流石と言うかなんと言うか、ナルトは一度だけで俺の印をしっかりバッチリと覚えてくれた。
もっとも、印を覚えたからと言って、その術が使えるかどうかはナルト次第。
もし使えなければ、ちょっとどころか、かなり厳しくなりそうだ。
「大丈夫そうか?」
シカマルが心配そうにナルトへと問い掛ける。
そう言えば全然関係ないんだけど、暗部名で呼んでない事に今頃気が付いた。
まぁ、この森全体に『昼』が結界張ってくれてるから、他の誰かが入って来る事が無いの分かってるので俺達の正体が誰かにバレる心配はないから別にいいんだけど、これに慣れちまうとヤバイから気を付けないとなぁ……。
二人共俺と違って、普段は変化してるからそのままの状態の今は、そんな事気にしてないみたいだけど、俺は二人と違って変化するチャクラだないからなぁ……。
そう考えると、本気で自分が情けなくなってくる。
チャクラの量だけは、修行しても無駄だと思うけど、こっそりと修行してみようかなぁ……。
って、思わず現実逃避しちまった。
必死に術を成功させようとしてくれてるナルトに対して、すっごい失礼だな、俺。
「これは、呪術よりも忍術に近いと思うから、ナルトでも大丈夫だと思うんだけど……」
「うん、確かに、式作るよりは大丈夫かも……」
一度印を組んで確認しているナルトに問い掛ければ、頼もしい言葉が返された。
流石、木の葉の里No1の実力者だよなぁ……。やっぱり、ナルトって凄いと正直に思ってしまう。
「その結界が張れるようなら、相手に心を読まれる心配は無くなる」
シカマルにとって、心を読まれるのは致命的だと分かるから、これなら何とか出来るかもしれない。
うん、やっぱりこの二人呼んでくれた三代目に感謝だな。
これなら、そんなに傷を作る事無く、仕事を終わらせる事が出来るかも……。
何にしても、『夜』を怒らせないですむかもしれないと思うだけで、心から安堵してしまうのは止められない。
木の葉の里に迷惑掛ける事だけは、避けたいからなぁ……。
暫く三代目は使い物にならなくなるところだっただろうからなぁ、うん。
三代目は、そこまで考えて、ナルトとシカマルは呼んでくれたんだろう。
やっぱり、火影と言っても、人の子だったんだなぁ。
怒った『夜』を相手にするのだけは、絶対にしたくなかったんだろう。
それだけ、本気で怒った『夜』を相手にするのは避けたいと言う事だ。
俺や『昼』には、そんな事ないんだけどなぁ……やっぱり、親心ってヤツなのかも、うん。
「、これで大丈夫?」
真剣に考え事をしていた俺は、頑張って術の練習をしていたナルトの声で我に返った。
そして、慌ててナルトへと視線を向けて、思わず感動しする。
うん、『夜』が誉めるだけあって、完璧に綺麗な結界が張られていた。
「十分。それなら、問題ない」
これなら、シカマルと違って本気で術者としても通用するかも……。
もっとも、この術はかなり忍術よりではあるんだけどな。それでも、たった短時間で習得出来るほど簡単な術じゃないのは、本当。
うん、やっぱりナルトって、凄いとそう思った瞬間だった。
ナルトのお陰で何とかなると言う事を聞いて、内心かなりホッとする。
このままじゃ、俺は完全に足手纏いだ。
大体、頭脳派の人間に、考えるなと言う方が無理な話だろう。
つーか、心が読めるなんて反則じゃねぇかよ。
こいつが人間離れしてる理由は何となく知ってはいたが、こうやって自分で体験しねぇと、その苦労ってヤツは分からねぇものなのだと実感させられた。
それに、神と言う存在がどれだけ厄介かと言う事も……。
普通のヤツよりは、の家にある本を読んでいるので知識としては頭に入っている。
そう、知識としてだけならば、だ。
ナルトのように、俺には呪術を使う才能は全くねぇ。それは昔、身を持って実感させられているから今更何を言われても気にはしない。
正直言えば、才能があるナルトが少しだけ、本当に少しだけだが羨ましくはあったのだが……。
人間には、得て不得手と言うものがある事を誰よりも理解しているので、無いモノねだりをするつもりはない。だから、今では諦めている事だ。
「それじゃ、ナルトは結界を張り、シカマルとあの結果内にある社の場所まで行ってくれ。そこに割れている封印石があるから、それを修復出来ればいいんだけど……」
作戦とはとても言えないモノだが、どう行動するべきかをが俺達に説明するように口にしたそれだったが、最後は頼りない口調で途切れた内容に俺とナルトが同時にため息をつく。
逆に俺達と違って、は忍術に関して、そんなに知識を持っている訳じゃ無い。
三代目が、チャクラの極端に少ないこいつの為に、忍術は簡単な初歩のものしか教えなかったのが理由だろう。
「禁術になっちまうが、壊れたものを元に戻す術つーのがあるから、安心しろ」
「忍術にも、そんな術があるのか?」
ため息をついて、そう言う術がある事を言えば、予想通りが意外そうに聞き返してきた。
って、呪術にも、やっぱり同じような術があるんだな。
の言葉に、感心したように考えていた俺の耳にナルトの声が聞えてくる。
「うん、シカマルが言うように禁術になるけど……医療忍術の応用みたいなもので、物質であれば完全に修復出来ると思う。だけど……」
の質問にナルトが説明するように答えて、心配そうに俺へと視線が向けられた事で、俺は小さくため息をつく。
そう、ナルトの言いたい事は、めんどくせぇが嫌ってほど分かっている。
ナルトは、忍術に近いと言っても呪術者としての能力が必要な結界を張る事になるのだ。そんな状態の時に、他の術を使うなんて事は出来ないだろう。
チャクラが俺以上に少ないでは、この術を使う事が出来ないつーのは分かり切っている。
そうなると、禁術に近いその術を使う事が出来るのは、どう考えても俺しか居ないのだ。
……術式はしっかりと頭に入っているから問題ねぇけど、俺のチャクラが何処まで持つかが心配なんだよな……。
しっかりと頭の中で如何するべきかを考えて、もう一度ため息。
「何とかなんだろう……俺はナルトと違って、んなにチャクラがある訳じゃねぇから、完全普及は無理だと思ってくれ」
ここまで来て、それが出来なきゃ完全に足手纏いだ。
少しでも役に立てないのなら、ここに居る意味がなくなっちまうからな。
「……ごめん……」
頭を掻きながらそう言えば、が辛そうに俺に謝罪してくる。
そんな顔するに、今度は盛大なため息をつく。
「謝んじゃねぇよ、このバカ。嫌なら、最初からここにゃ居ねぇつーの」
「うん、俺もシカマルの意見に賛成。はもっと俺達を頼るべきだと思う」
俺の言葉に続いて、ナルトもしっかりと言葉を続ける。
まぁ、お前も人の事言えねぇような気がするとそう思ったのは、黙っておこう。
「……有難う、ナルト、シカマル」
自分達に言われた事に、が何時ものフンワリ笑顔を見せる。
俺も、ナルトもその笑顔に弱い事は実証済みだ。お互い同時に顔を見合わせて、思わず苦笑を零した。
その笑顔が見られるんなら、こんな事何でもないと思っているのが、本音だから……。
「シカマルが頑張ってくれるって事は分かったんだけど、はどうするんだ?」
だけど、このままでは話が進まないと言うように、ナルトがへと問い掛ける。
「封印石が修復出来れば、もう一度封印する事が出来るんだ。俺の役目は、社の中へ神を戻し修復された石を使って、再度封印する事」
あっさりと言われた言葉は、言われた言葉のように簡単なモノではないだろう。
どう考えても、それは大変な事だ。
はどうするんだ?」
だけど、このままでは話が進まないと言うように、ナルトが一族って、んな事やってんのかよ?!命が幾つあっても足んねぇぞ、おい。
「そ、それって、は大丈夫なのか?」
ナルトも、俺と同じ考えに至ったのだろう、心配気にへと問い掛ける。
「大丈夫、死ぬような事は絶対にないよ」
安心させるように、フンワリ笑顔と共に言われた言葉に、俺は一瞬ピクリと反応した。
そう、が言ったその内容は、死ぬ事はないかもしれないが、怪我をする事はあると言うモノなのだ。
ナルトもその笑顔に騙される事なく、複雑な表情でを見ている。
「それじゃ、大変かもしれないけど、一族の仕事、始めましょうか」
そんな俺達の心情など全く気付きもせずに、は顔を上げて、ある一箇所に視線を向けた。
その先にあるモノは、この森の中なら何処でも同じように見える木々が生い茂る景色。
一体、真実の瞳と王者の瞳を持つこいつの目にはどんなモノが映っているんだろうか。
厄介としか言えないその瞳が見せる景色は、きっと俺達とは違うモノが映し出されているのだろう。
誰かの悲しい記憶と同じものを映す真実の瞳に、今何が映し出されるのだろうか……。
真剣に見詰められるその視線に、俺は複雑な思いを隠す事ができなかった。