慌てて部屋から出て行くを見送って、今だその場に固まっているナルトに視線を向ける。
その顔は、見事に赤い。
「ナルト、顔赤いぞ」
持っている本をそのままに、俺は意地悪な笑みを浮かべてナルトに声を掛ける。
勿論、気持ちは分からなくも無い。
に腕を組まれて突然この場に現れたのだから、その理由も分かる。ダブルでのショックだろう、こいつにすれば。
「あいつは、瞬身より渡りの方が得意つーよりも、遣い慣れてんだよ。心配しなくっても、失敗なんてしねぇはずだぞ」
「……それは、も言っていた。でも、渡りって、そんなに簡単に出来るもんじゃないだろう!」
確かに、俺達にとっては、危険極まりない術だからな。この里の1であるナルトでさえ、遣いこなせない術の一つだと言える。
ナルトの場合は、一度遣ってかなり大変な目に合ったと聞いているから、当然と言えば当然な理由だろう。
勿論、遣いこなす事が出来れば、かなりの戦力になる術ではあるが、チャクラコントロールと行きたい場所と言うよりもその場にいる誰かの気配を探りそのポイントに道を作ると言うモノなので、かなりの技術が必要だ。下手をすれば、全く見当違いな場所に行く事にもなってしまう。
だからこそ、それをモノにしようとした者達が、あえなく失敗に終っているのだ。この術は、特Sの術と言っても間違いないだろう。
『昼』や『夜』の妖力を使って行う渡りと違って、忍が使う渡りは、下手をすればこの世界ではない場所にさえ道が出来てしまうという危険性を持つのだから。
「まぁ、あいつにとっては、簡単なんだろう。深く考えるなつーの、めんどくせぇだけだぜ」
そんな術を簡単に遣いこなせるのは、きっとこの木の葉だけでなく、今の忍の中ではあいつだけだろう。
「つーても、それだけじゃねぇだろう、お前の顔が赤い理由」
複雑な表情のままソファに座るナルトに、ニッと笑みを浮かべて更に言葉を続けた。
勿論、ナルトの顔が赤い理由なんて、聞かなくっても分かるんだけどな。
「な、何がだよ」
俺の言葉に、またナルトの顔が赤くなる。
本当に珍しいよな、お前がここまで裏の顔で表情を変えるなんてよ。
まぁ、あいつに逢ってからは、それが普通になってんけどな。
「と仲良く腕組めて、良かったなって言ったんだよ」
「なっ!」
サラリと言った言葉に、これでもかってくらいにナルトの顔が真っ赤になる。
からかうと、おもしれーかも。
こいつをからかえる日が来るなんて、思ってもみなかったつーか、考えもしなかったぜ。
やっぱり、こいつとは、出会うくして出会う運命ってヤツだったんだろうな。んなのガラじゃねぇが、マジにそう思うぜ。
真っ赤になって口をパクパクさせているナルトを見ながら、思わず笑っちまう。
本当に、誰よりも近い場所に居るよな、こいつ等、俺が、嫉妬したくなるぐれぇには……。
「な、何いってんだってばよ、そ、そんな事……」
「お〜い、ドベ口調になってんぞ、ナルト」
焦って言葉に困っているナルトが、ドベ口調で弁解しようと必死で言葉を探しているのを、俺は笑いながらも突っ込みを入れる。
本当に、おもしれぇヤツ。
『お待たせ!って、何、どうしたの??』
楽しくって観察している中、元気な声と共に部屋に入ってきた『夜』が不思議そうに首をかしげた。
まぁ、そうだろう。真っ赤な顔したナルトが、口をパクパクしたまま俺を睨んでいるのだから、理由を聞かれるのは当然と言えば当然だろう。
「何でもねぇよ」
だが、俺は笑みを浮かべて『夜』に返した。
理由言っても、ナルトが可愛そうだからな。
『大方、奈良のガキが器のガキをからかっていたと言うところだろう。が渡りを遣ったようだからな』
『夜』に続いて入ってきた『昼』が、あっさりと状況を判断して説明してくれる。
本当に、こいつの状況判断は、俺でも尊敬出来るものだ。多分、が作った渡りの道の余波が見えているのだろう。
「えっ?そんなに俺の渡りって怖かったのか?絶対に失敗しないから、そんなに緊張する事なかったのに……」
そして、最後に入ってきたが、全く見当違いな事を言ってくれる。
確かに、渡りの危険性を知っているからこそ、緊張する気持ちは分かるのだが、それだけが原因でナルトがここまで顔を赤くするはずがねぇだろうが!
つーても、こいつには分かんねぇだろうな、めんどくせぇぐれぇの天然ボケだ。
『そっか、は渡りで帰ってきたんだ。ナルは、忍術の渡りは、初めてだっけ?』
「忍術は、昔自分でやって酷い目にあった……」
『夜』に尋ねられて、ポツリとナルトが返事する。
まぁ、確かにあれは最低な記憶だろう。
楽をするつもりが、逆に最低な条件を作る結果になってしまったのだから……。
『そっか、なら仕方ないね。普通の人には渡りは難しいみたいだから、流石のナルでも使えなかったって訳だ』
ナルトの言葉に、納得したように『夜』が頷く。
だがその言葉に、俺は引っ掛かりを覚えた。
「普通の人にはって、あの術の仕組みを知っているのかよ!」
『知っているのかと聞かれたら、知っていると言うしかないな。大体、あの術を作ったのは俺達だぞ』
『うん、の為にボク達が作り出した術。だから、以外の人間には遣えないと思うよ』
俺の驚きの言葉に、あっさりと返された言葉には、かなり驚かされる。
大体、あの術を作ったのこいつ等なのかよ!しかも、一族の為に!!信じらんねぇぞ。
「って、シカマル知らなかったのか?」
驚いている俺とナルトを前に、が不思議そうに首を傾げて俺を見た。
「知ってんだったら、こんなに驚くかつーの!」
「って事は、まだ読んでなかったのか……ここにその術の原本あるぞ」
「はぁ?」
さらりと言われた言葉に、俺は思わず聞き返してしまう。
確かにここの本はかなり読破していると言えるが、そんな本あったか?
いや、見た事ねぇぞ、俺は……。
「それじゃ、じーちゃんの所にあるのが、ここの写しなのか?」
「そう言う事。ちなみに、ここのやつを写したヤツ結構あるんだぜ」
『知らなかっただろう』と笑うに、俺とナルトは思わず顔を見合わせてしまう。
そんな事、全く知るはずもない。
大体、火影の持つ里の重要なモノの原本を持っているってどう言う一族だ。
「言っただろう。は、この木の葉が出来る前より、この地に存在していたって、だからそう言う事もあるんだよ」
そう言って笑うに何も言えない。
確かに、この一族は、木の葉が出来る以前からこの地に存在していたと言う事は、過去の記録にも残っている。
それは、初代の火影が残したモノにもしっかりと書かれていた物だ。だからこそ、疑いようもない事実だと分かる。それでも、この一族がこの里にどれだけ力を貸していたのかと言う事実は何処にも残されていないのだ。
『だから言ったんだ、この術はの為だけに作ったのだとな。それを無視して遣おうとするから、馬鹿を見る奴が居る』
「ってもなぁ、この術覚えれば便利だし、遣いたいって気持ちは分かる。うん、でもの特殊な能力が必要だから、一般じゃ遣えねぇらしい。ナルトも災難だったな」
自分で作ったケーキを食べながら、があっさりと言ってのける。
『昼』の言葉も納得出来るが、災難で済む問題なのか?下手すりゃ、二度とこの世界に帰って来られなくなるような禁術だぞ!
「って、そのの特殊能力ってなんだよ?」
あまりにもあっさりと言われた言葉に、そのまま聞き流しそうになったが、言われた言葉に俺は素直に疑問を口にした。
「だから、は『術者』にして、『払い屋』だって言ってんだろう!この術は『術者』の能力も必要って事なんだよ」
俺の問い掛けにが呆れたように説明する。
「って事は、この術って、呪術と忍術の組み合わせって事なのか?」
その言葉に、ナルトが驚いたように問い掛けた。
『そうだ。だから、一環の忍には遣えない術だと言っている』
「って、そんな事あの術書には全く書かれてなかったぞ!!」
そして、今度は読んだ術書に文句を言う。確かに、その気持ちは分かる。
何せ、自分も読んだがその術書には、そんな事一言だって書かれていなかったのだ。
そりゃ、忍びには、誰にも遣えないだろうよ、その術は……。
「はぁ?こっちの術書にはちゃんと書いてあったぞ?何だ、写す時に無精したのか?」
驚いたように言われたの言葉に、俺とナルトは同時にお互いの顔を見る。
んな問題じゃねぇぞ!
無精でそんな大事な事を抜かされちまったら、命が幾つあっても足りねぇつーんだよ。
「なんなら、原本見てみるか?」
お互いに大きくため息をついた俺とナルトに、がそっと問い掛けてくる。それに、俺とナルトは同時に大きく頷いた。
「了解、『夜』頼むな」
『分かった』
そんな俺達に、がのんびりとしている『夜』へと声を掛ける。声を掛けられた『夜』は頷いて、書庫へと入っていった。
数分もしない内に、『夜』が一冊の本を持って戻ってくる。
それは、かなり古い禁術書。
「って、事で、これが原本な」
言って渡された本をまじまじと見て、ゆっくりと開く。ナルトが興味深そうに覗き込んできた。
中に書かれていたのは、術に対しての細かい説明と、その使い方。
そして、その術の発動の仕組みなど、それは、昔火影の書庫で読んだものと同じモノ。
「って、何処にもそんな記述ねぇぞ!」
全くと言っていいほど同じ内容のモノに、俺は傍で寛いでいるへと声を掛けた。
「えっ?書いてねぇか?可笑しいな……って、書いてんじゃん、ここに!」
俺の言葉にが本を覗き込んである場所を指す。だが、の指した場所には、何にも書かれていない。
「、ふざけて……」
「だから、ここにこの字が読める者にしか、この術は遣えないって……あれ?」
何も書かれていない場所を指したに文句を言おうした瞬間、その書かれている言葉が口に出されて、言葉を失ってしまう。
『そう言えば、そんな風に書いたな』
『うん、書いたね……』
って、それって意味ねぇんじゃねぇのかよ!!
「そりゃ、これ写した奴も、そんな見えない字は、書き写せないだろうな……」
頷いている猫2匹の言葉に、ナルトがため息をつく。
確かに、これじゃ誰にも分からないだろう。そう、この術を使えるこいつにしか……。
何か、どっと疲れたかも……。
俺等って、明日すげぇめんどくせぇ任務じゃなかったか……何か、やる気失せたかも……。