「ねぇ、ツナ、きょうもお外にでかけるの?」

「うん、なに?も一緒に行きたいの?」

 外に行く為の準備をしていた兄に、弟が声をかける。

 何時もはどんなに誘っても大人しく首を振るだけなのに、珍しい事もあると思って兄が質問した。
 それに、今回もプルプルと頭を振って返事が返ってくる。

 そんな弟の姿に、兄はため息をつく。

「それじゃ、ぼくもう、行かなくっちゃ」

 それと同時に、自分を呼ぶ友達の声が聞えてきて、兄は弟の頭を一回撫でると玄関に向けて走り出す。

「あっ!」

 そんな兄の姿に、弟は困ったように声を出した。

 本当は言いたい事があったのだ。
 自分が見た夢が何なのか分からなかったけど、今日何かが起こるかもしれないと言う恐怖。
 その夢を見た時、自分は飛び起きて泣き出してしまった。

 だって、大切な兄が事故に遭う夢なんて……

「あら?ちゃんも出かけるの?」

 夢だと思う事は簡単だ、だけどあんなにもはっきりとした夢を見たのは初めてで、ずっと不安が胸を痛くする

 もしも、見た夢が現実になったら?

 そんなことになったら、きっと自分はずっと後悔するだろう。

 母親の声に返事も返さずに、家を飛び出していく。

 時間、場所は全て分かっているから、だったらその場所で確認すればいい
 何もなければ、それだけで自分は安心できるのだから……





 だけど、無情にも悲劇は起きた。

 信号無視して突っ込んできた一台の車。
 色も形も夢で見た通りのそれ。
 その車を見た時、自然に自分の体は動いていた。

「ツナ!!」

 車の目の前に居た兄の腕を必死で引き寄せる。

 それによって、バランスを崩した自分の体が逆に道路へと倒れこんだ。
 目の前に迫る車を前に、自分は死んでしまうのかもしれないと、ギュッと目を閉じる。

 そして、自分を襲う衝撃。後は、何も覚えていない。
 でも、自分は後悔なんてしないよ。だって、大好きな兄を助けられたのだから……。

!!!!!」

 遠くで、大好きな人の声が聞えて居たのが、最後の記憶だった。