「あ〜っ、分かっちゃいたが、やっぱり俺が最後かよ……」

 これでも最短の時間で終わらせたつもりだったんだが、既に待ち合わせの場所には二人の姿があった。

 今回の任務は、はっきり言って厄介な任務だったが、終わってみれば人数だけで大した事がなかったと思えるのだけが幸いと言えばそれまでだけど、それは俺達にとっては、と言う言葉が付くだろう。
 はっきり言って、俺達以外の奴等がこの任務についたら、こんな短時間じゃ絶対に終わらせる事は出来ねぇって言い切れんぞ。

「お疲れさん。んじゃ、最後の仕上げに闇坂城に行くとしますか」

 俺が来た事で、座り込んでいたがゆっくりと立ち上がって尻の汚れを払うように叩いてから、ニッコリと笑顔を見せた。

「最後の仕上げ??」

 突然の笑顔と共に言われたその言葉に、ナルトは意味が分からないと言うように首を傾げる。
 どうやら先に話を聞いていたつー訳じゃないらしい。

「ああ?任務は終わったんだろう、まだ何かあんのかよ?」

 『めんどくせぇ』と何時もの言葉を呟いて、の次の言葉を待つ。

「まぁ、アレだけ呪術が進んでいると途中で止めたとしても、やっぱり何かしらの影響が出ちまうんだよ。だから、アフターケアは必須だろう」
「って、俺らにゃ関係ねぇだろうが!」

 サラリと言われた事に、思わず勢いで返してしまう。
 まぁ、返した言葉に間違いはねぇんだけどな……。

「酷い、『影』は俺一人で警戒が厳しい闇坂城へ行けって言うのか」

 泣き真似しながらそんな事を言う『』に、俺は盛大なため息を付く。

 確かに、闇坂城の警備は厳しい。
 だけど、こいつや『光』にとっては全く関係ないだろう。逆に俺なんかが一緒に行く方が足手纏いだつーんだよ!

「確かに、任務を最後まで遂行するって言うのは分かるんだけど、『』なら渡りを遣えば、直ぐに行けるんじゃ……」
「だと良いんだけどな、あそこは術者が雇われているだろう?だから、渡りの先には向かないんだよ。渡り使えれば、一発だってぇのに…」

 盛大なため息を付いた俺の耳にナルトの質問。それに、が苦笑を浮かべながら説明をする。
 たく、こんなところでも術者が邪魔すんのかよ。

「どうしても駄目なら、『光』達は先に戻ってくれてもいいぜ。俺一人で行くから」
「俺は一緒に行く!」
「あ〜っ、めんどくせぇけど、俺も行ってやるよ」
『奈良のガキがそう言うとは少し驚きだな。だが、を一人で行かせたら、オレが許さないところだったぞ』
「『昼』、お疲れさん」

 少し困ったように言われたの言葉に、ナルトが勢い良く返事を返して、俺は何時ものように返事を返した。
 そんな中、新たな声が掛けられて、振り返る。『昼』が何時ものようにの傍に姿を現したのを見て、そう言えば居なかったんだと言う事に今更ながら気が付いた自分に、思わずため息をついてしまう。
 現れた『昼』にが、労いの言葉を掛けるそれを聞きながら、何気なく辺りを見回した。

 そこで、もう一つ可笑しい事に気が付いた。
 確か、この場所からあの砦は、バッチリと見えていた筈なのに、今はその姿を確認する事が出来ない。

「って、砦はどうしたんだよ!」
「ああ?あんなの打っ壊した。在っても役に立ちそうにないからな」

 自分の質問に、あっさりと返された言葉を聞いて呆然とする。
 あんな大きな砦が崩れたと言うのに、自分にはその音がまるで聞えてこなかったのだ。
 気付けない自分が未熟なのか、余程特殊な方法で壊されたのか……多分、今回は後者だろう。

「んじゃ、さっさと仕事終わらせて、俺が頑張って作った飯食おうぜ。『夜』も待たせちゃ悪いからな」

 気軽に言われた言葉に、思わずため息をつく。
 向かう場所が場所なだけに、そんなに簡単に言えるモノではないとため息が止まらない。

 ピクニックに行くんじゃねぇんだぞ!めんどくせぇ!!





 に言われて、闇坂城に来て見れば、なんだかかなりざわついていた。
 警備もいつも以上に厳重で、実は今日の事を知っていたんじゃないのかと思えるくらいだ。

「やっぱり、厳重になってんなぁ……手元に残しているのは、よっぽどの術者ってとこか……」

 城の近くの木に降り立った俺達の耳に、が感心したように呟く。
 だけど、その言われた意味が分からなくって、俺とシカマルは同時にへと視線を向けた。

「やっぱ、俺だけで行く方がいいか……」
!」

 ボソボソと一人で呟くその言葉に、俺は名前を呼ぶ事でその意識を自分へと向ける。

「ごめん、何?」

 考え込んでいて本気で周りが見えていなかったのだろうが、俺に名前を呼ばれて不思議そうに首を傾げた。

、考え事は口に出すな。しっかりと聞えていたぞ』
「えっ?マジで……」

 そんなに、その肩に乗っかっている『昼』が呆れたようにため息をつく。
 無意識だったのか、言われた言葉に、は驚いたように交互に俺達へと視線を向けてくるから、俺達はただ頷いて返した。

「やべぇ……最近独り言を言う癖が……俺も年かなぁ……」
「んな訳ねぇだろう!っで、俺達に先に帰れつーのか。人を無理矢理連れて来て何言ってんだつーの」

 俺達の反応に盛大なため息を付いて見せながら言われたの言葉を、シカマルが思いっきり突っ込んで、少しだけ怒ったような視線を向ける。
 無理矢理連れて来たって、一応俺達の意見は聞いてくれてたような気がするんだけど……。
 シカマルの言葉に、複雑な表情を見せながらただを見る。だけど、はシカマルの言葉を否定しなかった。

「あ〜っ、うん、そうだな……俺が付いて来てくれって言ったのは、否定しない……でもなぁ……」
『なんだ、そんな事ならオレが渡りを遣ってもいいぞ』
「って、遣えるのか?」

 困っているに、『昼』がサラリと提案。それに、俺が驚いたように聞き返した。
 だって、の話からは、渡りは遣えないと思っていたから……。

『アレぐらいの力しか持っていない術者相手に、このオレが負けると思っているのか。向かないだけで遣えない訳じゃないぞ』

 俺の驚きの声に、『昼』が呆れた様な視線を向けてくる。
 いや、確かにも向かないと言っただけで、遣えないとは言ってないけど……。

「まぁ、これだけ賑やかだとちょっと手間掛かっちまいそうだな……出来るだけ結界張っている術者に影響与えないように渡りできるか?」
『それぐらい簡単だ。行き先は何処がいい?』
「そうだな、それじゃ城主の居る部屋の天上に頼む」
『分かった』

 目の前で交わされる会話が終了した瞬間、グニャリと空間が揺らぐ。
 それは本当に一瞬の出来事で、ここに来た時の渡りとは少し違っていた。
 気が付いた時には、既に景色が違う物へと変わっている。

「……お疲れ……ごめんな…」

 簡単だと言っていたのに、の肩では少しだけ疲れた表情を見せている『昼』の姿が在って、はゆっくりとその頭を撫でた。
 に頭を撫でてもらって、『昼』は気持ち良さそうに瞳を閉じる。

「『光』『影』下の様子確認してくれ、城主以外の人が居たら、眠らせてくれると助かる……」
「分かった」

 肩に乗っかっている『昼』を気遣いながら、が俺とシカマルへと頼むように口を開いたそれに、俺達は同時に頷いた。

 そして、天井下の様子を確認。
 城主以外に居る人間は、1、2…4人だな……。

「『影』」
「ああ」

 人数を確認して、シカマルへと視線を向け名前を呼べば、ゆっくりとした動作で頷く。俺の意図を読み取ったシカマルが、一つの印を組み始めた。
それを確認して、俺も違う印を組む。シカマルが相手を眠らせる為の術、俺はこの部屋に結界を張る為の印を組んで行く。

「『催眠幻術』」
「『空間遮断の術』」

 そして、同時に印を組み終えそれぞれの術を発動させた。

「……お見事……」
「な、何奴じゃ!」

 感心したように呟いたの声に、突然自分の周りにいた人間が倒れた事で、城主が声を上げる。その声は、勿論俺の結界術によって外に聞える事は無い。

「突然の事にて、無礼は承知しております。我等は、今回砦壊滅の任を受けました木の葉隠れの暗部」

 だけど、は音も無く城主の傍に降り立って、膝を付つき素直に非礼を詫び正体を明かす。

「我等、とな?」

 突然現れたに驚く表情は見せず、城主はその言われた言葉に疑問を口にした。
 その言葉を聞いて、俺とシカマルは一瞬顔を見合わせてから、頷いての直ぐ後ろに音も無く移動する。

「お久し振りでございます。私は何度かお会いした事のある者にございます」

 と同じように膝を付き、スッと面を見せれば城主が小さく頷き、俺達3人を見て驚きの表情を見せた。

「お主達が、わしの依頼を受けたと申すのか?」

 たった3人しか現れなかった事に、驚きは隠せないのだろう。
 無理もない話だけど、あんな手応えが無い相手、俺達だけで十分だ。

「左様にございます。今夜、この城に攻め込もうとした砦のモノ達は、我々が亡き者といたしましたので、ご安心ください」
「………そのような事を言う為にここに参ったのか?」

 驚いて質問してきた城主の言葉に、が素直に言葉を返す。それに、城主は怪訝な表情で更に質問。

「いえ、ただ砦には数十人の術者が居りました。呪いは失敗に終わりましたが、その余波は間違いなくあなたを苦しめている模様……失礼いたします」
「なっ!」

 城主の問いに答えてから、がスッと立ち上がって、気付いた時には目の前の相手に手を翳している状態。
 それに、勿論城主は驚いて身を引こうとするが、それよりも早くがその手を下に下ろした。
 本当に一瞬の事で、俺も何が起きたのか分からない。
 が一体何をしたのか……。

「突然申し訳ございません。これで、先程までの苦しさは無くなったと思うのですが、いかかですか?」

 自分の行動に謝罪して、それでも心配そうに訪ねたその言葉に、驚いてしまう。
 城主が苦しんでいるなんて、全然気付く事が出来なかったし、たった一瞬だけで、城主の苦しみを解き放ったなんて、一体は何をしたんだろう……。
 そしてそれは、聞かれた相手も同じだったようで、驚いたようにを見てそして、自分の状態を確認する。

「……確かに、先程まで感じていた体の重さはまったく感じぬが……そなたは、忍びではないのか?」
「私は、少しだけ術者としての能力を持つ者でございます。今回は、その力が役に立っただけの事。それでは、我等はこれで」

 用事は終わったとばかり、が立ち上がって踵を返す。
 そんなに俺達も同じように振り返った。

「待って!そなた、この城に……」
「私達は、ただの忍び。城に居座る事など出来ません……今日の事は、全て夢…このままお忘れ下さい」

 そんな俺達に、城主が慌てて何かを言おうとしたその言葉を最後まで聞かずに、『昼』の渡りが遣われる。そして、気が付いたら城に入る前に居た木へと戻っていた。

「お疲れ『昼』」
『これぐらいは大丈夫だ……少し休めばどうって事ない』

 展開に付いていけない俺の耳に、の声が聞えて来て思わず視線をそちらへ向ければ、信じられないぐらいに『昼』がぐったりとした状態での腕に抱かれている。

「ああ、帰りはどうすんだ?」

 その『昼』の姿に、流石のシカマルも複雑な表情で質問。
 確かに、ここからの家までは、かなりの距離がある。そう、一晩全力で走っても木の葉の里に着けるかどうかと言うような距離。
 来た時のように、『昼』の力で帰るなどどう考えても無理そうだ。

『その点なら、心配は要らない』
「みたいだな」

 自分達の心配をよそに、『昼』とが視線を何もない空間へと向ける。
 その視線に、俺もそちらへと視線を向ければ、一瞬だけ空間が歪み、その中から闇に溶け込むように一匹の黒猫の姿が現れた。

『仕事、お疲れ!迎えに来たよ』

 闇に溶け込むような黒猫『夜』が、明るい声で話し掛けてくる。
 どうやら、『昼』が『夜』へと連絡をしていたらしい、その点に関しては流石と言えるだろう。

「迎え有難う、『夜』。『昼』に無理させたから、助かった」
『ううん。ボクもお手伝いできて嬉しい。それじゃ、みんな帰ろうか』

 ニッコリと笑顔で言われたその言葉に、全員が頷いて返す。
 こうして、との初任務は終了した。

 後で、面倒な事が起こるなんて知らずに……。