去年は、俺がツナに嘘を付いた。
うん、兄弟じゃないって言う、そんなどう考えでも違うって分かるような嘘。
ツナがそれを嬉しそうに受け入れてしまったのにはかなり驚いたけど、その理由を話してくれた内容が嬉しかった。
だって、俺の事兄弟じゃなくても好きだって言ってくれたから
だけどね、だからってなんでこんな嘘を付かなきゃいけないの?!
「か、母さん、こんなのは洒落にならないと思います」
「大丈夫よ、ちゃんだって気付かれないから!」
いや、普通に気付かれると思いますから!
嬉々として俺を着飾っている母さんに、心から逃げ出したい気持ちを止められない。
だって、俺は間違いなく男なんだから、こんな格好はしたくないんです。
「うん、やっぱりこの格好には、こっちの方が似合うわね」
って、母さんは満足そうに頷いているんだけど、俺としては本気で勘弁してもらいたいんですが
「か、母さん、もう着たから脱いでいい?」
「あら、ダメよ。ツッ君が帰って来なくっちゃ意味がないでしょう」
いや、それがいやだから言ってんるんです、お母様!!!
俺の今の格好を見て満足そうに頷く母さんの姿に、着たんだから脱いでいいものかを質問すれば、無常な答えが返ってきた。
鬼ですか、お母様。
俺が、こういう格好するの嫌いなの知っていて、着せたがる母さんに泣きたくなってくる。
だって、母さんにお願いされたら、イヤだって言えないから……
俺にこんな格好させる事が出来るのは、間違いなく女の人だけだろう。
男から言われたら、速攻で拒否するから、俺は!
でも、女の人に言われるとどうしても断れない。
だって、縋るような目で見られると、何ていうか罪悪感が……
「ただいま」
心の中で泣いていれば、無常にも今は一番帰ってきて欲しくない人の声が聞こえて来た。
いや、早く帰って来てくれれば、それだけ早く着替えられるのかもしれないけど、出来れば、こんな姿見せたくないんですけど
「お帰りなさい、ツッ君!」
その声に、母さんが嬉しそうに出迎える。
俺は、直ぐにでも逃げ出したいんですけど!!
「ただいま、母さん……で、何やってるの?」
だけど、悲しいかな、俺の望みは見事に打ち砕かれる。
何時もなら、そのまま部屋に行くのに、なんで今日はこっちに来るのか分からないけど、声の主がリビングへと入ってきた。
そして、その声が疑問を口にする。
「実はね、ツッ君に紹介したい子が出来たのよ!ほらよく言うでしょ、許嫁」
「ふーん、興味ないから」
俺は咄嗟に後ろを向いたから、多分ツナには顔を見られて無いと思うんだけど
チラリとツナが俺の方に視線を向けて来た事には気付いたけど、母さんの言葉をバッサリと切り捨てる。
いや、興味ないって、確かにそうかもしれないけど、許嫁って言われたら、少しぐらいは興味もわいちゃうと思うんだけど…
「そう言わないのよ!絶対に、ツッ君の好みの相手なんだから!」
いや、母さん、その前に双子の相手を許嫁にするのはどうかと思うんですけど
しかも、ツナの好みの相手が俺って、そんな事有り得ないと思うよ。
「ほら、ちゃんとツッ君に挨拶してあげてね」
ニコニコと本気で楽しそうな母さんが、俺の腕を掴んで無理矢理向きを変えさせる。
俺は、本気でそれに慌てた。
だって、絶対にバレるから!!
「……?」
ほら、バレたし!
出来るだけ顔が見えないように俯いたままツナの方へと向きを変えた瞬間、ポツリと名前を呼ばれる。
でもソレは、自信なさ気で確認するようなモノ。
それもそうだろう、今の俺の格好は完全に女の子の姿をしてるんだから
初めての女装です。(何時ものは、女装じゃないからね!)
春らしい色使いの、全体的にふんわりした服装。
上着は淡いピンクのブラウスで首と言うか襟の所にリボンが付いていて、綺麗なリボン結びではなく軽く結んでネクタイのような感じになっている。
それにまだちょっと肌寒からって事で、生成り色のカーディガンを羽織って、下に履いているのがこれも淡い緑のフレアスカート。
更に、鬘を付けられて、髪の長さが母さんよりも長くなっていて、肩にかかるぐらいの本当の髪色よりも若干濃い茶色のストレートヘアー。
だから、顔を見た訳じゃないのに、ツナが分かるなんて思いもしなかった。
もしかしてこれが、リボーンが言ってたボンゴレの超直感なのかも?!
何て思ったけど、ツナに返す言葉が見つからない。
母さんのバカ、だから俺はイヤだって言ったのに……
「あらあら、やっぱりツッ君は騙せないのね」
心の中で母さんに文句を言えば、感心したように母さんがバラしてしまう。
まだ、本当にツナにバレてるのかも分からないのに!!
だから、そんな母さんを睨み付けても仕方ないだろう。
「えっ、本当にだったの?」
そして、予想通り、確認は持っていなかったらしいツナが驚いたように聞き返してくる。
あ〜っ、やっぱり完全にバレてなかったんだ……。
それなら、もしかしたら騙せたかもしれないのに
折角こんな格好をさせられたのに、嘘がつけなかったのは何となく悔しいかもしれない。
だから、それを顔に出しながら、そこで漸く顔を上げてツナを見る。
「ああ、確かに顔を見れば、だって分かるけど……母さん、が優しいからって、こんな手の込んだ悪戯はしないでくれる?」
俺が顔を上げた事で、確実に分かったのだろうツナが呆れたように母さんを叱り付ける。
もっと怒ってやってください、出来ればもう二度とこんな格好をしなくってもいいように!
「母さん、ツナに見せたんだから、着替えてもいいんだよね?」
「ええ、残念だけど、着替えてもいいわよ」
ツナに怒られるのを、全く気にした様子も見せない母さんが楽しそうな笑みを浮かべているのを見て、小さくため息をついてから質問すれば頷いてくれた。
でも、その残念って言う言葉が気になるんですけど
「それじゃ、着替えてくるから!」
「えっ?もう着替えちゃうの?」
「当たり前だろう!だって、母さんに無理矢理着せられてるんだからね!ツナは騙されてくれないし、こんな格好もう誰にも見られたくない」
それを気にしないようにして着替えるために部屋を出ようとした瞬間、残念そうな声がツナから聞こえてくる。
それに、当然のように返せば、ツナも一瞬考えるような表情を見せた。
「確かに、オレ以外の奴に見られるのはムカつくかも……やっぱり母さん、にこんな格好させるのはダメだからね!」
「はいはい、ここまでするのはもうないから安心して。ちゃんも無理言ってごめんなさいね」
そして再度釘を刺すように母さんへと言葉を述べる。
それに母さんは何度も返事を返して、最期には俺に謝ってくれた。
まぁ、確かにこんな格好は二度としたくないけど、悪戯自体は俺も好きだから本気で怒る事はできないんだよね。
「気にしてないよ。この格好はもう二度といやだけどね」
そんな母さんに、俺は苦笑を零しながら言葉を返す。
でも結局は、お願いされたら断れる自信は、俺にはないんだけどね。
「残念だけど、一度だけって約束しちゃったから、仕方ないわね」
だけど、母さんも俺の事をちゃんと分かってくれているのだろう、残念そうに呟いたそれは気になるけどちゃんと約束は守ってくれる人だから、だからもう大丈夫だと分かる。
「有難う」
「……そこでがお礼いう事じゃないと思うんだけど」
約束してくれた母さんに、お礼を言えば、深々とツナにため息をつかれてしまった。
確かに俺がお礼をいう事じゃないとは分かってるけど、約束してくれた事が嬉しかったからだからお礼を返したんだけど
俺の為に呆れてくれるツナのその言葉も嬉しくって、ただ笑って返す。
「ちゃん、早く着替えなくっちゃ、他の子達も帰ってきちゃうわよ」
それを微笑ましく見守ってくれたっかさんだったけど、しっかりと現実に引き戻してくれた事で、俺は慌ててリビングを出た。
だって、これ以上こんな姿を誰かに見られたくないから
「まぁ、許嫁がなら、喜んで受け入れるんだけどね」
だから、部屋を出た俺がそんな言葉をツナが呟いた事を知るはずもない。