めんどくせぇが、朝がくれば何時ものような日常が始まる。

 何も変わんねぇが、それでも昨日までとは確かに違う時間。

「なぁ、あいつってば、今日も休みなのか?」

 俺の直ぐ傍に座っていたナルトが、ドベ口調で質問してくるのは、この場所がアカデミーの教室の中だからだろう。
 そして、問われた人物は、今日も姿が見えない俺の幼馴染の事。今日も、任務だと言って休んでいる。

――ここ数日、厄介な任務が続いているってよ。

 だから俺は、心話を遣って返事を返した。

――それて、大変なんじゃねぇの?

 俺の言葉に、ナルトが心配そうに問い掛けて来る。あの時から、こいつはあいつの存在をきっちりと認めているようだ。
 まぁ、それが自然な事なんだけどな。めんどくせぇ事ばっかり考えてねぇで、初めっから話ときゃいいのによ、本当に馬鹿だよな。
 自分を見詰めてくる青い瞳に、思わず口元を緩めてしまう。

――あ〜、気にすんな。何時もの事だ……心配なら、手伝ってやるか?

 からかう様に言えば、不機嫌そうな表情で睨まれた。

――俺が、手伝えねぇって事、分かってて言うな!

 不機嫌そのままに逸らされる視線に、思わず苦笑を零す。
 確かに、あいつの仕事を手伝うのは、暗部の『光』でも無理だろう。何せ、情報が一切無いモノばかりだからだ。だから、下手すれば、その情報を集める仕事も回される。
 今回されているのは、その情報収集の仕事だろう。

 あいつが苦手としている任務なのを知っているから、思わず小さくため息を付いた。

――なんだよ、そんなに厄介な任務なのか?

 俺のそのため息に気付いて、ナルトが心配そうに視線を戻す。

――あいつにとっては、厄介だろうな。何せ、一番苦手な任務だし…。

 心配そうに見詰めてくる視線に、俺は苦笑しながらそれだけを返した。
 それに、ナルトは意味が分からないと言うように首を傾げる。

――まぁ、あいつには危険度少ねぇけど、やっぱり嫌いみてぇだな。
――なぁ、一体どんな任……。

「ナルト!シカマル!!俺の話をちゃんと聞いていたのか?」

 不思議そうにナルトが問い掛けようとした言葉は、イルカ先生の言葉によって遮られた。

「お、俺ってば、ちゃんと聴いていたってばよ!」
「それじゃ、何を話していたのか、言ってみろ」

 その声と共に、ナルトがドベの仮面を被って、立ち上がってビシッと姿勢を正した。
 本当に、何時見ても立派な演技だ。

「えっ、えっと、その……」

 そして、問われた事にナルトが口篭もる。まぁ、何時もなら聞いているかもしれねぇが、今回は全く聞いてなかったのだから、素直に怒られろって。

「言えないって事は、聞いてなかったんだろう!シカマルも寝てないで、ちゃんと聞いていなさい!!」
「へぇい……」

 答えられないナルトを呆れたように叱ってから、次に俺の名前を呼んでしっかりと念を押す事も忘れない。
 この海野イルカと言う中忍の教師だけは、このアカデミーで唯一ナルトを普通の子供と同じように扱っている。きっと、これが他の教師なら、全く無視されていただろう。
 こうやって気付くと言う事は、本当にナルトを見ていると言う証拠。

 ああ、だから、か……。

 ちゃんと叱ってから、また授業へと戻ったイルカ先生に、俺はある事を思い出して、笑みを浮かべた。
 アカデミー教師の中で、唯一ナルトを認めている存在。

 それが、海野イルカ。

 が、嬉しそうに話をしていた。唯一好感の持てる先生だと。

――で、一体何の任務なんだよ?

 そんな事を思い出している中、不機嫌そうにナルトが問い掛けてくる。先程、怒られたと言うのに、全く気にしてないのも問題あると思うぞ。てーか、俺も気にしてねぇけど……。

――めんどくせぇから、言えねぇ、本人に聞いてみろ。

 別に話たって問題ないだろうが、忍である以上軽々しく口にするものじゃねぇからな。
 まぁ、めんどくせぇってのが一番の理由だけどよ。
 俺の言葉に、ナルトが不機嫌そうな表情を見せた。
 あいつの事が関ると、とたんに分かりやすくなる。何時もは、自分の感情を読ませるなんて事、良しとしねぇのに……。

 その後は、ナルトも諦めたのだろう、大人しくイルカ先生の話を聞いているフリ。もっとも、その頭の中は、全く違う事を考えているってのは、バレバレだつーんだけどな。





「で、本人に聞くんじゃねぇのか?」

 昼休みアカデミーを休んでいた張本人が、何故か現れて目の前で弁当を広げている。
 授業の間に聞こえてきた心話で来るのは分かっていたし、何故か弁当の準備をしているのも聞いていたが、何でこんなに大量にあるんだ??

「聞きたいこと?何、なんかあるのか?」

 弁当を広げながら不思議そうに首を傾げて、がナルトに質問を投げ掛ける。

「えっ、いや、あの……」

 突然不思議そうに首を傾げて質問したに、ナルトが焦って言葉に詰まった。

「答えられない事以外なら、何でも答えるぞ」

 そんなナルトに、がフワリと何時もの笑顔を見せて質問を促す。
 まぁ、めんどくせぇが言っている事は間違いない。答えられない質問には、答えないと言っているんだからな。
 俺は、が広げた弁当に箸を伸ばす。

「まぁ、聞きたくなったら聞いてくれ。取り合えず、弁当食おうぜ、って、シカはもう食ってるし!」

 言いながらナルトに取り皿と箸を渡してから、俺の方を見て驚いてる。いや、だってなぁ、腹減ってんだよ。

「……、何時もと味が違う……」

 黙々と食っていた俺は、食べた瞬間何時も食っているモノと微妙に味が違う事に気が付いて首を傾げる。
 いや、不味い訳じゃねぇんだけど、どちらかと言えば好みな味だ、薄味だけどしっかりと味は付いてるし……でも、今まで出されてきたモノとは明らかに味が違うのだ。

「ああ?だって、今日の弁当俺が作ったんだもん」

 俺の疑問に、があっさりと言葉を返してきた。

「ああ?」
「前に言ったじゃん。料理は俺のストレス解消なんだよ!あんまりにもストレス溜まってたから、思いっきり作りまくった。んで、今日のアカデミーは自主休校。そんでもって、ナルトとシカマルは夜も家で飯食うの決定な」

 『作り過ぎて、まだ家に大量にあるんだよなぁ〜』なんて笑うに、思わず苦笑を零してしまう。
 だが、今日の休みが任務の為じゃねぇ事が分かって、少しだけホッとする。そう言っていると言う事は、仕事は終ったと言う事だろうから……。

「任務で、休みだったんじゃないのか?」

 そんな事を考えていた俺の耳に、ナルトの不思議そうな声が聞こえてきて顔を上げる。

「おう!任務は昨日でバッチリ終った。ここ4・5日それに係りきりだったから、ストレス溜まっちまったんだよ」

 苦笑と言うよりも、晴れ晴れとした表情で言われた事は、本当に嬉しいからだろう。それだけ、あの任務がこいつにとって苦手と言う事。

「んで、明日あたり、二人に任務が行くから頑張れ」
「ちょっと待て!なんで、俺等なんだ!!」

 嬉しそうに自分の作った弁当を食べながら、サラリと言われた言葉に、俺が思わず抗議の声を上げてしまった。
 こいつが調べていたって事は、間違いなく面倒な任務に決まっている。

「何でって、俺が調べた結果、お前等以外にこの任務受けられそうな奴がいねぇから」

 俺の抗議の声に、あっさりと言葉が返されて、思わずがっくりと肩を落とす。

「なぁ、シカマルは、何でそんなに嫌そうなんだ?」

 脱力した俺に、ナルトが不思議そうに問い掛けてくる。ナルトは、こいつが厄介な任務しかしない事を知らないから、仕方ないだろう。

「……お前は、こいつが厄介な任務しかしねぇ事知らないからなぁ……」
「厄介な任務?」
「ああ、こいつには、普通の奴が出来ないような任務や下調べが出来ない奴が回されんだよ。めんどくせぇが、今回の任務も誰も下調べ出来ねぇような任務の情報収集だったんだろう。そんな任務が入ってたつーのは、知ってたかんなぁ……」

 盛大なため息を付いて、ナルトに説明。
 俺の言葉に、ナルトの瞳が驚いたように見開かれる。

「シカ、正解。今回の任務は情報収集。俺が一番嫌いな任務な。情報収集するより、そのままその任務俺に任せてくれって思うよな!」
「……思わねぇよ……」

 情報収集で必要なのは、任務に対しての正確な情報だ。
 まず、その任務に対し、どう言う状態にあるのかが調べられる。そして、その任務が本当に間違いがないか、問題がないかをチェック。
 それらに不備がない事が確認されてから、本任務としてこの里の忍へと仕事が回されるのだ。
 だから、下調べの情報収集は調べるだけであり、後の事には全く手が出せない。勿論、情報を収集するのだから、危険は大きく確実な情報を手に入れるのには、それなりの能力も買われる。
 だからこそ、情報収集には、単体での行動は有り得ない。少なくとも一つの任務に2・3人。任務内容によっては、数十人と言う忍が裏で動いているのだ。

 なのに、そんなめんどくせぇ事を、こいつはたった一人で行っている、ストレスも溜まるつーんだよなぁ……。

「そんでな、今回の任務の案内人は、俺だから」

 そんなことを考えて、盛大なため息を付いた処で、サラリと言われた内容に、一瞬耳を疑ってしまった。

「そうなのか?」
「はぁ??」

 思わずナルトの声とハモって、間抜け過ぎるほどの声が辺りに響く。

「だから、今回の任務同行は俺。宜しくな」

 聞き返した俺に、ニッコリと笑顔で言われた言葉に、何も返す事が出来ない。
 ……こいつ、絶対に三代目脅したな……んな、めんどくせぇ任務、人に回すんじゃねぇっての……。
 一番不幸なのって、もしかして俺か?
 面倒な事に巻き込むんじゃねぇ!!

 俺の心の声も虚しく、ニコニコと笑うを前にもう一度盛大なため息をついちまったのは、仕方ねぇ事だと自分に言い聞かす。

 今は、目の前に広げられている弁当だけが、心の救いだろうか……。