綺麗な、金色の瞳と、この夜の空を詰め込んだような深い紺色の瞳。
 その瞳が、何の迷いもなく細められて、綺麗な笑みを見せた。その顔に驚いて、そして、それがあまりにも綺麗で、初めて人に見惚れると言う経験。
 それは、自分にとって全てが、驚かされる事だ。

「……あいつ、何の迷いもなく、俺に笑った……」
「ああ?何の迷いが必要なんだよ、あいつは、お前の事大切にしてんだぜ、里の奴等なんかと一緒にするんじゃねぇよ」

 走り去っていく後姿を見詰めながら、俺は驚いた気持ちをそのままに独り言を口にする。
 それに、シカマルが呆れたように返事を返してきた。
 確かに、あいつは里の奴等とは違う。しかも、九尾の守護をしていた一族の生き残り。だから、俺の事を恐れたりしないだろう。それでも、あんなに自然に笑い掛けるなんて、思いもしなかったのだ。
 しかも、あんに綺麗な微笑みで……。

『器のガキと奈良のガキ、言われた通り、居間に行け。今茶でも入れてやる』

 俺とシカマルの話を少し離れた場所で聞いていた白猫が、声を掛けてくる。
 黒猫の時にも思ったけど、宙に浮いた猫が話し掛けてくるのは、何とも不思議な光景だ。

「そうだな…でも、その前に、紹介が必要なんじゃねぇか、めんどくせぇが、一応は初対面だろう?」

 そんな猫に、シカマルが小さく頷いてから、促すように俺と猫とを見る。
 確かに、俺は初対面なのは、否定しない。でも、一応って事は、こっちもあいつと同じように俺の事を知っていると言う事だろう。

『………確かに、そうだな…オレは、『』一族の遣い魔の一人『昼』と言う。呼び名は、好きにしろ』

 シカマルに言われて、白猫『昼』が、俺へと顔を向けて名を言う。真っ白な毛並みに、真っ赤な瞳は耳が長ければウサギでも通るかも……。

「こっちは、白猫で真っ赤な目なんだ……家に居たのは、黒で紫の目だったけど……」
「あっ!ウサギとか言うのここでは禁句だぞ」

 思わず呟いた言葉に、シカマルが俺の思った事をそのまま口に出す。ああ、やっぱり誰でも、思うんだなぁ、『ウサギ』って……。

『奈良のガキ、いい度胸だな……なんなら、修行にでも行って来るか?』
「めんどくせーから、遠慮する……それに、お前には言ってねぇだろう!ナルトに教えてやったんだつーの!」

 シカマルが教えてくれたので、言わないように気を付けようと思った瞬間、ニッコリと笑顔を浮かべた白猫が、面白そうにシカマルに声を掛けている。
 それに、シカマルが慌てて否定の言葉を口にした。
 修行って?もしかして……。

「シカマルの修行したのって、お前等なのか?」
『なんだ、奈良のガキ、話していなかったのか?』
「あーっ、面倒だから話してねぇよ……」

 確かに、話は聞いてない。

 シカマルから、あいつとは幼馴染だと言う事しか、聞かされてないからな。だからって、シカマルが、今俺の相棒として居るのが、こいつ等の修行のお陰って言うのは……。
 一体、どんな修行をしたのか、興味を引かれる。

 俺が、今こうして強いのは、生まれた時からずっと命を狙われ続けていたから…。生きる為には、強くならなければ、生きてはいけなかった。
 そう、その為なら、人を殺す事も、躊躇いはない。
 殺られる前に、殺る。それが、俺の生きてきた道。

 なら、あいつは?

『……器のガキ、考え事は後にしろ。中へ入るぞ』

 自分の考えに浸っていた俺に、呆れたような声が掛けられて、顔を上げる。
 シカマルは、とっくに家の中へその姿を消していた。

が、言ったように、聞きたい事があるのなら、あいつに直接聞けばいい。もっとも、答えられる質問にだけにしか答えなど貰えないだろうがな』
「……あんたは、あいつとずっと一緒に居るんだろう?なら、あんたでもいい教えてくれ、あいつは、何で強くあろうとするんだ?」

 俺が強くなった理由。
 シカマルが強くなった理由は、誰かの願いを叶える為だと、一緒に組むようになった時に聞いた事がある。なら、あいつが強くある理由は?

『……あいつが、強い理由か?何を言っているかは知らないが、あいつは強くなどない』
「はぁ?」

 俺の質問は、鼻で笑うように返された言葉に、否定された。
 強くない?俺に気配を悟らせない。しかも、全く俺に逆らわせる事なく、すんなりと触れられた相手が、強くない??

 言われた言葉が理解できない。

『何を思って、あいつが強いと言うのか、知らんが、あいつの力は、お前の半分にも満たないだろう』
「って、半分でも、十分強いだろう!!」

 キッパリと言われた言葉に、思わず突っ込みを入れてしまう。

 俺の強さを10とすれば、シカマルでも2か3までのレベルしかない。あいつが俺と並べるのは、あの頭脳があるからだ。もし、シカマルにあの頭がなければ、俺と並ぶ事は出来ないだろう。それでも、里の忍としては、上忍クラスの力。
 そして、こいつが言う事を信じれば、あいつの力は、俺の半分?なのに、俺は、あいつの気配を読めず、そして何の抵抗も出来ないで、容易く腕を取られたのか?

『あいつの気配が読めないのは、アレが特別だからだ。『』の仕事上、一切のチャクラと気配を消す事が出来る。お前が読めなくても、仕方ないだろう。そして、腕は取られたというのは、あいつの特別な力の所為。まぁ、無意識に遣ったんだろうがな……』
「特別な、力?」
『その内、嫌でも知るだろう。何時までも、こんな場所に居ては、『夜』が、本気で怒るぞ。中へ入れ』

 言われた言葉に問い掛けたが、それには、答えが返される事なく、中へ入るように促された。

 これ以上の言葉は、貰えないと判断して、俺もシカマルと猫の後を追って家の中へと入る。