結局、今日の授業は何一つ受ける事が出来なかった。
まぁ、ツナの言うように、一日ぐらい授業を受けなくっても支障はないんだけど……
俺自身の成績も、ちゃんと人並みの成績はキープしているから多分、問題ない。
それに、どうしても分からない箇所は、ツナに教えてもらえば問題皆無になる。
そう思いながら、何時ものようにゆっくりとした足取りで家路を歩く。
今、隣にツナが居ないのは、何でも今日の体育を休んだ為に、体育館の掃除をさせられる事になったらしい。
それなら俺も手伝うって申し出たんだけど、ツナに思いっ切り拒否されてしまった。
しかも、しっかりと先に帰るように促されてしまっては、自分には何も言えない訳で、こうして家路を歩いているのだ。
俺の所為でツナが掃除する事になったのに、ポテポテと虚しく一人で家に帰ってる俺って一体……
ツナは、直ぐに終わらせて追付くから大丈夫って笑いながら言ってたんだけどね。
どーせ、俺は早く歩けないよ。
ツナの歩く速度の半分以下のスピードを出せないなんて、本気で悲しくなってくる。
それは、昔事故に遭ってしまった後遺症なんだけど……
そんな訳で、早く動く事なんて出来ないのだ。
走るなんて言う無茶をしたら、ヘタをすれば今のように歩く事も出来なくなる可能性もある厄介な足を持って居る。
だからと言って、事故に遭ったその事を恨んでいるなんて事は全くない。
元々体を動かす事が大好きって言う子供でもなかったから、厄介な体育の授業を受けなくていいのは、正直嬉しいくらいだ。
って、考えてたらもう家が見えて来た。
そんなに学校から遠くないから、当然と言えば当然なんだけど
ツナは追付いてこなかったなぁ、なんて思いながら、家の門を潜る。
そこで、気になったのが郵便受け。
何時もなら気にもしないでそのまま家に入るのに、こんな風に気になると言う事は勘が働いた証拠。
いつも俺がそう感じた時は、何かが起こる前触れだから……
自分の勘に従って、ポストの中を確認すれば一枚の紙が入っていた。
それを手に取り、書かれている内容を口に出して読む。
「……『お子様を次世代のニューリーダーに育てます。学年・教科は問わず。リボーン』って、家庭教師案内のチラシ?」
その内容を読んで、思わず首を傾げてしまったのは仕方ないだろう。
何で、こんなモノが気になったんだろう、自分は。
別段、俺や綱吉には関係ないように思うんだけど…
でも、勘が働いたと言う事は、コレが何かに繋がっている証拠……俺のこう言う勘が外れた事など一度もない。
「……何でこんなモノが気になるんだろう?」
手に持っているその紙を裏返すが、裏面には何も書かれていない。
本気で、訳が分からない。
「あら、ちゃん戻って来てたのね。調度良かったわ、母さんこれから買い物に行く所だったんだけど……」
「分かった、留守番してます」
郵便受けの前で首を傾げていた俺は、突然開いた玄関から出て来た母さんに声を掛けられて、自然とそちらへと視線を向ける。
そこには、買い物篭を持った母親の姿。
う〜ん、その姿は俺が女装をしているようにも見えて、ちょっと複雑なんですけど……
「それじゃ、宜しくね。あら?何のチラシ?」
母さんの言葉を最後まで聞かずに、言いたい事を汲み取って返事を返せばニコニコと嬉しそうな表情を見せてくる。
それから、俺が手に持っているチラシが気になったのか手元を覗き込んできた。
「家庭教師案内のチラシ、かな?」
「そうなの、でもツっくんもちゃんも必要無いでしょう。ちゃんは、分からない事があればツっくんに聞いちゃうものね」
そんな母さんにチラシを見せれば、母さんは興味なさそうにそれでも、しっかりと本当の事を言ってくれる。
うん、確かに俺は、分からない事は先生じゃなくて、ツナに聞いてます。
それは認めるけど、そんな嬉しそうな顔でさらりと言わないで下さい。
そりゃ、俺はツナに比べればダメダメですけどね、コレでも精一杯頑張ってるんですから!
「それじゃ、行ってくるわね」
「いってらっしゃい」
本当の事を言われて傷付いている息子には全く気付かずに、母さんは手を振って出て行ってしまった。
その姿に力なく手を振って見送ってから、大きく息を吐き出す。
比べられる事には、もう慣れている筈だ。
でも、だからといって、傷付かない訳じゃない。
もっとも、母さんは、俺とツナを比べるなんて事は一度もした事ないんだけど……
あの人の場合、『仲が良くていい事だわ』の一言で全てを済ませている事を知っている。
いや、まぁ、事実俺とツナは仲が良いいんだけどね。
普通の兄弟以上に……それは、認めるよ。
だって、俺はツナ以上に好きな人が居ないんだから……。
って、それって男としてどうなんだろう。ヤバイ、な、何か、悲しくなってきた。
これでいいのか、中学生男子が!!
「?そんな所で何してるの?」
自分で考えた事に、しゃがみ込んで頭を抱えていた俺は、突然聞えて来た声にビクリと肩を震わせてしまう。
「ツ、ツナ!お、お帰り」
「うん、ただいま。で、何してるの?」
そして、慌てて立ち上がって挨拶をすれば、ツナも素直に返事を返してくれたけど、結局最初の質問に戻るんだ。
答えたくなかったから、誤魔化したのに……
ツナがそれぐらいで誤魔化されないのは分かってたけど、うん、そのままスルーしてくれても全然問題ない事だったんですよ!本気で!!
「な、何でもないよ。早かったね、ツナ」
「言ったでしょ、追付くって……そう言っても、もう家に着いちゃってるんだけどね」
ツナの質問に適当に返事を返して、再度話を誤魔化せば、漸く俺の気持ちを汲んでくれたのだろうツナが小さくため息をつきながら返事を返してくれる。
その言われた内容に、俺は思わず笑ってしまった。
確かに、俺はもう家に着いているのだから、追付いたとはちょっと言えない。
笑った俺に、ツナも笑う。
「ところで、は何を握り締めてるの?」
お互いに笑い合ってから、ツナが不思議そうに俺の手に握られているそれが気になったのか質問してきた。
ツナに突然声を掛けられた事で、手に持っていたそれは握り締められて、俺の手の中でくしゃくしゃになってしまっている。
「あ〜っ、うん、家庭教師案内のチラシ……なんだけど、ツナには必要無いよね」
「ああ、にも必要無いでしょ、だって、の先生はオレだからね」
質問に返した俺のそれに、ツナがニッコリと笑顔。
いや、うん、確かに間違いはないんだけど、そんな嬉しそうに言う事じゃないように思うんですけど……否定はしないんだけどね。
「ちげーぞ、お前等には十分必要だ」
何だか悲しくなってきた俺の耳に、新たな声が聞えてきて、思わず首を傾げてしまう。
聞こえてきた声って、明らかにツナの声じゃなかったよね?
「ちゃおっス」
そして更に聞えて来た声。
えっと、ちゃおっス?って何、えっと、どっかの言葉で挨拶だったような記憶もないようなあるような……でも、俺の知ってる人でそんな事を言う知り合いは誰も居ない。
しかも、聞えて来た声には、聞き覚えが全然ないんですけど……
どう聞いても、子供の声と言うようなちょっと高い声だったよな、俺、子供に知り合いは居ないはずなんですけど……
「誰?」
思わず疑問に思って辺りを見回すが、誰の姿も見当たらない。
ホ、ホラーは苦手なんだけど……いや、確かに、何度もその手のモノを見た事があっても、ダメなものはダメなんです!
「何処見てやがる、こっちだ」
声の主を探す事が出来なかった俺は、もうそれはあっちの声だと思い込んで、直ぐ傍にいたツナに抱き付いた。
それと同時に、呆れたように再度同じ声が聞えて来る。
「大丈夫みたいだよ、……で、君は何処の子?」
そんな俺に、ツナは小さくため息をついたけど、慰めるように俺の頭を撫でてから、スッと険しい表情を見せて視線が俺の後ろの門へと向けられた。
その視線に気付いて、俺もそちらへと視線を向ける。
そこに居たのは、真っ黒なスーツに黒の帽子を目深に被った子供が一人。
その帽子には、みどりのトカゲ……じゃなくって、多分カメレオンだろうと思われる飾りが付いてる。
そんな不思議な子供が、門に凭れるように立っていた。
手に持ってるのは、アタッシュケースだろうか、そんなモノを普通の子供が持つものだろうか??
「オレが家庭教師のリボーンだぞ」
観察するように子供を見ている俺と、警戒心丸出しで見詰めているツナの視線を全く気にした様子も見せないで、相手は子供らしくない表情で名前を名乗ってくれた。
でもその名前には聞き覚えがあって、俺は自分が持ってるチラシをもう一度確認してしまう。
そこに書かれている名前も、間違いなくリボーンと書かれていた。
これは新手の、冗談なんだろうか??
それとも、これが最近の子供にとっては流行のお遊び??
「悪いけど、オレもも勉強に関して不自由はしてないから、他を当たってくれる?」
思いっきり疑問に思ってしまった俺とは反対に、ツナは冷たいとも言える視線で子供を見て言い放つ。
ちょっと待てください、綱吉さん、相手はまだ子供なのに何でそんなに殺気立ってるんですか、貴方は?!
「先も言ったぞ、お前等には必要だとな」
だけど、子供も負けずにツナの殺気を真っ向から受け止めて、こちらも殺気が感じられる。
えっと、目の前では一体何が起こってるんでしょうか?誰か、この状況を説明してください。
本気で、現実逃避したくなったんですけど、何で、目の前にブリザードが見えるんですか?!
「ツ、ツナ!そんな子供相手に……」
「大丈夫だよ、どう見ても普通の子供じゃないから」
だけど、流石に子供相手にそんな殺気は不味いと思うんですけど、例え相手からも同じ位の殺気を感じられたとしても……
そう思って、慌ててツナを制止しようと口を開けば、サラリと言われてしまったのは、まぁ何となく想像はしていたけど認めてしまいたくはないお言葉。
えっと、確かに、普通じゃないとは俺も思うんです、いや、だって真っ黒なスーツ着てる子供なんて普通には居ないし。
おしゃぶり持ってはいるけど立ってすっごく流暢に話してる相手が子供だなんて言われても信じられないけど、でも見た目は確かに子供なんだから、そんな殺気を送るなんてどうかと思うわけで……
「流石は、ボンゴレ初代の血を引くだけの事はあるみてぇだな……お前、知ってたのか?」
ツナの言葉に、そのリボーンと名乗った子供がニヤリと嬉しそうに笑って、質問。
ボンゴレ初代?一体何の事だろう?
「知りたくはなかったんだけど……昔、を護る為に強くなろうと思って、親父の部屋を漁ってたら家の家系を知る事の出来るものが隠されていたからね」
意味が分からない俺とは違って、ツナがため息をつきながら子供の質問に答えている。
えっと、ツナが今強いのって、父さんの部屋にあった本を読んだからなんだろうか?
だったら、俺もそれを読んだら、少しは強くなれるんだろうか……って、根本的な造りが違うんだから無理だって!
あ〜っ、思わず現実逃避に一人突っ込みしてしまった。
「えっと、ボンゴレとか初代の血とか、それってなんな訳?」
心の中で虚しくなりながら、そっとその意味を問い掛ける。
ボンゴレって言ったら、イタリア語でアサリだったっけ?
確か、そんな意味だったような……ボンゴレパスタとか良く聞くし……じゃなくて!
またしても、一人で突っ込みを入れてしまったけど、このままだと俺だけ話しに加われない事は分かり切っている。
「は知らなくっていい事だよ」
恐る恐る口を開いた俺に、ニッコリと笑顔でツナから拒絶の言葉を頂いちゃいました。
でも、リボーンさんは、俺等って言ってたから、俺も関係してるはずなんですけど……
だから、俺の質問は可笑しくないはずだよね。
ツナが、教えてくれないなら、リボーンさんに聞いてやる!
「弟の方は知らねぇみたいだな……なら、オレが教えてやるぞ」
「教えなくてもいいよ。そんな事よりも、言ったはずだ、必要無いって」
ツナのその笑顔から、これ以上ツナに聞いても教えてもらえないと悟った俺は、自身も関係している事だから知りたいと心の中で思ってリボーンさんに質問しようとした瞬間、またしても子供らしからぬ笑顔を見せながらリボーンさんが俺を見上げてきた。
そんなリボーンさんに、不機嫌そのままのツナの声が聞えて、グイッと手を引かれてしまう。
「わっ!ちょっと、ツナ!!」
突然の事にバランスを崩すが、そんな俺を平然と片手で支えてツナはまるでリボーンから俺を隠すようにその前に立った。
えっと、何かタイミング良くリボーンさんが口を開くように思うのは気の所為だよな??
しかも、俺が思った事に答えるように……
って、そんな事ある訳ないよな!
ツナに庇われるようにそこに居ながら、俺は一瞬怖い事を考えてしまって、そっとツナの背中からリボーンを見る。
「オレも言った筈だぞ、お前等には必要だと」
覗き込んだ瞬間、ニヤリとリボーンさんが笑みを浮かべた。
えっと、内容的にはどっちも譲らないんでしょうか……
言ってる事は、間逆なんですけど……どう考えても、混じる事などないだろう二人の意見。
一歩も引かない二人が、静かに睨み合う。
正直言ってこの空気、俺には絶えられないんですけど……。
「えっと、とり合えず、ここで話してても仕方ないから、家の中に入ってゆっくりとお茶でも飲みながら話をするって言うのはどうでしょうか……」
なので、その空気を破壊すべくそっと声を掛けた俺は、全く悪くないよな!
だって、本気でこんな中に居たら、簡単に凍死しちゃいそうなんですけど……いや、マジで!
「!何言ってるの、こんな胡散臭いヤツを家に入れるなんて!!」
「そうだぞ!見知らぬヤツを行き成り家に迎え入れようとするんじゃねぇぞ!」
必死で申し出たのに、何でか分からないけど二人同時に怒られました。
ツナに怒られるのは分かるんだけど、何でリボーンさんにまで怒られてるのかが分からないんですけど
だって、自分で家庭教師だと言って自己紹介もしてたんだから見知らぬ人って訳じゃないと思うのだ。
だから今回は、間違った事は言ってないと思うんですけど、俺。
そんでもって、今気付いたけど、何で俺は、リボーンの事をさん付けしてるんだろう、思いっきり年下のはずなのに……
多分、見た目で考えればの話だけど……