何気ない一言が、俺に勇気をくれる。

    だから、俺は大丈夫。

    あいつが居てくれれば、俺は強くなれるから……。
    約束するよ、俺は俺らしく…何があっても、それを忘れない。

    ヤマトが、俺の傍に居てくれる限り……。


                                            見えない想い 11


 ヤマトのウチに来て、2日目。
 目を覚ませば、目の前に幸せそうに眠っているヤマトが居る。

 昨日、遅くまで起きていたから、まだ夢から覚めていないその顔に、笑いを零す。

「…おはよう、ヤマト……」

 クスッと笑って、寝ているヤマトに挨拶すると、起こさない様にそっと部屋を後にする。

「……さて、朝ご飯でも作ろうかなぁ……」

 昨日作った料理を、誉めて貰ったからちょっとだけ自信がついた。
 多分、前の自分も料理をしていたのだと分かるのは、どう作れば良いのかを体が覚えているから……。

 顔を洗って、それからキッチンへ移動する。
 材料なんかは、昨日の夜に見てあるので、何があるのかちゃんと覚えているのだ。

「…ワカメと豆腐の味噌汁と、ダシ巻き卵。ほうれん草のお浸しがあれば十分かなぁ?」

 献立を考えて、頷くと早速料理に取りかかった。
 まずは、ほうれん草を茹でる。
 それから、卵に居れるためのダシを取って……勿論、味噌汁やお浸しにも使えるから、多めに作るのがポイント。
 ダシを取れば、後は簡単に調理が出来るのだ。
 一通りのモノを作ってから、太一は玄関に行くと配達されている新聞を持ってきてテーブルに置いた。

「こんなモンだろうなぁ……さてと、ヤマトの奴起こさないと……って、ヤマト!」

 呟いて振り返った瞬間、驚いてその名前を呼ぶ。
 パジャマ姿のヤマトが自分を見詰めている事に、太一は正直焦った。

「……何時から、そこに居たんだ?」

 顔を少しだけ赤くして、恨めしそうに自分の事を見詰めて来る太一に、ヤマトは思わず笑いを零す。

 不機嫌なのは、自分に気が付かなかったからだ。
 そんな所が可愛いと言ったら、きっと怒らせてしまうだろう。

「太一が、ダシ巻き作った辺りからかな……」
「……声、掛けろよ…」
「太一が嬉しそうに料理しているから、邪魔したくなかったんだよ。それに、太一の歌聞いたのも初めてだし、な」

 言われた事に、太一の顔がますます赤くなる。
 バンドのボーカルをしている人物に、歌を聴かれるのは恥ずかしい。
 しかも、歌っていたのは、ヤマト達のオリジナルだと言う曲。
 自分が気に入って、歌詞を見せてもらったのは、何時の話だったのか思い出せないが、確かに自分の中にその記憶は存在している。

「……お前にだけは、聴かれたくなんかなかったよ!」
「どうして?」

 不機嫌そうに横を向いてしまう太一に、ヤマトは苦笑を零しながら問い掛けた。
 本当は、理由なんて分かっているのだが、ちょっとした意地悪。

「……は、恥ずかしいからに決まってるだろう!!」

 そして帰ってきたその答えに、ヤマトは笑顔を見せた。
 予想通りの答え。

「ほら!早く飯にしようぜ、折角の味噌汁が冷めちまう」

 そっぽを向いたまま言われたその言葉に、ヤマトは笑いを零した。
 そして、ヤマトもこれ以上太一の機嫌を損ねない様に、素直にその言葉に従う。




 時計を確認してから、ヤマトが盛大なため息をつく。
 既に3時を回ったその時計から目を逸らして、目の前で必死に問題を解いている太一に視線を向ける。
 少し早くにお昼を食べてから、ずっと勉強している為、既に3時間以上は休憩なしな状態だ。

「太一、そろそろ休憩にしないか?」
「んっ、もう少しで、この問題が解けるから……ちょっと、待って……」
「……それじゃ、飲み物は?」

 ノートから顔を上げずに言われたそれに、諦めた様にため息をつくとそれだけを尋ねる。
 勉強は好きじゃないくせに、一度始めると最後までやらなければ気が済まないと言うのは記憶が無くても変わらないようだ。

「…カフェオレ……」

 ポツリ返ってきた答えに返事を返し、立ち上がるとキッチンへ移動。

 カップを二つ出して飲み物の準備。
 まずはミルクを温めてそれから、手際良く自分の分のコーヒーと太一用のカフェオレを作った。

「ヤマト?」
「ああ、今出来た」

 出来あがったそれを手に持って運ぼうとした瞬間に声を掛けられて顔を上げれば、部屋から出てきた太一が目の前に立っている。

「ここでいいって……貰うな」

 ヤマトの手からカップを取ると、太一はそのまま椅子に座った。

「…もう、こんな時間だったんだなぁ……なぁ、ヤマト今晩どうする?」

 両手にカップを持って、壁に掛けられた時計に視線を向けてから、太一が小さく首を傾げて自分を見詰めて来るのに、ヤマトは一瞬だけドキッとしてしまう。

「えっ、ああ……」

 太一を見詰めていただけに、その質問には驚いている。
 しかも、会話的には、まるで夫婦の様で……。

「『ああ』じゃなくて!何にするかって、聞いたんだよ……」

 気の無いようなヤマトの返事にため息をついて、太一がカップに口をつける。
 そんな太一の行動を見詰めながら、ヤマトもため息をついた。
 何気ない行動が、まるで自分の事を誘っている様に見えるのは、気の迷いだと分かっていても目が離せなくなってしまうのだ。

「ヤマト?」

 ジッと自分の事を見詰めているヤマトの視線を感じて、太一が不思議そうに首を傾げて顔を上げた。

「あっ、いや…何でも無い……で、太一は、何が食べたい?」
「う〜ん、それなんだよなぁ……一様昨日の料理を肉としたら、やっぱり今日は魚だろう?」

 真剣に考えている太一の姿に、ホッと胸を撫で下ろす。
 自分の醜い感情だけは、太一に知られたくないから……。

「あっ!鯖の味噌煮!!」
「……俺、作ったこと無いぞ……」

 思い付いたメニューを嬉しそうに言う太一に、ヤマトが複雑な表情を見せた。
 勿論作った事が無くっても、作れるとは思うのだが、やはり味の保証は出来ないだろう。

「あっ、大丈夫。俺、多分作った事あるからVv」

 だが、続けて嬉しそうに言われた事に、ヤマトは驚いて太一を見詰める。
 記憶が無いと言うのに、料理のことを覚えている事に疑問が浮かぶ。

「……作った事あるって……」
「だから、多分だって……それに、どうしても分かんなきゃ、本見ればいいだろう?」

 言われたその言葉に頷いて返す。
 確かに、分からなければ本を見れば、作り方は書いているだろう。

「……じゃあ、買い物に行かないとだなぁ……親父も今日は帰ってくるだろうし……」

 呟いたそれに、太一が嬉しそうに頷いた。

「……病院には明日行くとして、それじゃ、太一の家に顔を出しておこうぜ」
「……別に、今日じゃなくっても、いいんじゃねぇの?」

 だが、続けて言われたそれに、不機嫌そうに返されて、ヤマトは不思議そうに太一を見る。
 そして、その表情を前にして、思わずため息をつく。

『……何を言っても、こいつには慰めにはならないんだな……』

「…今日は、まだいいじゃん……俺、ちゃんと家には帰るから……」
「……分かった、無理強いはしない。お前の好きなようにしていいさ……」

 優しい瞳で言われた事に、太一はホッと胸を撫で下ろす。
 そして、ゆっくりとした動作で残っていたカフェオレを口に流し込んでから、カップをテーブルに置くと、少しだけ照れた様な笑顔を見せる。

「……有難う、な…ヤマト……」

 自分の気持ちを理解してくれる事に対してのお礼。
 そんな言葉では、足りないくらい感謝しているから……。

「…どういたしまして……俺だて、お前には感謝してるんだからな…」
「えっ?」

 最後の方が聞こえなくって、聞き返すように瞳を向ければ、優しい笑顔だけが返される。
 その笑顔に、思わず見惚れてしまったのは、自分が本当に目の前の人を好きだからってだけではないだろう。

 それだけ、ヤマトの笑顔は何時だって優しい。
 その笑顔を前に、太一は小さく笑いを零した。

「……俺、やっぱりヤマトの事、好きなんだよなぁ……きっと、誰よりも……」
「…太一?」
「だから……」

 ガタッと椅子から立ち上がって、ヤマトの前に立つ。
 そして、少しだけ自分よりも背の高いヤマトの瞳を見上げた。

「感謝してる…お前の言葉は俺に勇気をくれるから……」

 ニッコリと笑顔を見せて、そっと触れるだけのキス。
 突然の太一の行動に、ヤマトは驚いてそのまま目の前の人物を見詰めてしまう。
 驚いた様に見詰められて、流石に太一も恥ずかしいのか、その頬が微かに赤い。
 しかし、その瞳が真っ直ぐに見詰めて来るのに、ヤマトは苦笑を零した。

「……全く、お前にだけは、勝てないよなぁ……」
「どう言う、意味だよ!」
「……言葉のまんまだ。……俺の方が、俺の方こそ、お前に沢山の勇気を貰ったって言うのにな……」

 苦笑しながら言われたその言葉の意味が分からなくって、太一が首を傾げながら自分を見詰めて来るのに、ヤマトは笑顔を見せた。

 今の太一は、覚えていないかもしれないが、あの特別な夏休み。
 自分が、太一を好きになったあの切っ掛けの冒険の日々の中、自分は何時だって太一から勇気を貰っていた。
 それは、きっと自分だけではないと知っている。

 太一が居たからこそ、自分達はこの世界に帰って来れたのだから……。

「だから、言葉に出来ないくらい、感謝してる……」
「……バ〜カ…」

 照れた様に笑うその頬に、そっとキスをすれば、殴るマネで返されてしまった。
 それに対して、二人で顔を見合わせて笑う。

 お互いが感じている想いは、確かに同じモノだと言う事を感じながら……。



   






っと、段々本当に何が書きたいのか分からなくなってきました。
   どうしましょう……xx <苦笑>
   そして、新婚家庭のような二人が……壊れてますね。(笑)
   さて、そろそろこの話も大詰め!(何処がだ!!と言う突っ込みは、ごもっとも(笑))
   なので、次回の12では、隠しをUPする予定です。
   本編は、短くなる予定ですが、その小説の中に、隠し小説のリンクを貼りますので、
   探してみてください。っても、まだ何も準備してませんけどね。<苦笑>
   詳しくは、12の方で!

   では、もう暫くお付き合いくださいね。(笑)