疲れた。はっきり言って、かなり疲れた。
そんなに動いてねぇだろうって言われたら、否定できねぇんだけど、今回はマジ疲れたんだよなぁ……。
『もうご飯は食べられるように準備してあるからね』
『夜』の渡りで、家に帰る中、言われた言葉にただ頷いて返す。
『昼』も疲れてるんだろうけど、俺も疲れた。
自分の腕の中で、『昼』は静かに眠っている。それを感じながら、飛びそうになる意識を必死で繋ぎ止める。
「で、誰が報告書書くんだ?」
必死で眠気と格闘している中、シカマルが思い出したように口を開いた。
「…あ〜っ、別に俺でいいよ……元々、俺が持ってきた任務だし……大ボケやらかしたのも俺だからな……」
「えっ!はそれでいいのか?」
シカマルの質問に俺が返事を返せば、驚いたようにナルトが問い掛けてくる。
申し訳なさそうに見詰めてくる瞳に、俺は意識をしっかりと繋ぎ止めながら、頷いて返す。
「そんなに時間掛かる訳じゃねぇし、今すぐに報告書出せって言われたら遠慮するけど、流石に今直ぐ出せって事はねぇだろうから、明日しっかりと書いて出しとくよ」
寝りゃ意識もハッキリとするだろうし、面倒な事ではあるけどそんなに時間が掛かる訳じゃないから、大した手間じゃねぇし。何より俺はアカデミーを休んでも怪しまれない人間。
それに比べてナルトとシカマルは、休む訳にはいかないのだから、俺が適任者って事だろう。
もっとも、この二人なら授業中に書いちまうかもしれねぇんだけど……。
「お前、明日もアカデミー休むつもりだろう……」
自分の考えた事に一人で納得していた俺に、シカマルがため息をついて俺を睨み付けてくる。
思いっ切り、不機嫌そのままの表情で……。
「まぁ、俺がアカデミー休んでも、怪しまれないからなぁ……居ても目立たないってのは、こんな時便利だよな」
「便利じゃねぇつーの!たく、今回は流石に休みすぎるんじゃねぇのか」
そんなシカマルに、俺は普通に笑って言葉を返した。
その俺の言葉に、シカマルが呆れたように盛大なため息をつく。
確かに、今回は1週間以上休んでいる。
でもそれは、珍しい事じゃない。
「心配しなくても、明後日からはちゃんと行く予定だ」
だけどその事には触れないで、俺は笑みを浮かべて返事を返した。
『それはいいんだけど、折角が作った料理食べちゃおうよ!』
そんな俺達の遣り取りに、『夜』が不機嫌そうな声を上げるのに、思わず苦笑を零す。
正直言えば、飯も食わずにそのまま寝ちまいたいと思うのが正直な所だ。
「………んじゃ、さっさと食っちまおうぜ。俺は、兎に角寝たい。今、意識が飛びそうなぐらい、眠いからな」
そして、正直に自分の今の状態を伝えた。
もう既に夢の中に居る『昼』がちょっとだけ羨ましく思えた事は、秘密。
だって、俺が無理させちまったんだから、そんな事思っちゃいけないつーのは分かっているけど、俺も寝ちまいたいのが正直な感想なのだから、許してもらおう。
『それじゃ、早く食べちゃおうよ!』
俺の言葉に『夜』が元気に返してくる。思わず苦笑を零しながら、それでも、素直に従ってソファに座り、自分が作った料理に箸をつける。
だけど、眠気の為か、ハッキリ言って、料理の味は分からなかったのが、少しだけ悲しかったかもしれない。
の家に戻ってきて直ぐに、が作ってくれた料理を食べた。
『寝たい』と言っているのその言葉からも分かるけど、その姿は半分寝ていると言っても過言ではない。
それだけ疲れているんだと分かっているけど、今日の任務はかなり簡単な任務の部類に入るだろう。
人数だけで、なんの役にもたっていなかった忍び達。
正直言えば、物足りないとさえ思えた任務だった。
だけど、はかなり疲れているように見える。
それは、あの砦で様子が可笑しかった事と関係しているのだろうか。
「………もう、駄目……」
そんな声が聞えて、ハッとして隣に視線を向ければ、俺に倒れ掛かって来るの姿。
「?」
『寝ちゃったみたいだね。そのまま寝かしてあげて……後で部屋に連れて行くから……』
思わず名前を呼べば、『夜』が小さくため息をつきながら声を掛けてきた。それに頷いて、そっとへと視線を向ける。
サラサラの髪が、の綺麗な顔を覆う。
昼、は今のように前髪で顔の半分を隠している。
家の中では、その前髪は綺麗にセットされて邪魔にならないようにしているが、サラサラ過ぎるの髪はこうやって直ぐに落ちてくるのだ。
「……って、んなに、体力消耗するほど酷い任務だったのかよ!」
「そんな事はないけど、あの砦に居る時、何かの様子が変だったように思う」
眠ってしまったに、シカマルが不思議そうに声を掛けてくる。それに俺は、そっとが眠りやすいように体制を変えながら返事を返した。
思い出すのは、あの砦の中でのの姿。
何処か張り詰めたようなあの雰囲気は、近付き難い程だった。
『……そっか、ナルは気付いちゃったんだね。シカは、砦には行ってなかったの?』
ポツリと呟いた俺のそれに、『夜』が少しだけ困ったように呟き、シカマルへ問い掛けた。
「俺は、砦には行ってねぇよ……って、ナルトは、行ってたのか?」
「うん。早く終わったから、の方が気になって……」
『そっか、の動揺が流れてきたのって、ナルが術を使っている所を見ちゃったからなんだね』
『夜』の質問にシカマルが答えて、そのまま俺に質問。それに俺が素直に返事を返せば、『夜』が小さく笑う。
そう言えば、あの時のは、本当に震えていた。俺が、の術に嵌ってしまう事を恐れて……。
「の術?」
「シカマルは知らないのか?」
『夜』の言葉に、シカマルが不思議そうに問い掛けてきたそれに驚いて、思わず聞き返してしまった。
「いや、知らねぇ……親父達と任務する時も、殆ど忍術は使わねぇらしいから……今回、の奴術を使ったのかよ?」
俺の質問に答えてくれたシカマルのそれに、納得してしまう。
あれは、見た者全てに効力があると言っていたのだから、他の誰かと一緒に任務を行う時には、使えない術だ。
一人だからこそ使える術と言っていいだろう。
『の使う術の中で、一番効力を持っているのは―夢楽死葬―。幸せな夢を見せながら、相手を死へと導く術。の動揺が流れてきたのって、ナルがその術に嵌り掛けていたからだよね?』
確認するように言われたそれに、俺は頷いて返す。
が印を組むその姿に目が離せなくなっていた。それは、即ち術に嵌っていたと言う事。
「便利そうな術だな」
『夜』の説明に、ポツリとシカマルが呟いたそれを聞いて、俺は小さく苦笑を零す。自分も同じ事を思ったのは、秘密だけど……。
「でも、渡りと一緒でにしか使えないって『昼』が言ってた」
『うん。―夢楽死葬―も、術者の能力が必要だからね。あれは幻術と呪術を融合して出来上がった術』
シカマルの呟きに、しっかりと否定すれば、『夜』が続けて説明する。
「そうなのかよ……で、お前が見るつーと、何か問題あんのか?」
それに、一瞬面白くなさそうな表情をするが、それも本当に一瞬の事で次の瞬間には、俺と『夜』へと疑問を口にする。
『―夢楽死葬―は、術者を見ている者全てに発動されるんだよ』
「あ〜っ、そりゃ、確かに動揺するわ……」
疑問に思ったシカマルのそれに、『夜』が説明すれば、納得してため息をついた。
それを見て、俺は苦笑を零す。
『まぁ、説明してなかったがいけないんだけどね……』
小さくため息をついて『夜』がお茶を飲む。
『それにね、あの砦はもともと、が造ったモノだったんだよ……だから、あの砦の設計図がここにあったの……』
「はぁ?」
お茶を一口飲んでから、『夜』が少しだけ困ったような表情で説明したその内容に、俺は信じられないと言うように『夜』を見て、シカマルは意味が分からないと言うように声を出した。
『あの砦は、一族所有のモノだったんだよ……本当は、もっと神聖な場所だったんだけどね……一族が居なくなってからは、悪い事にばかり使われちゃって、最悪な場所になちゃったみたい』
長いため息をつきながら言われる内容に、俺は隣に在る存在へと視線を向ける。
それはシカマルも同じようで、その視線は眠っているへと向けられていた。
「……だから、壊したつーわけか……」
「があの時言っていたのは、そう言う意味だったんだ……」
あの時、が言ったこんなのない方がいいって言うのは、あの砦自体が悪用しかされないからこその言葉だったんだと思う。
あの砦に居る時のは、複雑な表情を見せながら、何処か謝罪しているような瞳を見せていた。
何に対しての謝罪なのか分からなかったけど、『夜』の説明で、それが分かる。あの砦によって、苦しめられて来た人達への謝罪だったんだろう。
あの砦を造ったのが本人ではないと言っても、それを造ったのが自分の先祖だと言う事だけで、許せなかったんだ。
「……らしいけど、そんなのの所為なんかじゃないのに……」
俺を助けてくれる為に傷付けた時も、は俺の為に泣いてくれた。
それが、当然の行為だったと分かっているのに、自分を傷付けた事が許せないのだと……。
「確かに、こいつらしいちゃ、こいつらしいけどな……たく、めんどくせぇ奴、そんな事なら、初めから説明しとけつーの」
『それは、仕方ないよ。だって、だもん』
呆れて呟かれたシカマルの言葉に、ニッコリと『夜』が言葉を返す。
確かにそれは否定できないんだけど、それで納得出来るものでもないような気がするんだけど……。
思わず苦笑を零して、自分の隣にある温もりへと視線を移す。
その瞬間、その温もりが突然自分から離れた。
「?」
前触れもなく目を覚ましたに、驚いてその名前を呼ぶ。
「……三代目の呼び出し……」
俺の呼び掛けに、小さくため息をついて、本当に先程まで寝ていたのか疑いたくなるくらいしっかりとした動きを見せる。
そんなの態度に、もしかして、ずっと起きてたんじゃないかと疑問を感じてしまう。
「、もしかして起きてた?」
「いや、しっかりと寝てたぜ。まぁ、数分でも寝られたから、ちょっとは復活したんだけど………何にしても、ちょっくら行って来るわ」
『、一人で大丈夫?』
そんなに恐る恐る問い掛ければ、サラリと返事が返されて、ホッと胸を撫で下ろした。
別段に聞かれて困る事を話していた訳じゃないけど、聞かれてなかった事に安心したのは本当の事。
手を振って出て行こうとするに、『夜』が心配そうに問い掛ける。
「大丈夫だって、流石に『昼』は連れては行けないけど、大した用事でもないだろうし、一人でも問題ねぇよ」
心配そうに訪ねられた『夜』の言葉に、は笑顔で返事を返す。
だけど、何か嫌な予感がするのは気の所為だろうか?
「俺が一緒に行っても、大丈夫?」
俺はその予感が気になって、思わず申し出る。
それに一瞬、が驚いたように俺を見た。
「えっ?でも、ナルトは呼ばれてねぇみたいだし……俺は全然気にしねぇんだけど、ナルトが嫌じゃねぇの??」
「嫌ならそんな事言わない。何か、嫌な予感するから、一緒に行きたいんだ」
不思議そうに訪ねてくるに、ハッキリと言葉を返す。そんな俺にリョクトは一瞬考えるような素振りを見せて頷いた。
「……俺も、その嫌な予感ってのは同意見。ナルトが疲れてないなら、一緒に行って話し聞いてくれるか?」
スッと差し出されるその手に、俺は一つ返事でその手を取る。
もっとも、自分から言い出したんだから、断る事なんて考えてなかったんだけど……。
「シカマルは?」
の手を取った俺は、何も言わないシカマルへと問い掛ける。
勿論シカマルも一緒に行くと思っていたのに、返って来たのは意外な言葉だった。
「呼ばれてんのは、だけなんだろう?めんどくせぇから、俺は遠慮しとく。ここで本を読んでる方が楽だからな」
そう言ってもう既に本を片手に持っているシカマルに、俺は少しだけ驚いた。
絶対に一緒に行くと思ったのに、返って来たのは予想もしていなかった言葉だったのだ。
「まぁ、シカマルはそう言うと思った。つーよりも、お前なんで呼び出しされたか大体の予想が付いてんだろう……」
だけどにとってはシカマルの言葉は予想通りだった見たいで、呆れたようにため息をつく。
しかも、じーちゃんからの呼び出しの理由が分かっているらしい事に、更に驚かされてしまう。
「シカマルもも、じーちゃんの呼び出し理由分かってんのか?」
二人の遣り取りに、俺は驚いて訪ねるように首を傾げる。だって、俺は、じーちゃんがリョクトを呼び出したりする理由が、分からないから……。
そんな俺に、とシカマルはお互いに顔を見合わせて苦笑を零す。
「……まぁ、大体の予想は付くな」
そして、その言葉に言葉を返してきたのはシカマル。
それにが再度苦笑を零す。
「兎に角行って来い、行きゃ全て分かる」
「……だな…それじゃ、行ってくる」
言って直ぐにが『渡り』の印を組む。
勿論俺の腕は既ににしっかりと掴まれていたのは言うまでもないかもしれない。