報告書は勿論、闇坂の城主へと当てた謝罪文も無事に書上げてホッと息をつけば、窓の外は薄らと明るくなっていた。
「もう、こんな時間か……さっさと、闇坂の城主にこいつを送っとくか……」
カーテンを開いて、窓を開き書上げたそれを自分の気を送る事で鳥の姿へと変える。
「頼むな」
元はただの紙だと分かっているけど、そう声を掛けて空へと放つ。バサバサと羽ばたく音を響かせて、真っ白な鳥が遠去かって行くのを見送り、俺は小さくため息をついた。
あの鳥が闇坂の城主へと辿り着けば、あの城主が諦められるように特殊な呪術を使ったので、この件に関しては全く心配などしていない。
だけど、一つだけ気になる事がある。
それは、ナルトの事。
「ナルトは、術者とか神とかそんな存在知らずに来たんだから、戸惑っていて当たり前なんだけど……俺みたいな中途半端な存在を認めてくれるのか……」
『心配する事はないだろう。器のガキは、お前に近付こうと必死だぞ』
自分の使う術は、全て呪術と忍術が組み合わされたモノが多い。だから、自分以外には使えないのだ。
忍者としても、そして術者としても中途半端な存在である自分。それは、間違いなくどちらの世界からも認められない異質な存在。
「『昼』…」
自分の呟きに返されたその声に、俺が振り返れば赤い瞳が自分を見詰めてくる。
『あのガキは、自分がするべき事をちゃんと分かっているから、安心しろ』
そして続けて言われたその言葉に、俺は意味が分からずに首を傾げた。
「それって、どう言う……」
『、おはよう!『昼』も大丈夫?』
『昼』の言葉の意味が分からずに問い掛けようとしたそれは、突然開かれた扉と元気な声によって遮られてしまう。
「『夜』……おはよう」
元気のいい黒猫に、意識を向けて挨拶を返す。
『お前は、朝から煩すぎだ……オレは、もう少し寝ているから、静かにしていろ』
『もう、『昼』ってば、また寝ちゃうの?折角『昼』の為にチャクラ回復メニュー用意したのに……』
そんな『夜』に、『昼』が呆れたように盛大なため息をついてまた寝る為に体を丸める。それを見て、呟かれた『夜』のその言葉に、信じられない言葉を聞いたと言うように音の発生源を見た。
「よ、『夜』、あ、朝からあのメニューを用意したのか?」
『勿論だよ!だって、早く回復した方がいいでしょう。ナルもね、手伝ってくれたんだよ』
恐る恐る訪ねたそれに、にこやかに返された言葉は、出来れば聞きたくなかった言葉だった。
いや、確かにチャクラ回復メニューの効力は自分が一番良く知っている。
殆ど0に近い状態でも、100%とは言わないが、3分の2以上の回復は夢じゃない。
そう、普通なら一週間は掛かるだろう回復も、たった一食でOKと言う忍びにとっては有難いメニューだ。
『……オレは寝ていれば直るから、心配する事はない。オレの変わりに、が食べてくれるだろうから安心しろ』
しかし、肝心の味が問題。そう、確かに回復は望めるのだが、精神的には追い詰められるような迷惑なメニュー。それが、『夜』の作る、チャクラ回復料理だった。
『だめだよ。夜にはまた仕事があるんでしょう。ちゃんと食べなきゃ!それとも、今日はボクがと一緒に仕事に行ってもいいの?』
楽しそうに訪ねてくる『夜』のその言葉に、『昼』が、ピクリと反応して体を起こす。
『………オレは、チャクラが不足している訳じゃないだろう……』
そして、盛大なため息をついて最後の悪足掻き。
うん、気持ちは分かるんだけど、こうなった『夜』を止める事なんて誰にも出来ないって事は、きっと『昼』が一番分かっているだろう。
『大丈夫。ボク達の力を回復する要素もしっかりと取り入れたスペシャルバージョンだから、安心していいよ』
ニコニコと嬉しそうに言われるその言葉に、俺と『昼』は同時にため息をついた。
何時もは、美味しい料理を作ってくれるのに、どうして回復料理に関しては、あんなに特殊なモノが出来るのか教えてもらいたい。
『それじゃ、準備できているから、ちゃんと降りてきてね!』
負けたとばかりにため息を付いた俺達に、『夜』が満足そうに部屋を出て行く。
「……んじゃ、『昼』も諦めて起きるしかねぇな……」
『オレは、このまま寝ていたいぞ……』
ボソリと呟かれた『昼』の言葉にただ苦笑を零す。
本当に、こんな時の『夜』だけは、要注意だと悟った瞬間だった。
時々、本当に時々だけど、アレは『夜』なりの意趣返しなのかもしれないと、そう思わずには居られない。
しかも、今回はナルトまで巻き込まれたと言うのだから、ため息が重くなるのは仕方ないだろう。
「おはよう」
観念して、リビングへと降りた俺を出迎えてくれたのは複雑な表情をしたナルトだった。
「おはよう、ナルト……まぁ、気持ちは分かるから、深く考えない方がいいぞ」
そんなナルトを慰めるように苦笑を零しながら椅子に座る。
「……『夜』が料理を作ってる所は何度か見たことあったんだけど、あんな料理の仕方、初めて見た……」
並べられている料理を見てもう一度ため息をついた俺の耳に、ナルトから恐ろしいモノを見たと言うような呟きが聞えてきてただ苦笑を零してしまう。
いや、確かにあの料理方法は、特殊だよなぁ……火炎砲とか何処から購入してきたのか一度聞いてみたいかも……。
それに、あの薬草にゲテモノ系の材料も一体何処から持ってきたのかも気になるところだ。漢方薬とは良く言ったもので、体にいいものが集められているのは分かるけど、それを全部ぶち込んだ料理なんて、本気で食いたくない。
あの料理方法は、どっかの魔術師が怪しいクスリを作っているようにしか見えないだろう。
「……早く忘れた方がいいぞ……それが、ナルトの為だ……ちなみに、シカマルは逃げたのか?」
「……今朝急いで家に帰った……俺は、逃げ遅れたんだ……」
苦笑を零しながら、ナルトに質問した俺に、ナルトがため息をつきながら返事を返してくる。
里一番の忍びを逃がさないなんて、流石は『夜』だよなぁ……。
『器のガキ、手伝わずに何故止めなかった』
ぐったりと姿を現した『昼』が、ナルトを責めるように口を開く。
「うっ、あんな料理だと知ってれば、止めたかったんだけど、チャクラ回復料理に興味はあったんだ……だから、逃げ遅れたんだし……『昼』は、もう大丈夫なんのか?」
そんな『昼』にナルトは、正直に理由を話しその後心配そうに問い掛けた。
『オレは、大丈夫だ……だから、こんな料理も必要ない』
「そんな事言うなって、ああなった『夜』は誰も止められないって事は、お前が一番分かってんだろう。まだ諦めてなかったのか?」
プイッとナルトから視線を逸らしての言葉に、俺は咎めるようにその頭に手を乗せて小さくため息をつく。
「でも、諦めきれない『昼』の気持ちは分かるし……」
テーブルに並べられている料理を前に、ナルトは『昼』の言葉を気にした様子もなく同意した。
いや、うん、俺もその気持ちは良く分かるんだけど……。
『お待たせ!これで最後だよ。口直しのデザート』
そんな俺達とは反対に、勢い良くドアを開いて入ってきた『夜』が最後の料理を運んでくる。
それは、並べられている料理と違って、ごく普通のフルーツヨーグルト。
口直しと言っている事からも、『夜』はこの料理の味をしっかりと分かっていると言う事だ。まぁ、大体『夜』も一緒に食べているんだから、味覚オンチじゃないのだし、この味が美味しいと言えないモノだと言う事は、十分に分かっているのだろう。
『沢山食べてね』
ニコニコと楽しそうな『夜』を前に、俺達三人が同時にため息をついたのは、仕方ない事だろう。
今ここに居ないシカマルを少しだけ恨んだのも、許されるだろうか?
『』
だが、救いの神というものは居るらしい。
名前を呼ばれて顔を上げれば、窓際に一匹の鳥。
「こんな朝早くから呼び出しか……『昼』達は、朝飯先に食っといてくれ。俺一人でちょっと行ってくる」
それに気がついて、椅子から立ち上がる。
「お、俺も一緒に行く!」
そんな俺に、ナルトが慌てて声を掛けてきた。
「ナルトも、今回はお留守番。『夜』が折角作った回復メニュー食ってやってくれよ。あっ、俺の分は、ちゃんと残しといてくれ」
食べたくないと思うのが正直なところなのだけど、『夜』が自分達の為に作ったと言う事が分かっているから、素直に食べる事は出来るのだ。
それに、自分でもチャクラが不足している事はちゃんと分かっているので、『夜』の好意は有難い。
『大丈夫。ちゃんとの分は残しておくね。三代目には、ボクが宜しく言ってたって、伝えておいて』
ニッコリと笑顔で言われた『夜』のその言葉に、俺は思わず苦笑を零した。
三代目、『夜』の機嫌を思いっきり損ねたみたいですよ……。寒気がする笑顔を前に、『渡り』の印を組む。
そして、火影室へと一瞬で移動した。
「お呼びでございますか、三代目」
「うむ、朝早くにすまなんだ……闇坂の城主より謝罪文が届いたので、お主に知らせておいた方が良いと思うて……」
膝を付き、頭を下げた俺に三代目が謝罪の言葉と一通の文を差し出す。
「早かったですね。返事出して時間たってないのに……」
差し出された文を受け取る為、立ち上がってそれを受け取る。
「全く、そんなに素直に謝罪されるとは、一体お主はどんな返事を出したのじゃ」
受け取った文を開いてザッと目を通していく。書かれている事は短かったので、直ぐに読み終わったそれをまた三代目の机の上に戻した。
「別に普通の事を書いただけですよ。『私は、木の葉の忍び故、ご期待に添えることは出来ません。このような忍びのお力が必要な時には、また木の葉へとご依頼ください』まぁ、そんな内容を書いただけです。後は、ちょっとした諦めの術法を……こちらに関しては、詳しい事はお話できませんけど」
呆れたように呟いた三代目に、俺はニッコリと笑顔で答えた。
「そんな事じゃろうとは思っておった……何にしても、この木の葉にこぞって依頼が来るようになったことは喜ばしい事じゃ……ナルトにも、安心するように伝えておくのじゃぞ」
「勿論ですよ。では、朝食の途中だったので、これで……」
ニッコリ笑顔で答えた俺に、三代目はもう一度ため息をつき諦めたように注意する。
それに、俺はもう一度ニッコリと笑顔を見せて、先と同じ印を組んだ。
「ただいま」
『お帰り、早かったね。ちゃんと伝えてくれた。ボクが宜しく言ってたって』
またもとの景色に戻った瞬間、『夜』がニッコリと俺を出迎えてくれる。そして、尋ねられた事に、俺はただ笑顔を返した。
「さて、早く飯食わないと、アカデミー遅刻だよな……」
もっとも、それは話を誤魔化したとも言えるが……。
『話さなかったんだな……』
ボソリと呟いた『昼』に、俺は目の前の料理を黙って食うことで返事を返す。
「じーちゃんの用事、一体なんだったんだ?」
口直しのデザートを食っているナルトが、心配そうに質問してくる。その表情は、ちょっとだけ悪いのは、気の所為じゃないだろう。
「闇坂の城主から、謝罪文が来たってよ」
特性料理を無理矢理飲み込んで、サラリとナルトへ返事を返す。
「えっ、謝罪文?」
「おう、『無粋な真似をしてしまい申し訳ございませんでした。お力が必要な時には、是非またご協力お願いいたします』ってな」
まぁ、そんなような事が書かれていたんだよな、あの文。
もっとも、そうなるように仕向けたのはあの送りつけた式に施した呪術の所為なんだけど、それは秘密。
「闇坂の城主って、珍しい城主だな……」
俺の説明に、関したようにナルトが呟く。それを聞きながら、俺は最後の料理を口の中に流し込んだ。
まぁ、そう思ってくれている方が有難い。
「口直しのデザート俺にもくれるか?」
そして、もう既に料理を食べ終わって食後の飲み物を飲んでいたナルトに、声を掛ける。
「はい……それにしても、『夜』のチャクラ回復料理って効果抜群だな。これ病院で出したら、入院患者減るよなぁ……」
俺のお願いに、ナルトがデザートを渡してくれる。それを貰って素直に食した俺の耳に、ナルトから感心したような呟きが聞えて、もう少しで咽るかと思った。
いや、確かにこの里の入院患者たちの殆どが、チャクラ切れの患者だとしても、免疫ない奴にこの料理はキツイと思うんですが……。
でも、なんか、近い未来、ナルトが言っていたそれが実現しそうな予感がするのは、あまり役に立たない俺の先見の力が働いていたのかもしれな
い。
できれば、そんな先見知りたくはなかったんだけど……。