シカマルに気付かれてから、俺は直ぐに家へと戻った。

 『夜』には直ぐに戻ると言ってあったのもあるし、二人がイルカ中忍に怒られている姿が見られて、嬉しかったって思うのは変なんだろうけど、ナルトが普通に子供らしく叱られている事が、本当に良かったと思って、満足して戻ってきたのは本当。

 それから、お茶の準備を始めた。
 ここ数日のストレス解消に、バッチリと準備されたお茶菓子。

 並べられたそれを満足気に見て、時計に目を向ける。もう直ぐアカデミーの終了時間。

 ナルトとシカマルが、イルカ中忍の罰を素直に受けるとは思えないから、直ぐに家に来るだろうと思った瞬間、嫌な予感。
 それは、ずっと昔から知っている感覚。

?』

 突然動きを止めた俺に、心配そうに『夜』が声を掛けてくる。

「俺、ちょっと出掛ける!」

 嫌な予感。それに、居ても立っても居られなくって、慌てて印を組む。

『えっ、でも、シカ来ちゃうよ』
「シカマルなら、何時も通り勝手にするから大丈夫!」

 印を組み終わる前に言われたその言葉に、俺は笑顔で答えて、意識をドベのフリをしているナルトの気配へと向けた。
 そして、渡りの術でナルトの元へと急ぐ。

 着いたその場所は、ナルトの家の直ぐ近く。
 それも、人通りの最も少ない場所。

「おい!」

 そして、聞こえて来た声にはっとして顔を上げる。
 里人の殺気を含んだその声。それは、今まで何度も聞いてきた憎しみの篭った呼び掛け。

 その声に、ナルトがその足を止める。

「だ、誰か呼んだってば?」

 呼びとめられて、不思議そうに辺りを見回すように振り返るナルト。

「化け狐!」

 その瞬間投げられたのは、石。

 ドベのフリをしているナルトは、勿論それを避ける事などしない。だから投げられたその石は、ナルトの額に直撃した。

 俺は、それを少し離れた場所で、悔しくってギュッと拳を握り締めながらただ見守るだけ。
 間に合わなかった自分が悔しい。そして、何よりもそれを見ている事しか出来ない自分が許せない。

「……用は、それだけ、だってば?」

 石が当って、額からは血が流れる。それを拭いもしないで、何時もなら、何も言わないナルトが今日は、本気で殺気を相手に向けて放つ。
 今まで、一度だって見せた事のない姿。そんな事をすれば、演技している事が無駄になると言うのに……。

「お、お前なんかが、この里に居るなんて、許さないからな!!」

 ナルトの殺気に当てられて、怯えたように捨て台詞を吐きその場を走り去っていく里人の声で、俺は驚きで呆然としてた事から我を取り戻して、慌ててその里人の後を追う。

 こんな事で、ナルトの正体がバレてしまうなんて、絶対に嫌だから……。
 ナルトに危害を加えた里人の記憶を一日分消去して、新しい記憶を植え付けた。そして、倒れてしまったそれを無視して急いでナルトの所へと戻る。

「ナルト!」

 既に歩き出そうとしているナルトを俺は、慌てて呼び止めた。

「……なんで?」

 俺の呼び声に、ナルトが振り返って驚いたようにその瞳が見開かれる。
 俺は、そんなナルトの事などお構いなしに、今付けられた傷に自分のチャクラを流す。

 勿論傷口は九尾のお陰で、もう既に血も止まっているけど、それでも痣が残ってしまっているのが痛々しくって、それを見ているのが嫌だったから…。

「ごめん、本当はもっと早くに出たかったんだけど……ナルトの後付けてたって言う後ろめたさが……あっ!さっきの奴なら大丈夫だから、記憶消して、新しい記憶植え付けてきたから、心配ない!」

 本当は、間に合わなかったのに、口では全く違う事を言う。

 だって、きっと俺が本当の事を言えば、ナルトが気にすると分かっているから、だから、これは必要な嘘。

 心配させないように、ナルトに笑顔を向けたまま矢継ぎ早に説明。
 驚いて、俺にされるがままのナルトに気が付いて、もう一度ニッコリと笑顔。

「んで、やっぱり家に一度帰るのか?このまま家に来ねぇ?」

 そして、そのまま一度家に戻るつもりのナルトを即ナンパ。

 だって、シカマルは家には戻らずに、そのまま来るのに、ナルトは何時も自分の家に戻ってから来るのだ。そのまま来てくれても、全然問題ないのに、何時も手荷物を家に置いてから来る。
 それは、余計なモノを俺の家には、置きたくないと言うナルトの無意識の行動だと分かるから、だから、これは自分にとってもいい機会だと、即ナンパしたのだ。

 そんな俺の問い掛けに、ナルトは一瞬驚いたような表情を見せたけど、次の瞬間には笑顔になってそして、頷いた。
 その笑顔に、俺も嬉しくなってさらに笑顔。

「んじゃ、このまま渡り遣って、戻るぞ!」
「って、渡りで行くのかよ!!あれって、禁術じゃ……俺でも遣えないのに……」

 嬉しいから、ナルトの腕に自分の腕を回して、早速印を組む。
 そんな俺に、ナルトが慌てたように声を荒げた。

 まぁ、確かに渡りの術は禁術らしい。でも、俺の場合、物心付いた時には既にその術を遣っていたから、そんな気がしないんだよな。
 ナルトが、影分身を平気で遣うのと同じだと思うんだけど……。

「渡りは、覚えると簡単だぞ。まぁ、俺の場合、行きたい相手の気配は必要だけど……『昼』達みたいに、好きなところには流石に行けねぇなぁ…」
「いや、普通は無理だろう!あれは、あいつ等が遣い魔だからだ!大体、渡りは、下手すると大変な場所に行く事にだってなりかねないんだからな!!」
「その辺は大丈夫!心配しなくっても、この術で失敗した事なんか一度もねぇよ。安心しろって!」

 心配してくれるからこそのナルトの言葉に、笑顔を向けて最後の印を組み渡りの道を作る。

 瞬身の術は結局自分自身が動かなきゃいけないのに対して、渡りは全く動かなくっていいから楽で好き。瞬身遣うより、俺的にはやっぱり渡りの方が遣いやすいよな、うん。

「ただいま!」
「おう、お帰り……って、やっぱりナルトも一緒かよ」

 行き先は自分家の居間だろうと当りをつけた俺の予想通り着いたその先には、当然のようにソファに座っているシカマルが、何時ものように書庫から出してきた本を読んでいた。

 まぁ、渡りの先をシカマルの気配に合わせたんだから、目の前にシカマルが居るのは当然だけどな。
 俺の言葉に、本から視線を外してシカマルが律儀にも返事を返してくれる。そして、今だに俺が腕を組んでいるナルトを見て当然のような反応。
 『夜』に話してから出たんだから、俺が何の為に外に出たのかも、分かっていたのだろう。だからこそ、これはシカマル達にとっては予想通りだったんだろう。

「今、『昼』と『夜』が、セットで茶の準備してっぞ」
「あっ!ヤバイ、任せ切りだった!!」

 そして、呆然としているナルトには何も言わないで、ここに居ない『昼』達の事を教えてくれる。聞いた俺は、慌ててナルトから離れて、台所に急いだ。

 自分で言ったのに任せたままなのは、駄目だよな、うん。