「三代目、お呼びでしょうか?」

 気が付いた時には、目の前にじーちゃんが居て、が膝を着いて深く頭を下げている状態。
 って、ってば、普通の忍者と同じようにじーちゃんに接している……俺、そんな事一度もした事ねぇのに……。

「任務が終わったばかりだと言うのに、呼び出してすまなんだな……」
「いえ、それで緊急のご用件とは?申し訳ないのですが、まだ報告書の方は……」

 思わず呆然と二人の遣り取りを見ている俺を他所に、勝手に話が進んで行く。

「報告書は急いではおらぬので、気にせんでもよい」

 が申し訳なさそうに言えば、じーちゃんが困ったような表情でそれを否定する。

 任務が終わって、それなのに報告書が目当てじゃなくって、一体どんな用事で呼び出すんだ?
 シカマルもも、じーちゃんの呼び出しの理由は分かっているみたいだった。でも、今のからはそんな様子を伺う事が出来ない。
 本気で、じーちゃんの呼び出した理由が分かっていないと言うように見える。

「ところで、わしはナルト…いや、『光』は呼び出しておらぬはず……」
「俺が居ると邪魔?」

 そこで漸くじーちゃんが俺を見て、小さくため息をついた。
 どう見ても、俺がこの場に居る事に困っていると言うのが見て取れる。

「……そう言う訳ではないのじゃが………全く、何でこんな事を……」

 俺の質問にじーちゃんは盛大なため息をつく。
 その複雑そうな表情に、俺は素直に首を傾げた。
 そんなじーちゃんの姿に、がクスリと楽しそうに笑う。まるで、全ての事を見通しているかのような表情で……。

?」
「三代目、俺はそのお話はしっかりとご本人にお断りいたしましたので、ご安心下さい」

 の笑みが気になって俺がその名前を呼べば、フワリト何時もの笑顔を見せる。
 そして言われたその言葉に、俺は一瞬言われた意味が分からなくって、思わずを凝視してしまった。
 それはじーちゃんも同じだったようで、を見ている。

「お主、分かっておったのか……」
「城主の考える事など安易過ぎますからね。『木の葉に居る白黒面の暗部を我が城に』とでも、式神で伝えて来られたのではないのですか」

 信じられないと言うように呟かれたじーちゃんの言葉に、がニッコリと笑顔で言葉を告げた。
 その言われた内容に、俺も驚かされる。

 確かに、闇坂の城主はに自分の城に来て欲しいって言っていたけど、まさかこんな短時間で、木の葉の長でもあるじーちゃんに連絡していたなんて……。
 でも、普通暗部を引き抜こうなんて、考える方が可笑しい。

「うむ……」

 どうやらが言った事は間違いないらしく、じーちゃんが難しい表情をする。

「何でそんなに困る必要があるんだ。暗部を抜き取ろうとする方がどうかしてんじゃ……」

 城主だろうがなんだろうが、そんな権利はないはずだ。

 暗部は、元々隠れ里にとっては陰の存在。陰の存在は、決して表に出る事はない者達だ。
 それを引き抜こうとするなんて、非常識過ぎる。

「……そうなのじゃがのう……」

 俺の言葉に、じーちゃんが困ったようにため息をつく。

「そんなに簡単にはいかねぇんだよ。闇坂城は、木の葉にとっては大が付くほどのお得意様。無碍には出来ないって訳だ」

 なんで困っているのか分からない俺に、が説明してくれる。
 言われて漸く理解した。
 要するに、それってお得意様を失う危険性があるって事。ひ、卑怯だ!

「……って、じゃあ、どうするんだよ!」

 の説明でどうして深刻に考え込んでいるのかを理解して、思わずドベ口調で声を荒げてしまう。
 そんな俺に、が楽しそうな笑みを浮かべた。

「心配はいらない。三代目、返事は俺が書きますよ。それでいいですか?」
「……それは、問題ないのじゃが、どうするつもりなのじゃ」
「俺が、木の葉から離れられない理由でも連ねて送ります。俺が必要な時には、是非とも木の葉へとご依頼下さいとね」

 ニッコリと綺麗な笑顔で言われたそれに、俺は思わず呆然とを見てしまう。

「そ、それだけで向こうが納得するとは思えない……そうなったら、はどうする……」
「心配しなくっても、納得するに決まってるだろう。何せ俺が直々に返事を返すんだぜ。納得しねぇなんて事は絶対に有り得ねぇよ」

 自信満々のに、それでも心配で問い掛ければ、キッパリと言葉が返される。
 本当に、どうしてそんなに自信満々で居られるのかが分からない。
 だって、相手はそれだけを欲しいって思っているから、こんな普通なら有り得ない事までしていると言うのに、それだけで納得して諦めるなんて事簡単には信じられるはずがない。

「………お主、何をするつもりなのじゃ…」

 だけど、のその自信に、じーちゃんは何かを感じ取ったのか訝し気にへと問い掛ける。
 じーちゃんのその言葉に、は何も言わずにただ綺麗な綺麗な笑みを返す。

「それは、秘密ですよ」

 そして、その笑顔のままそっと人差し指を唇に当ててウインク。
 のウインクなんて初めて見たけど、なんか悪戯っ子のようで可愛いと思ってしまったのは心の中だけに留めて置こう。
 だけど、その言葉で、が返事に何かをすると言う事が分かってホッと胸を撫で下ろす。

「それでは、我々は失礼致します。お休みなさいませ、三代目様」

 安心している中、がじーちゃんに挨拶すると俺の腕を取ってそのまま渡りの印を組んだ。

「……余り、手荒な事はするではないぞ……」
「そんな事する訳ないですよ。ちゃんと穏便に俺の気持ちをお伝えしますので、ご安心下さいませ。では」

 諦めたようにため息をついたじーちゃんのそれに、が最後の印を切る。

「じゃあ、じーちゃんお休み!」

 それを確認して、俺も慌ててじーちゃんへと挨拶をした。その瞬間感じる浮遊感。

「ゆっくり休むのじゃぞ」

 遠くで聞えるじーちゃんの声を最後に、景色が変わる。

「ただいま」
『お帰り、にナル』

 そして迎えてくれたのは黒猫。
 ソファでは寛いで本を読んでいるシカマルの姿。

「戻ったみてぇだな」

 そして、俺との姿を確認して本から視線が向けられた。

「……シカマルも、も知っていたんだな!」

 家に戻ってきたと言う事で、俺はじーちゃんの前では決して言えなかったその事を大声で口にした事は言うまでもないだろう。
 里一番の暗部って言われているのに、俺ってば目の前の二人には絶対に頭では叶わないと言う事に、ショックを受けていた。
 だって、闇坂の城主がまさかの事を欲して態々里に依頼してくるなんて、普通なら考えられるもんじゃない。

「知ってたつーか、ちょっと考えりゃ分かる事じゃねぇかよ。めんどくせぇが、城の城主なんて自分勝手なもんだからな」
「そうだな、自分の利益になる力を手に入れる為には、形振りなんて構っていられねぇだろうし……あの城主は、忍びではなく術者を求めていたから、俺は最高の逸材だったって事」
「だろうな……一族なんて、術者の頂点に位置する一族だ。あそこの城主としては喉から手が出るくれぇの存在だろうよ」

 面倒臭そうに言われたシカマルのその言葉に、俺はある事に気が付く。
 だって、それって……。

「えっ?って、あの城主の事……」
「気付くだろうな……一族は代々白猫と黒猫の妖を操るって事は、術者である者達には有名な話。その内の一匹である『昼』を連れていた俺にあの城主が気付かないはずはないだろうからな」
「滅びたとされる一族の生き残りとくれば、術者を欲しているあの城にとっては是がひにも欲しい存在だろうからな」

 信じられないと言うように呟いた俺に、とシカマルが交互に説明してくれる。

 俺って、本当に全然気付けなかった。
 それは一族の事を知らないからと、術者についても全く知識がないのが原因。
 忍者としてなら、二人には負けない知識を持っていると思うけど、分野外の事は本当に分からない。
 それがまるで取り残されているような錯覚になって、俺はぎゅっと強く手を握り締めた。
 分からない事で取り残されたくないと、そう強く思う。

「んじゃ、さっさと返事の式を送っとくか……先に部屋に戻るな」
『うん、夜食持って行ってね』
「おう、目も覚めちまったから、ついでに報告書も仕上げとくか……明日…もう、今日だな……アカデミーに顔出すのもいいかもな」

 『夜』が、お盆にの作った夜食を乗せて手渡す。
 それを受けてって、はニッコリと笑顔を見せた。
 その言葉から考えると、きっと今日はもう寝ないつもりなんだろう。あんなに疲れていたのに、大丈夫なのかと思って思わず顔を上げる。

「寝なくっても、大丈夫なのかよ」
「心配ねぇよ。九尾が俺に力を分けてくれた。サンキュな、ナルト」
「えっ?」

 それはシカマルも同じだったようで、俺が口を開く前に、シカマルがへと声を掛けるが、その言葉に返されたそれは、自分にとっては意味が分からずに思わず聞き返すように声を出す。
 九尾が力を分けてくれたから、大丈夫?それは、分かるんだけど、それでどうして俺にお礼を言うのか分からない。

「ナルトが、俺の事心配してくれていたから、その心に答えるように九尾が力をくれたんだよ、だから、有難う」

 フワリと俺の大好きな笑顔で言われて、言葉に詰まる。
 そ、それって俺の心が九尾にダイレクトに伝わっているって事で、その上九尾からへもその思いが伝わっているんだとそう思うと、顔が赤くなる。

「お、俺は、何もしてない……お、お礼なら、九尾に……」
「九尾にはもう礼言ったから、俺の心配してくれたナルトへもお礼。んじゃ、『昼』は俺の部屋に連れてくな」
『分かった。明日は、ボク特性のチャクラ回復の特別料理作るから、一杯食べてね』
「あ〜っ、俺じゃなくって、『昼』に言ってくれ……」

 片手にお盆を持ち、もう片方でソファに寝ている『昼』を肩に抱き上げながらの言葉に、『夜』が楽しそうに声を掛ければ、複雑な表情でがため息をつく。
 それでも諦めたように再度ため息をついて、そのまま部屋を出て行った。

「なぁ、『夜』特性のチャクラ回復料理って?」

 出て行く前に言われたその言葉が気になって思わず首を傾げて、『夜』へと質問。

「あ〜っ、アレはなぁ、確かにチャクラは回復すんだけど………」

 だけど俺の質問に口を開いたのは、シカマルでその表情は先程のと同じように複雑なモノだった。

『明日、ナルにも食べさせてあげるね』

 その表情に、更に意味が分からないと言うように首を傾げた俺に、楽しそうに『夜』が口を開く。

「あっ、うん、分かった………」

 それが余りにも楽しそうだったから、素直にそう返せば、シカマルが苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

「俺は、明日は家に戻るから、ナルトは楽しめよ」

 続けて言われたのは、ちょっと信じられない言葉。
 何か、家に帰るよりもここに入り浸っている方が多いシカマルが家に帰る?
 それって、『夜』のチャクラ回復料理が、それだけすごいって事なんじゃ……。

「えっと、折角言ってくれてるんだけど……」
『ナルも食べてくれるんなら、一杯作るから、楽しみにしていてね』

 シカマルの態度から恐怖を感じた俺は直ぐに辞退しようと口を開いたけれど、『夜』が楽しそうに言ったその言葉で最後まで口に出す事が出来なかった。
 嬉しそうな『夜』の態度に、諦めたようにため息をつく。
 そして、料理の事に関しては諦めて、先程強く感じた想いを形にしようと本を読んでいるシカマルへと声を掛けた。

「……シカマル」
「ああ?」

 名前を呼べば、シカマルは本から視線を逸らす事無く問い掛けてくる。

「俺に、一族の事や術者の事を、教えて欲しい……」

 術者のこと、そして一族の事。
 真剣に伝えたその言葉に、シカマルが視線を俺へと向ける。その視線を真っ直ぐに受け止めて、俺はシカマルからの返事を待った。

「教えるつーっても、俺もここにある本の知識しかねぇよ。そう言うのは、俺じゃなくって、その隣に居る奴に言うんだな」

 真っ直ぐ見詰める中、シカマルは小さく息を吐き出すと俺の隣を示す。
 言われて視線を向けた先に居るのは、お茶を飲んでいる黒猫の姿。

『ボクが教えてあげようか?ナルはね、シカと違って、術者としての素質があるから、楽しいと思うよ』
「……才能がなくって悪かったな……」

 俺が見詰めた事で、『夜』がニッコリと笑顔。
 そして言われた言葉に、シカマルが不機嫌そうに返した。
 だけど、言われた言葉は俺が望んでいた事。

「お願いする!」

 だから、力一杯の返事を返したのは言うまでもないだろう。