見慣れている筈のその人物がまともに見れない。
  でも大体、人の目の前に裸で出て来る方が悪いと思う。
  って、風呂に入ってたのなら、当たり前かぁ…xx

  俺だって、多分そうすると思う。
  でもでも、俺、ヤマトに好きだって、伝えてるから、少しくらい人の気持ちを考えてもらいたい。

  人の事、無神経だって言うけど、ヤマトだって、十分無神経だと思う。
  けど、これは、同じ男であるヤマトを見て、こんな事を思う俺が悪いのかなぁ?


                                       見えない想い  09



「さっきから、何かあるのか?」

 一言も話さず、自分を見ようとしない太一を相手に、ヤマトは途方に暮れていた。
 風呂から上がってから、太一の様子が可笑しい。
 それは、見れば分かるのだが、なんでそんな風になったのか理由が分からないのである。

「……別に、何でもない……」

 何度も問い掛けられる質問に、何度も答えた同じ言葉を返して、太一は盛大なため息をついた。

「そんな事より、早く服着ないと、風邪ひくぜ……」

 今だ、上半身裸というヤマトの格好に、もう一度だけため息をつくと太一はそれだけを返す。
 言われて、自分がまだ上着を着ていなかった事を思い出したヤマトは、取り合えず上着を着る為に自室へと入っていった。
 それを見送ってから、太一は疲れた様に再度ため息をつく。

「……目のやり場に困ったなんて、言える訳ないだろう……」

 ポツリと漏らしたその言葉は、勿論ヤマトに聞こえるはずもない。
 そんな事が言えるのなら、問題はないかもしれないが、同じ男であるヤマトに対してそんな感情を持ってしまった自分に、自己嫌悪してしまうのは、止められないのだ。

「太一、何か飲むか?」

 疲れた様にその場に座り込んでいた太一は、上着を着て戻ってきたヤマトに声を掛けられて、慌てて顔を上げる。

「飲み物?」
「…ああ…疲れてるだろうし、何にする?」

 思わず聞き返したその言葉に、ヤマトは戸棚を開けながら再度問い掛けた。

「ココア!」

 それに、一瞬考えてから、太一は返事を返す。
 その言われた内容に、ヤマトは一瞬笑顔を見せて、戸棚からココアを取り出した。

「……その笑いは、なんだよ……」

 自分の言葉が笑われた事に、太一は少しだけ不機嫌そうにヤマトを睨み付ける。
 それを笑顔で交わしてから、ヤマトはココアを入れるために、鍋をコンロに乗せた。
 自分の言った飲み物を作っているヤマトを見詰めながら、太一は近くの椅子に大人しく座る。

「そう言えば、お前も風呂入らなくっていいのか?」
「……先生から、せめて3日は体を拭くだけにしろって言われてる……」

 ココアを作りながら、疑問に思った事を尋ねれば、ため息と共に返事が返ってきた。
 拗ねたように返されたそれに、思わず苦笑を零してしまう。

「まっ、一様怪我人だから、当然だろうなぁ……ほら、出来たぞ」
「あっ、サンキュー…って、ヤマトの分は?」

 火を止めて、鍋からカップに中身を移すとそれをそのまま太一の前に差し出す。
 太一も素直に礼を言ってから、受け取って、不思議そうに首を傾げる。

「俺は、コーヒーでいいから……」

 言いながら、カップにインスタントの粉を入れてそのままお湯を注ぐ。
 それを見ながら、太一は受け取ったココアに口を付けた。

「…ヤマト……ブラックで飲むのか?」
「えっ?」

 コーヒーにお湯だけを入れてそのまま口にしようとするヤマトを前に、太一は一瞬信じられないと言う様に問い掛けてしまう。
 自分の問い掛けに不思議そうに聞き返されて、太一は言い直す様に口を開く。

「砂糖とミルク入れないのか?」
「…ああ、俺は、これで十分だ」

 太一の言いたい事を理解したヤマトが、笑顔を見せながらブラックのコーヒーを口にする。
 苦いコーヒーを平気な顔をして美味しそうに飲んでいるヤマトを前に、太一は少しだけ拗ねた様な表情を見せた。

「……俺、ブラックなんて飲めない……」

 なんだか、自分が子供のような気がして、思わず口から出た言葉に、太一は盛大なため息をついてしまう。
 自分は、コーヒーを飲む時、大抵ミルクも砂糖もたっぷりと入れる。イヤ、入っていないと飲めないと訂正しよう。

「別に、いいんじゃないのか?ブラックばっかりだと、胃に悪いぞ」
「……んじゃ、お前もやめた方がいいんじゃないのかよぉ……」

 当然の様に返されたそれに、ヤマトは思わず苦笑を零してしまった。

「……甘いのは、そんなに好きじゃないんだよ……まぁ、時々はちゃんとミルクぐらいは入れる」

 苦笑を零しながら、またコーヒーに口をつける。
 その言われた事に、太一は感心した様に頷いた。
 確かに、ヤマトが甘いものを好んでいなかった事は知っているが、コーヒーをブラックで飲んでいる事を知ったのは、今日が始めてである。
 好きな人の好みと言う物を、知るのはやっぱり嬉しいものだという事を、顔が笑いそうになるのを堪えながら、太一はココアに口を付ける事でやり過す。

「さて、太一これからどうする?」
「……どうするって……何か、あるのか?」
「まぁ、取り合えず、夕飯の準備するには早いからなぁ…お昼も食べちまったし、やっぱり、ビデオでも借りてきた方が、良かったんじゃないのか?」

 時計に目をやりながら言われたそれに、太一は一瞬言葉に詰まった。
 確かに、お昼は母親と一緒に病院で済ませてきたし、夕食の準備をするのには、幾らなんでも早過ぎる。
 まだ、時計の針は1時半を回った所。

「・…そ、それじゃ、俺アルバムが見たい!!」
「アルバム?」

 慌てた様に言われたその言葉に、ヤマトは不思議そうに首を傾げた。

「そう、アルバム!!ヤマトの小さい時とかさぁ……やっぱり、駄目か?」

 自分の言葉に怪訝そうな表情を見せているヤマトに、太一は心配そうに問い掛ける。
 不安そうな瞳で見詰めて来る太一に、ヤマトは思わず苦笑を零す。

「……ウチには、そんなに写真なんて無いぞ。両親が離婚するまでのは、ちゃんとあるけどな」

 苦笑を零すように言われたそれに、太一が嬉しそうな笑顔を見せて大きく頷いた。
 そして、それからヤマトの部屋へと移動して、ヤマトは押入れに仕舞ってあったアルバムを数冊掘り出してくる。

「……結構あるじゃん…」

 5冊のアルバムを目の前に、太一はその一冊を手に取って、ゆっくりと開く。
 まず写されていたのは、赤ん坊の姿。
 そして、それを愛しい者を見詰める眼差しで微笑んでいる、優しそうな女性。

「……ヤマトのお袋さん?」

 その優しい顔が、どこと無くヤマトに煮ている事から、太一は嬉しそうに微笑んで、問い掛けた。

「ああ、今はタケルと一緒に暮らしてる……最近、この近くに越して来た」

 困った様に苦笑しながら、ヤマトが説明してくれた事に、不思議そうに首を傾げる。

「タケルって?」

 今の自分には、ヤマトの弟と言う相手も分からない。
 その事に、ヤマトは太一の頭を数回優しく叩いてから、説明をする。

「俺の弟……ヒカリちゃんと同じ年で、あいつもお前の事を、尊敬してたよ……」
「って事は、俺やっぱり面識あるって事だよなぁ……」

 思い出せない事に、太一は少しだけ悔しそうな表情でため息をついた。
 そんな太一を前に、ヤマトは苦笑を零す。

「焦る必要なんて、無いだろう?ゆっくり、思い出せる筈だ……」
「んっ、分かってる……あっ!これ、ヤマト?」
「ああ?」

 少しだけ驚いた様に指をさされたその写真を見て、ヤマトはもうもう一度苦笑を零した。
 そこに映し出されているのは、自分の祖母。アメリカ人だという彼女は、優しそうに自分を抱いて微笑んでいる写真。

「祖母だ。アメリカ人だって言うのは聞いてる。覚えてないけど、俺は婆さん似らしい……まぁ、俺達は1/4はあっちの血を引いてるから、お陰で髪の色がこんななんだよなぁ……お袋は、ハーフのくせして、髪黒いのに……」

 文句を言うように呟かれたそれに、太一は思わず笑いを零してしまう。
 ヤマトが、自分の外見を気にしている事を知っているから……。
 自分から見れば、すごく綺麗だと思えるその髪も、本人にしてみれば、やっぱりコンプレックスになっているようだ。

「笑い事じゃないんだぞ!学校で、何度注意されたか……」

 疲れた様にため息をつくヤマトに、太一は声を出して笑い出す。
 それでなくっても、ヤマトは目立つ存在なのだ。
 教師がヤマトを気にするというのも、頷けるだろう。

「ヤマト、目立つもんなぁ……」

 シミジミと言われたその言葉に、ヤマトは思わず苦笑を零す。
 太一本人も、目立っていると言う事を、全く分かっていない。

「これ、ヤマトの弟?」

 ページを捲っているその手が、一枚の写真を見付けて、嬉しそうな笑顔を見せる。
 小さなヤマトが、赤ちゃんを抱いている写真。照れ臭そうに見えるその笑顔は、お兄ちゃんになって嬉しそうだ。

「ああ……多分、退院してきた直後ぐらいじゃないかなぁ……」
「…可愛い……」

 嬉しそうに笑いながら、太一は写真を見詰めている。
 それを傍で見詰めながら、ヤマトは思わず欠伸をしてしまう。

 昨夜は、一睡もしていない状態なだけに、眠い。
 楽しそうにアルバムを見入っている太一を前に、ヤマトは自分の意識が遠去かって行くのを感じた。

「ヤマト、この写真……ヤマト?」

 写真を指差しながら、ヤマトに声を掛けた瞬間、太一は不思議そうに首を傾げる。
 ベッドに凭れているヤマトが、規則正しい呼吸をしている事に気が付いて、思わず笑いを浮かべてしまう。

「……お休み、ヤマト……」

 優しく微笑んで、ベッドから静かに毛布を取るとゆっくりとヤマトに掛ける。
 そして、太一は出来るだけ音を立てない様に静かにアルバムを捲るのだった。



  






   はい、09です。
   どうやら、10で終わるような気配はありません。<苦笑>
   しかも、君達どうしてそんなに私の思っている通りに動いてくれないの?!
   なんだか、新婚夫婦の様で、見ていて恥ずかしくなります…xx
   ラブラブは止めないけど、ちゃんと話しを進ませて!!お願いよぉ〜!!

   し、失礼しました。<苦笑>
   そ、そんな訳で、『見えない想い』どうやら、ギャグになってきているように思うのは、私だけでしょうか?
   おかしいなぁ、シリアスの筈だったんですけどねぇ……xx(複雑)
   次当たりに、空やタケルを出したいです。
   
   では、10も頑張りますので、宜しくお願いしますね。