たく、本当にどいつもこいつも面倒な奴ばっかりだ。
あいつはあいつで、朝からバレるような行動ばかりをとりやがる。
見付けて欲しいのなら、メンドーな事してねぇで、さっさとバラしちまえばいいのだ。
俺には、それが一番自然で当たり前な事だと思えるのに……。あいつ等は、この里の中でもっとも近い存在だ。
この里で、唯一の真実を知る者と、この里にとっての、真の英雄。
それは、この里にとっては、同じ事を意味している。歪められたこの里にとって、どちらも認める事の出来ない排除するべき者達。
「ナルトが、一族の事を知るのも、時間の問題だな。それでいいのかよ?」
「……俺は、誰かに真実を知って欲しいのかもしれない……その相手に選んだのが、ナルトだとすれば、三代目には泣かれちまうよなぁ……」
考えて、そっと影へと声を掛ける。自分の問い掛けに、返されたそれは、さっき程の声とは違って、少年特有の少し高めの声。聞く者に警戒心を持たせないその声が、少しだけ複雑そうな声音で俺の疑問に答えた。
俺達と別れてから直ぐに、ナルトが影分身を作った事は確認などしなくても分かっている事だ。そのまま本体は、午後の授業をサボるつもりだろう。
きっと、俺が言ったように『』の事を単独で調べに行ったのだ、負けず嫌いだからな、あいつも。
「おめぇは、一人だけで、真実を抱え過ぎなんだよ。めんどくせぇかもしんねぇけど、偶には誰かに吐き出せ。この里の真実は、重すぎんだろうが!」
ナルトの事もそうだが、この里は歪みすぎている。
真実が、何処にあるのか分からない程に……。
その里の真実を背負っているのだ、どれだけの負担が、こいつの中にあるのかなんて、面倒臭がりの俺には想像もつかない事だ。いや、その前に、面倒過ぎて、考えたくもねぇぞ。
「そう言ってくれる奴が居るだけで、俺は救われてるんだよ、シカマル」
すっと、まるで影の中からその姿を作り出したかのように現れたあいつが、笑う。
それは、見る者を魅了する、笑み。
真実を映す左目と、そして全てのモノを魅了する右目を持つ者。
「いいのかよ、コンタクト外したままで」
朝までは、確かにその瞳は左目と同じ色をしていた筈。封印するかのように入れられているコンタクトは、今は外されていた。
それに疑問を感じて問い掛ければ、小さく笑われる。人を魅了する、その笑みで。
「今から仕事。だから、俺も午後から、授業はサボリなんだよ」
笑って、そして俺の質問に答えが返ってくる。
紺色の瞳と、対照的な金の瞳が、真っ直ぐに自分を見詰めてくるのは、正直言えば居心地が悪い。何もかもを見通すようなその瞳は、綺麗だが気の弱い者が見れば、恐怖を抱くだろう。
そんな事を考えながら、返された言葉に、思わず眉を顰めた。
「お前が出るって事は、厄介な依頼か?」
「……まぁ、厄介と言えば厄介だな。本職の仕事だし……」
こいつ、『』に回される仕事は、本当に厄介で誰の手にも負えないようなモノばかりだ。
その理由は、『』に回される依頼は全て、前情報が手に入らないものが殆だからだろう。
普通は、戦略部で事前にその任務の情報収集が行われる。そして、調べられたデータと照らし合わせて、その能力に見合った力を持つ忍へと依頼が渡されるのだ。
だが、戦略部でも情報がまったく集められないような厄介な任務も時々ある。
例えば、早急過ぎて、調べる時間さえないようなモノや曖昧な任務内容など、そんな時は、『』へと仕事が回されるのだ。
こいつには、事前の戦略など必要無い、だから、『』には厄介な仕事しか回らない。
「本職?あ〜っ、メンドクセーな、また、何かあったのかよ?」
だが、自分の質問に返された言葉に、小さくため息をついて聞き返す。
こいつの本職は、『払い屋』。
一族は、『払い屋』を生業としてきた一族。木の葉の里でも、上層部に居る者なら、その名前を知らないものは居ないだろうと言われていたのだから、小さいながもその腕は確かな一族だったのだろう。
「……東の村で、泣いている馬鹿が居て、迷惑しているらしいからな」
「東の村?」
「ああ」
俺の質問で、返された言葉に思わず聞き返せば、小さく頷いて返される。
東の村なぁ……。確か、ここ数日大雨が続いている村があると聞いた。確か、その村を守護しているのは……って、泣いている馬鹿?ちょっと、待て!その村を守護してるのは、間違いなく……。
「まさか?!」
「流石、シカマルだな。そのまさかだ。『昼』が、呆れながら報告に来たんで、ちょっと慰めて来る」
驚いて声を上げた俺に、笑いながら説明をする。そんな相手を前に、俺は盛大なため息をついても仕方ないだろう。
あっさりと言っているが、その村の事を考えれば、大雨を起こしている相手など簡単に想像がつくと言うものだ。
「……んな、めんどくせぇ事してんのかよ、お前……」
「それが、本職だからな」
信じられないと言うように呟けば、直ぐに返される言葉。
複雑な表情で浮かべられたその笑みに、一瞬考えてしまう。それが、仕事……。その為に、一族は、こいつを残して滅ぼされたと言うのに……。それでも、こいつは、人の為に、そして泣いているヤツの為に、動くのだろう。それが、どんなに危険な相手でも……。
今、大雨が続いている東の村、その守護神として祭られているのは、青龍だ。
青龍とは、四方を護る神の一人。その力は、その辺の妖かしなど足元にも及ばないほど、強大なもの。
そして、泣いているのは、人間が身勝手に崇めているからだろう……。都合のいい時だけ、祭られる神の存在は、相手にとっては、それが、どれだけの負担になっているのだろうか……。
そんな相手だからこそ、複雑な気持ちを隠せない。神と言われるモノ達を相手にしているのに、それでもこいつは平然としていられるのだろうか?
「……大丈夫なのか?」
だから、心配になってそっと問い掛ける。
こいつにとって、それが当然の仕事だろうとも、心配せずにはいられない。俺が、こいつの事を、大切だと思っているのは、紛れも無い事実だから……。
「ああ、問題無い。村までは、『昼』が渡りをつけてくれる。夜には、戻れると思うから……」
だが、俺の質問には、全く見当違いな言葉が返ってくる。
たく、誰が、んな面倒な事聞くかよ!こいつは、分かっていて誤魔化してんな。
「……もういい、気ぃ〜付けて、行けよ。お前の家で待ってんからな!」
「ああ、『夜』が留守番しているから、相手してやってくれ。んで、ナルトの事、報告してくれるんだろう、楽しみにしているから!んじゃ」
盛大なため息をついて、不機嫌そうにそう言えば、笑い声が聞こえて、自分の言いたい事だけを言い残して、綺麗に気配が掻き消される。多分、ナルトでも、分からない程、見事に……。
「人のこと無視して、消えんじゃねぇよ。めんどくせぇヤツだな……」
感じられなくなった気配に、もう一度盛大なため息をついて、遣い慣れた印を組む。
あいつ等が、サボっているのに、自分一人だけ真面目に授業を受ける気も起きないので、そっちは影分身に任せて、自分はナルトの後を追う。
勿論、あいつに言われたからじゃない、俺が、気になったんだよ!ナルトが、あいつの事を、ちゃんと気付けるかどうか……。
俺は、気付いて欲しいから、あいつがどれだけナルトの事を大切に想っているのかを……。もっとも、その所為で、俺は面倒な事を押し付けられちまったんだけどな……。
それさえも、ナルトは知らねぇ事だ。
だから、知って欲しい。俺や、三代目だけじゃなく、本当にお前の事を想っている奴の事を……。
「多分、あそこだろうな……」
自分の影分身が、校舎へと入って行くのを見送って、空を仰ぐ。
「……様子知りてぇのなら、さっさとバラしちまえばいいんだよ、あいつは絶対にお前を受け入れる……だから、、今からは俺はナルトに付くぜ」
この場に居ない人物へと、そう断言して、その場から姿を消す。
それでもきっと、あいつには聞こえているだろうから……。だから、俺がナルトに付く事を伝える。
それが、自然な事だと、俺は思うから、だから、ナルトに付く。
ナルトに助言する為に、僅かな気配を辿って、俺はその場所へと急いだ。