ナルト達が校舎へ戻っていくのを見送ってから、自分が持ってきていたモノを片付けて帰る準備。

『お前は、顔を出さなくってもいいのか?』
「俺、欠席人間だかんな、顔出す方が変に思われるじゃん」

 帰る準備をしている俺に、『昼』が声を掛けてくる。それに、答え残っていたシートを折りたたんだ。

 まぁ、俺が途中から入っても、誰も気付かねぇだろうけどな。居たか居ないかも分からねぇ存在感だからなぁ……。気が付くのって、教師ではイルカ中忍だけだろうし……。
 他の奴等は、何も見ていない。いや、見ようともしていないんだろう。

 だから、ナルトの事だって気付く事など出来ないのだ。

、ボク達これ持って先に帰るけど、本当に一緒に帰らなくっていいの?』

 片付け終わった荷物を『昼』と『夜』に預けて、自分は用事があるからと言えば、『夜』が心配そうに尋ねてくる。それに、俺は笑顔を浮かべて、その頭を優しく撫でた。

「大丈夫だって!直ぐに帰るから心配ないさ」
『どうせお前の事だ、奈良のガキと器のガキの様子でも覗いて帰るつもりなんだろう……』

 安心させるように言った『夜』への言葉にため息を付きながら『昼』が呆れたように呟く。
 俺は、言われた言葉に、言葉に詰まった。

 やっぱり、『昼』には、モロバレって奴だな……。

『そっか、でもそれなら、ボクも見たい!』

 元気良く言われた言葉に苦笑を零す。いや、見たいって……そう言う問題なのか、『夜』。

「直ぐに帰るよ。だから、荷物任せちまうの悪いとは思うけど、頼むな」
『……いいよ、ちゃんと持って帰るね』
『気にするな、何時もの事だからな』

 申し訳なくって言った俺の言葉に、二人がそれぞれ言葉を返してくれる。
 『夜』は少し残念そうに、『昼』は呆れたようにため息をつきながら……。そんな姿に笑みを零して俺は、『夜』の頭をもう一度撫でた。

『それじゃ、気を付けてね』
「ああ」

 上目使いで言われた言葉に頷いて、2匹の姿が消えるのを見送る。
 帰るっても、2匹の場合は、そのまま家に一瞬で着いちまうんだろうけどなぁ……。

「さぁてと、2人の様子でも見に行くか」

 そう言ってから、自分もその場から移動する。
 来た場所は、ナルトやシカマル、そして自分にとっての教室が一番良く見える場所。

「……あっ、イルカ中忍に怒られてんなぁ…やっぱり、あの人は好感持てるよ、うん。それに、忍になれない俺の事も、本気で心配してくれるし、人が良すぎ」

 あの人の過去だって、勿論見た事がある。

 九尾の事を恨んで当然の子供だった。両親を、その時に亡くしている事だってその場面を再現されたから知っている。
 それでも、ナルトに躊躇いがあるとしても、ちゃんと接してくれる事が俺としては、何よりも嬉しかった。
 このアカデミーで唯一ナルトの存在を認めている存在。

「ナルトも、気付いてくれたらいいんだけどなぁ……」

 それが、難しい事だと分かっていても、そう願ってしまう。
 一度植え付けられた警戒心は、中々取り去る事が出来ないのだ。それを植え付けたのは、この里の大人達。

「四代目の願い虚しくってところだな……」

 実の息子の事を心配しながらも、亡くなった四代目。
 子供に九尾を封印すれば、どうなるかなど、誰よりも分かっていた事だろう。

 それでも、信じたかったのだ、自分が守ったこの里を……。

「……一人もでも多く、存在を認めてくれる人が居る事……そして、護るべき価値を見出したい」

 自分にとっても、この里は居心地のイイ場所ではない。

 この里にとって自分は、存在してはいけないモノ。いや、亡霊なのだ。
 滅ぼされた『』の末裔。それは、普通に考えれば、有り得ない存在。

「ナルトが、この里で認められれば、俺は、許されるんだろうか……」

 神であった九尾を守護し、払い屋としてこの木の葉の里が出来る前からあの森で生きて来た『一族』。
 木の葉がここに出来る事も、快く許し。そして、迎え入れた。それなのに、裏切られ、最後にはこの里に滅ぼされる事になったのだ。
 先見の力があるって言うのに、何でこうなる事を予想できなかったのか、先祖を少しばかり恨みたくなる。

 もっとも、そうでなければ、自分はこうしてここに存在する事も出来なかっただろう。
 そして、ナルトやシカマルとは、出会う事は出来なかった。

「……世の中って、難しいよなぁ……」

 ため息を付いて、イルカ中忍に何か文句を返しているナルトに、苦笑をこぼす。

 その瞬間、ナルトの隣に居たシカマルが、自分の方に視線を向けてきた。
 気配は完全に消している。そして、視線さえ気付かせない自信があったのに、向けられた視線は真っ直ぐと自分を捕らえた。
 それに、俺は顔には出さずに驚いたが、シカマルに手を振って一瞬でその場から姿を消す。見付かったのなら、ここに居るのも不味いからなぁ……。

 最近、シカマルには俺の気配を気付かれているように思うのは、気の所為だろうか?




 ナルトが、イルカ先生に文句を言うのを隣で聞きながら、ため息。

 めんどくせぇが、遅れてきた俺達が悪いのは、事実だつーの。文句言っても仕方ねぇてーのに……。

 ボンヤリとそんな事を考えている中、一瞬窓の外が気になった、そんな風に思う時は間違いなくあいつが居ると分かって居るから、俺は迷う事無く視線をそちらへと向ける。
 窓の外に予想通りの人物を見付けて、俺は思わず苦笑してしまった。ナルトにさえその気配を感じさせないあいつの気配を、俺が何となく分かるようになったのはつい最近の事。
 分かるようになったと言うのは、間違いかも知れねぇが、大抵気になった場所にいる事が多いのだ。まっ、勘ってやつだろう。

 俺と目が合った瞬間、一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、それでも笑顔で手を振ってそのまま姿を消した。
 それを見送って、俺はもう一度苦笑を零す。

 気になるんなら、ちゃんと来いつーのに……。

「シカマル!聞いているのか!!」

 ボンヤリと考えていた俺の耳に、イルカ先生の怒った声。それに、現実へと引き戻された。

「全く、お前等は放課後バツとして教室の掃除をしてもらうからな!!」
「オウボウだってば!わざとじゃないって言ってるってばよ!!」
「聞く耳は持たん。ほらお前達も席に着け、遅れたが授業を始める」

 ナルトの文句を無視して、そのまま授業に戻っていく。
 そんなイルカ先生の言葉を聞きながら、俺は盛大にため息をついた。

――なぁ、さっき、あいつが居たのか?

 気ダルそうに自分の席に歩いていく中、ナルトが心話で話しかけて来る。

――おう、帰っちまったけどな……。
――シカマルは、あいつの気配分かるのか?

 真剣に問い掛けてくるその言葉に思わず笑ってしまう。

――おめぇに読めねぇのに、俺に読める訳ねぇつーの。

 はっきりとそう言うのは、この里の1である『光』に読めない気配が、里の3と言われている自分に読める訳ねぇと言う事。
 それだけ、あいつの気配の消し方は尋常じゃねぇつーの!

――だったら……。

 俺の答えに納得できないと言うようにナルトが続ける言葉に、俺は苦笑を零した。
 本当は、教えたくないって思う気持ちもあるが、仕方ねぇから教えてやるか……。

――俺が分かるつーのは……。