影分身を遣って、目的の場所に辿り着いて直ぐに、行動を起こす。
 気配を消し、城を目指しているその忍び達を一人一人確実に消していく。
 消された奴は、何も分からないままにその命を無くしていると言った感じだ。

 本当に数だけで、全く大した手応えのない相手。
 そう言えば、この砦のリーダーとも言える奴は、俺の係ったチームの中には居なかった。
 って、事はシカマルが、そいつを担当したと言う事だろう。
 この手応えのない奴から考えても、そいつの実力は高が知れている。シカマルの実力を考えれば、何の問題もないだろう。

「……『』は、どうなってるんだろう……」

 自分の任務をあっさりと終わらせて、その場に転がっている屍に火を点ける。
 燃え上がる青い炎を冷たい目で見ながら、俺は砦を振り返った。
 そこには、初めて自分の為に涙を流してくれた人が居る。

「予想よりも、早く終わったし……見に行くか」

 既に青い炎が消え、そこに何もない事を確認してから、印を組んで姿を消す。




 砦の中は、ひんやりとした空気が流れていた。
 そして、外の音を全て遮断しているかのように、静寂が支配している。

「……術者は、地下に居るって言ってたよな」

 説明された事を思い出しながら、頭の中でこの砦の設計図を広げた。
 地下へと下りる階段の位置を思い出しながら、出来るだけ急いで行動を起こす。

 早く行かなければ、は仕事を終えてしまうかもしれない。ここに来た目的を見逃しては、意味が無いのだ。

 気配を消して、ゆっくりと階段を置いていく俺の耳に、聞き覚えのある声が聞えてくる。
 その声に気が付いて顔を向ければ、まるで窓のように地下の状況が見られる作り。
 広いその場所には、真中に暗部服を纏ったの姿。
 そのをまるで取り囲むかのように真っ黒なマントで全身を覆った者達が動けないままただ座り込んでいた。

「お前達は、術者として間違った道を選んだ。だから、終わりだ」

 凛としたの声が聞え、その手が綺麗な動きで印を組む。
 初めて見る印。素早い動きで動くその指を見ながら俺はただ動けずにその場に佇んで居た。

『器のガキ!お前は見るな!!』

 の動きを見ていた俺の耳に慌てたような声が聞えて来て、その場から突き離される。
 それに、はっとして俺は意識を取り戻したのだと思う。の動作から目が離せなかったのは、アレもきっとあの術の所為なんだろう……。

「『昼』のあの術は?」
『―夢楽死葬―幸せな夢を見せ、死へと導くの一番の術だ。アレはに囚われた者全てに発動する術。お前も術に嵌りかけていたぞ』

 『昼』の説明に、小さく首を傾げる。
 初めて聞く術の名前。色々な術を見てきたけど、そんな凄い術など聞いた事も無い。

「―夢楽死葬―もしかして、渡りと同じでにしか遣えない術?」
『そうだ。あれも忍びで言うチャクラよりも、術者としての特殊な能力を持った者でしか遣う事は出来ない。体力やチャクラの量が少ないには、調度いい術だろう』

 淡々とした口調で説明してくれる『昼』の言葉を聞いていた俺は、さらりと言われたその言葉に、一瞬我が耳を疑ってしまう。

「体力とチャクラが少ない??」

 信じられないと言うように、思わず聞き返してしまった。
 行き成り声を上げた俺に、『昼』が不思議そうな表情を見せる。

『今更何を言っている。あいつの力は、お前の半分にも満たないと言っただろう』
「……た、確かに聞いたけど、それが体力やチャクラ量の事を言っているなんて、誰も分かる訳……」
「まぁ、体力は、人並み以上だけどチャクラ量は、シカマルよりも劣るな。普通は、自分の弱さなんて話さねぇから、『光』が知らなくても仕方ない」

 『昼』の呆れたような言葉に文句を返していた俺のそれは、新しい声によって遮られた。
 それに驚いて、振り返る。やっぱり、その気配を感じる事は出来ない。

!」
「……いや、今は『』だって……それにしても、『光』の気配を感じた時はすげぇ驚いた。慌てて『昼』に頼んだけど、間に合ってよかった」

 驚いて振り返った俺は、思わずその名前を大声で呼んでしまう。
 そんな俺に、は苦笑を零して一応訂正。それから、ほっとしたように微笑んだ。
 その表情を見せられて、自分は、本当に心配させてしまったのだと、改めて実感してしまう。

「ごめん。暗部の常識なのに……」

 暗部の常識。

 それは、暗部の任務は、極秘で行われると言う事。
 だからこそ、その任務を見てしまった相手は、問答無用で記憶が消される。
 それだけ、暗部の任務は特殊な任務が多いのだ。そして、暗部である者達は、個々の能力も、極秘な事が多い。

「今回は班行動してんだから、それは問題ないんだけど……俺の術の事、言っとけば良かったな…本当、心臓止まるかと思った」

 コテンと、が俺の肩に額を付ける。
 触れられて気付いたのは、小さくの体が震えていた。
 それだけ、俺はに心配を掛けてしまったと言う事。
 知らなかった事とは言え、軽はずみな行動をしてしまった事を後悔してしまう。

『そう言えば、奈良のガキはどうしたんだ』
「ああ?まだ終わってないんじゃないのか?俺は自分の所だけ終わらせてきたから……人数だけで全然大した事なかったからな」

 辺りを見回すように尋ねてきた『昼』に、返事を返す。
 それに、俺の肩に乗せられていた重みが遠去かった。それを少しだけ寂しく思いながらも、顔を上げたに少しだけほっとする。

 見せられたのは、何処か安心したような表情をしているの笑顔。

「『影』は、もう少し掛かるみたいだ……先に待ち合わせ場所に行こう……『昼』」
『分かった』

 気配を読んだようにが言ってから、『昼』へと声を掛ける。
 それに、『昼』は頷いてスッとその姿を消した。

「どうかしたのか?」
「何でもねぇ。それより、ここを出ようぜ。空気悪くって耐えられねぇし」

 そんな二人の遣り取りに首を傾げて尋ねれば、が小さく首を振ってここから出る事を促される。

 空気悪い?俺は、そんな風には感じられないんだけど……。
 の術は、誰の血も流さずに終わっているから、人の血の匂いを感じる事もない。なのに、空気が悪い?
 まぁ、静寂が痛いって位の場所なのは否定できないけど、それが空気悪いとは思わないから、多分俺の感じられない何かがには感じられるのだろう。

 それは、術者としての能力?
 今、この場所はにとってどんな風に感じられるんだろう……。
 何も言わずに先に動いたに俺はただ黙って付いて行く。そして、砦を出た瞬間後ろから建物が崩れる音が聞えてきて驚いて振り返る。

「なっ!」

 自分の目の前で崩れていく砦に驚きを隠せない。
 こんな短時間で崩れていくそれ。勿論、それを壊すための爆音などは聞えて来なかった。どうやって壊したんだ??

「こんな砦は無い方がいいだろう……また同じような事に使われたらたまんねぇからな……」

 驚いている俺の後ろから聞こえてきた声。それは、どこか寂しそうな声音で、慌てて相手を振り返る。
 だけど、の表情は何も映してはなく、ただ崩れた砦を見詰めていた。その瞳は何処までも透明で、何の感情も写していない。

?」

 それがあまりにも遠くに感じられて、俺はそっとその名前を呼んだ。

「だから、今は『』だろう。『光』に名前呼ばれるの嫌いじゃねぇけど、それが習慣付くと不味いぞ」

 俺が呼んだ名前に、少しだけ困ったようにそれでも笑顔を浮かべてが修正して、ポンッと俺の頭に手を乗せ少しだけ乱暴に撫でられる。

「何時もは、そんなヘマしない。は、俺にとってだから……でも、そうだな次からは気を付ける……」
「ああ、そうだな…有難う、ナルト……さて、シカマルも何とか終わったみてぇだし、行くか」

 俺が名前を呼んだ瞬間、何時もの瞳が戻ってきて、それにほっとしながら、言われた事に素直に頷く。
 そんな俺に、はフワリと笑顔を見せて、歩き出した。それに、俺も後を追うように歩き出す。
 とりあえず、任務終了と言う事だろう。