豪華な昼飯を食べた後、授業に遅れた事でイルカ先生に説教を食らった。

 それは何時もの事だし、俺もこの先生だけは本気で自分のことを叱ってくれているのが分かるので、心の中では嬉しい気持ちを隠せない。

 だけど、そんな事微塵も感じさせないで、表の自分を演じていく。
 そんな中、シカマルの視線が窓へと向けられた。そして、苦笑が見て取れる。
 全く感じられない気配、それでもあいつが居るんだとその表情で理解して、一瞬窓の外へと視線を向けたけど、もうその姿を見付ける事は出来なかった。

 自分には、全く感じられない気配なのに、シカマルは時々あいつの気配を感じたようにそちらに迷いもなく視線を向ける。それを疑問に感じて問いかければ、笑われてしまった。
 俺に読めない気配を、自分に読める訳ないと、キッパリと言われてしまう。

 だけど、間違いなくシカマルは、あいつの居る場所が分かっているみたいで……。
 何で分かるのかを知りたくって、問いかけようとした俺の言葉はシカマルの苦笑によって遮られてしまった。
 そして、小さくため息を付いて、諦めたように説明してくれた事。

――あいつの気配は、ぜってーに読めねぇよ。だけど、一つだけ知る方法がある。

 真剣に言われた言葉に、俺は意味が分からなくって、首を傾げた。
 読めないのに、それを知る方法があると言うのが分からない。

――今回、一緒に任務すんだから、知っといた方がいいだろう。だから、教えてやるよ。あいつの気配を読む方法……。

 言われた言葉に、ぐっと身を乗り出しそうになるのを、何とか押し止めて、表面上はイルカ先生の話を聞いている振りをしながら、意識はシカマルに集中させる。

――その、方法は?
――自分の勘を信じんだよ。

 真剣に尋ねた俺に、サラリと返された言葉。一瞬言われた言葉の意味が分からずに、思わず演技も忘れてシカマルに視線を向けてしまった。

「ナルト!授業に遅れてきたんだから、ちゃんと話を聞かないか!!」

 その瞬間、イルカ先生の怒鳴り声が聞こえて、ハッと我を取り戻すと、慌てて演技を始める。

「俺ってば、ちゃんと聞いてたってばよ!ちょっと、疲れたから、首の運動しただけだってば!!」

 こんな時、シカマルが自分の後ろの席だって言うのを恨みたくなっちまう。

 その瞬間、後ろから押し殺したような笑い声が聞こえてきて、内心俺はシカマルを睨みつけた。

 もっとも、演技中だから、そんな事本当には出来ねぇけど……。


 大体、自分の勘を信じるって……。
 複雑な気持ちのまま、大人しく席に座る。

――騙されたと思って、試してみるんだな。

 席についた瞬間聞こえてきたシカマルの声に、俺は小さく息を吐き出して頷いた。

 まぁ、分かるシカマルが言うんだから、そうなんだろう。良し!試してみるか!!

 自分を納得させて、意識をイルカ先生の授業へと向ける。
 まぁ、授業の内容なんて、全部分かっている事だから今更聞いても仕方ないし、実際問題な事を言えば、アカデミーで教えている内容は実践では殆ど役に立たない事が多い。突っ込みを入れたくなるような授業を聞きながら、小さくため息をつく。

 もう少し、忍を育てたいってんなら、アカデミーの授業内容考えろよなぁ、じっちゃん……。

 聞こえてくる説明を聞きながらそう思っても、仕方ないだろう。
 イルカ先生の声を遠くに聞きながら、俺はもう一度ため息をついた。





 イルカ先生の罰掃除は影分身に任せて、俺は急いで家に帰る。

 シカマルも、俺と同じように影分身残していたから、きっと今頃はあいつの家に向かっているだろう。

 初めてシカマル以外の誰かと任務を共にする。
 それが、あいつだと言う事に、何処かわくわくする気持ちを隠せない。
 あいつがどうやって任務を遂行するのか、実はかなり気になっていたから……。

 俺でさえ知らなかった『』と言う暗部。
 知ってから、その実力を調べてみた。そしたら、俺でも難しいと思うような任務ばかりを片付けている事を知って驚いた。
 あの白猫は、俺の半分の実力だと言っていたのに、そんな事感じさせない任務の数々。

「本当は、俺よりも強いのかも……」

 思わず口から出た言葉に、思わず苦笑を零してしまった。
 あいつの事を考えていると、周りが見えなくなってしまうのだ。

「早く、あいつの家に行くか……」

 何時ものようにドベを演じながら、自分の家に向かう。
 今頃影分身は、イルカ先生に言われて教室の掃除中だろう。勿論、シカマルの影分身と一緒に……。

 本体は、何食わぬ顔で家に帰ってるけどな。

「おい!」

 元気良く歩いている俺の耳に、誰かの呼びとめる声。
 怒気を含んでいるこの呼び声に、俺は嫌な予感を覚えた。

 こんな風に呼び止められた時は、正直言ってロクな事がない。どうせ、苛立ちを俺にぶつけるつもりなんだろう。

「だ、誰か呼んだってば?」

 そんな事を考えながらも、辺りを見回すように振りかえる。この場所は、人通りの少ない場所。当然ここに居るのは、俺と俺を呼び止めた奴だけ。
 自分が呼ばれたのか分からないと言うように、ドベの演技をする事は忘れない。

「化け狐!」

 だが、振り返った瞬間投げられたのは、石。それを避ける事は簡単だったけれど、表の俺がそんな事出来る訳もなく、投げられた石を額に受ける。
 言われた言葉とその行動に、俺は内心盛大なため息をつく。

 俺と九尾を混同している馬鹿な奴を相手にするつもりはないけど、人が気分良く帰ってるのに、邪魔してくれた事には、かなり腹が立った。何時もなら、何でもないままその場を離れるけど、今日ばかりは怒りが現れてしまう。

「……用は、それだけ、だってば?」

 石が当った場所から、温かな赤い液体が流れて行くのが感じられる。
 俺は、それを拭いもせずに、自分に石を投げつけて来た相手を睨んだ。

「お、お前なんかが、この里に居るなんて、許してないんだからな!!」

 睨んだ俺に、相手は怯えたように言い捨てるとそのまま走り去って行く。それを見送って、今度こそ盛大にため息をついた。

「お前なんかに、許されたくない……」

 本当は、睨んだりしたら後が大変になる事は、誰よりも分かっていたけど、それでも今日は許せなかったのだ。

「ナルト!」

 ため息をついて、諦めたように歩き出そうとした瞬間、聞きなれた声に名前を呼ばれた。

「……なんで?」

 今頃家に居て、俺やシカマルが来るのを待っているはずの人物。その相手が、目の前で慌てたように俺の傷を心配そうに見ている。そして感じるのは、温かなチャクラ。
 驚いて思わず呆然と見詰めて居る俺は、小さく相手に問い掛けた。

「ごめん、本当はあいつが石を投げる前に出て来たかったんだけど……ナルトの後付けてたって言う後ろめたさがあって……あっ!さっきの奴なら大丈夫、記憶消して、新しい記憶植え付けてきたから!!」

 あんな事があって、一瞬で嫌な気分になったのに、ニッコリと言われた言葉に、フンワリと心が温かくなる。申し訳なさそうに言われた言葉も、俺には温かくって……。
 そして、すっかり傷の消えた額から、流れた血が綺麗に拭い去られた。まるで、俺の心から黒いモヤモヤが消え去ったのと同じように……。

「……えっとな、やっぱり家に一度帰るのか?このまま家に来ねぇ?」

 そして、そっと尋ねられた言葉に、俺は笑って頷く。

 俺の後を付けていたと言っていたけど、やっぱり気配は全然読めなくって、シカマルに言われた事も実践出来なかったのが悔しい。
 何にしても、シカマルに出来る事なら、絶対に俺も身に付けてやるからな!!

 そう、心に再度誓ったのは、誰にも内緒。