俺は、どうやら危機感と言うモノが乏しいらしいです。
そう言われても、今までは笑って否定していたんですが、今日、初めてその言葉を否定出来なくなりました。
ああ、俺ってば、委員長さんに担がれて、あろう事か寝てました。
ええ、もう気持ち良く熟睡です。
俺を起こしてくれたのは、勢い良く扉を開いたツナの声だった。
「何で、ここにが居るんですか?!!!」
バンッと開かれたドアからツナの声が聞えて、飛び起きる。
「あれ?」
目が覚めて、全く状況が分からずに辺りを見回した。
えっと、ここ何処??
さっき、聞えて来たのはツナの声だったような……?
「漸く目を覚ましたみたいだね」
キョロキョロと辺りを見回した俺の耳に、聞きなれない声が聞えて視線をそちらへと向けた瞬間、寝ぼけていた頭が一気に覚醒してしまい。
「い、委員長さん?」
スッと俺の上から黒い何かが委員長さんの手によって持って行かれるのを、何処か不思議そうに見詰める。
も、もしかして、委員長さんの学ランを借りていたんだろうか、俺は!
しかも、委員長さんにココに連れて来られた上に、熟睡してたなんて……俺、死んだ?
いや、でも何処も痛くない。
「顔色、良くなったみたいだね」
「えっ?」
ドキドキと心臓が煩いくらいに鳴っている。
どうするべきか、と考えていた俺の顔を覗き込んで言われたその言葉……。
ああ、そうか、無理して足をちょっと酷使しちゃったから、顔色悪くなってたんだな、俺……
もしかして、委員長さんていい人なんだろうか??
「に近付かないでくれます?」
ちょっとだけ委員長さんの認識を改めていた俺と、委員長さんの間を何かが通って行き、ツナの低い声。
って、今何が通っていったんだ?委員長さん、さり気に避けたように見えたんですが……。
「投げるのはいいけど、君の大事な弟に当るよ」
「当てる訳ないでしょう!大体、何でがこんな所で寝てるんですか!?」
そんなツナ相手に、委員長さんはため息をついて床に落ちた何かを拾い上げる。
チラリと視線を向ければ、上履き……
そろりと視線をツナの足元へ向けると、その左足の上履きが履かれてない。
自分の履いてた靴を投げたんですか、貴方は!
「ツナ、そんなの投げたら危ないから!!」
ゴムと布で出来てると言っても、十分な武器になると思います。
「何言ってるの、そこに居る人の方が危険に決まってるよ!」
俺が文句を言えば、キッパリと返される言葉。
えっと、それって委員長さんの方が危険だと言いたいんでしょうか?
でも、俺ちょっと迷惑掛けたから、その意見には賛成できないんだけど……
「あの、ツナさん……委員長さんを怒るのは、その間違ってるから……」
確かに、無理矢理ここに連れてこられる事になって運び込まれたって言う言葉は間違いじゃないような気もするけど、寝てしまった俺を委員長さんはちゃんと休ませてくれたし、上着まで貸してくれたんだから、これでは怒れるはずもない。
でも、ここに連れて来られた目的は、どうなったんだろう。
何か、ツナの事を教えてくれるって言ってたような気がするんだけど……
「!騙されちゃダメだから!」
いや、騙されるもなにも、俺は何もされてませんから!
「沢田綱吉、失礼だね」
本気で何を考えているのか、ツナがつかつかと部屋の中に入ってきて、俺はツナに抱き寄せられてしまった。
しかも、委員長さんの手にあった上履きも奪い返すように取り返す。
「ツ、ツナ……えっと、俺がここで寝てたのは、昨日寝不足だった所為で、決して委員長さんが悪い訳じゃないから」
俺を挟んで二人が睨み合っているのが分かって、慌てて弁解しようとツナの腕から顔を覗かせて弁解。
「、ヒバリさんにそう言えって脅されてるの?」
いやいや、どうしてそうなるんですか?!しかも、スッと目元を優しく手で拭われる。
ああ、まだ泣いてしまったのが分かる顔だったのだろうか?
「ヒバリさん、良くもを泣かせてくれましたね」
あう、何でそう言う結論に達しちゃうんですか?!違うから、断じて違うから!!
「ツナ、違うから、泣かされてないから!!」
逆に、委員長さんには慰めてもらったんです!ええ、本当に……。
「じゃあ、どうしては泣いているの?」
オロオロとしている俺に、ツナが質問で返してきた。
泣いてる?誰が??
言われて、俺はそっと自分の頬に触れてみる。
確かに、俺の目からは涙が溢れていて、困惑してしまう。
なんで、俺は泣いてるんだろう。
だって、委員長さんは言ってくれたのに、ツナに彼女が出来るなんて、ありえないって……
でもそれは、委員長さんの言葉であって、ツナ本人から聞かされた訳じゃない。
ああ、俺はまだ信じられないままだったんだ。
……今、目の前にツナが居てくれていると言うのに
「泣かしているのは、君だよ。沢田綱吉」
必死で涙を止めようと慌てて目元を拭った俺を、ツナが強く抱き寄せて胸に顔を埋める結果となった。
あ〜っ、ツナの制服が涙で濡れる、と思った瞬間聞えて来たその声にピクリと自分の肩が震えたのが分かる。
委員長さんは、俺が何で泣いているのかを知っているから……
何処か楽しそうな声は、ツナに仕返しでも出来ると喜んでいるためだろうか?
「オレが、を?何を言ってるんですか?ヒバリさん」
案の定、ツナは委員長さんのその言葉に過剰なまでに反応を示す。
その腕に抱き締められているからこそ分かる、ツナの信じられないと言う戸惑い。
「何って、事実を言ったまでだよ。そう言えば、お祝いを言うのを忘れていたよ」
「祝?何のです?」
思い出したと言うように言われたそれに、俺は小さく震えてしまう。
それに気付いたツナが優しく俺の肩を撫でてくれるけど、震えは止まらない。
ギュッと瞑った瞳から、また涙が零れ落ちた。
「君に彼女が出来たんだってね」
そして、確認するように言われた言葉。
ツナの返事を聞きたくないと言うように、俺は自分の耳を塞いでしまう。
それは、無意識の行動だった。
自分でも分からないけど、逃げ出したいのに逃げ出せない自分の出来る精一杯の拒否。
「……何言ってるんですか?そんなデマで、人の大切な弟泣かさないでくれます?」
でも、そんなに必死で耳を塞いだ状態でも聞えて来たのは不機嫌なツナの声だった。
一瞬言われたその内容に、意味が分からなくってそっと瞳を開いてツナの顔を見上げてしまう。
「!まさか、そんなデマを信じた訳じゃないよね?」
がしっと肩を捕まれて、真剣に言われたツナのその言葉に、俺は何と返していいのか反応に困ってしまった。
だって、あんなに皆が話していたのに……
笹川さんを取り合ってツナが上級生と勝負するって……それが、全部、デマ?
「だって、俺は、ツナに彼女が出来たって……本当は笑って祝福しなきゃいけないのに……」
「笑って祝福なんてしたら、いくらでも怒るよ!」
まだ、勝手に涙は流れてきて、それでも必死に自分の考えていた事を口に出したら、怒ったようにツナに返されてしまう。
「だから、言ったんだよ、ありえないってね」
「委員長さん……」
ビックリしている俺に、後ろから聞えて来た声。
確かに、委員長さんは俺にそう言った。
だけど、どうしてそんなにはっきりと言えるんだろう……だって、皆言っていたのに、笹川さんを賭けて勝負しするって……
「事情は話せないけど、オレにはが居てくれればそれだけでいいんだからね!」
事情?
ああ、そうか……事情があったから、ツナは勝負を受けたんだ。
漸く真相が分かって、俺はホッと息を吐く。
「俺も、ツナに彼女が出来るって聞かされて、こんなに動揺しちゃって、心配掛けてごめんね」
漸く、俺の涙が止まってくれる。
だって、まだツナを誰にも取られないですむのだから……
ちょっとだけ恥ずかしくって、俯きながらツナに謝罪する。
こんな噂だけで動揺するなんて、本当にツナに彼女が出来た時、俺はどうするんだろう……。
う〜っ、今回のを教訓に、ちゃんと考えよう。
だって、何時かは、ツナに俺以上に大切な誰かが出来るのだから……
「いいよ、嬉しかったから」
謝罪した俺に、ツナが本当に嬉しそうに返事を返してくる。
言われたその内容に、俺は思わずツナを見上げれば、本当に優しく微笑んだ顔があって、思わず顔が赤くなってしまう。
「ねぇ、何時までそこに居るつもり、そろそろ出て行ってくれる……それとも、追い出してあげようか?」
「えっ?あの、委員長さん、俺にお話があったんじゃ……」
そんなツナの笑顔に見惚れていた俺の耳に、委員長さんの不機嫌な声が聞えて来て、慌てて振り返る。
邪魔だから出て行けと言う委員長さんに、俺がここに連れて来られた目的を果たしてない事に気が付いて俺は委員長さんに問い掛けた。
「もういいよ。話さなくても、誤解は解けたみたいだしね」
「でも……」
「それとも、ボクの前で群れるって言うのなら、容赦なく咬み殺してあげるけど?」
って、どうしてそうなるんですか?!
俺の問い掛けに、取り出されるトンファー。
えっと、本気でどうやったらそう言う答えに結びつくのかが、分かりません!
「に手を出すって言うなら、また気を失ってもらいますよ」
って、何でツナまでそこで戦闘モードに入るんですか??
「し、失礼しました!ほら、ツナも、行こう!!」
今にもバトル気満々と言う二人に、俺は慌てて頭を下げて、ツナの腕を掴んで自分に出せる精一杯の速度で部屋を出る。
もう一度扉の前で、委員長さんに頭を下げ廊下へと出て大きく息を吐き出した。
「!どうしてヒバリさんなんかと一緒に居たの?」
ホッとした瞬間、ツナからの質問……。
えっと、結局何で俺はあそこに居たんだっけ?
ゆっくり眠れてすっきりしてるんだけど、理由が分からなくって思わず首を傾げてしまう。
「えっと、委員長さんの気まぐれ?」
だから、俺に返せたのは、それぐらいである。
だって、俺には委員長さんが何を考えているのかなんて、分かる訳ないんだから……。