本気で泣いてもいいですか?

 最近、自分の兄なのに分からなくなってきました。
 だって、何でお兄様はそんなに短気になっちゃったんですか?
 しかも、誰彼構わず喧嘩を売るのだけは、本当に止めてください。

 貴方が強いのは、本当に分かったから、お願いですから委員長さんに喧嘩を売るのだけは止めてください。

 貴方と委員長さんが校舎内で喧嘩をすると、学校が壊れてしまいそうです。
 いや、冗談抜きに……








「ツナ!お願いだから、喧嘩売るのは止めて!!本当に、何もされてなくて、お茶をご馳走になっただけだから!!」

 今にも掴み掛からん勢いのツナに、俺は慌てて制止の声を掛ける。


 ここは校舎外じゃなくて、部屋の中なのだ。
 暴れたりしたら、どうなるか考えただけでも恐ろしい。
 だって、この二人が暴れると、コンクリートが抉れるんだよ!マジで有得ないから!!

「なんで、ヒバリさんがにお茶をご馳走しているのかが気になるんだけど……」

 だけど、俺の言葉で止まってくれると思ったツナは、何に反応したのか分からないけど、冷たい殺気を委員長さんへと向けてます。

 えっ?そこって、気になる事なの??

「そんなの、君には関係ないでしょ」

 って、委員長さんも委員長さんで、何でそんなに喧嘩腰なんですか!?

「い、委員長さん!!そこで喧嘩売らないで下さい!!えっと、だから……俺がここに居るのは……」

 二人が睨み合ってる中、必死で言い訳を探す。

 いや、だって本当はツナの事を教えてくれると言って俺はここに連れて来られた訳で、それをツナ本人に話していいとは思えない。
 だったら、何て言い訳すればいいんでしょう?!!

「居る訳は?」

 必死で言い訳を探している俺に、ツナが冷静な声で質問してくる。
 聞き返されると思っていなかった俺は、兎に角口を開いた。

「…えっと、だから……委員長さんが、美味しいお茶があるからって……うん、そう、美味しいお茶をご馳走してくれるって言うから!」
「・……、胡散臭い相手の誘いはどんな事でも断れってちゃんと言ってるでしょ」

 我ながらいい言い訳が出来たと思ったのに、ツナには思いっきり呆れられてしまう。

 えっと、委員長さん達は、ツナにとって胡散臭い人達なんですか??
 そんでもって、何時も言われてきたのは、知らない人の誘いは断れの筈です。
 って、そんなにも、俺は幼稚園児じゃないんだからね!!

「誰が、胡散臭いの?」

 あれ?委員長さんは、当然そこに反応するんですね?
 うん、そりゃ、確かに一種の侮辱だと思うんだけど……

「本当に、誰でしょうね……」

 委員長さんの質問に、ツナがチロリと委員長さんを見て盛大なため息をついた。
 それって、目線だけであんたの事だって言ってるようなもんなんですけど……
 委員長さんもそれが分かったのだろう、一気に殺気だった。

「上等だね、今直ぐ咬み殺してあげるよ、沢田綱吉!」
「やれるものなら、やってみて下さいよ!!」

 って、俺の言い訳全然役に立ってなかったよ……完全に二人が戦闘モードに入っちゃいました。

 もう何を言っても聞き入れてもらえない。
 ごめんなさい、俺は頑張ったと思うんだけど、努力が足りませんでした。

「草壁さん、逃げてください!!」

 ちょっと離れた場所に居る、美味しい紅茶を入れてくれた上にその紅茶を持って来てくれた優しい草壁さんに慌てて避難するように言う。

「逃げるのは、あいつよりもお前だぞ」

 必死で言った俺に続いて、誰かの声が聞えて来て恐る恐るその声がした方へと視線を向ける。
 そこに居たのは、何時の間にか俺の隣に座っている黒のスーツを身に着けた赤ん坊。

「リボーン!」
「ちゃおっす」

 って、何時来たの?滅茶苦茶神出鬼没??
 いやいや、俺が鈍いだけなのか?なんにしても、何でリボーンが中学校に居るんですか?!!

「何でここに?」
「オレは、おまえ達の家庭教師だからな、日常を見るのもオレの仕事だぞ」

 その割には、優雅に紅茶を飲んでいるんように見えるんですけど……
 しかも、それって、俺の飲み掛けなんですが……

「だったら、ツナ達を止めてよ!」
「無理だぞ。それは、おまえも分かってんだろうが」

 人の紅茶を優雅に飲んでいるリボーンに、お願いとばかりに言えばサラリと返事を返されてしまいました。


 ええ、分かってます。
 分かっているけど、だからって諦められる訳ないじゃん!だって、この二人が喧嘩すると間違いなく建物が崩壊するかもしれないんだからね!!

「分かってても、止めなきゃなの!」

 必死の思いでそう言って、俺はソファから立ち上がる。

「やめておけ」

 そして、一歩踏み出して睨み合っているツナと委員長さんの元へと歩き出そうとした瞬間、何時移動してきたのか草壁さんに肩を掴まれて止められてしまった。


 俺って、やっぱり鈍いのか??

 肩を掴まれて、俺は草壁さんを振り返る。

「でも!」

 止めてくれるのは有難いけど、ここで暴れると折角の食器が粉々になるのは火を見るよりも明らかだ。
 そんな事は、させられない。

「お前には無理だ」
「そうだぞ、そいつの言う通りだ。おまえはさっさとこの部屋から出て行くのが一番だぞ」

 引き止めた草壁さんに言い返そうとすれば、キッパリと言われる言葉。
 そして、それに続いてリボーンまでもが同意して部屋から出て行くように勧めてくれる。

 そりゃ、俺には何の力もない。
 そんな事は、誰よりも分かってる。
 だけど……

「だからって、こんな無駄な争い!!」
「無駄じゃねーぞ」

 ツナと委員長さんが争う必要が何処にあるのか分からない俺の言葉に、リボーンがキッパリと言葉を返してくる。
 無駄じゃ、ない?

「どう言う事?」
「おまえには分からねーみたいだが、あいつ等が争う理由はちゃんとあるんだぞ」

 チラリと睨み合っているツナと委員長さんへと視線を向けるリボーンの言葉に、俺は意味が分からなかった。

 俺には分からないだけで、二人が争う理由がある?

「……でも、だからって、ここで争うのはダメだ!折角の紅茶が!!!」
「……お前の心配は紅茶の方なのか?」

 折角草壁さんが入れてくれた美味しいお茶が……
 それに、委員長さんのお母さんが折角お土産に買って来ているモノなのに!!


 俺の叫び声に、リボーンが呆れたように質問してくる。

 勿論、ツナや委員長さんが怪我する方が嫌だけど、この二人ならそんなに簡単に傷付く事はないだろう。
 だからこそ、今心配するのは動けない壊れ易い物の方だ。

「紅茶の心配じゃなくて、建物の心配もしてるんだけど」
「………」

 リボーンの質問に、更に追加して言えば、呆れたような視線を向けられた。

 えっ?だって、普通はそっちの心配するよね?何せ、あの二人が争ったら、コンクリートの壁が破壊するんだから!!
 学校が壊れたら、それこそ大問題だよ!!

「ダメ決定だな……」

 そこって、呆れてため息つかれるようなところなんでしょうか?
 しかも、ダメって、確かに俺はツナに比べれば全然ダメダメだけど……。

「あっ!!!!」

 呆れてため息をついたリボーンに言われた言葉に俺が打ちひしがれた瞬間、驚きの声が聞えて来た。

「ツナ?」
「リボーン、お前帰ったんじゃないのかよ!!」

 あれ?今の今まで委員長さんのトンファーを避けていたのに、その視線をこっちに向けても大丈夫なんでしょうか?
 しかも、委員長さんが拍子抜けしてトンファー片付けてる……。
 そんなにあっさりと、戦闘って解除されるもんなんですか??
 思わず、キョトンとして、リボーンを怒鳴っているツナを見てしまうのは、仕方ないと思う。

「オレが何処に居ようと、勝手だぞ」

 って、確かにそうかもしれないけど、ここは中学校だから赤ん坊が来るには問題ありまくりだと思うんですけどね、俺は

「その赤ん坊は、君達の知り合い?」

 そして、漸くリボーンの存在に気付いたのだろう委員長さんが訝しげな表情で質問してくる。
 そう言えば、並盛中は、部外者の立ち入りは禁止だったような……。

「あ、あの、委員長さん……」
「おまえも、ボンゴレに入らねーか?」

 俺が言い訳をしようとした瞬間、リボーンが先に委員長さんへと声を掛けた。
 って、リボーンさんは、何を言っちゃってるんですか!

「ボンゴレ?悪いけど、アサリには興味ないよ」

 だけど、委員長さんはボンゴレをアサリと変換してくれたらしくて、スッパリと断ってくれた。
 うん、普通の反応です、委員長さん。

「アサリじゃねーぞ、ボンゴレはイタリア最大のマフィアだ」

 折角委員長さんが断ったのに、そこでぶり返さないで下さい、リボーンさん!!

「マフィア?なら、ますます興味ないね」

 って、アサリなら少しは興味があるって事ですか、委員長さん?!

「リボーン何勝手な事を言ってる訳!ヒバリさんを誘うなんて!!」
「うるせーぞ!これは、オレが決めた事だ」

 何処から拳銃が!
 文句を言ったツナ相手に、リボーンが拳銃を取り出す。

「何?そこに居る沢田綱吉が関係してるの?」

 だけど、その二人の行動に、委員長さんが反応を見せた。

「そうだぞ、オレはリボーン。ボンゴレ10代目候補となった沢田綱吉とのどちらかを立派なボスにするために居るんだぞ」

 リボーンの質問に、一瞬驚いたような表情をして委員長さんが俺を見てくる。
 うん、そうでしょうとも、俺にはマフィアのボスなんて絶対に無理ですから……

「そこに居る、沢田も候補なの?」

 そこで聞き返さないで下さい!本気で悲しくなります。

「そうだぞ。こいつも立派な候補に上がってる」

 委員長さんの質問に、リボーンがニヤリと人の悪い笑みを浮かべて返事をする。
 ええ、立派じゃないです。
 俺は、ツナのおまけですから!!

「ふーん、なら、考えてあげてもいいよ」

 絶対に委員長さんが断るだろうと思っていた、なのに俺の考えは見事に裏切られてしまう。
 あれ?考えてあげてもいいよ??

「ただし、沢田をボクにくれればね」
「はぁ?」

 一瞬言われた言葉が理解できなかった俺に、続けて言われたその言葉が更に思考能力を奪ってくれました。


 えっと、沢田って、俺の事だっけ?
 そんでもって、どうして、俺がモノ扱いされてるんだろう……。


 意味が分からなかった俺が、思わず間抜けな声を出したのは、仕方ない事だと思うんです。
 だって、行き成りくれればとか、普通有得ないですから!!