何とか、遅刻しないですみました。

 うん、今日も無事に学校に着いてホッとする。


 俺のクラスは、1-Cクラス。
 学校側の配慮で、1階にクラスがあるのは、他の人達に申し訳ないんだけどね。

 ツナと別れて、クラスに向う。

 俺は、あんまり目立つ方じゃないので、クラスでは仲の良い人も居ない。
 本当は、ツナと同じクラスになりたいんだけど、双子だからそれは無理だろうなぁ……。







「沢田くん!」

 教室の扉を開いた瞬間、女子から名前を呼ばれた。
 こんな事初めてで、一瞬驚いてそのままその場所に立ち尽くしてしまう。

「お兄さんが、あの笹川京子に告白されたって本当!!」

 ドアに立ち尽くしてしまった俺に、数人の女の子達が走り寄って来て言われたそれは意味が分からない。

 えっと、笹川京子さんって、誰だろう??
 それに、ツナが告白されるのなんて、今に始まった事じゃない。

「えっと、何?」

 本当か嘘かも、俺には全く分からなくて、思わず聞き返してしまっても仕方ないと思うんだけど……

「だから!あの学園のアイドルって言われてる笹川京子が、綱吉くんに告白したって!」
「えっ?」

 聞き返した俺に、女の子達が同じ言葉をもっと分かりやすく口にする。
 ……学園のアイドルって、確かツナのクラスに居る、女の子?

「ビッグニュース!1-Aの沢田綱吉が剣道部主将の持田先輩と笹川を巡って勝負するんだってさ!」

 言われた言葉を理解した瞬間、前の扉を開いて一人の男子が飛び込んできた。
 そして言われたその内容に、俺は思わず持っていた荷物を落としてしまう。

 確かに、俺はツナの好きな人を知りたいと思っていた。
 思っていたんだけど、こんな風に知りたかった訳じゃない。

 教室の中が一気に賑やかになって、皆がそれを一目見ようと教室から飛び出していく。
 出入り口に居た俺は、邪魔になるだろうと落としてしまった荷物を拾ってゆっくりとした足取りで、自分の席に着いた。

「沢田くんは、行かないの?」

 自分の席に座った俺に疑問に思ったのだろう人から質問されたけど、俺はそれに何て返したのか覚えていない。

 あっという間に、教室の中には俺だけが取り残されてしまう。

 ああ皆、野次馬だよなぁと思いながら、笑ってしまった。
 笑ってないと、泣き出してしまいそうだったから……

 分かっていた事なのだ。
 考えただけでも泣きそうになっていたのに、現実に突き付けられてしまうと、どうしていいのか分からない。

「……ここだと、泣けない………」

 何時皆が戻ってくるのかも分からない教室で、泣く事なんて出来ない。

 兎に角、今は一人で泣いてしまいたい。
 存分に泣いて、それからツナをちゃんと笑って祝福しよう。

 だって、ツナが負けるなんて思えないから、絶対に勝つって分かっているから……。
 ガタッと静かな教室で音をさせて、席を立つ。

 誰も居ない教室を一度だけ見てから、ドアに向かって歩く。

「わっ!」

 だけど教室から出ようとした瞬間、その扉が誰かによって塞がれてしまい、俯いていた俺はそれに気付かずその相手にぶつかってしまった。

 相手は俺がぶつかる事を分かっていたのか、そのまま拘束されてしまう。
 って、俺、誰かに抱き締められてるんだけど、何でこんな状況になってる訳??

「ねぇ、何で教室に誰も居ないの?」

 訳が分からなくて、パニックになり掛けていた俺の耳に、低音ボイスと言うに相応しい声が聞えて来た。

「い、委員長さん……」
「もう予鈴は鳴っていたと思ったんだけど……」

 その声に驚いて俺が見上げた先には、昨日ツナさんと楽しそうにバトルしていたこの学園の秩序である風紀委員長さんがいらっしゃいました。

 恐る恐るその肩書きを口にした俺に、委員長さんは不機嫌そうに口を開く。
 ……はい、間違いなく予鈴は鳴ってます!でも、みんなツナの勝負を見に…………

「ねぇ、君は何で泣いているの?」

 委員長さんの疑問に心の中で返事をしていた俺は、驚きのあまり忘れていた事実を思い出してまた俯いてしまいそうになったその顔を、無理やり上げさせられてしまう。
 突然の行動に驚いたけど、言われたその言葉で初めて自分が泣いている事を知る。
 多分、教室を出る前から、泣いていたんだろう。
 ぶつかった委員長さんの服に、俺の涙の跡が付いていたから……。

「なんで……」

 泣いている理由は、ツナに彼女が出来てしまうから

 俺はツナの弟で、確かに大事にされている。
 嫌われてもないとも思う。
 だって、ツナは優しく笑ってくれるから

 でも、本当は、俺という重荷をツナに背負わして居たんじゃないだろうか?
 だったら、恋人が出来た今、俺と言う存在なんて、邪魔になってしまうだろう。

 そこまで考えてしまったから、俺は泣いてしまったんだ。

 そう

「ツナを彼女に取られたくないんだ……」

 取るとか取らないとかそう言うんじゃないんだけど、今まで自分だけに向けられていた優しさが当然のように他の人に向けられるのかと思うと、ただ悲しかった。

 ツナが、優しい笑顔を向けてくれるのは、自分だけだったから………
 これはきっと、子供の独占欲。
 だって、大好きなお兄ちゃんを取られたくなんかない。

「ワオ!あの沢田綱吉に彼女?それこそ、ありえないと思うけどね」

 俺の呟きに委員長さんが驚いたように口を開く。
 その言われた内容に、一瞬意味が分からなくて、俺は泣いている事を気にせずに委員長さんを見上げた。

「君、あの沢田綱吉の弟だったよね?でも、あいつの事は何も知らないみたいだ……いいよ、並盛の沢田綱吉について教えてあげる。特別に応接室でね」

 何処か楽しそうな笑顔を見せて言われた委員長さんのその言葉に、俺は意味が分からずただ委員長さんを見上げる。

「行くよ」

 だけど、それ以上の説明は無く、委員長さんはそのまま踵を返すと俺の手を掴んで歩き出した。

「あ、あの……」

 グイッと力強い手に引かれる状態で、俺もそのまま委員長さんの後に続いて歩き出す事になってしまう。
 別にこのまま応接室に行くのは全然いいんですが、だけど問題が一つ。
 委員長さん、歩くのが早過ぎです!俺には、その速度は無理ですから!!

 歩くと言うよりも引き吊られると言う言葉がピッタリと合うように、俺は殆ど左足のケンケン状態で委員長さんに無理矢理歩かされていると言う状態。

「い、委員長さん!あの、この速度では歩けないんです」

 委員長さんの歩調に合わせると、本気で不味い。

 このまま無理に歩き続けると、下手すりゃ病院行き決定です。
 そうなると、俺は先生に無理をするなって怒られるんだろうなぁ……

 いや、何でそんな一番最悪な結果を考えてるんだろう、俺……

「なに、君そんなにドン臭いの?」

 俺の泣き言のような言葉に委員さん長が振り返ってくれました。

 でも、立ち止まってくれないみたいです……。
 ちょっと、右足に激痛が……

「いえ、そうじゃなくて……俺、右足が……」
「ああ」

 止まってくれなかった委員長さんにちょっとだけ泣きながら、必死に言葉を続ければ、委員長さんが納得してその足を止めてくれた。
 止まってくれた事に、ホッと息をつく。
 止まってくれなかったら、今日は間違いなく病院行きだっただろう。

 だけど、最後まで言わなかった俺の言葉に、何で委員長さんが納得してるんですか??

「そう言えば、書類にそんな事が書いてあったね」

 って、何で、学校書類を委員長さんが見てるんですか、マジで!!
 可笑しいと思うんですけど、突っ込めない。
 きっと、この人が学校の秩序だからだよ、うん、きっとそうだ。

「それにしても、君の足でトロトロ歩かれるのも迷惑だね」

 内心で、色々疑問に思っている事なんて全く気にした様子も無く、委員長さんが何か言ったのを聞き逃して、俺が顔を上げた瞬間フワリと担ぎ上げられてしまった。

「あ、あの、委員長さん????」

 軽々と肩に担がれて、正直言えば訳が分からない。
 えっと、何で俺は委員長さんに担ぎ上げらてるんでしょうか??

「暴れないでよ。暴れたら、落とすから」

 困惑にその人を呼べば、サラリと酷い事を言われてしまって、暴れる事が出来ませんでした。
 いや、だって、この人なら絶対に言った事を行動に移しそうだから……

 それに、人に担がれたりするのは結構慣れているから、大人しくする。
 ツナとかツナとか、父さんとかに良く担ぎ上げられているのだから、慣れているのだ。
 ツナの場合は、お姫様抱っこが多いのは何でか謎なんですけど……。

 それにしても、何で軽々と片手で持てるんだ?俺は軽くないはずだぞ、多分……。

「君、軽過ぎるよ、ちゃんと食べてるの?」

 って!なんで、俺の思考読んじゃってるんですか??
 それぐらい絶妙なタイミングで質問されたそれに、俺は打ちひしがれてしまう。

「ちゃんと、食べてると思うんですが……」

 皆から同じような質問されると、本気で自信なくなってくるぞ。

 きっと、間違いなく、俺が軽いんじゃなくって俺を抱える人の力が強いんです。
 俺に、そう信じさせてください、お願いですから!
 ツナがここに居たら、『は、小食なんだからね!』とか突っ込まれた事だろう。

 いや、皆が食べ過ぎなんだと思う。
 俺は、普通だから!

「その割には軽いけど」

 って、また軽いって言われた!
 いや、だから、俺が軽いんじゃなくって、委員長さんが力持ちなんですよ!

 何て、本人には決して口に出して言えませんけど……。

「まぁ、運ぶのには楽だから、いいけどね」

 って、いいんですか?!
 いや、俺的には、何で運ばれてるのか本気で謎なんですけど、応接室に行くって言うのは分かるんだけど、何で応接室?

 それに、ツナの事を教えてくれるって言ってたんだけど、ツナの何を教えてくれるんだろう……。

 俺が、知らないツナの事……。
 委員長さんは、ツナに彼女が出来た事を全面否定していた。

 言い切ってしまった委員長さんは、何か知ってるんだろうか?
 担がれながら歩かれると、ユラユラして正直言って眠くなってしまう。

 そう言えば俺って、昨日殆ど寝てなかったんだよなぁ……
 ダメだ、眠い……委員長さんの体温気持ちいいかも…………。