突然言われた内容に、頭がついて行かない。
 シカマルと話をしている相手からのとんでもない言葉。
 シカマルが、それをかなり嫌がっていると言う事は分かった。だけど、俺は、その展開についていけない。
 ただ、目の前で話されている事に耳を傾けているだけ。

「で、ナルトは、OK?」
「えっ?」

 訳が分からない俺に、が問い掛けてくる。
 『OK』って、多分、今回の任務でが俺達に同行するって事だよな……俺は、別にいいんだけど、シカマルはすごく嫌がっている……何かあるのか?

なら、別にいい。他の奴だったら絶対に嫌だけど……」

 一瞬考えてから、返事を返す。
 これが、全く知らない奴と組めと言われたら、絶対にじーちゃんに文句を言う。だって、ハッキリ言って足手纏いになる事は目に見えているからな。

 俺の言葉に、フワリとが笑顔を見せる。

「サンキュ、ほら、ナルトはいいってよ。シカマルも諦めろ」

 笑顔で俺に礼を言ってから、疲れきった様子で弁当を食べているシカマルへと笑いながら声を掛けるを前に、俺も目の前に広げられている弁当に手を伸ばした。
 綺麗な彩りの弁当。純和風の弁当は、見るからに手間が掛かっているのが良く分かる。
 その中から幾つかを皿に乗せ、から揚げを口に入れた。

「……おいしい……」

 そして零れたのは賛辞の言葉。それが聞こえたのか、が俺の方を見て、ニッコリと笑う。

「ナルトの口に合って良かった。ストレス発散には、十分なぐらい作ったけど、そう言って貰った方が、何倍も効力あるんだよな」

 ニコニコと嬉しそうな笑顔で話すを前に、俺はどう言う風に返せばいいのか分からなくって、言葉に詰まる。

 人の作ったモノなんて、物心ついてからは一楽のラーメン以外初めてだったから…。
 人の作ったモノは、自分には危険なモノでしかない。
 下手をすると、死ぬ思いをする事になる。腹の九尾のお陰で、死ぬ事はないと分かっていても、苦しい思いはしたくないから。
 だからこそ、こうして誰かと食べる食事事態初めての事で、向けられる笑顔が胸を熱くする。

「海苔巻は、エビフライに、サラダにノーマルとで三種類。おにぎりは、梅干・シーチキン・昆布の三種類づつ作ってみた」
「……大量だな……」

 嬉しそうに重箱の一つを差し出して中を見せるの言葉に、シカマルがボソリと一言。
 確かに、大き目の重箱5段をぎっしりと埋め尽くしている料理は、凄いと思う。3人でも全部食べられるかどうか、分からない。

「んじゃ、『昼』と『夜』も呼ぶ!5人なら大丈夫だろう!」
「って、そう言う問題じゃねぇつーんだよ!」
「んじゃ、どう言う問題だ!ナルト、シカマルが煩い」

 目の前で繰り広げられる遣り取りに、一瞬驚いて瞳を見開く。
 何時も冷静なシカマルが、には振り回されているのに、驚かされた。それに、も、今までの雰囲気がなくって、子供っぽい。
 それが、本来の姿なのだろう。自分の前で、普通に接してくれている人達。
 そんな二人を前に、俺は思わず笑ってしまった。素直に笑ったのなんて、一体何時振りだろう。
 でも、笑えるのは、自分の前で当然のように笑ってくれる人が出来たから……。

「ナルト、お薦めはダシ巻き。食って感想聞かせてくれ」

 笑った俺に、が何時もの笑顔を見せてから料理を薦める。綺麗な綺麗な卵焼きが、すっと俺の前に差し出された。
 箸でそのまま薦めてくるそれに、俺は一瞬驚いてを見てしまう。

「ほら、口開ける」

 そんな俺に、は笑顔のままで動作を促す。それに、素直に口を開けばそのまま卵焼きが口の中に押し込まれた。

「で、味は?」
「……美味しい……」

 口に入れられたモノをそのまま食べて、素直に一言呟く。
 それに、がまた優しい笑顔を見せた。

「うん、ナルトの口に合って良かった」
「……それ、さっきも聞いた」
「おう、言ったけど。何度でもいい。だって、ナルトに食わせる為に作ったんだから、ナルトに美味しいって言ってもらえるのが、一番嬉しい言葉だからな」

 ニコニコと本当に嬉しそうに言われた言葉に、俺は何も言葉を返す事が出来ない。
 だって、俺の為に作ったのだとか、そんな事一度だって言われた事がないからだ。こいつに会ってから俺は、生まれて初めての事を沢山体験している。
 俺の為に泣いたり笑ったり、そして、優しい時間をくれる。

「あ〜っ、めんどくせぇけど、『昼』と『夜』を呼ぶんじゃねぇのかよ」

 何も返せない俺に、なにも言わないでただ笑顔を見せるへと、シカマルが盛大なため息を付いて声を掛けて来きた。
 そう言えば、そんな事話していたような……。

「そうだった!って、もう来たからいいや」
「来たって?」
『名前を呼ばれれば、来るぞ』

 シカマルの言葉に、思い出したとばかりに顔を上げただけど、直ぐに苦笑を零して空を仰ぐ。
 その言われた言葉の意味が分からずに俺は、思わず首をかしげた。その瞬間、聞こえてきた声に、驚いて振り返る。

がお弁当作っていたのは知ってたから、呼ばれると思って準備してたんだよ。シカとナル、久し振り!』

 振り返った先には、白猫と黒猫の姿。

「久し振り?ああ、そう言やぁ、確かに1週間振りぐらいにはなるなぁ……」
『奈良のガキ、そこまでボケたのか?』

 黒猫『夜』の言葉に、シカマルが一瞬首を傾げてから、小さく頷く。それに、白猫の『昼』が呆れたように突っ込みを入れた。

「『昼』その突っ込みは、シカマルに失礼だぞ!幾ら見た目が子供に見えなくっても、まだ10才のガキなんだからな」
「……お前の方が、失礼だつーんだよ」

 そんな『昼』に、が笑いながら言葉を返す。それに、シカマルが不機嫌そうにを睨みつけた。
 本当に、こうやって見ると、仲良いよなこの二人……。
 そして俺は、そんな二人にどう接して良いのか、分からなくってただ見ているだけ。
 それは、俺がそれだけ人と関りを持たなかったのが原因。もっとも、関りを持ちたいと思っても、この里で、目の前の二人以外にそんな奇特な事を考える奴なんて存在するはずもない事だ。

「ナルトも、そう思うだろうが!」
「えっ?」

 不機嫌そうなシカマルの声で、我に返る。だけど、どこか遠くで聞いていた話は、頭に入ってなくって、何を聞かれたのか分からずに首を傾げた。
 こう言う時、俺はどう返せばいいんだろう……。

「シカマルを子供扱いする方が難しいんだよ。まぁ、俺も人の事は言えねぇけど……ナルトは、どう思う?」

 一瞬だけ困ったように顔を上げた俺に、が何事もなかったように俺に声を掛けて来た。
 そして、しっかりと俺に質問してくる。

「俺も、子供らしくないから……」

 だけど、質問された事に俺は自分の事しか返せない。だって、この中で、俺だけが普通の子供と同じなんて決して有り得ない環境に居たから……。

「う〜ん、でも、表のナルトが一番子供らしいよな。シカマルは変らないけど、俺なんて存在感0だし……」
「おめぇの場合は、忍を目指している奴が、病弱設定なのが可笑しいんだよ」

 何も言えない俺に、だけどがあっさりと言葉を返してくれる。それに、驚いて顔を上げた俺に、シカマルの呆れたような声が聞こえてきた。

「俺も、シカマルと話しているの見るまで、の事知らなかった……」
「うん、そうだろうと思った」

 だから俺も、自然と会話に入る事が出来る。躊躇いながら言った言葉に、笑顔で頷かれる。

「だから、ナルトに探してもらいたかった。俺、我侭だから、ナルトにも、俺って言う存在を知って欲しかったんだよな」

 優しい笑顔と、言われる言葉。
 忌み嫌われた俺と言う存在に、光を与えてくれる。

「……俺も、の事が知れて、嬉しかった」

 だからこそ、自分の正直な気持ちを伝える事が出来るのだ。
 俺の言葉に、がフワリと笑った。


 そして、今一番好きな顔が、目の前にある。