えっと、昨日のことを考えると、まだ信じられなくて、俺は一番大事な睡眠もまともにとる事が出来なかった。

 ツナは、心配しなくっても大丈夫だって言ってくれたけど、きっとこれから先は、知らなかったとは言えなくなる。


 だって、もう歯車が動き出してしまったのだから……
 それは、あのチラシを見た時から、確実に動き出している。

 そう思うのは、俺の勘。

 否応無しにでも、これからボンゴレに、マフィアと言う世界に巻き込まれていくんだろう、俺達は……。







「おはよう、

 何時ものように俺の部屋に入ってきたツナに、俺はただコクンと頷いて返す。

 あの後も、リボーンから色々ボンゴレについて話を聞かされた。
 リボーンの頭の中では、ツナが10代目候補として確定しているのだろう。

 だって、話を聞いているとそれを前提として話されているみたいだったから……。

「もしかして、寝てない?」

 ボンヤリとベッドに座ってツナを迎え入れた俺に、ツナは部屋に入って来て直ぐにカーテンを開く。

 その瞬間、部屋の中を眩しい光が入り込んでくる。

 それに、一瞬顔を顰めてしまうのは、余りにもその光が眩し過ぎた所為だ。
 寝不足の瞳には、その光は強過ぎる。

「……眠れなかった……」

 こんな事、初めてだ。

 だって、まだ何かが起きた訳じゃないのに、不安で胸が苦しくって、眠っても直ぐに目が覚めてしまった。

 夢に見るのは、不安な事ばかり。
 せめてもの救いは、アレが予知夢ではないと言う事だけ。

「……だから、には言いたくなかったんだけどね……」

 困ったような表情で言われたそれに、俺は何も言葉を返す事が出来ない。

 だって、ツナはずっと前からボンゴレの事を知っていたのだ。
 そして、俺達にマフィアの血が流れていると言う事さえも……。

「言ったよね。オレ達には関係ないよ……ボンゴレなんて、ね。まぁ、ちょっとだけ正妻には惹かれちゃったんだけど……今のままじゃ、どんなに引っ繰り返っても無理な事だから」
「ツナ?」

 俺の事をこれ以上心配させないように言われたその言葉の最後の方が聞き取れなくて、俺はツナを見上げた。
 何かを言ったとは思うんだけど、小さすぎて俺には聞えなかったから……。

「何でもないよ。もし、オレが10代目になったとしても、を危険に晒す事は絶対にしないからね」
「ツナ!」

 不安気に見詰めた俺に、ツナがニッコリと笑顔で言う。

 俺はそんな言葉を聞きたかった訳じゃない。
 だって、俺が危険になるのなんて、そんな心配はしていないんだから
 俺は、ツナが危険になる事が不安なのに……。

「俺の事は心配しないで大丈夫だよ。自分に降りかかって来る火の粉ぐらいちゃんと避けられるからね」

 怒ったようにツナの名前を呼んだ俺に、少しだけ恐いとも思えるような笑顔でツナが口を開く。

 うん、中学に入ってから知ったけど、確かにツナさんは最強の分類に属されていると思う。
 だって、あの並盛最強と言われている風紀委員長さんまでもが、ツナの前では無力だったみたいだし……
 確かに、俺が心配するような事はないのかもしれない。

 でも、マフィアって銃とかそんな危険なモノが当然のように存在している世界なのだ。
 一般人は、そんなモノを向けられたらどうする事も出来ないだろう。

「心配する事はねーぞ。こいつは、オレがみっちりと修行してやるかんな」
「リボーン!」

 まるで俺の心の中を読んだかのようにタイミング良く新たな声が聞えてきて、声の主の名前を呼ぶ。

 ああ、また俺の心は読まれていたんだと、ちょっとだけ虚しくなったのは内緒。
 が、頑張って読まれないように、無心にならなきゃ!(無理そうだけど……xx)

「ちゃおっス」

 何処から入ってきたのか分からないけど、俺の椅子に座って挨拶をしてくるリボーンに、複雑な表情を見せる。

 だって、リボーンがここに来たからこそ、変わってしまうのだ俺達の日常が……。
 例えそれがリボーンの仕事だとしても、受け入れる事は出来ない。

 危険だと分かっているそんな世界に、大切な人を渡したくなんてないから……。

「リボーン!勝手にの部屋には入るなって言っただろう!」

 当然のようにその場にいるリボーンに、ツナが怒った声で決まり事だと言うように口を開く。

 何時の間に、俺の部屋に入るなって言う話になったんだろう?
 あの後はボンゴレの事を少しだけ聞いて、夕飯の準備を終えた母さんの声で話はいったん終了になった。

 勿論、当然のようにツナに抱えられて階段を下りたのはまぁ、スルーで……。

 食事の後、部屋に戻ったツナ達の会話は知らない。
 一体、この二人でどんな話をしたんだろう?

「うるせーぞ!それはオレが決める事だ。そんな事よりも、時間は大丈夫なのか?」

 不機嫌そのままに言ったツナにあっさりとリボーンが返して、続けて言われたその言葉に、俺は驚いて時計に視線を向けた。
 寝ていなかったから、今日は時間に余裕があると思ったのに!

「って、まだ全然大丈夫な時間だけど?」

 直ぐ傍に置いてあった目覚し時計に視線を向けてホッ吐息を吐く。
 まだ、全然余裕な時間。
 これなら、遅刻はしなくてすみそうだ。

「何いってやがる、その時計止まってるぞ」

 ホッとしたのも一瞬で、呆れたように言われたその言葉に、俺は壁の時計へと視線を向けた。
 その時計は確かにもう出なければ、間に合わない時間で……。

「うきゃ〜!!何で、俺今日は寝てないのに!!」
!落ち着いて!!まだ大丈夫だから」

 ツナが起こしに来てくれたのが、もしかして何時もの時間より遅かったのか?
 そうなのか??


 飛び起きてベッドから這い出した俺に、ツナが慌てて制止の声を掛けてくる。
 ベッドから下りた時、その衝撃に右足が痛んだけど、今は気に何てしていられない。
 だって、落ち着いてなんていられるか!昨日は一日授業受けてないし、結局遅刻はうやむやになったけど、今日遅刻したらあの委員長さんに間違いなく咬み殺される!!


 ツナの制止の声を無視して、俺は急いで制服へと着替えるために、パジャマを脱いでいく。

!」

 パジャマを脱ぐ俺に、ツナの切羽詰った声。

 えっと、何でそんなに慌ててるんだろう?
 俺が慌ててるのは分かるんだけど……。

「それが、事故の傷か……確かにひでーな」

 ああ、そう言えばリボーンも居たんだっけ……
 俺の足の傷を見て呟かれたその言葉に、ただ困ったように苦笑を零す。


 うん、この傷を見ると、皆同じ顔するんだよな。
 痛々しいモノを見るような、哀れんだ視線で……。
 でもコレは俺にとっては、誇りでもあるのだ。
 だって、この傷のお陰で、俺の傍に大切な人が元気な姿で居てくれるのだから……。

「……俺は後悔なんてしてないから……」

 きっとあの時に戻れたとしても、俺は同じ事をするだろう。
 例え、自分の命が亡くなってしまうと分かっていても……。

 だからこそ、この傷は俺の誇り。
 だって、この傷があるからこそ、俺は大切な人を護ることが出来たのだから
 後悔なんて、する筈がない。

「名誉の負傷ってとこだな……」
「リボーン?」

 ポツリと呟いたそれを、リボーンは聞いていたらしい。
 ツナには聞えてなかったのに、凄い地獄耳。

 そう、コレは名誉の負傷。
 だからこそ、後悔なんてする訳ない。
 俺の言葉もリボーンの言葉も聞えていなかったのだろうツナが、不思議そうにリボーンの名前を呼ぶ。

「早くしねーと遅刻するんじゃねーのか?」

 そんなツナに、リボーンが時計を指差して現実を付き付けてくれた。

 いや、うん、それは有難いんですが、行き成り現実に引き戻さないで下さい。

「うきゃ〜!!遅刻する!!!!」
!だから落ち着いて!走っちゃダメだからね!!」

 急いで服を着替えて、机の上に置いてあった鞄を手荷持つ。

 そんな俺に、ツナが慌てて追い掛けて来た。
 こんな時だけ、走れない事が本気で悲しくなります。

 うん、それ以外は全く困ってないんですけど、俺は

 だって、基本的に運動嫌いだから……
 でも、やっぱり遅刻しそうな時に走れないのは問題だよなぁ……。


 その後の行動は、俺にしてはかなり早かったと思う。

 顔を洗って、歯を磨いて……朝御飯を食べる時間はありませんでした。
 ああ、昨日ツナに言われたばかりなのに、朝御飯食べないと大きくなれないって……
 俺、このまま大きくなれなかったらどうしよう……。

 いやいや、成長期なんだから、その内大きくなるはず!
 うん、多分……きっと……

 なると、いいなぁ……

「いってきます!」

 何時ものように家を飛び出しながら、虚しくなるのは、自分の身長の事を考えて……。

 明日から、頑張って起きよう。
 うん、無理だと思うけど頑張るから、俺に身長下さい、神様……本気で切実です!

 こうして、俺のシリアスは一瞬にして消し去ってしまった。


 今日も、委員長さんに襲われなきゃいいなぁと、切実に思いながら、精一杯の早足で学校へと向う。


 その隣で、ツナが心配そうにしていたのは、まぁ、何時もの事だろう、うん。