幸せそうに眠る、その姿を見詰めてため息をつく。
  これから、当分は一緒に居るのに、こんな事で俺は大丈夫なのだろうか?

  この先の事に不安を感じながらも、自分に擦り寄ってくる太一に笑みを零してしまう。

  好きだから、何も出来ない。
  好きだからこそ、本当は太一が欲しいのに……。
  そして、もう直ぐ夜が開ける。
 
  今日から、太一と一緒に暮らす朝が……。


                                        見えない想い 08


「ヤマトくん、太一の事、お願いするわね……」

 太一の着替えだと渡されたバッグを受け取った時に、再度頭を下げられて、ヤマトも慌てて頭を下げる。

「…はい…勿論です」

 素直に返事を返された事に、母親はニッコリと笑顔を見せた。

「……母さん、俺……」

 そんな母親を前に、太一は困ったような表情をしながら口を開こうとした瞬間、優しい笑顔をと共にゆっくりと抱き寄せられる。

「大丈夫よ、記憶が無くっても、太一は太一でしょう?太一が太一なら、私もお父さんも何も心配してないの」
「……母さん…」
「それにね、久し振りに太一から『母さん』なんて呼ばれて、嬉しいわvv中学に入ってからは、『お袋』だったものね」

 ニコニコと本当に嬉しそうに笑顔を見せながら、母親は太一の顔を両手で包み込む。

「…母さんは気にしてないの、あなたが記憶を無くした事。だから、今はあなたの好きにしなさい。でも、一つだけ約束してね。どんな事があっても、あなたはあなたらしく……」
「……うん…約束、する……」

 自分の言葉に頷く太一に、母親は満足そうに微笑んだ。
 そんな目の前で交わされる親子の遣り取りを、ヤマトは何処か複雑な面持ちで見詰めてしまう。
 まるで、嫁を貰うような心境になってしまうのは、気の所為ではない。
 勿論、本当にそうだとしたら、嬉しいと思うのだろうが……。

「一生の別れじゃないんだけど、何だか太一をお嫁に出すみたいな心境だわ……」

 そして、ため息をつきながら言われたその言葉に、ヤマトは思わず苦笑を零してしまった。
 全く同じ事を自分も思ってしまったから……。

「母さん、俺、男なんだけど……」
「あら、モノの例えよ。それに、当たらずとも遠からずってねv」

 ニッコリとウインク付きで言われたその言葉に、太一は意味が分からないと言うように首を傾げた。
 ヤマトの方は、思わず頭を抱えてしまったのは、言うまでも無いだろう。

 自分達の関係と言うモノを、知られていると言う事に、何と返せば良いのか分からない。
 流石母親と言うべきか、それとも『それでいいのか!』と突っ込みを入れた方がイイのか……xx

 意味の分かっていない太一は、平和である。

「そうだ!一様、学校の方には休学届を出しておいたから、問題無いと思うわ。ヤマトくんも、それで良かったかしら?」
「はい、有難うございます。勉強は、俺がちゃんと見ますんで……」
「期待してるわねvv」

 ヤマトの言葉に、満足そうに頷く母親に、ヤマトも笑顔を返す。

「それじゃ、私は用事があるから、先に帰るわ」
「あっ、はい……わざわざすみませんでした」
「母親なんだから、当然よ。太一、面倒だとは思うけど、2日に一回は、顔を見せて頂戴」

 真っ直ぐに自分を見詰めて言われたその言葉に、太一は素直に頷いて返した。
 ヤマトが住んでいるアパートと自分が住んでいるアパートは本当に近いのだという事を聞いているので、大した問題ではない。

「約束する。ごめん、迷惑掛けて……」

 強く頷いてから、申し訳なさそうに謝れば、優しい笑顔だけが返される。
 そして、ポンポンと軽く頭を叩いてから、母親は手を振った。

「それじゃ、寄道しないで帰るのよ。あなた達は、本当だったら今日も学校があるんだから」

 手を振りながら、小さな子供に言い聞かす様に言われたそれに、二人は同時に苦笑を零す。
 だが、言われた内容は確かに、その通りなので何も言えない。
 暫くは、遠去かっていくその後姿を見詰めていたが、どちらからともなく盛大なため息をついて、二人は同時に、顔を見合わせた。

「あのさぁ、ヤマト……」
「太一、これから……」

 そして、同時に声を掛け合った瞬間、そのまま笑い合う。

「んじゃ、帰ろうぜ」
「んっ……あっ!俺の荷物、自分で持つ」

 病院の玄関前で、渡されたその荷物を受け取ろうと手を差し出すが、ヤマトは全く聞く耳を持つ様子もなく、そのまま歩き出す。

「ヤマト!」
「置いて行くぞ!」

 自分を置いて歩いて行くヤマトの名前を呼べば、少しだけ振りかえってからまた直ぐに歩いて行ってしまう。
 そんなヤマトを、太一は慌てて追い駆ける。

「ヤマト、荷物……」

 急いで隣に並んでから、自分の荷物を渡す様に言うが、完全に無視。

「太一、買い物してから帰るな……何か、食べたい物あるか?」

 自分が言った事を完全に無視しての質問に、太一は一瞬だけ不機嫌そうな表情を見せたが、言われた内容が内容なだけに、直ぐにその機嫌は直ってしまう。

「う〜っ、ヤマトが作るのなら、何でもいいけど……それじゃ、オムライス!」
「…お前、本当にオムライス好きだなぁ……」

 嬉しそうに返って来たその言葉に、ヤマトが呆れた様にため息をつく。

「別にイイだろう。好きなモノは好きなんだよ!」
「文句はないけどな……んじゃ、まずは買い物からだ」

 まず始めにする事が、スーパーへの買い物。
 ヤマトは頭の中で、これからの予定と言うものを考えてみた。

「太一、どうする?ビデオでも借りて行くか?」
「えっ?ああ……別にいい……でも、ヤマトが見たいのあるのなら、付き合うけど……」
「そう言う訳じゃねぇよ…んじゃ、買い物だけにするか…」

 自分の言葉に太一が頷くのを確認してから、そのままスーパーに向けて歩き出す。




「ただいま……ほら、入れよ、太一」

 玄関のドアを開けて、太一を中に招き入れる。
 暫く掃除をしてないので、散らかっているのは仕方ない。

「お邪魔します……」
「親父は、今日も遅いから、気にしなくっていいぞ」

 恐る恐ると言った様子で部屋に入る太一を前に、ヤマトは苦笑を零すとそのままテーブルに先ほど買って来た品物を置く。
 それから、持っていた太一の荷物を持ってそのまま自室へと入った。

「太一、お前の荷物は、俺の部屋に置いておくからな」
「あっ、うん……」

 部屋の中から言われたそれに、太一が慌てて返事を返す。
 そして、テーブルに置かれているスーパーの袋の中のモノを出し始めた。

「ああ、それは野菜室に入れるんだ」

 部屋から戻ってきた時、袋から取り出したものを冷蔵庫に仕舞うモノと常温に置いておくものとに分けていた太一が、野菜を前に困っているのを見た瞬間、ヤマトは笑いながらも、その手伝いをする。

「……俺、もしかして役立たず?」

 自分が悩みながら取り分けていたモノを簡単に仕分けしてしまったヤマトに対して、太一は盛大なため息をついてしまう。

「そんな事ないだろう?お前には、俺が料理を教えたんだから、役立たずなんて事ないぞ」

 自分が呟いたそれに返って来た言葉に、太一は思わず複雑な表情を浮かべてしまった。
 それは、自分をフォローしているようには思えないから……。

「取り合えず、俺は、風呂入ってきてイイか?」
「えっ?あっ、そうか、昨日俺に付き合わせたから……ごめん・・・・・・」

 突然言われたそれに、ヤマトが自分に付き添ってくれたせいで、風呂にも入れなかったと言う事実を思い出して、太一がすまなさそうに頭を下げた。

「謝ることじゃないだろう。大した問題じゃない訳だしな。んで、その間は俺の部屋で、好きにしてていいから」
「あっ、うん。分かった……」

 自分の言葉に太一が素直に頷いたのを確認すると、ヤマトが満足そうに笑顔を見せる。
 それから、着替えを持つとそのまま風呂場へと入っていく。
 ヤマトを見送った後、太一はどうしたものかと考えを巡らせた。

「……後片付けでもしとくか……」

 洗い物や洗濯物が一杯あるリビングを前に、太一は片付ける事を決めると、大きく頷いてまずは流しにある食器を洗い始めた。
 食器を洗ってから、綺麗に拭いて食器棚に片付けて、それが終わってから、次はリビングを片付け始める。
 洗濯物をまずは集めて、籠の中に放り込む。
 それから、方々に置かれている新聞を纏めて一つの所に重ねる。
 勿論、その時に日付を確認して、今日の日付の分をテーブルの上に置く事は忘れない。
 それだけで、十分片付いて見えるものである。

「こんなモンかなぁ……」

 簡単に片付いた部屋を満足そうに見詰めて頷いた瞬間、お風呂場からヤマトが出て来た。
 下だけズボンを履いた状態で、上は裸……。

「………片付けてくれたのか?」

 出てから見た部屋が、簡単に片付けられているのを見て、ヤマトが少し驚いた様に目の前の太一に問いかけてくる。

「あっ、うん………」

 尋ねられた事に素直に頷いて、太一がヤマトから視線を逸らす。

「太一?」

 首に掛けてあるタオルでまだ濡れている頭を拭きながら、不自然な態度で自分から視線をそらした太一に不思議そうにその名前を呼ぶ。

「……あっ、えっと……そう、うん……あれだよなぁ……」
「はぁ?」

 不思議そうに名前を呼ばれて、太一が慌てた様に言い訳をし様とするが、全く言葉にならない。
 それでも、自分を見ない太一があれこれと思案している中、ヤマトは呆れた様にため息をついた。

『……ヤマトの裸に驚いたなんて、言える訳ないだろう!』

 内心の焦りを必死で隠しながら、太一は顔が赤くなって行くのを止められない。

『俺、こんな調子で、ヤマトと一緒に居られるのか?』

「お前なぁ…自分が言いたい事くらい、ちゃんと言葉にしろよなぁ……」

 呆れた様に言われたその言葉に『誰の所為だ!』と返せないのが、悲しすぎる。
 そして、今日からこんな事が日常茶飯事になるという事に、太一は今更ながらに一抹の不安を感じずには居られなかった。




  





   はい、08漸く上がりました!
   そして、お待たせいたしました!!(待ってて下さった皆様、有難うございますvv)
   漸く、同居生活スタートです!! ここまで来るのが、長かった。<苦笑>
   そして、この同居生活に、不安を感じる二人(笑)
   どう言う話しにするのか、楽しみだわvv (考えてないのが、私です…<苦笑>)
   ラストは、考えてるんですけどね、それまでに話しを繋げるのが、大変です。

   そんな訳ですので、まだ暫くはこの話が続きそうな状態……10ぐらいで終わらせたいんですけどね……。
   今の状態では、無理そうです。<苦笑>
   なので、宜しければお付き合いくださいませ。早く終わらせるように、頑張りますので……xx
   では、次は『見えない想い 09』で!
   あっ!その前に、10000HITのお礼部屋が先かなぁ?