もしも、全てを忘れたとしても、お前の事を好きだと言う気持ちは、忘れない。

      断言できるよ、だって、本当にお前の事を忘れても好きだったから……。
      朝日が昇るように、当たり前だって思えるくらい、俺はお前が好き。

      お前が傍に居るだけで幸せでだと思える。
      それくらい、好きで好きで堪らない。

      誰にも渡したく無いと思うのは、俺の独占欲。
      誰にでも笑い掛けるから、お前を閉じ込めたいと思うほど、俺の心は醜くなってしまう。
      だけど、そんな俺の心さえも、お前は受け止めてくれる。

      俺は、ヤマトが、ヤマトだけが好きだから……。
      俺は、そんな太一を、太一だけを『愛してる』と言えるのだ。

                                            見えない想い 13


 朝の日差しを感じて、ゆっくりと重いまぶたを開く。
 カーテン越しのその光は優しくって、このまま眠って居たいと思わせてくれる。

「んっ……」

 だが、そんな風に思ってしまう思考を何とか追い払う様に、大きく伸びをして、ゆっくりと体を起こした。

「あれ?」

 そして、可笑しいと感じたのは、占領してしまったベッドの主が居ないという事。
 昨日は、確か一緒に寝てしまったはずだから、ここに居ないのが不思議だと言う様に、太一は首を傾げてしまう。

 ここで、起きてしまったのだと考え付かなかったのは、まだしっかりと意識が起きていなかったのかもしれない。
 ベッドの上でボンヤリとしたまま、太一は何とか頭を働かせようと考えてみる。

「…太一、起きたのか?」

 そして、考え事をしていた自分に声が掛けられた所為で、意識は中断させられてしまった。
 ドアを開いて入ってきたのは、既に服まで着替えたエプロン姿のヤマトの姿。

「……おはよう…ヤマト……」

 少しだけ照れ臭いと感じてしまうのは、自分が寝過ごしてしまったから……。

「おはよう、太一……一様ご飯出来てるけど、どうする?起きられそうか?」

 すっと自分の頬に手を添えられて、心配そうに問い掛けて来るその言葉に、太一は意味が分からないと言う様に、その顔を見詰めて首を傾げた。

「……昨日、お前が、気を失しなったから、俺は心配したんだからな……」

 言われた事に、漸く意味を理解して、太一の顔が一瞬で真っ赤になる。
 確か、そうなった原因は、ヤマトの父親が自分に『気を付けろ』と言われた言葉が、全ての始まり。

 ヤマトが何に気を付けるのかを、教えてやるから…と言ったから……xx

 『売り言葉に買い言葉』まさに、そんな状態であんな事になるとは思って無くって……嬉しいと思う気持ちは嘘ではないが、恥ずかしいと思う気持ちの方が大きい。
 『……お、思い出したら、ヤマトの顔がまともに見れない……』

「太一?」

 慌てた様に自分から顔を逸らした太一に、ヤマトが不思議そうに首を傾げた。

「気分悪いんなら、そのまま寝てた方が……」
「だぁ〜!なんでそうなるんだ!!恥ずかしいだけに決まってるだろう!!」

 自分の態度に何を思ったのか、全く見当違いな事を言うヤマトに、太一が呆れた様に自分の本当の気持ちを教えてしまう。
 大きな声で言ったその事に、太一が慌てて口を塞いでも、遅いと言うモノ。
 そんな太一の態度に、ヤマトが声を出して笑う。

「……分かってて言ったに決まってるだろう。お前って、本当に単純だよなぁ」

 楽しそうに笑っているヤマトを睨み付けて、太一は布団に潜り込んだ。

「…どーせ、俺は単純だよ……」

 布団に潜り込んで、ブツブツと呟いている太一に、ヤマトは思わず苦笑を零す。
 自分が悪いとは言え、どうやら本気で、拗ねてしまっている太一を可愛いと思ってしまうのは、止められない。

「……悪かった……だから、取り合えず飯にしよう……折角作ったモノが冷める……」

 苦笑を零しながら、慰める様にベッドに近付くとポンポンと布団の上から軽く叩く。

「……ヤマト…」
「んっ?」

 優しく背中を叩いてくれるヤマトに、太一は困った様に息を吐き出した。
 そして、苦笑を零す。

「……俺、立てないみたいなんだけど……」
「大丈夫なのか?」
「…大丈夫だと思うんだけど……腰が痛い……」

 心配そうに尋ねてくるヤマトを前に、太一が苦笑を零しながら訴える。
 言われた内容に、ヤマトはただ困ったような表情を見せた。

「えっと……少し休めば、大丈夫だと思う……ごめん、ヤマト……」

 自分を困った様に見詰めて来るヤマトに、太一は申し訳なさそうな表情で謝る。
 そんな太一に、ヤマトはため息をついた。

「……太一が悪いんじゃないだろう……俺が、無理させたんだからな……取り合えず、今日はゆっくり寝てていいから、飯も、こっちに持ってくる」
「…悪い……」
「だから、謝るなって!俺が、全部悪いんだからな……ごめんな、太一……」

 グッと抱き締められて、耳元で囁かれた謝罪の言葉に、太一の体が小さく震える。

「……俺が、望んだんだから、ヤマトだって悪くないだろう!」
「……それじゃ、もう謝るなよ……太一にそんな顔させたくない……」
「……ヤマト…」

 言われた言葉に、ゆっくりとヤマトを見詰めた。
 そして、二人は互いの顔を見合わせて小さく笑う。

「…好きだからな、ヤマト……」
「…ああ、愛してる……」

 優しく微笑んで、ゆっくりとキスをしようと太一に顔を近付けた瞬間、突然の呼び出し音。
 朝も早くからと言うべきなのか、こんな時間に玄関のベルが鳴った事に、太一は我を取り戻して、慌ててヤマトから離れた。
 そんな太一に、ヤマトは残念そうな表情をして、ため息をつく。
 そんな間にも、呼び出し音は止まらなくって……。

「今、出るから、そんなに鳴らすな!」

 良い所を邪魔されただけに、ヤマトの機嫌ははっきり言って悪い。
 そんな不機嫌を隠さずに、ヤマトは玄関の扉を開く。

「おはよう、お兄ちゃん!」
「……タケル…」

 玄関を開けた先に立っていた人物に、盛大なため息をついて見せる。
 よくよく考えれば、今日は日曜日で、学校は休み。

「おはようございます、ヤマトさん……あの、お兄ちゃんは?」

 そして、タケルの後ろから姿を見せたのは、太一の妹のヒカリで……。

「……太一なら、まだ寝てる……今日は、調子が悪いって言うから、そのまま寝かしておこうかと思って……」
「お兄ちゃん、調子悪いんですか?」

 ヤマトがため息をつきながら言った言葉に、ヒカリが心配そうに声を上げた。
 調子が悪いと言うのは嘘ではないが、それが自分の所為だとは、流石に言えない。

「……大した事はないらしいんだけどね……取り合えず、上がるか?」

 すっと中を指差して促すが、タケルが首を振って答える。

「ううん、様子を見に来ただけだから……今日は、みんなでデジタルワールドの方に行く約束してて……」
「そっか……ガブモンとアグモンに宜しく伝えてくれ……気を付けて行けよ……」

 言われた事に、小さく息を吐き出すと、ヤマトはポンッとタケルの頭に手を置いた。
 そして、その隣に居るヒカリへと視線を移す。
 こちらの方は、どうやら太一が気になってそれどころではないらしい。

「ヒカリちゃん?」
「はい!」

 突然前を呼ばれた事に、ヒカリが驚いて返事をするのに、苦笑を零してから、安心させる様に優しく微笑む。

「・・…太一なら大丈夫だから・・…」
「…はい・……でも、お兄ちゃん、本当に辛くっても、無理しちゃうから……」

 心配そうに言われたその言葉に、ヤマトはもう一度苦笑を零す。
 確かに、それは本当の事だから……。

 この兄妹は、そう言うところが似ていると、誰もが感じた事である。
 ヤマトとタケルは顔を見合わせて、苦笑を零す。

「……ヒカリちゃん、太一さんは、大丈夫だよ……だって、調子が悪いって言う原因は、きっとお兄ちゃんの所為だから…」
「タケル!!」

 そして、苦笑を零しながらタケルが言ったその言葉に、慌ててヤマトがその口を塞いだ。

「タケルくん?」

 だが、言われた事の意味が分からなかったヒカリが不思議そうに首を傾げて、そんなタケルを見詰める。

「お前……」
「…気が付かないと思ったの、お兄ちゃんの首に太一さんに引掻かれた後が残ってるよ……」

 そっとヤマトの耳元で呟かれたその言葉に、ヤマトが慌てたように首に手を当てた。
 そんな実の兄の姿に、タケルは笑いを零す。

「そこじゃなっくて、後……ヒカリちゃんには、気が付かれてないみたいで良かったね」

 楽しそうに笑いながら言われたその言葉に、ヤマトが盛大なため息をついた。
 まさか、ばれてしまうとは思っても居なかっただけに、そのため息は重い。

「……もしかして……」

 そして、そんな自分達の態度に、何かを感じ取ったヒカリがヤマトを睨み付けた。

「ヤマトさん!」
「はい……」

 勘が鋭い子と言うのは、本当に厄介な存在である。
 その後、タケルが時間が無いからと言わなければ、ヤマトはヒカリからお小言を散々言われていたに違いない。
 太一が、怪我人であると言う事は、本当の事だから……。

 タケルトヒカリを見送ってから、ヤマトは疲れた様に盛大なため息をついた。

「……お前、ヒカリに弱いよなぁ……」

 疲れて、その場に座り込みそうになった瞬間、ポツリと聞こえてきたその言葉に、はっとして顔を上げる。

「太一!お前、大丈夫なのか?」
「んっ、何とかな……ちょっと、足元頼りないけど、立てないほどじゃねぇよ……わっ!」
「太一!!」

 言った瞬間、自分の方に歩いてきていた太一の体が傾くのを、慌ててヤマトが抱き止めた。
 そして、その瞬間、二人は同時に安堵のため息をつく。

「…サンキュ、ヤマト……」
「……お前、まだ寝てろ!」
「いやだ!」

 ため息をつきながら言われたその言葉に、太一が大きく首を振る。
 そんな太一の態度に、ヤマトはもう一度ため息をつくと、そのまま太一の体を抱き上げる。

「・・…大人しくしてろ!」
「いやだって言ってるだろう!バカヤマト、下ろせよ!!」

 突然抱き上げられた事に、太一が抵抗を見せるが、ヤマトはそんな事を全く気にした様子も見せずに、そのまま太一を連れて、自分の部屋へと移動した。
 そして、ベッドに太一を下ろすとそのままその体に布団をかける。

「…せめて昼までは、休んでろ……いいな!」

 命令口調でキッパリと言われたその言葉に、太一が不機嫌そうな視線を向けるって来るが、合えてそれを無視して、ヤマトはため息をつくと、まずは朝食を食べる為に、部屋を出て行った。
 そんなヤマトの後姿を見送って、太一は盛大なため息をついてしまう。

「……ずるいよなぁ……人の事、軽々抱き上げやがって……」

 拗ねた様に呟いたその言葉に、もう一度だけため息をつく。
 開いてしまった身長差と言う物を、今更ながらに感じてしまって、太一は悔しそうな表情を見せた。





「大丈夫だから、一緒に買い物に行く!」

 夕飯の買い物に出掛けると言うヤマトに、太一がそう言い出した事に、困ったような表情で見詰めてしまうのは、止められない。

「…けどなぁ……」
「大丈夫だって、言ってる・……俺、一人で残されのが、イヤだって言ってるんだよ!」

 真っ直ぐに見詰めて来る太一の視線に、ヤマトは盛大なため息をつく。
 訴えるようなその瞳は、反則だと思うのだ。

「……分かった…一緒に、行こう……」

 そして、言われた内容は、もっと自分には反則技なので、承諾するしか道が残されていない事に、ヤマトは頭を抱えながら、返事を返す。
 そんなヤマトの心情など知る訳も無い太一は、了解が出た事に、満面の笑顔を見せた。
 その笑顔にも、クラクラするのは、止められない。

「そんじゃ、行こうぜvv 夕飯、何にするのか、考えてるのか?」

 自分の事を急かす様に、笑顔を見せる太一に、ヤマトも自然と笑顔を返す。そして、二人並んでお買い物。

「……太一は、何か食べたい物あるのか?」
「何でもいいぜvv 二人で作ると楽しいし……」
「んじゃ、カレーでも作るか?」
「何で、カレーなんだ?……う〜ん、でも良いかもしれない…決まり!今晩は、カレーな!!」

 楽しそうに頷く太一を前に、嬉しそうに笑顔を見せる。
 どこからどう見ても、ラブラブ状態な二人であろう。
 しかも、会話的には、新婚さん状態な事に、二人は全く気が付いていない。

 そして、二人が仲良く行った先は、近くのスーパーである。
 車道を渡ってすぐ傍にあるそのスーパーが、ヤマトが良く出掛けている店で、小さいながらも品が揃っている所が、ヤマトの気に入っている理由の一つ。
 店でカレーに必要なモノを購入して、行きと同じように話をしながら元来た道を戻ろうとした時、急に太一が走り出す。

「太一?」

 突然の事に、ヤマトが驚いて名前を呼んだ瞬間、太一がそのまま車道に飛び出した。

「太一!?」

 太一が何の為に車道に飛び出したのかを理解した瞬間、耳障りなブレーキの音が辺りに響き渡る。

「太一!!」

 車の通りが少ない為、大事故を起こす事は無かったが、乗用車が一台道を外れて、歩道まで乗り上げていた。
 運転していた人も無事な様で、慌てて車から降りてくる。

 そして、飛び出した太一の姿は……。

「太一!!」

 ヤマトが慌てて太一の姿を確認しようと走り寄る。

「救急車を早く!」

 降りてきた乗用車の運転手が、慌てて回りの人間に指示を出す。
 ぐったりと道路に横たわった姿に、ヤマトは息を呑んだ。
 そして、太一の力の無くなった腕から、小さな猫が姿を表す。

「……太一!」
「君、揺すちゃ駄目だ!頭を打ってると不味いからね……車には接触しなかったのが、幸いだよ……本当に、無茶をする…・・」

 太一の腕から出てきた猫を拾い上げて、運転手が苦笑を零した。
 事故を起こしたのに、冷静な判断をしているその人物から言われた事に、少しだけホッと胸を撫で下ろす。

「…私は、救急隊員をしていてね……」

 そう言いながら、運転手が太一の容態を見る。

「救急車も直ぐに来るから……この子は大丈夫だよ……多分、軽い脳震盪を起こしてるだけだろうからね」

 太一の様子を見てから、安心したように言われたその言葉に、ヤマトは頭を下げた。

「……すみません、有難うございます・……」
「…いや、こうなったのも、私がこの子に気が付かなかったのが、原因だからね……」

 苦笑を零しながら、自分が抱き上げた子猫の頭を優しく撫でるその人物に、ヤマトも苦笑を零す。

 大した事がないと分かっただけに、ほっとする。
 そして、ゆっくりと太一に視線を戻した。

「……あれ?俺……」

 そして、目の前で何が起こったのか理解できない様に、起き上がる太一の姿があって……。

「太一!」
「気が付いた様だね……痛い所は?」
「えっ?あの……大丈夫です……」

 突然ヤマトに名前を呼ばれた瞬間、その後ろから全く知らない人物から質問された事に、太一は訳が分からないまま、一様えを返す。

「そうか…でも、念の為に、病院で見てもらった方が良いね……救急車も来たようだから」

 優しく微笑むその人物に言われた事に、太一は漸く自分のしてしまった事を思い出して、慌てて立ち上がる。

「あっ!俺、本当に大丈夫ですから……」
「念の為だよ!ほら、乗って……君も、一緒の方が良いだろう?」
「はい……」

 救急隊員と話をしてから、言われたその言葉に、ヤマトが頷くのを確認して、そのまま救急車に二人を乗せる。
 そして、自分は乗っていた乗用車に乗り込んだ。

「あの、彼は?」
「ああ、あいつは自分の車で行くようだから、心配ないよ……それより、大丈夫かい?」

 心配そうに自分に尋ねられた事、太一が慌てて頷いて返した。

「はい、大丈夫です……」
「でも、一様は検査を受けないと、あいつも心配だろうからね。事故は、そう言う事が大切なんだよ」
「事故って…俺、車に当たってないから……」
「……擦り傷なんかも、手当てしないといけないね。でも、君が飛び出した事は、危険な事なんだから、これくらいの怪我で済んだのを、感謝しないと駄目だよ」
「はい…すみません……」

 救急隊員に言われた事に、素直に太一が謝るのを、ヤマトは苦笑を零しながら見守っていた。
 そして、一ヶ月の内に3度目の病院に、太一は盛大なため息を止められなかったのは言うまでもないだろう。



  






   すみません、終わりませんでした。
   予定では、最後になるはずだったのに……xx
   そんな訳で、出来れば連続UPしたいですね。14で終わらせて、次の話しを書こう!
   と、言う事で、ラストは14とさせていただきます。連続UP出来るように頑張りますので、
   宜しくお願いしますね。

   ラストだと信じてくださった皆様、本当にすみませんでした。
   そして、今度は交通事故を起こしてる太一さん……三度目の病院送りとなってしまって、ごめんね。
   さて、太一さんの記憶は、いかに!!
   それにしても、運転していた人が、善い人で良かったね、太一くん。(笑)

   では、今度こそラストになる事を願っております……xx