学校に着いた瞬間、俺はイルカ先生から呼び出された。
 今日は珍しく遅刻もしてないし、昨日は何も悪戯していない。
 何で、呼び出されたのか原因が分からず思わず首を傾げる。
 折角、今日はが登校してるって言うのに……。

「失礼しまーすってば」

 職員室と呼ばれるその部屋の扉を開いて、一応礼儀と言うように声を掛け中へと入った瞬間、ザッと嫌な視線を向けられる。
 慣れていると言えばそれまでだけど、この視線はどうしても好きにはなれない。

「おう!こっちだ。すまなかったな、突然呼び出して」

 俺の姿を見つけたイルカ先生が、存在をアピールするように手を上げて俺を呼ぶ。
 その様子から見て、説教の為に呼ばれた訳じゃない事を悟って、ちょっとだけホッとした。
 別に怒られるのが怖い訳じゃない。だけど、この先生の説教は長いからなぁ……。

「イルカ先生、なんだってばよ」

 それが分かって内心ホッとしながら、俺はイルカ先生の居る場所へと急いだ。

「ああ、すまなかったな、突然呼び出して」
「それは、さっきも聞いたってばよ」

 ニコニコと嬉しそうな笑顔を見せているイルカ先生に、小さな声で突っ込む。
 こんなに上機嫌なイルカ先生って、あんまり見た事ないんだけど……。

「お前、と仲がいいんだってな」
「はぁ?」

 そして、言われたその内容に、俺は思わず素で返しちまった。
 いや、だって俺との仲がいいなんて何処からそんないい加減な情報が……。

「何だ、違うのか?」

 本気で驚いている俺に、イルカ先生が不思議そうに聞き返してくる。

「えっと、えっと、って、誰だってばよ」

 それに俺は必死で言葉を考えてから、返事を返した。
 それが、情けない事だけど俺に返せた精一杯の言葉だったから……。

「誰って、お前なぁ……はお前と同じクラスだぞ」

 俺の精一杯の質問に、イルカ先生が呆れたようにため息をつく。
 いや、だってあんまりにも急だったから、それしか誤魔化す方法思い付かなかったんだよ!
 俺って、の事になると情けないくらいダメダメになるかも……xx

「えっと、何か、最近名前は聞いたような……でもでも、何で急に俺とそいつが仲いいなんて話しになるんだってば?」

 そんな嬉しい状態になってたら、今頃俺は喜んでと話してるからな。

「いや、そのって言うのは、体が弱いんだが、両親の遺言もあり特別にアカデミーに入学が許されている生徒なんだが、な……その、どうも存在が薄いって言うか、あまり友達も居ないようで、教室で誰かと話をしているなんて一度も見た事ないんだが、お前とシカマルが一緒に居るのを偶然見掛けて……仲がいいのかと思ったんだが……どうやら俺の勘違いだったみたいだな」

 の事を説明してから、イルカ先生が理由を説明してくれる。
 へぇ、って、両親の遺言でこのアカデミーに入学してるのか……。そうだよなぁ、普通は体が弱い奴が、このアカデミーには入学できないし、特別な理由ってやつなんだろう。
 って、でも、イルカ先生、俺とシカマルがと一緒に居るのを見掛けたって、一体何時だよ!

「俺とシカマルが、そのって奴と一緒に居たのをイルカ先生が見たんだってば?」
「ああ、昨日偶然……でも、気の所為だったみたいだな。偶々一緒に居るように見えたんだろう。それに、良く考えれば、は昨日休みだったんだからそんな事ある訳ないな」

 た、確かに昨日の昼休み3人で昼食食べてたけど、あれはちゃんと結界張ってあったし、絶対に気付かれる訳がない。
 なのに、イルカ先生は、俺達を見たと言ったのだ。

 じ、実は万年中忍だけど、この先生って侮れないのかも……。

「俺ってば、昨日そんな奴と一緒に居なかったってばよ!イルカ先生ってば、その年でもうボケが始まってるんじゃねぇのかってば?」
「誰がボケてるんだ!……まぁ、今回は俺の勘違いで呼び出したんだ、すまなかったな」

 俺が冗談で言った言葉に何時もの怒鳴り声を返してから、イルカ先生が一つため息をついて素直に謝罪の言葉を口にする。
 って、本当、この先生だけだよな、俺に謝るなんて……。

「それは別に気にしてねぇんだけど、俺とそのって奴が親しかったら何かあるんだってば?」

 だけど、そんな事よりも俺はイルカ先生が俺を呼んだ理由が知りたくって、素直に問い掛ける。
 それで答えてくれるかどうかは分からないけど、の事を持って知りたいと思ったから……。

「……本人にも確認は取るつもりなんだが、あいつのこれからの事をちゃんと聞いておきたくってな……」

 俺の疑問にイルカ先生は一瞬考えるような素振りを見せたけど、それは本当に一瞬だけで次の瞬間には苦笑交じり理由を説明してくれた。

「これからの事って、アカデミーを卒業したら忍者になるんじゃないんだってば?」

 だけど、その理由に俺は分からないと言うように再度質問。

「言っただろう。は体が弱いんだってな。このまま忍者になるかどうかは、本人のやる気次第だ」

 ため息をつきながら、イルカ先生が説明してくれる。
 そう言えば、はそこまで考えて体が弱い設定にしているんだって言ってた。

 だから、忍者になるつもりはないんだって……。
 そ、そんなの絶対に嫌だ!
 このままじゃ、一生表で、と話が出来ない。

「お、俺ってば!そのって奴に聞いてやるってばよ!」
「いや、お前の気持ちは有り難いんだが、は大人しい奴だからな……お前と仲がいいなら任せるんだが、そうじゃないならそんな重要な事を生徒に任せる訳にはいかない。大丈夫、俺がちゃんとと話をするから心配するな」

 そう言って笑顔を見せるイルカ先生に、俺はなんと答えればいいのか分からずに黙り込む。

 それが、信用できないとは口が裂けても言えない。
 何よりも、本人にはその気が全くない事を知っているからこそ、余計に複雑な表情をしてしまう。
 出来れば、同じ下忍になって、表でもと話をしたいと思うのは、俺の我が侭だろうか?
 が、一族の仕事に暗部の仕事、そしてアカデミーにと多忙な事を知っているからこそ、そんな我が侭な事は言えない。
 言えないけど、やっぱり表でも堂々と話をしたいと思うのは、初めて自分が認める事の出来る相手と知り合えたからだ。

「それじゃ、もう直ぐ授業が始まるから、お前はもう教室に戻りなさい。呼び出してすまなかったな」

 考え込んでいた俺に、イルカ先生が時計を確認して、声を掛けてくる。
 言われて気が付けばもう直ぐで予鈴が鳴る時間。

「早くしないと、遅刻になるぞ」

 からかうように言われたイルカ先生の言葉に、反論も出来ず俺は素直に職員室を後にした。
 教員室の扉を閉めて、ホッと息を吐く。
 教員達から向けられる視線も気にならないぐらい、俺の頭を過ぎるのは俺に居場所をくれたあいつの事。

「……やっぱり、は下忍になるつもりないんだな……」

 仕事のことを考えたら当然かもしれない。
 だからこそ、は体が弱いと言う設定でアカデミーに通っていたのだから……。

「……表でも、当然のように話が出来るなんて、無理なのかなぁ……」
「ナルト、んなところで何やってるんだよ。めんどくせぇが、もうとっくに予鈴は鳴っちまってんぞ」
「シカマル?」

 ポツリと呟いた瞬間声を掛けられて顔を上げる。
 勿論その存在は気が付いていた。
 アカデミー生らしく気配を消さずに近付いて来たのだから、気付かない方が可笑しい。

「おはようだってばよ。珍しいってばね、シカマルが朝からこんなところに来るなんて」
「悪かったな……めんどくせぇ事に、教師からこいつを運んでくれって言われちまったんだつーの……お前もどうせ教室に帰んだろうが、半分持っててくれ」

 俺は余りにも意外な相手に、思わず問い掛ければ、盛大なため息と共に無理矢理持っていた荷物を渡された。

「これは、シカマルが頼まれたんだってばよ!俺が、持つ必要はないってば!」
「あ〜っ、ついでだついで」

 持たされた荷物に文句を言えば、シカマルはやる気なさそうに返事を返してくる。
 いや、確かについでだけど、それもどうかと……。

「仕方ないってばね……シカマル!一つ貸しだってばよ」
「へぇ、へぇ」

 そんなシカマルに何を言っても無駄だと知っているから、俺はため息を付いて教室に戻る為に歩き出す。

――で、イルカ先生の呼び出しはなんだったんだ?

 歩き出した瞬間、心話でシカマルが問い掛けてくる。

――の事……。
――ああ?何で、イルカ先生がの事でお前を呼び出すんだよ!

 それはそれに小さくため息をついて言葉を返す。勿論表ではしっかりとシカマルに文句を言いながら。
 そんな俺の言葉に、シカマルが驚いたように聞き返してきた。

 う〜ん、表ではそんな素振り見せてないのに、こいつもかなり器用になったよなぁ……。

――昨日偶然俺とが一緒に居るのを見たとか何とか……多分見間違いだと思うけどな………。

 俺のその言葉に、一瞬シカマルが複雑な表情を見せて、黙り込む。
 そう言う表情をする時は、大抵何かを考えている時だ。

――……あの先生、侮れないかもな…。

 そして、その沈黙の後、ポツリと呟かれたシカマルのその言葉の意味が俺には理解できなかった。