チラリとナルト達へと視線を向ける。
慣れていない結界は、ナルトの体力を削っているのが直ぐに分かった。
そして、禁術と言えるそれにシカマルが苦戦している事も……。
「長くは相手してやれないな。悪いがまずはその風を止めさせてもらう」
自分の結界をそのままに、俺は一つの印を組む。
「……風よ、我に力を貸したまえ……『風鎖束縛術』」
俺の声に今まで俺達を襲っていた風が逆に俺達に向けて攻撃をしている相手を約束する。
風を操る神を相手に、逆にその風を利用して束縛したのだ。
「ナルト、結界を解いて、シカマルのフォローを頼む!」
そんなに離れた距離ではなかったけど、俺は『渡り』を使ってナルトとシカマルの前に移動すると二人を包むように結界を広げた。
「」
突然の俺の行動に驚いているナルトの集中が途切れて、ナルトの結界は消えてしまうけど、今の状態だと風はアレを抑えているのだから別段問題はない。
それに、俺の結界がしっかりと辺りに張り巡らしてある。
「それが直ったら全て終わるから……ナルト、頼むな」
心配そうに見詰めてくるナルトに、俺は何時もの笑顔を見せる。
それに、ナルトは一瞬考えたみたいだけど、しっかりと頷いて汗だくで今にも倒れそうな状態のシカマルの後を継ぎその物質を元に戻すと言う禁術を発動させた。
そんなナルトに気が付いたのか、シカマルは術を解きその場に崩れるように座り込む。
「お疲れさんシカマル、帰ったら『夜』のチャクラ回復料理決定だな」
「だぁ、めんどくせぇ事言ってんじゃねぇつーの……」
疲れ切っているくせに、しっかりと返してくるシカマルに、俺は苦笑を零してしまう。
そして、今は動けない荒神となったソレを見た。
必死でもがいているソレを見ていると、まるで癇癪を起こしている子供のように見える。
「一体、誰が泣いているんだ?」
見せられたのは本当に微かなん映像だけ。
こんな時、『真実の瞳』なんて役に立ちゃしねぇ……余計なモノは幾らでも見せるくせに、本当に必要だと思えるモノは見せちゃくれない自分の瞳に心の中で文句を言っても許されるだろうか。
心の中で愚痴を零しながらも思い出すのは、先ほど見せられた微かな映像と声。
確かに声は『ない』と言っていた、一体何がないのだろうか?
そして、俺の中に居るこいつと目の前の荒神は、一体どんな繋がりが……。
なぁ、泣いているのは、一体誰なんだ?
「だぁ!分かんねぇ!!」
「……おい、大丈夫か?」
考えても、情報が少なすぎる今の状態で分かる訳がない。
そんな苛立ちから大声を出した俺に、シカマルが心配そうに問い掛けて来る。
「大丈夫じゃねぇよ!たく、めんどくせぇ!」
「人のセリフとってんじゃねぇ。ソレこそめんどくせぇつーんだよ……大体、何が分からねぇんだ?」
心配気に質問してきたシカマルに、俺は何時もシカマルが言う口癖を横取りした。
そんな俺にシカマルが呆れたように返し、更に問い掛けてくる。
「全部だ、全部!俺の中に居る奴も、目の前のこいつが何を求めているのかも!!」
ナルトが完全に封印石を戻してくれれば、少しは分かるのだろうか?
それとも、このまま無理矢理封印するしか方法はないのだろうか……。
それは、一番したくないって言うのに……。
ナルトの術は完璧だ、後数分もすれば封印石は修復される。
それが、タイムリミット。
「おい、!」
焦れば負けだと分かっていても、焦らずに居られない。
どうするべきかを考えていた俺は、シカマルに名前を呼ばれて意識を引き戻される。
「何?何か分かった?」
「あそこにあるのも、祠じゃねぇのか?」
言われて、シカマルが指し示す方へと視線を向ければ、確かにもう一個隠れるように寂れた祠が見て取れた。
それは、あの荒神の祠と対のように全く同じ形をしている。
「でかした!シカマル!!」
その祠を見た瞬間、最大のヒントを貰った気分だ。
「……って、何か分かったのかよ?」
「今からそれを確認するんだよ」
結界の外の風がまたうねりを上げる。どうやら、あの束縛術を解いたらしい。
まぁ、そんなに長い間束縛できるとは思っていなかったので、当然の結果だろう。
チラリとその状況を確認して、更にナルトにも視線を向け、一瞬だけ考えてから、結界の大きさを広げる。
シカマルが見つけたその祠は、見事に俺の結界から外れている場所にあったから……。
シカマルに返事を返して、広げた結界の中を移動する。
外は、まるで誰かの泣き声のように風が渦巻く。
なぁ、なんで泣いているのかを、俺に教えてくれ……。
祠の前に立ち、ゆっくりとその扉を開く。本当はそんな罰当たりな事しちゃいけないんだけど、そうでもしなきゃ何も前に進む事が出来ないから、緊急事態って事で許してくれ。
祠の中には、小さな木像が置かれていた。
「……この姿は、雷の神……」
小さな木像なのにも関わらず、それは細かい部分まで彫られていて、何を模した物なのかが直ぐに見て取れた。
今暴れているのが風の神…そして、もう一つ存在しているのが、雷の神……。
それは、今荒神となっている、この神が対の神だと言う事を現している。
「俺の中に居るのは、雷の神なんだな」
誰を思って泣いていたのかと言えば、俺の中に眠っているヤツの事を思って泣いていたと言う事。
『ない』と言うのは、雷の神が『帰ってこない』と言っていたのだ。
「関係者つーよりも、重要参考人って事かよ……んな事にも気付かなかった俺って、鈍いのか?」
それに気付いて、俺は自分の愚かさにただ頭を抱え込みたくなった。
だから、こいつは俺に力をカ貸してくれたのだ。
自分の半身でもある者が荒神と姿を変えてしまったのを、救って欲しくて……。
例え名前が分からなくっても、それだけ分かればかなり前進できた。
「!」
自分の中に眠っている者の力を使えば、アレを正常に戻す事も出来るだろう。
そう考えた俺の耳に、ナルトの自分を呼ぶ声が聞えてきて、振り返る。
ああ、もう封印石は完全に修復された。
「後は、行動あるのみ!」
本当、時々思うんだよなぁ、封印石に神の名前彫ってくれりゃ楽なのにって……。
絶対に出来ない事だと分かってるけど、ほら人間に読めない特殊文字遣うとか色々方法はあると思うんだよなぁ……。
って、完全に思考が現実逃避始めてるぞ、俺!
あ〜っ、今頃『夜』が嬉々としてチャクラ回復メニュー作ってくれてるんだろうなぁ、俺達の為に……。
なんて、再度現実逃避しながら復活された封印石の場所へと移動した。
「完璧だな」
完全な形を取り戻している封印石を見て、感心したようにが呟く。
確かにかなりのチャクラを必要とする術だけど、九尾の器である俺にとっては造作もないチャクラ量ですんだ。って、言ってもそれはシカマルが頑張ってくれたからだけど……。
「これからどうするんだ?」
チャクラをかなり消耗したシカマルは今だに動けないようで、座り込んだままの状態でへと問い掛けてくる。
俺も、それは気になったのでへと視線を向けた。
「荒療治決定……あいつに自分の事思い出してもらう。待っていたヤツが帰ってきた事も……」
「帰ってきた?」
苦笑交じりに言われたのその言葉に、俺は意味が分からないと言うように首を傾げながら疑問を口に出す。
「……そいつが、もう一つの祠かよ……」
「そう言う事。そんでもって、俺の中に眠ってるヤツの家とも言えるな」
どうやら分かってないのは、俺だけらしくって、シカマルは納得したように呟く。それに、は少しだけ楽しそうに返した。
だけど、俺にはさっぱり話が見えなくって、首を傾げてしまう。そんな俺の行動に気付いて、が『悪い』と謝罪の言葉を口にした。
「ナルトは、作業してたから気付かなかっただろうけど、あそこに、もう一つの祠があるんだ。その持ち主が俺の中に入り込んできたヤツで、あの荒神と同じ力を持っている。だから、この中に入った時倒れただろう?それは、こいつの所為って訳」
謝罪して、俺にも分かるように説明してくれる。
確かに、が指し示した方に、もう一つの祠が見えた。
「そんでもって、今俺が力を遣えるのも、その神様が俺の中で眠ってくれてるからなんだよ。俺の中で、眠る事によって、俺はその力を遣えるようになるから、今はあの荒神と同等…自分の力を合わせればそれ以上の力が遣えるって事になる」
「……そう言う事かよ」
ざっと説明された内容に、シカマルも納得したように頷く。
って、流石にシカマルも、そこまでは分かってなかったんだな。
「そう言う事なんだよなぁ……だから、こう言う事も出来る訳だ」
納得した俺達に、はパチンと指を弾いた。その瞬間、その手をバチバチと言う激しい音を立てながら電流が迸るのが見える。
「……俺、今思い出したくもねぇ奴の技思い出したかも……」
だけど、それを見た瞬間、嫌な奴を思い出してしまって思わず顰め面になってしまう。
があいつの事を知ってるかどうかは分からないけど、暗部でもあるし一応この里では有名とも言える奴だから、きっと知ってるだろう。
「悪い……まぁ、そう言う訳だから、ここからは俺のとしての仕事振りを見ててくれよ」
思わず呟いてしまったそれに、が謝罪してその電流を一瞬で消し去り、スッとその表情を引き締めて荒神を見詰める。
その表情は、初めて見るとしてのの顔。
「……んじゃ、俺達は高みの見物でもしてるぜ。元々、力が遣えればお前一人で大丈夫だったんだろうからな」
そんなに、シカマルは小さくため息をついて本気で見学モードに入った。
「あんまり見られたくはねぇんだけど、お前等が見ててくれるんなら頑張らなきゃだしな……」
どうするべきか考えていた俺に、は何処か悲しそうな表情を見せ先ほどとは全く正反対の事を口にして、苦笑交じりに言うとそのまま結界の外へとゆっくりと歩いて行く。
「!」
俺と違って集中しなくってもはこの結界を完璧に維持できるから、そのままにした状態でも自分だけ外に出る事も可能なのだろう。
だけど、外は刃のような風が吹き荒れている状態で、俺は思わずその名前を慌てて呼ぶ。
俺の呼び声には振り返って、フワリと微笑んだ。
それは、言葉以上に俺を安心させる為の笑み。
優しくって、そして綺麗な綺麗なの心をそのまま映しているかのように安心できる笑顔だった。
その笑顔を見せて、が結界の外へと歩いて行く。
「心配しなくっても、あいつは大丈夫だ。俺達はただ見てるしかできねぇんだ……」
「シカマル…でも……」
それでも心配で、見詰めていた俺にシカマルがその手を掴んで無理矢理座らされてしまう。
「言っただろう。今のあいつは、あの荒神よりも力が上だてよ……だから、俺達が出て行っても足手纏いになるだけだ」
それに言葉を返そうとした俺は、言われたその言葉に、口を閉ざした。
俺を掴んでいるその手は、小さく震えているのが分かったから……。だからこそ、シカマルの気持ちが分かって、俺は何も言う事が出来なくなりまたへと視線を戻す。
スッと結界の外へと出たを、荒れ狂って吹いている風が襲い掛かる。
だけど、その風は、バチバチと言う音と共にに届く事はなかった。
「……すごい……」
の体をまるで包んでいるかのように電流が迸っているのが見える。
その電流自体が、結界のように風を跳ね除けているのだ。
「あれが、あいつの中に眠ってる神の力かよ……」
信じられないその力に呟いた俺に続いて、シカマルもボソリと口を開く。
確かに忍術では有り得ない力。それが、としてのの持っている術者としての力なのだろう。
神の力さえも自在に扱えるなんて……。
まるで雷を纏っているようなのその姿を見ていると、ゾクリと体が震えるのを止められない。
その姿は、まさに神……。
「……だから、俺達に見せたくねぇって言ったんだろうな……」
ギュッと自分の体を抱き締めるようにした俺の隣で、シカマルが小さく呟く声が聞えた。
その声にそちらへと視線を向ければ、シカマルもギュッと震えている手を自分の手で抑える様に握り締めているのが見える。
きっと、俺と同じ事を考えたのだろう。
「でも、そんな凄いヤツでも、は俺達……俺にとって大切な人だから……」
全てを受け止めてくれた人。
そして、帰る場所を与えてくれた。
自分がここに居てもいいのだと、そう教えてくれたのは彼だけなのだ。
「……お前なぁ…俺達だろうが、態々言い直すんじゃねぇよ、めんどくせぇ」
はっきりとした口調で言った俺の言葉に、シカマルがため息をつき握り締めていた手の力を抜いて何時ものように面倒臭そうに頭を掻きながら訂正されたそれに、思わす笑ってしまう。
何時もの調子に戻ったそれに、俺も抱き締めるように掴んでいたその手を外して、真っ直ぐにを見る。
「だから、俺達はちゃんと見届けなきゃいけないんだよ」
最後まで……。
そう続ける言葉は、そのまま心の中に押し込める。
今、ここに居るのが自分達だからこそ、信じてくれているに答えるために……。