俺ってすっごく幸せなヤツだと再度そう思わずに居られない。
こんな厄介な事なのに、力を貸してくれる大切な人たちが居る。
なぁ、だから相手がどんな奴だって、守りたくなるんだ。
例え、自分が傷付く事になっても……。
結果内に入った瞬間、ざわりとトリ肌が立つ。
誰かの力によって、自分の持つ力が押さえつけられる感覚ははっきり言って気持ちが悪い。
「!」
ガクリと膝を付きそうになった俺に気付いて、ナルトが俺の名前を呼ぶ。
それに俺は何も返す事が出来ない。
この前来た時よりも、事態が悪化している事に気が付いた。
半分どころか、殆ど力が奪われている。
この前の『昼』と同じ状態だ。
「おい、大丈夫なのか!」
入った瞬間風が襲い掛かってくるのを、俺が教えた結界でナルトがカバーしてくれる。
きっとそれがなければ、俺とっくに死んでたかも……。
体が動かない。これじゃ、俺こそが足手纏い。
シカマルの声が、何処か遠くに聞える。
意識もまともに保てないなんて、この前の『昼』よりも最悪かも……。
「!」
もう一度ナルトが俺の名前を呼ぶ声が聞えた瞬間、俺の意識は闇の中へと引きずり込まれてしまう。
『……ない…』
遠くなった意識の底で、俺は誰かの声を聞いた。
『……かえ……ない』
誰かが泣いている。それは、底無しの悲しみが支配している誰かの記憶。
ただ誰かを想いながら、泪を流す。その流れた泪が、まるで湖のような暗闇に波紋を作った。
なぁ、居なくなったのは誰?泣いているのは、一体……。
「おい、!!」
体を揺すられる感覚に、意識が浮上する。
瞳を開いた瞬間、心配そうに自分を抱き上げていたシカマルの視線を真っ向から見る事になった。
いや、正直言えば、顔が近くってビックリしたのは黙っておこう、うん。
「、気が付いた!」
その横で結界を張ったままの状態で、ナルトが嬉しそうに俺の名前を呼んだ。その表情は本当に安心したようなモノだったから、よっぽど心配掛けたって事だろう。
でも、当の本人である俺は、一瞬何が起きたのか分からずに、きょとんとしてしまうのは許してもらいたい。
だって、一番状況が理解出来てないのは、俺自身だと思うのだ。
この中に入った瞬間、俺は全ての力を失ったはずなのに、今はその力が完全に自分の中にあるのが分かる。
そして、自分の中に、自分とは全く異なる力を感じる事が出来た。
「俺は……」
「急に倒れたと思ったら、すっきりした顔で目を覚ましたようだな」
呆然としている俺に、シカマルが呆れたようにため息を付く。
確かに倒れる前は全ての力が抜けていく感覚を味わったのにも関わらず、今は自分の力を完全に使う事が出来る。
シカマルが、すっきりしたと言うのは、そう言う理由だろう。
「……俺の中に、誰か居る……」
「?」
そしてはっきりと感じる事が出来る、誰かの力。
心配そうに問い掛けてくるシカマルに、俺はただ曖昧に笑みを返した。
まだ、全てを理解した訳じゃない。あの神を静めるには不十分な情報。それでも、ここに来て何かを得られた事は、かなり有難い事だった。
泣いている誰かを、見付けられれば救う事が出来るのだ。
俺の中に居る誰かは、問い掛けに答える事は無く、ただ自分に力を貸すように眠りについている。
だけど、こいつが全てを握る鍵だと俺の勘が教えてくれた。
目の前の荒神と、俺の中に居る誰かは同じ力を持っていると言う事が全てを結び付けているのだ。
そしてその力こそが、俺の力を一瞬でも全て奪ってしまう原因になってしまったのだと言う事も……。
だけど、俺の中の誰かのお蔭で、今は目の前の荒神と同じ力を手にする事が出来た。だから、力が全て遣えるようになったのだ。
それにこうなるまで気付かなかったんだから、ちょっと自分が情けない。
「シカマル、俺があいつの力を封じている間に、封印石を頼んでもいいか?」
そこまで理解して、盛大なため息をつき、状況を全く把握できていないシカマルへと声を掛ける。
「ああ?何言ってんだ、お前力が半分に……」
「大丈夫。今の俺は100%の力を使う事が出来るから」
俺の言葉に、シカマルは心配したように口を開くけど、それに笑顔で返事を返した。
「、本当に大丈夫なの?」
そんな俺に、シカマルは不信気に様子を伺ってくるし、ナルトも信じられないと言うように問い掛けてくる。
まぁ、倒れちまったんだから、心配されても仕方ないけど、そんなに信用ないんだろうか、俺って……。ちょっとそれは、悲しいかも……。
「おう、大丈夫。だけど、流石に俺一人であいつを抑えて封印石を元に戻すのは無理だから、シカマルに頼むな」
だから、それ以上心配させないように素直に言えば、漸く分かってくれたのかシカマルが仕方ないなと言うように小さくため息を付くのが分かる。
「ナルトは、シカマルのフォロー。結界張らなくても大丈夫とは流石に言えないから、そのままシカマルと一緒に行動してくれ」
それが了承の合図。それを感じ取って、俺はナルトへと声を掛けた。
俺達3人の周りには、しっかりとしたナルトの結界が張られている。そのお陰で、外は荒れ狂う風が吹いているのに、この中は平和そのものだ。
「えっ、でもそれだとは……」
「俺は大丈夫」
俺の言葉にナルトが不安そうな瞳で見詰めてくるのを、結界を自分の周りに張る事で返事を返した。
「なっ、大丈夫だろう」
しっかりと結界を張ってウインク付きでそう言えば、ナルトが複雑そうな表情を見せる。
「なら、とっとと行動に出るぞ。ナルト!」
そんな俺を確認したシカマルが、ナルトを促すようにその名前を呼ぶ。
シカマルに名前を呼ばれて、ナルトは複雑な表情を見せながらも、しっかりと頷き俺からゆっくりと離れて行く。
「さて、あっちは二人に任せるとして、あんたの相手は俺がさせてもらう。俺の中に居る奴と一緒に、全部暴いてやるからな!」
って、ちょっとワルノリ気分で宣言。
いや、だってなぁ、何にも分からずに謎ばっかりてぇのは、気分が悪いんだよ!
今の俺なら封印する事はそう難しい事じゃねぇけど、こんな状態だと胸糞悪い。
納得させて眠りに就かせてやるから、覚悟しとけよ!
から離れた瞬間、聞えてきたその声に思わず振り返る。
宣言するように言われた言葉は、俺には理解出来なかった。
明らかに空気が違うこの中に入った瞬間、が膝を付いて倒れいれしまった時は、かなり動揺したのが正直な処。
だって、その時の顔色は真っ青を通り越して真っ白だったんだ。
まるで死人のようなその顔色に、さっと血の気が引く。
だけど、に駆け寄ろうとした瞬間、まるで意志を持った様な風が俺達に襲い掛かってきて、慌ててに教わった術を発動させた。
その瞬間、先程まで感じていた違和感が消えるのを感じて、ホッと息をつく。
だけど、倒れてしまったの事を思い出して振り返れば、シカマルがその体を抱き上げているのが見えた。
今もその意識が無いのか、ぐったりとしているをシカマルが必死にその名前を呼び続けている。
何が起こっているのか全く分からずに、俺もただの名前を呼ぶ事しか出来ない。
時間にしてはかなり短い時間だったと思うけど、俺にはすごく長く感じられたその中で、突然の体がピクリと動いて、その瞳が開いた後には、何時もと全く代わらないがそこに居た。
そして、先程の相手へと向けたセリフ。
「の中に、一体誰が居るんだろう?」
「さぁな、でも、ここの主の関係者には違いねぇんだろう」
ポツリと呟いた俺の言葉に、シカマルがサラリと返事を返してくれる。
確かに、の言葉からもそれは分かるけど、本気で一体誰なのか気になるのだ。
「何にしても、言われた通り封印石を元に戻すのが先だ」
そして、しっかりとした口調で言われたその言葉に、俺も頷いて返す。
正直言えば、今張っている結界、使い慣れていない所為かもしれないけど、そんなに長く持たせるのは難しい。
出来れば、早く終わらせてしまいたいと言うのが正直な所だ。
「で、お前は大丈夫なのかよ」
内心でそんな事を考えていた俺の耳に、シカマルが問い掛けてくる。一瞬何を言われたのか分からなかったが、言われた内容を理解してちょっとだけ笑みを見せた。
「まだ、大丈夫だと思う。正直言えば、長くは続けられないけどな……」
自分を心配してくれたシカマルの問い掛けに、俺は素直に返事を返す。
そんな俺の言葉に、シカマルは複雑そうな表情を見せたけど、辿り着いた社の前に置かれている崩れた石を前にして、それ以上何も言う事は無かった。
きっと、早く終わらせる事を優先しているんだろうと分かるから、思わず笑ってしまう。
そして目の前で組まれる印は、禁術に近い修復術。
シカマルにとっては、かなりのチャクラを消費する術だろう事は分かっている。
だけど、今この術を使えるのはシカマルだけだ。だからこそ、俺はただそんなシカマルを見守る事しか出来ない。
俺自身、今はこの結界を維持するだけで精一杯だから……。
風は、まだ止む事無く吹き荒れている。
直ぐ傍に居るはずのの声さえ吹き消すその風は、まるで誰かが泣いているように聞えて、俺は小さく体を震わした。
耳を塞ぎたくなるようなその声を何とか頭を振る事で遮切って、シカマルへと視線を戻す。
既に術は完成して、シカマルから注がれるチャクラにより、崩れた石がゆっくりとその形を取り戻していくのを見て息をつく。
術が成功すれば、後はシカマルのチャクラが何処まで持つかと言う心配が残るのだ。この術は、兎に角大量にチャクラを必要とするからこそ、禁術に指定されている代物だ。
チャクラによって物質を再構築させるのだから、仕方ないかもしれないけど、本気で一般的な術じゃない。
まぁ、普通なら壊れたものは『諦めろ』の一言で終わるものを、直すのだからその代償と言えば安いのだろうか?
俺には、そんなにしてまで大事にしたいモノはないから、必要ない術ではあるんだけど……。
って、違う事考えてる間に、石の形が半分まで直されている。
術を施しているシカマルは、汗だくになっていて、正直かなり辛そうだ。後半分、チャクラは持つんだろうか?
声を掛けて、シカマルの集中を邪魔する訳にも行かず、俺は不安を隠せずに、ただシカマルを見守る事しか出来ない。
その間俺も、結界の維持に専念する。
この結界がなくなったら、俺もシカマルも風の刃でボロボロ確定だ。