめてもの救いだよね。







「あ〜っ、何で俺のクラスとなんだろう……」

 球技大会、ツナのクラスと対戦するのは、1-Cの俺のクラス。
 本当に、残念な事だけど、これじゃ堂々とツナを応援する事は出来ない。

「って、女子は気にせずにツナの事を応援してるのは気の所為?」

 自分が居る場所は、1-Cの応援席。

 流石に前に見に行く事は出来そうになかったから後の方でこっそりと見ている俺の耳には、C組の応援席なのにツナを応援する声が聞こえてきていた。

 ツナって、やっぱりモテるんだなぁ……。
 何て思いながら、殆ど見えないコートの方を見る。
 身長低い俺には、こんな後からだとツナの有志を見る事は出来ないだろう。

「よっ!」

 ちょっと残念だなぁなんて思っていた俺に、突然誰かが肩を叩いて来て驚いて振り返る。

「山本くん」
「だから、山本でいいぜ。それよりも、こんな所じゃ見えねぇだろう!前に移動しようぜ」

 振り返った先に居たのは、何故ここに居るのかが分からない山本くんだった。
 って、またくんを付けたから、突っ込まれるし……xx

「いや、俺は……」
「いいから、いいから!」

 グイグイと俺の手を引いて人込みを掻き分ける山本は、俺の言葉を全く聞く気もないらしく楽しそうに前へと移動していく。


 全然良くないんですけど!!

「到着!」

 そして着いたのは、Aクラスの応援席真ん前。

「あっ!くん」

 しかも、何故か椅子が用意されてるんですけど、何ででしょうか??

 疑問に思った俺に、誰かが俺の名前を呼ぶ。
 えっと、女の子から名前を呼ばれたの初めてなんですけど……だ、誰ですか、この可愛い女の子は???

「えっと……」
「私、ツナくんのクラスメートの笹川京子。宜しくね」

 誰だか分からなくって、どうしようかと思ったら相手が自己紹介してくれた。
 って、この子が笹川京子さん?!学園のアイドルの??

「えっと、初めまして、俺は……」
「ツナくんの双子の弟で沢田くんだよね。知ってるよ、私の事は京子って呼んでね」

 自己紹介してくれた笹川さんに慌ててこっちらも自分の名前を言おうと思ったら、先に言われてしまう。

 そう言えば、名前呼ばれたんだったけ、俺……xx

「えっと、それじゃ京子ちゃんって呼んでもいいかな?」
「うん、勿論。私は、くんって呼んでもいいかな?」

 名前で呼んで欲しいと言われたから、ちゃん付けで呼んでいいかを聞いたら、ニッコリと笑顔で許可をくれた。
 そして、俺の名前を略して呼んでもいいのかと質問してくれるから、頷いて返す。
 頷いた俺に、京子ちゃんがもう一度笑顔を見せてくれる。
 それは本当に可愛くって、彼女が学園のアイドルと言われる理由が良く分かった。

「なら、オレの事は武でいいぜ」

 ニッコリと笑顔で頷いてくれた京子ちゃんに笑顔を返した瞬間、後から山本が口を出してくる。

 えっと、それは名前で呼べって事なんだろうか、やっぱり……xx

「えっと、それじゃ、武くんでOK?」

 人の名前や苗字を呼び捨てにするのは苦手なんです、俺……xx

「くんは無しでいいぜ」

 いやいや、無理だから!
 何でそんなに呼び捨てに拘るんだろう……大した問題はないと思うんだけど

「えっと、その内って事で……」
「まぁ、今はいいか。ほら座れよ!オレ達がお前の為に準備した特等席だぜ」

 譲歩して下さいとばかりに言えば、すんなりと山本くん改め武くんが引いてくれる。
 だけど続けて言われたそれに、俺は複雑な表情をしてしまった。


 いやいや、俺の特等席って……
 一応、ツナ達の対戦相手、俺のクラスなんですけど……
 俺、堂々とツナのクラス側で応援していいのか??

 不味いでしょう、どう考えても!!


「さ、流石に、それは不味いんじゃないかと……」
「気にすんなって!ただの球技大会だからな、誰も気にする奴はいねぇよ」

 勧められた椅子に口を開けば、あっけらかんと返されてしまう。
 それって、いいとは言わないように思うんだけど

「そうだよ。くん、そんな事気にしないでツナくんの事応援してあげてね」

 複雑な表情をしていたんだと思う。
 そんな俺に、京子ちゃんがにっこりと笑顔でツナの応援を勧めてくれた。
 いや、勧めてくれるのは嬉しいんですけど、クラス違うから!そりゃ、俺としてもツナの応援はしたいんだけど……


「気にせずに、ダメツナを応援してやれ」
「って!リボーン!!何時の間に……」

 突然の声に下を見れば、見慣れた黒いスーツを着た赤ん坊の姿。
 本当に、神出鬼没です、リボーンさん。

「ずっと居たぞ」

 俺の驚きの声に、リボーンが冷静に返事をくれる。
 いや、そんな冷静に答えられても……
  しかも、ずっと居たって、それに気付かなかったって言うのも、問題あるように思えるんですが

「よっ!ボーズ」
「ちゃおっス、山本」

 リボーンの姿を見付けた瞬間、山本が挨拶する。
 それに当然のようにリボーンも返事を返す。

 あれ?この二人、何時の間に顔見知りに……

「山本って、リボーンの事知ってるの?」
「おう!昨日な」
「そうだぞ、こいつもボンゴレファミリーの一員だぞ」
「はぁ??」

 疑問に思った事を問い掛ければ、元気良く山本が返事を返してくれたのはいいんだけど、続けて言われたリボーンの言葉に、思わず我が耳を疑ってしまった。


 えっと、なんか、山本がボンゴレファミリーの一員だって聞えたんだけど……
 き、気の所為だよね??

「気の所為じゃねーぞ、山本武は、ツナの部下だ」

 あ〜っ、しっかりと俺の心を読んでくれたリボーンが一縷の望みさえも木っ端微塵に破壊してくれました。

「山本……安易に何でも返事しない方がいいと思うんだけど……」
「ああ、だって、ボスはツナなんだろう?だったら、全然問題ねーって!」

 確かに、ツナがボスなら問題ないかもしれないけど、だからって、マフィアだよ!普通二つ返事で頷いたりしないから!!

くん、始まるみたいだよ」

 頭を抱えていた俺に、京子ちゃんが声を掛けてくる。

 どうやら、試合が始まるようだ。


「今は、現実逃避でツナの試合に集中しとこう……他にも考えないといけない事はあるんだけど……」

 試合開始と共に、ワッと賑やかになった体育館の中でボソリと呟いてため息をつく。


 今日見た夢、間違いなく何時もの予知夢。
 明日起こるそれの対処方法を考える事が、俺が一番に考えなければいけない事。


 だからこそ、本当はこんな行事で浮かれてる場合じゃないんだけど……
 でも、ツナが折角出る試合なんだから、しっかりと応援したいと思うのは、仕方ないよね。


 うん、だって、何かのスポーツをしてるツナを見るのは、本当に久し振りなんだから!