『渡り』についての説明をどこか遠くに聞きながら、俺はぼんやりと考える。

 木の葉の里が出来るよりも前に、この場所に居た一族。
 そして、木の葉に協力を惜しまなかった一族なのに、木の葉はそれを裏切り、この一族を滅ぼしてしまった。


 なんて、自分勝手な里だろう。
 俺は、やはりこの里が好きにはなれない。親父には悪いが、この里を護る価値など見出せないのだ。

「ナルト?」

 ぼんやりと、そんな事を考えていた俺を心配そうにが覗き込んでくる。

 は、どうして全ての真実を知っているのに、この里を護る事が出来るのだろう。
 一族を滅ぼしたのは、間違いなくこの里なのに……。

「……俺は、やっぱりこの里が嫌いだ」

 心配そうに見詰めてくるの金色と紺色の瞳に、小さく呟く。
 こんな事言えば、が悲しむって知っているけど、どうしてもそう思わずにはいられない。

「そっか……」

 俺の呟きに、思った通りが少し寂しそうな困ったような表情を見せる。

 そんな表情を見たい訳じゃない。だけど、俺はの事を考えると、やっぱりこんな里好きになる事はできない。

 自分の事なんてどうでもいい。だって、俺はそれを受け入れているから、だからこの里の事なんて何とも思っていなかった。
 嫌いでもないし、好きにもなれなかったのが、正直な所。だけど、今は違う。
 に出会ってからは、この里が嫌いになった。九尾の事にしてもそうだ。なんて、自分勝手な里だろうとそう思わずにいられない。

「ナルトが、そう感じたままでいいよ。だって、感情を持てるって事は、大事な事だから……」

 そっと見つめている俺に、が続けて言葉を返してくれる。

 その言葉に、俺は驚いて瞳を見開いた。
 だって、そんな風に言ってくれるなんて思っても居なかったから。

「だってナルトは、この里に関して何の感情も持っていなかっただろう?この里に関して持っている感情なんて、自分が生まれたと言う事と、三代目が大切に思っているぐらいにしか認識してなかった。だからこそ、ナルト自身が何かを感じてくれれば、それは何よりも大切な事だと思う」

 言われて、ただ頷いて返す。
 だって、言われた言葉はその通りだとしか思っていなかったから……。

 俺にとってこの里は、何の感情も持てないもの。じーちゃんが大切にしているから、俺もそれを護っているだけ。
 そして、俺の親父である四代目が、命懸けで護ったこの里をただ見て行きたかった。そうもし滅んだとしても、何とも思わなかっただろう。

「だから、いいんだ。ナルトがこの里を嫌いだと言うのなら、そのままでいい。それが、先に進む為の力になるから……」

 聞こえてくる声は、優しく自分の心に入り込んでくる。
 嫌いだと言ったのに、それでもいいのだとそう返してくれた。それが、自分の心にこんなにも染み込んでくる。

 ただ見つめている俺に、がフワリと笑う。自分の心を包んでくれるその笑顔が、今自分が一番大好きだと言えるモノ。

「んで、この話は一時中断。ナルトが自分の感情を話してくれるのは嬉しいんだけど、シカマルが睨んでっから、真面目に任務の話しようぜ」

 俺がその笑顔に見惚れている中、が一回手を叩いて意識を戻す。
 確かに、シカマルが睨んいでる。でもそれは、任務に対してじゃなくって、きっと違う理由だと思う。
 俺と同じように、シカマルも目の前の人を大切にしていると知っているから……。

「そうだな、いい加減めんどくせぇ任務の説明を始めてくれ。何処までの情報が手に入ってんだ?」

 に名前を呼ばれて、シカマルもその言葉に頭を掻きながらも質問してくる。
 それに、その場の空気が一瞬で真剣なものへと変わった。俺の意識も、忍びとしてのそれへと変わる。

「『夜』例の設計図宜しく」
『分かった、持ってくるね』

 が『夜』に言えば、素直に頷いて『夜』が書庫へと入って行く。
 数分して一つの巻物を手に戻って来た。

『お待たせ』

 そして持って来た巻物をへと渡す。

「サンキュ……今回の要塞の見取り図」
「ああ?そんな大事なもんまで入手してんのかよ」

 スッと広げられた巻物は、要塞の見取り図。
 要塞の部屋全てが細かく書き記されたもの。正直言えば、こんなに手際よく見取り図など手に入れられるものではない。

「んっと、どうやって手に入れたかは企業秘密。まぁ、要塞にしている場所が、元々あった場所ってのが楽出来た理由。だから、ちっとばっかり手を加えられているかもしれねぇけど、大本はこれだと思ってくれていい」

 の言葉に、頷いて巻物に視線を向ける。

 細かく書かれた建物の構造。
 そして、一箇所をが指差す。

「ここが、この要塞仕切っている馬鹿の大元。まぁ、頭って奴だけど、そいつの部屋。んで、地下に術者達が居る」
「こんな場所に100人以上の忍びが居んのかよ……」
「忍びって言っても、本当に数だけだ。下手すると下忍になってないような奴も居る。本当に力があるのは20人にも足りないさ」

 淡々と説明するの言葉を聞きながら、頭の中にしっかりと見取り図を叩き込んでいく。
 シカマルも同じように時々質問しながらも、しっかりと軍師として作戦を考えているのだろう、その表情はいつも以上に真剣だ。

 まぁ、人数だけなら、下手すりゃ3人でも辛い任務だから、そうなっても仕方ないだろう。
 しかも、が言うには厄介な術者が居るとの事。

 術者に関して、俺にはそれほど知識がある訳ではないから、この任務がどれだけ大変なのかと言われても、分からないとしか言えない。
 だから、黙って、シカマルとの会話を聞いていた。

 話に入れないのが、少しだけ悔しいと思いながら……。